目次

1. 収穫が終わって研修が始まった
2. 山の現状の共通理解と分析
3. 理想の山の姿
4. 独自のアイデアも

1. 収穫が終わって研修が始まった


マーミディジョーラ村(以下、マ村)、ポガダヴァリ村(以下、ポ村)、ゴットゥパリ村(以下、ゴ村)の村の人たちには、一年を通してとても重要な時期が2回ある。

7月から8月にかけての雨期。
それは村の人たちが総出で繰り広げる田植えの時期である。今までも何度か書いてきたが、毎日空を見上げては祈り、雨が降り始めると村から人はいなくなり、水田はどこもかしこもオバチャンたちのカラフルなサリーの色が緑の田んぼに広がっている。

そして12月から2月上旬にかけての収穫・脱穀時。
黄金色の田んぼに、鎌を持った村の人たちが列になってひたすら刈り込み、牛が引き回す円筒状の石で脱穀する。収穫した稲束の山、そして脱穀した籾の詰まった袋を見て、村の人たちはこの1年間も無事に過ごせるだろうという安心感を味わうのだ。

なので、この2つの時期には、筆者たちも村には行けない。
村の人たちも、この時期には絶対に研修の要請もしない。

だからこれまでも、田植えや収穫が終わった後の研修は、半ば振り出しに戻る覚悟で筆者たちも臨んできたのだが、今年は少し違っていた。
収穫時期の前に、村のルールづくりをしながら、次の雨期の植林計画も立て始めていたのだが、この通信でもおなじみの専門家、チャタジーさんが1月下旬に再び村にやって来て、植林計画の考え方と苗床作りを指導してくれた。
収穫祭を楽しんだ後に、頭を使うルール作りの研修はあまり乗り気じゃないけど、土と身体を使う研修なら出てもいいかな、と1月下旬の脱穀に忙しい時期に、オジサン・オバチャンたちは研修にやって来た。

「植物って一体何だね?」
いきなりの禅問答のような質問から始まったチャタジーさんの研修。

自分たちの収入や消費を満たすためだけでなく、土壌の流出を防ぐことや、土中の保湿効果を高めること、野生の動物や家畜への食糧も視野にいれるよう、今回も、繰り返し繰り返し言われた村の人たち。

チャタジーさんの、百科事典並みの植物に関する知識の量に圧倒されたオジサンたちだったが、チャタジーさんから課せられた「一目でわかる木々の年間利用カレンダーを作る」という宿題をやり遂げ、雨期の植林に間に合わすため、2月から各村で怒涛の研修が始まった。


2. 山の現状の共通理解と分析

「毎週の買出しに行った時、市場で適当に、豆を5キロ、ターメリックの粉は1キロって買いますか?」
ゴ村の研修場に集まったモハーンや青年、オバチャン、お年寄りと20人近い村人たちに問いかけるラマラジュ

「いやいや、買い物に行く前に、家に何があって何が足りないのか、まずチェックするよ」
「どれだけあるのかも見るわよ、もちろん」
オジサン、オバチャンから即答が返ってくる。

「植林も同じですよね。今、山に何のための植物がどれだけ、どこにあるのかを知らなければ、これから何をどれだけ植えなければいけないのかが、わかりませんよね?」
「ホントだ!」

ということで、まずは自分たちの生活で主に利用している、食糧・薪・飼料・木材・薬の5分野で、いつ何の植物を山から採ってきているのか、カレンダーに書き込んでいった。

と同時に、山頂・中腹・裾野の3ゾーンに分けた発泡スチロール製の山を用意し、また、5分野ごとに色分けし、木・潅木・草・つる性植物と、特徴が分かるようにしたスティックを使って、自分たちの山の利用状況が一目で分かるよう、視覚化する作業も進めていった。



「牛の餌には・・・・・」
とオジサンが言い出すと、
「シャムナーラにボタンティミ、ラヴィ、アンジラン、それに」
とオバチャンたちが、次々に挙げていく。

「薪には・・・・」
「ターダ、シリシミ、ショーダ・・・夏の始まりくらいに集めるわよね」
と、これもまたオバチャンたちがオジサンたちに負けじと、指折り数えていく。

青年1人がカレンダーに書き込む傍ら、オバチャンやオジサンたちは、山の模型にスティックをブスブスと差し込んでいった。

「牛の餌に使う木だから、青色のスティック」
「中腹ゾーンから採ってるわね」
「この潅木は、薪用に採っているから赤の短いスティックか」
「山頂付近まで行かないと、無いよね」

普段利用している山だが、どのシーズンに集中的に利用しているのか、あるいは何も収穫・収集できない時期なのか、そして一体どこのゾーンに依存しているのか、今までは個人個人で感覚的に認識していた状況だった。そして今、このカレンダー作りと山の模型を使う作業をすることで、初めて全員が「共通の理解」を持つことができた。

さらに、5つの利用目的全てのスティックが刺さり終り、出来上がった山を見て、現状を分析する。


「山頂からは、薪と木材用に木を使っています」
「食糧は、山腹付近が多いね」
「村から無くなった植物も、山頂と裾野のゾーンに集中してる」
「つる性の植物で、家畜の餌になるものが、山頂にたくさんあるわ」

「山頂から、薪や木材の木を取ってきているということは、つまり、木をどうしているということですか?」
「枝を切ったり、時々は木を切っているんです、キョーコさん」
「薪は毎日の料理でも必要ですよね?このまま、山頂から使い続けると、どうなりますか?」
「山頂には木がなくなって、中腹からもっと木を使うことになるのか・・・」
つぶやく青年。
「それより、私はいつもいつも山の上まで登って、重たい薪の束を運んでくるのがしんどいのよ!」
と、息巻くオバチャンたち。
「では、どのような山であったら良いのですか?」

木が無くなるだけでなく、土も流され、小川の水源地も枯渇してしまうのを避けるために、山頂はどのような状態であったら良いのか、生活に必要な植物を、中腹や裾野からどうやって利用し且つ再生産していけばいいのか、事業開始から今までチャタジーさんを始め色んな専門家から受けた研修を思い出す村の人たち。


3. 理想の山の姿

ゴ村だけでなく、マ村の山頂付近の集落でも、今月はオバチャンたちの勢いが凄かった。

ゴ村と同じように、今現在の山を表現した後、「理想の山」として、同じように模型の山にスティックを差していくのだが、山頂付近は家畜の侵入を阻止し、人の利用も最小限にして、常に木々で覆い尽くすために、特に用途は無いけれど樹齢の長い大きな木が必要なので、更に1色を足し、合計6色で理想の山を描き出した。

「え~っと、木材のいくつかは山頂から‥」とスティックを挿そうとするオジサンから「さっき何聞いてたのよ!」と、取り上げて中腹ゾーンに差し替えるオバチャン。
「○○の木はこの辺でいっか」と、薪のスティックを中腹ゾーンの高地に挿そうとする青年に、
「取りに行くのが大変じゃない!」と、集落近くに差し替えるよう指示するオバチャン。
「家畜の餌になる草は、裾野にたくさんあったらいいよね」と、ブスブス適当に挿しまくるオジサンに、
「田んぼの畦に植えたら、畦も崩れにくくなるじゃない。考えなさいよ!」と、突っ込みを入れるオバチャン。

 

4. 独自のアイデアも

ある集落では、山頂付近への家畜の侵入を防ぐためにも、棘のある潅木をフェンスとして植えれば良いと、独自のアイデアを盛り込んだ。

実はこのフェンスとしての植林方法は、”更なる考え方”としてチャタジーさんはスタッフに対してはアイデアをくれていたのだが、村の人たちへはまだ言っていなかった。

つまり、この集落の人たちは各ゾーンの特徴を捉え、どのように維持していくのかを理解して落とし込んだからこそ、自ら発案してきたのだ。筆者もラマラジュも、彼らの作業を見て心の中でガッツポーズをしていたのは、言うまでもない。

ポ村では、この作業を通じて、村から消滅した薬となるある木が、ポガダヴァリ村の名前の由来となる木だった事が判明。青年ソメーシュは、自分の名前の元でもあるソームという木も復活させたいと目論んでいる。

ダンダシ率いるマ村は、前号で、感動の集会場の建設をやり遂げたのだが、最後の仕上げがまだ出来ず、利用できない状態が続いている。脱穀作業が忙しいのを口実に、集会場も完成させず研修もやり遂げないままなのだが、他の村がどんどんと先に進むのを見て、ようやく焦りだした。

マ村以外では、どうしたら「理想の山」ができるのか、植林計画を作り始めた。

ゴ村・ポ村、そしてマ村の山頂付近の集落で、合計120種類強の植物が挙げられたのだが、山岳少数民族の言葉サワラ語でしか分からない植物もたくさんある。

去年に植えた樹種も考えながら、木だけでなく潅木、草、つる性植物と、これから何の植物をどこにどれだけ植えていけばいいのか、栽培方法は何が適しているのか、種はどこでいつ入手できるのか、その保存方法は、等々、オジサン・オバチャンたちが知っている限りの情報を、自分たちで記録していった。


そして、理想の山は半年や1年でできる作業ではない。
木を植えたらできるものでもない。

土壌の流出を堰き止める石垣や、土中への水の浸透を高める堤など、村の人たちがこの1年の間に作ってきた様々な構造物も、きちんとメンテしながら使っていくことで、理想の山はできるのだ。

木・土・水が、山頂から裾野まで、循環しながら利用できるようになるには、何年もかかる。その何年もかかる作業を、活動計画としてまとめることにしたオジサン・オバチャンたち。同時に、村のルールづくりも再開する。
まずはこれから3年間の活動計画作りだと、意気揚々と研修日を設定する村の人たちだが、果たしてどこまで気合が続くか!?

続きは次号で。


注意書き

ラマラジュ=ソムニード・インディアの名ファシリテーター。
キョーコ=前川香子。本通信の筆者。