2014年7月26日土曜日

ついつい出ちゃう伝家の宝刀-対話型ファシリテーション的日常風景

 このブログの「物の見方を養う」というカテゴリは、活動をする上で影響を受けている/受けた本や人物についてご紹介するというテーマです。そこで、今回からしばらく、私=宮下和佳の担当する記事では、今までに一緒に活動したことのある方々について書いていきます。占いに金運、恋愛運、健康運・・・などある中で、私の「一緒に働く人」運は最強!で、活動・仕事を共にしてきた人との間には、良い意味で影響を受けたエピソード満載なのです。

 今回ご紹介するのは、ムラのミライ(旧称ソムニード)の設立者で、海外プロジェクト統括・代表理事の和田信明さんです。(同じ団体の者なのでビジネスマナー通りでいくと呼び捨てになるのでしょうが、話し言葉調のブログ記事ですので、普段お呼びしている通り、以下「和田さん」と書きます。)

 さてこの和田さん、ご自分では「自分はフツーのオヤジ」で「ファシリテーションの達人ではない」と主張してらっしゃいます・・・が、皆さん、その言葉に油断してはいけません!(いえ別に油断したら刺されるわけではありませんけど。)和田さんが対話型ファシリテーションを使うのは、いわゆる途上国の農村や都市スラムといった「プロジェクト現場」だけではないのですよ。今回は、筆者の私が「あっやられたな。てへ。」となったミニミニ・エピソードをご紹介します。

 それは、私がムラのミライに入ってすぐ赴任したインドでのできごと、2010年の初夏あたりだったと記憶しています。自宅から事務所に移動する間の、ふとした瞬間の雑談です。
和田さん「和佳さんがいつも着てる、こういうシンプルなデザインのインド服、どこで買ってるの?たとえば今日来てるこれは、どこで買ったの?」
私「あ、これはですねーCMRセントラルの中にある・・・(以下、アレコレとお店の説明)」

 はい、もうみなさんおわかりですね、対話型ファシリテーションの第一歩、「セルフエスティームを上げる」というやつです。
 実際この時、私は「うわー和田さん、(インドでフツーにそのへんで買い物すると派手派手&ゴテゴテファッションになりがちな中)私がシンプルなデザインにまぁまぁこだわって買ってるのを察知して(観察した上で仮説を立てて)、そこを聞いてきたな~」と冷静に感心しつつも、「そう、がんばってマシな恰好してるんですよ、わかってくれましたね~ふっふっふ」と、悦に入ってもおりました。

 ちなみに私がそう思ったことは和田さんに言わなかったので、ご本人が意識してこういう質問をされたのかどうかは確認していません。(無意識でつい「技」が出ちゃっていたのでは・・・というのが私の推測です。)


 いずれにせよ、対話型ファシリテーションの基本中の基本の一つともいえる「セルフエスティームを上げる質問」の仕組みを、質問する側が意識していようがいまいが、質問されている側がそのことに気づいていようがいまいが、上手に使うと、ほんとにセルフエスティームが上がるんですね~~~ということを、この時実感したのでした。

(事務局長代行 宮下和佳)

2014年7月24日木曜日

水・森・土・人 よもやま通信 第2部 第14号「オラたち今ここ、目指すはあそこ」

 

目次

1. 村の現状を知ろう
2. 調査の結果をお伝えします
3. ふーん、それで?
4. ラマさんのお叱り
5. 調査じゃなくてフィードバック
6. オラたち今ここ、目指すはあそこ
7. 何はともあれ

夏の終わりを告げる雨が寝坊して、今年は7月に入るまで灼熱の日々が続いた。7月中旬になりようやく村ではまとまった雨が降り始めた。

農家たちが待ちに待った雨、村人たちの新しい一年の始まり。新しく流域管理事業に参戦した村々でも、今後の計画づくりが始まる。

 

1. 村の現状を知ろう

ブータラグダ村(以下B村)とポガダヴァリ村(以下P村)の指導員から流域管理の研修を受けている村々では、村の流域管理委員会の設立について話し合いが始まっている。
これまで流域内に設置した石垣や堰堤を、村全体でどのように管理していくか?
これからどんな村をつくっていくか?そのためには、何をすればいいのか?
村全体での活動が本格化する6つの村で、ソムニード(現ムラのミライ)と指導員による村の現状のフィードバックを行った。


2.調査の結果をお伝えします

フィードバックを行うメンバーは、ラマラジュさんキョーコさんから研修を託された筆者スーリー、助っ人として参戦するキショーとB村・P村の指導員達。
そして、ソムニード・インディア代表のラマさんも今回からフィールドワークに復帰し、フィードバックを見守る。

最初にフィードバックを行う村は、B村と同じ流域に位置するパンドラマヌグダ村(以下パン村)とバルダグダ村(以下バル村)に決まった。村の世帯数、家畜数、耕作地の面積、世帯年収などを含めた村の社会調査のデータを用意し、B村の指導員アナンドとドルガラオとフィードバックの準備ミーティングを行った。
「パン村とバル村で行った調査の結果を村で共有するために協力して欲しいんです。ちなみに、B村でも調査のフィードバックをしたことがありますか?」
と始める筆者。
「2008年にやったよ、それと2011年にも」
「そのときは二人とも参加しましたか?」
「2011年のときはしたよ」
「そのときのフィードバックの方法を覚えていますか?」
「字の読めない人もわかるように写真を使ったよ。」(ふむふむ、写真ね)
前例に倣って写真を使うことを決定し、次に数字の伝え方についての議論が始まる。すると、まずキショーが
「最初は一つの家族を例にして、家族が何人か?ニワトリが何匹いるか?と聞いていくのはどうだろう?『誰々さんの家族は4人いて、ニワトリが10羽います。これが村全体になると、人が何人います。ニワトリは何羽います。』と広げていけばわかりやすいんじゃないかな?」
さすがはスラムのおばちゃんを相手に幾多の研修をこなしてきただけある。するとアナンドが
この前の研修の時みたいに、調査結果の数字は空欄にしたまま用紙を準備して、村の人たちに考えてもらえば
参加者の注意を引くことができるんじゃないかな。クイズ形式にするってこと。」
さすがはスーパー指導員のアナンド、自分が受講生として受けた研修のやり方をすぐさま指導員として使うとは、応用力がハンパじゃない。よし、じゃあ数字の伝え方はそれで行こう。とスーリーと筆者。
ここで、筆者はチョークを持ち、2008、2009、2010、、、2020まで黒板に記した。
「B村はいまグランド・デザイン(総合計画)の段階、でもパン村やバル村はまだ始まったばかりだから、B村でいえば2008年の状態ですよね。だから今村の調査結果を知っておけば、今後の流域管理の活動で村にどういう変化が起きたかわかりますよね。」

まずは、村で何の調査をしたかを思い出させる。そして、一つの家族を例にしてから、村全体の話に持って行く。
村の数字を伝えるときは、写真を使ってクイズ形式で伝える。という当日の流れが決まった。
こうして、フィードバックの準備は整った(と思えた)。


3. ふーん、それで?

パン村にやってきた一行は、ミーティングで決まった流れを忠実に再現した。開口一番スーリーが村人に問いかける。
「いままでソムニードとどんな活動をしてきましたか?」
「石垣や堤防を作ったよな」
「流域の研修!!」
「それから委員会のミーティングもやったな」
「村の調査とか植物の調査もやったよね」
などのポイントがバラバラに出てくる。
活動が出尽くしたあとで、
「村の調査をしたと言ったけど、結果は知ってる?」
とスーリーが調査結果の発表に移る。
「そういえばまだ知らないなぁ。」
そして、ミーティング時に作成したシートを見せて世帯数、耕作地の面積などを次々に告げる。
写真や一つの家族の例も使って、村人たちに村の数字を伝える。


全ての数字が出そろった後、パン村の人たちは
(ふーん、それで?)
と言わんばかりの無言の時間が流れてしまった。。。

そして、
「ソムニードと一緒に活動を始めたのはいつだったか覚えていますか?」
という筆者の質問から始まったバル村でのフィードバックも、、、

(修正を試みるも、基本的には昨日と同じ流れで進む)

すべての村の数字が出そろったとき、
(ふーん、それで?)
という村人の表情。

結局どちらの村も、最後にラマさんが話をなんとかまとめて、次の研修の日程が決まった。



4. ラマさんのお叱り

2つの村でのフィードバックを終えて、ラマさんが反省会を開いた。

「この二日間、何がダメだったかわかるか?」
「村人全体を話に巻き込めませんでした」
「話が行ったり来たりバラバラでした」
「プロジェクトとの関連性がなかった」
「途中で研修の流れが止まってしまうことが多々ありました」
「最後に村人の方から、これをやる、と言わせることができませんでした。」

と、泉のごとく湧き出る反省点の数々。
「いま出てきたのは全部修正するべき点だ。お前ら、そもそもなんでフィードバックをするかわかってるのか?」
「これから委員会をつくって村として活動していく前に現在の状態を知っておくことで、これからの活動がどういう成果が出たか村人たち自身がわかって、それをまた次の活動に活かせるからです。」と答える筆者。

「成果や変化を知るだけだったらただ“調査”でいいだろうが。お前らがやっているのは、“フィードバック”だろ?なんで“フィードバック”をするんだ?」

キショー、スーリー、筆者3人の口が閉じる。ラマさんは続ける。

「そもそもお前らは、なぜフィードバックをするのか?何をフィードバックするのか?どうやってフィードバックするのか?を考えずにやってただろ。フィードバックってのは、ただ数字を並べるって意味じゃねーんだよ。」


5. 調査じゃなくてフィードバック

フィードバックのコンセプトを間違えていた筆者たちは、気を取り直して次の村でのフィードバックに備える。
フィードバックの目的は村の世帯数や家畜数といった数字を伝えることではなく、村人たちがこのプロジェクトを通して行った活動を振り返り、流域管理委員会を中心とした村のビジョンづくりに活かすこと。
流域管理委員会の設立に向けての話し合いが進むこのタイミングで、一度これまでの活動を見直して村のビジョンづくりに役立てよう、というわけだ。

フィードバックのコンセプトを理解した筆者たちは、次の準備ミーティングで作戦を練り直す。
次のマヌマヌグダ村(以下マヌ村)には、ポガダヴァリ村(以下P村)の指導員たちが参加してくれることになった。
ミーティングでは、数字を伝える方法の話ではなく、これまでの活動を流域に絡めた形でいかに振り返るか?
またの振返りを、どうやって流域管理員会の設立に繋げて今後の村のビジョンづくりに話を持っていくか?
という点を徹底的に話し合った。

 

6.オラたち今ここ、目指すはあそこ

フィードバック当日、いざマヌ村に出陣する一向。マヌ村は元々ゴディヤパードゥ村(以下G村)の指導員が研修を行っていたが、ホウキ草の収穫で忙しくなったG村の代わりに、現在はB村とP村の指導員が助っ人として研修にあたっている。前回の研修がP村の指導員によって行われたため、今回はP村と共にフィードバックを行う。マヌ村の人たちにマダムと呼ばせたパドマが一緒なのは心強い(よもやま通信第11回参照)。

ソムニード、指導員のパドマとダンダシ、村人が自己紹介をして、パドマの質問から、本日のフィードバックが始まる。

「前回の研修はいつでしたか?その研修では何をやりましたか?」
「モニタリングの研修だったかな。」
「委員会の研修だよ」
と少しずつ前回の研修を思い出す村人たち。大分記憶がよみがえったところで、今までに流域内で行った活動を話してもらう。
「流域のミニチュアをつくったよな。」
「ピクニックに行く話もしたよな」
「石垣とか堰堤つくった」
「流域(ウォーターシェッド)の研修したべ」

と村人たちが声を上げる。
するとパドマが
「流域について誰か説明してくれますか?」
参加者の一人が黒板に山の絵を書きながら、流域を三つに分ける。
「ここに石垣をつくって、ここに田んぼがあって、ここにオイラたちが住んでて。」
思い出したようにうなずく村のおっちゃんたち。あやふやな点はすかさずパドマがしっかりと説明する。


ちなみに「今までどんな活動をしましたか?」という質問は、パン村、バル村のフィードバックでも行った。
しかし、パン村、バル村ではそれぞれの活動と流域のつながりを意識させることが出来なかった。
自分たちの村の流域のなかで、「どこに何があるのか?」「どこで何をしたのか?」を意識させることで、
「次はどこで何をするべきなのか?」がわかってくる。村の調査結果の数字は、その確認作業の補助的な役割でしかない。
前回は一覧表に写真を張り付けて家は何戸だ、田んぼの面積はどうだ、と数字を記入する作業が中心のフィードバックだった。しかし、今回は、パドマが流域の説明をして、ダンダシが「雨が降ったら水はどうやって流れるんだ」などの例を挙げ、まずは流域についてもう一度理解を深めた。

こうした作業を経て初めて「オラたちはいまここにいる」ということがわかり、「オラたちはここまで行きたい」というビジョンと、
そのために「次はこれをしよう」という計画が出来る。その活動を続けるうえでのプラットフォームとしての役割を果たすのが流域管理委員会である。パドマとダンダシの流れに乗って筆者は流域管理委員会についての質問をする。
「(おじさんたち何人かに)あなたは委員会に入ってるんですか?」
「いや、入ってないよ。」
「誰が委員会に入ってるんですか?」
「実行委員(コミッティ)が5人いて、会員(メンバー)は各家庭から男女2人ずつで全部で30人いるよ。わしらは委員ではなく会員じゃ。」
別のおっちゃんがいう。
「実行委員ではなくて会員なんですね。じゃあ委員会の規定は誰が決めたんですか?」
「実行委員5人で決めたよ。」
と、実行委員に入っている村人が言う。
「会員の皆さんは、その規定のこと知ってますか?」
「いや、知らんな。」

そして、委員の一人が委員会規定を書いた用紙を持ってきて、その場で規定の共有と見直しを始めた。
パドマとダンダシが規定見直しのサポートをする。規定には「村全体で今後も流域を保全する」という村のビジョンが記されている。まずはそのビジョンを村人たち全員が共有するところから今後の具体的な計画を立てることができる。今回の参加者はほとんどが男性だったため家に帰ったら家族で共有することも決まった。今までの活動を振返り、流域委員会のビジョンを共有すると村人の中から、
「もっと木を植えたらいいかな」
「石垣も増やしたいな」
という声が挙がってくる。
「じゃあ、そのためには次は何をするの?」というパドマの問いに
「アクション・プランづくりだ!!」
と答える村人たち。
「次の研修にも是非来てください」
とリクエストをする村人たちに、
「行きますよ。」
と即答したパドマが頼もしかった。
こうして、マヌ村のアクション・プラン作り研修の日程が決まった。


7. 何はともあれ

マヌ村でのフィードバックを無事に終えた一行は、残りの3つの村でも、最初のパン村、バル村で行った世帯数や家畜の数など、ただ数字だけを並べたフィードバックではなく、これまでの活動を振返り、村のビジョンを考えて実践するためのフィードバックを行うことが出来た。
今後は各村の代表者と指導員を交えたミーティングも行い、流域管理委員会を中心とした活動が本格的に始まる。
「何はともあれ」とほっとするスーリーと筆者。それでもパドマは、「女性の参加が少なかったわね」と反省点をもらす。
さすがはマダムと呼ばれた指導員。これからもP村とB村の指導員は流域管理の研修を続けていく。
そして、この流域管理の研修と並行して、指導員たちは自分の村では農家として農業カイゼンに取り組んでいる。
そんな農業カイゼンの話は、また次回のよもやま通信で。


注意書き

1. ラマラジュさん=ソムニードの名ファシリテーター。よもやま通信第1部からおなじみ、現在はアドバイザーとして、インド事務所のある町、ビシャカパトナム市から研修を統括する。
2. キョーコさん=前川香子。この事業のプロジェクト・マネージャーを務めるソムニードの名ファシリテーター。現在は日本国内での業務に従事しながらプロジェクトを統括する。
3. ヒロアキ(筆者)=實方博章。現場で修行中。
4. スーリー=ソムニード・インディアのフィールドスタッフ。ヒロアキと共に今後の研修の実施を告げられ焦っているが、やる気は十分。
5. キショー=ソムニード・インディアが誇るイケメンスタッフ。普段はビシャカパトナム市で業務を行うが、今後は助っ人としてこの事業にも参戦。VVK事業(スラムのおばちゃん銀行)での経験も豊富。
6. ラマさん=ソムニード・インディアの代表、ラマ・ラージュ。ベテランのファシリテーター
7. B村の村人たちがVVK(スラムのおばちゃん銀行)を訪れて研修が行われた。この様子は次回以降のよもやまにて掲載予定。(VVKに関しては、「プロジェクトの道のり PCUR-LINK便り(インド)」をご覧ください。)

2014年7月15日火曜日

いつもと違う景色が見えてくる

事実質問を使って相手に尋ねているうちに、予想もしなかった反応が返ってくることがあります。質問者は事実を聞いているだけなのに、相手が勝手に何かに気付いたり、自分で納得したり、また時には感慨深そうに思い出を語り出すこともあります。これは偶然ではなく、これこそが事実質問の持つファシリテーション力なのです。簡単な事実質問を繰り返しているうちに、このような場面に出くわし、一気に現実に迫るという感覚。今回は、この「違う景色が見えてきた」実例を中田の実践の中から紹介します。

その日、私は、バングラデシュの首都、ダッカ市内最大のスラムにいました。用事を済ませた後、スラム内の商店街の薬屋の店先に並べてある椅子に腰をかけて、一休みさせてもらいながら、店主と以下のように会話を交わしました。

私「(棚の薬品類を見回しながら)立派な店だ。失礼ですが、あなたのお店ですか」 
薬屋「そうです」(中略)
私「店は毎日開けるんですか?」 
薬屋「ええ、基本的に休みなしです」
私「今朝は何時に開けましたか?」 
薬屋「9時半ころかな」
私「今11時過ぎだから、開店から1時間半ほどですね?」
薬屋、うなずく。
私「開店から今までに、お客さん何人来たかわかります?」
薬屋「もちろん。4人来ました」
私「誰がどの薬を買っていったか、覚えてます?」
薬屋「はい、覚えてますよ」
私「何と何の薬ですか?よかったら教えてください」
薬屋「ひとりは胃薬を買っていきました。あとの3人は皆同じで、○○薬を買いました」
私「ほー、そうだったんですか。それは意外だ。で、昨日はどうでした」
薬屋「昨日も、○○薬が一番多かったですね」

さて、ここでクイズ。この○○に入るのは何だと思いますか。
4人中3人が買ったのは一体何の薬だったのでしょうか。

正解は、「筋肉痛」の緩和薬です。たぶん当たった方はいないことでしょう。かくいう私も下痢の薬か風邪薬だろうと考えていましたから。
ここに住む人々は、リキシャ漕ぎ、荷車引き、レンガ運びや道路掘りなどなど、肉体的に最も厳しい作業を日々担って働いています。体が痛みに耐え切れず、緩和薬を塗ったり飲んだりしながら、今日も仕事にでかけていくのです。そんな光景が、たったこれだけの会話から見えてきます。周りに座って私たちのやり取りを聞いていた住民とおぼしき男の一人が、「俺たちは、きつい仕事をしているからな」とつぶやくと、他の数人も感慨深げにうなずいていました。5分にも満たないやり取りでしたが、スラムの人々の生活の現実を垣間見させてもらうことができました。人々の心の奥底も、少しだけのぞくことができました。

ここでもう一度、私の質問に注意を払ってみて下さい。私が薬屋の店主にした質問のひとつひとつは、単純な事実を尋ねるだけのものでした。以前の私であれば、「ここで一番売れている薬は何ですか?」と尋ねていたに違いありません。その質問は、実は「あなたは何が一番売れていると思いますか?」という質問に等しいわけです。仮にもし店主が少し考えてから「そうだな、胃薬かな」と言ったとしても、私には事実かどうか確かめようがありませんでした。

それに対して、朝からの客はたった4人であっても彼は確実に記憶しているはずであり、その情報はまさしく事実そのものです。あやふやな全体像よりも、確実な部分を捉えるほうが、どれほど現実に近づけるかの典型的な例です。何より重要なのは、聞かれる相手は、そのような聞き手のほうをより信頼するということです。

事実質問上達には、日頃の積み重ねが欠かせません。今日から出来る練習方法は「自主学習ブログ」で紹介しています。これを読んだ皆さんも、「いつもと違う景色を見る」ためにコツコツ練習していきましょう。

このストーリーは『途上国の人々との話し方』3部「メタファシリテーションの実践」にてより詳しく説明してあります。まだ読んでいない方はぜひお読みください。


(2014年度インターン 山下)

2014年7月8日火曜日

偽事実にご用心

以前から紹介をしている事実質問ですが、
この事実質問は主に以下の2種類に分けることができます。
(1)5W1Hを尋ねる質問 ※WHY、HOW(どんな具合)は使わない
いつ、どこで、誰が、何を、といった単純な疑問詞を用いた質問
(2)YES/NOを尋ねる質問
経験(~をしたことがありますか)、知識(~を知っていますか)、
有無や存在(~がありますか)を尋ねる質問

今回は(2)YES/NOを尋ねる質問に関してみていきます。

悩んでいる友人の話を聞き、相談に乗るときのことを例に考えてみましょう。
ここで重要なのは、話を作らせず、相手自身に思い出してもらうということです。
「なぜ」と質問せずに理由を尋ねるため、まずは「一番最近その問題(課題)が起こった(顕在化した)のはいつですか?」と尋ね、5W1Hの質問で、最近のことから時系列を遡っていきます。相手も最近のことはよく覚えているため、この時点では具体的なことまでサクサク思い出すでしょう。一番最近のことがわかったら、「その前は?」という具合に過去に向かって話を進めていきます。

しばらくこれを続け、問題の大まかな姿が明らかになれば、次は一気に遡ります。
「それが一番最初に起こったときのことを覚えていますか?」
問題が最近のことで、具体的なことまで思い出せるようでしたら「それはいつですか?」「それはどこで起きましたか?」などと、先ほどと同じく5W1Hの質問で繋いでいくと良いでしょう。

しかし問題がだいぶ前から起きており、相手が上手く思い出せないようでしたら要注意です。繰り返しになりますが、大切なことは「話を作らせず、相手自身に思い出させること」です。断片的な記憶から作ったものは思い込みであり、事実ではありません。事実を聞くつもりで、相手の意見や考えを聞く質問をしてしまうことのないように、過去のことを質問するときはYES/NOで答えられる質問を使うとよいでしょう。

A「最近、寝坊の癖がひどくて困っているんだ」
B「そうなんだ、一番最近で寝坊したのはいつだい?」
A「昨日だね、一昨日の晩寝るのが遅くて…」
最近のことを始点にして、時系列を遡ります。
B「一番最初に寝坊癖に気付いたのがいつか覚えてる?」
A「詳しくは覚えていないけれど、高校のときはちゃんと早起きしていたかな」

この場合、寝坊癖に気付いたその瞬間は問題ではなく、その原因となる出来事が解決への手がかりとなります。具体的に覚えている場合には、「いつから」という答えも返してくれるはずですので、覚えているかどうかというYES/NOで答えられる質問をしましょう。

問題の当事者自身の「気付き」が、その後の「行動」へと繋がります。過去のことを「予想させる」のではなく、あくまで「思い出させる」ことが重要です。こちらから改善策を提示したい気持ちをグッとこらえ、当事者が自分で改善策を思いつくように促してあげましょう。



(2014年度インターン 山下)

2014年7月1日火曜日

ひとり事実質問

前回のブログでは事実質問の練習方法として「事実質問の観察」を紹介しました。

会議や集会といった議論が行われる場において、そのやり取りが「地上戦」なのか「空中戦」なのかを観察し、議論が「空中戦」になっている場合には「地上戦」に引き摺り降ろすためのワンフレーズを考えてみるというものでした。

いざ使ってみようとするとなかなか思うようにいかない、この事実質問。上達させるには日頃から少しずつ練習することが重要です。前回に引き続き、今回も一人で出来る練習方法を紹介します。
 
「ひとり事実質問」
今回紹介する練習方法は、名前の通り、ひとりで事実質問をするというものです。他者に事実質問をするのと同じ要領で、自分に向かって質問し、その問いに対して答えます。事実のみに則った自問自答を繰り返し行うことで、実際に自分以外の相手に対して質問するときの練習になります。
 
では、簡単な例を見ていきましょう。
「これは何ですか」
最初の質問は「これは何ですか」から始めます。
「これはペンです」
「このペンはあなたが買ったものですか」
贈り物かもしれないので、いつ買いましたかという質問は避けましょう。
「いえ、これは贈り物でもらったものです」
「いつもらいましたか」
「昨年の誕生日にもらいました」
「どなたからもらわれたのですか」
「…恋人です」

このように質問を繰り返し、そこに隠れる事実を引き出してみましょう。
最後の質問のあと、当時の恋人との淡い思い出に浸っていただいてもかまいません。

会議や集会に参加する機会があまり無い方でも、いつでもどこでも気軽に毎日取り組むことが出来ます。部屋にあるもの、身に着けているもの、何でも大丈夫です。自分の身の回りにあるものを指差し、「これは何ですか」から始めてみましょう。
 

(2014年度インターン 山下)