第 7 回「SDGs 岩佐賞」を農林水産・食の部でムラのミライが頂きましたので、受賞の直接の理由となった水と土の保全で、ムラのミライがどのような取り組みをしてきたのかを、お話ししようと思います。
ところで、この一文のタイトルが、ずいぶんとセンセーショナルなのが、気が引けますが、これは私の造語ではありません。
「水破産」、英語では「Water
Bankruptcy」。
この言葉は、国連大学の「水、環境、健康研究所」が今年2026年に出した報告書のタイトルに使われています。正しくは、「Global Water Bankruptcy」、地球規模で水が破産状態にあるということですね。副題に「Living Beyond Our
Hydrological Means in the Post-Crisis Era」とありますから、「危機の後の水資源の限界を超えた時代に我々は生きている」と言うことでしょうか。
危機などという時期はもう過ぎている、すでに水資源は破産状態だと言うのですから、穏やかではありません。でも、「相当やばい状態だぞ」というのは、この20年ほど私たちムラのミライのメンバーが現場で感じ続けていたことです。そして、この20年ほど、ムラのミライはこの「やばい」状態をなんとかする闘いを、微力ながら続けてきたと言えます。
私たちが、何を見、何をしてきたかを述べる前に、この国連大学の報告書で言う「水の破産」状態とは何を指すのか、巻頭の要約の部分の記載を見てみましょう。この要約では、水の破産状態を12の見出しで紹介しています。
1. 地球は世界的な水破産時代に入った。
2.
数十億人が水不足に苦しんでいる。
3.
地表の水は広範囲にわたり減少している
4.
湿地帯は大陸規模で消滅させられてきた。
5.
地下水の枯渇と地盤沈下は後戻りができないほど広範囲にわたっている。
6.
氷圏の減少は、重要な「水の貯蔵庫」の消滅につながる。
7.
主要な農業地帯で水資源が枯渇しつつある。
8.
土地と土壌の劣化が水につながるリスクを増幅させている。
9.
干ばつの人為的要因が増大し、それに伴う損失が非常に高くついている。
10.
水質の悪化により、利用可能な水資源が縮小している。
11.
惑星規模の淡水境界が越えられた。
12.
既存の水資源管理と課題の設定はもはや目的に適わなくなった。[1]
会社で言うと、経営危機という状況ではなく、すでに破産してしまっていると、最大限の表現で水資源の状態を表現していますね。もう本当に後がないのだよ、と。
いわゆる先進国の都会に住んでいると、水資源の危機(もう危機と呼べる時期は終わっているのでしたね)と言われてもピンときません。だって水道の蛇口を捻ると水がジャブジャブ出てくるのですから。それに夏になると、近年決まって大雨、洪水の災害のニュースが飛び込んできます。これって、水が必要以上にある、余っているのでは、などと思わせるような印象を与えますよね。しかし、実は毎年の洪水と水の破産状態は、同じコインの裏と表、同じ原因に基づいています。このことは、おいおい説明していきます。
ところで、上記の「破産状態」の項目のうち、私たちムラのミライに直接関わっているのは、7番目と8番目の項目です。何せ、ムラのミライは、団体の創設以来主に関わってきたのは農村です。私も、主な国を挙げるだけでも、インド、ラオス、ネパール、インドネシア、イラン、ケニア、セネガルで多くの村をつぶさに観察してきました。これから、そこで何を見てきたのかをお話しするのですが、その前に、上記2項目、
7. 主要な農業地帯で水資源が枯渇しつつある。
8. 土地と土壌の劣化が水につながるリスクを増幅させている。
のそれぞれが、どのように要約されているのか、ざっと全体の状況を理解するために、少し長くなりますが、引用しておきます。
まず、農業地帯での水資源の枯渇については、こうあります:
世界の淡水取水量の約70%が農業に使用されている。約30億人と世界の食糧生産量の半分以上が、地表水・土壌水分・積雪・氷河・地下水を含む総貯水量が既に減少中または不安定な地域に集中している。1億7000万ヘクタール以上の灌漑農地(フランス・スペイン・ドイツ・イタリアの国土面積を合わせた規模に相当)が、高いまたは非常に高い水ストレス下にある。[2]
また、土地と土壌の劣化については、以下のようです:
世界の農地の半数以上が現在、中程度から深刻な劣化状態にあり、土壌の保水力を低下させ、乾燥地帯を砂漠化へと追い込んでいる。塩害だけでも、約8200万ヘクタールの天水耕作地と2400万ヘクタールの灌漑耕作地——合わせて1億ヘクタール以上の農地——を劣化させ、世界の主要な穀倉地帯の一部で収穫量を減少させている。[3]
ここで注意しておかなければならないのは、上記の現象は全て人為的行為によってもたらされたということです。そのことは、このレポートの本文にもはっきりと書かれています。以下がその引用です。
世界の主要な帯水層の約70%が長期的な減少傾向を示しており、その多くは帯水層の圧縮や貯留能力の喪失により、人間の時間尺度では事実上不可逆的な状態にある。並行して、農業由来の塩分・硝酸塩・農薬汚染、産業・鉱業汚染、深層揚水により溶出する天然ヒ素・フッ化物により地下水質は劣化しており、一部の帯水層では物理的には存在するものの、経済的・生態学的に利用不能な状態となっている。[4]
さらに、こう続けられています。
世界の農地の50%以上がすでに中程度から深刻な劣化状態にあり、土壌の保水力を損ない、乾燥地帯の砂漠化進行を加速させている。塩害だけで約8200万ヘクタールの天水耕作地と2400万ヘクタールの灌漑耕作地が劣化している (合計面積はフランスとスペインの国土を合わせた面積を上回る)。これにより土壌肥沃度が損なわれ、地下水や地表水が塩類で汚染され、世界の主要穀倉地帯の一部で収穫量が減少。地域・国家・地球規模で食料安全保障、健康、生計が直接脅かされている。[5]
なぜこんなことが起きるのか、結論から言ってしまえば、水の使い過ぎです。あるいは、水を使いすぎることを前提とした農業を、この数十年続けてきたことの結果としてこのような危機的状況、いや破産状態でしたね、になっています。でも日本は大丈夫だ、などと思っていたら、それは戯言です。日本の食料自給率がカロリーベースで38%だということは、よく知られていますね。
つまり、私たちは、自分たちが食べるものの6割以上を輸入に頼っているわけです。国産の肉も、その飼料はほとんど輸入に頼っているわけですから、輸出元で水資源が枯渇すれば輸入している食料が途絶える可能性だってあるわけで、畜産業はそのものが成り立たなくなることもありうるわけです。
さて、前振りが長くなりましたが、これからが本題です。昨年の3月まで、土と水の保全のプロジェクトをしていたセネガルの話からしましょう。
続く
出典
[1] “GLOBALWATER BANKRUPTCY -Living Beyond Our Hydrological Means in the Post-Crisis Era-“United Nations University Institute for
Water, Environment, and Health Richmond Hill, Canada, 2026 p10
[2] ibid. p11
[3] ibid. p11
[4] ibid. p28
[5] ibid. p28














