2015年2月24日火曜日

あなたの風邪はどこから?

今回は皆さんに、クイズをご用意しました!
日頃の事実質問の腕試しだと思って、挑戦してみてください。

今日の友人は、いつになく体調が優れない様子。
どうやら、しばらく風邪が続いているらしい。
風邪をひいた本当の経緯を知るには、何と質問すればよいでしょうか。

1.      どうして風邪ひいてるの?
2.      いつから風邪気味か覚えてる?
3.      あなたの風邪はどこから?

さて、正解はわかりましたか?
正解は「2. いつから風邪気味か覚えてる?」です。
ここでは、「なぜ」「どうして」というフレーズを使わずに、
事実に基づいて相手の状況変化を探るというのがポイントとなります。

1番の「どうして」という聞き方は、
何を答えて欲しいのか漠然としており、返答に困らせてしまうことでしょう。
また、聞き手次第では高圧的な印象を与えてしまうかもしれません。
事実質問において絶対に使ってはならないフレーズでしたね。

3番の聞き方で質問をしても、
「私は鼻から」「私は喉から」と詳しい症状を知ることは出来ても、
ここで聞きたい、風邪をひくに至った経緯を知ることは出来ません。

それに対して2番では、「いつ」という聞き方で、
状況変化に至った具体的な時期を聞いており、
風邪を引き始めたきっかけを聞きだすことが出来ます。
「2日前かな。あの日暖房が効きすぎて、部屋が乾燥してたんだよね」
となると、暖房で喉を痛めて、風邪に繋がったということがわかります。

いかがでしたか。
風邪気味の友人を見かけたら是非聞いてみてください。
くれぐれも自分が聞かれることのないよう、気をつけくださいね。


2014年度インターン 山下)

2015年2月23日月曜日

水・森・土・人 よもやま通信 第2部 第18号「オラがミミズたい肥づくり名人」

 

目次

1. ミミズたい肥づくり始めます
2. ちょっとトイレに行ってきます。
3. よく肥えた土ってどういう土?
4. オラがミミズたい肥づくり名人
5. 広がり始まる農業カイゼン

2月に入り肌寒い朝が続く季節も束の間、南インドの夏がゆっくりと近づいてくる。



1. ミミズたい肥づくり始めます

前回のよもやまでお伝えした、農業カイゼンに取り組むB村とP村の村人たち。そして、そのB村とP村の指導員たちから流域管理技術の研修を受け、計画づくりとその実施を行う新規参入の村人たち。新規参入の村人たちの中から、お隣のB村やP村の農業カイゼンの様子をみて、オラたちも農業カイゼンに取り組みたいという声が上がってきた。
新しく農業カイゼンへの興味を持ち始めた村々では、その一環としてミミズを利用した有機たい肥づくりに挑戦する。村人たちは、すでにたい肥をつくって利用しているB村とP村の村人たちからその極意を学び、彼らの村でも実践を始めることになった。B村とP村での有機たい肥づくりの視察研修を前に、まずは事前研修を行った。


 

2. ちょっとトイレに行ってきます。

事前研修を任されたのはラトナスーリー筆者。3人で研修の進め方と内容について話しあう。
「前回までの研修で学んだことを確認して、それからミミズたい肥づくりを始める目的を明確にして、たい肥について現時点で知っていることを共有して、今度の視察研修で学びたいことを確認して、それで最後にスケジュールを決める。こういう流れで行きましょう。」
と3人で合意して迎えた当日、
「今までどんな活動をしてきましたか?」
研修が始まり、これまでの活動について尋ねるスーリー。これまでの活動を振返る村人たち。
「アクションプランを作って、それを基に石垣をつくったり植林したりしました。」
「それでどんな成果がありましたか?村ごとに発表してください。」
参加者たちが村ごとに話し合って発表する。ラトナが黒板に表を描いて、そこに出た意見を書いていく。
バルダグダ村からの参加者が言う
「土壌の流出が防げて多くの作物がとれるようになりました」
ラトナが黒板の表を埋める。
そして、パンドラマヌグダ村からの参加者が言う
「土壌の流出が防げて多くの作物がとれるようになりました」
ラトナが黒板の表を埋める。。
そして、アナンタギリ村からの参加者が言う
「土壌の流出が防げて多くの作物がとれるようになりました」
ラトナが黒板の表を埋める。。。
そして、コッタグダ村からの参加者が言う
「土壌の流出が防げて多くの作物がとれるようになりました」
ラトナが黒板の表を埋める。。。。

異口同音に質問に答える村人たち、これではまったく活動の振返りになっていない。『この流れはマズい』と、思う筆者だがどうしたらいいかもわからない。ただこの上滑りした議論が続いてしまう。どうすればこれを止められるのか、そして、果たしてどうやってここからミミズたい肥につなげていけばいいのか。
焦るが何もできない筆者、質問を続けるスーリー、黒板を埋めるラトナ。
すると、一人の村人が立ち上がった。
「ちょっとトイレに行ってきます。」
それに続いて他の村人たちもぞろぞろとトイレに立つ。そう、村人たちにとってこのやりとりは退屈で仕方がなかったのだ。研修序盤からつまずきムードが漂う。。。


3. よく肥えた土ってどういう土?

これまでの研修の流れを見てその状況を見かねた和田代表の助言で、『土』と『ミミズ』についてそれぞれ知っていることを書き出してもらう作業をすることになった。元々、筆者たち3人組の計画では、『ミミズたい肥』について知っていることについて聞く予定だった。ミミズたい肥の研修だから、ミミズたい肥について知っていることを聞いても良さそうだが、この二つの質問は全く意味が違う。
30分後、『土』『ミミズ』という質問に対して、村人たちは、土とミミズのことではなく、ミミズたい肥について知っていることばかり挙げた。
そう、これは明らかに私たちがたい肥づくりの研修だ、たい肥づくりの研修だ、としつこく押し付けてしまったせいである。
そして、おそらく私たちが最初から「ミミズたい肥」について知っていることを聞いていたら、この村人たちの答えを基に、「では知らないことは、P村やB村の先輩たちに聞きましょう」という流れになっていたに違いない。
しかし、そもそも土とは何か、ミミズとは何か、どういう働きがあるのか、ということがわかっていなければ、たい肥がなぜ必要なのか、ということもわからないままである。必要性がわからないまま作り始めたら、後はどうなるのだろう?
村人たちが作業を終えて発表すると、和田代表が立ち上がる。
「おまえさんたち、たい肥をつくるということじゃが、よく肥えた土ってどういう土か知っているかい?」
「えぇーと、作物がよく育つ土。作物にとって良い食べ物がある土です。」
「それじゃ、作物にとっての食べ物って何じゃい?」
「・・・」
「例えば森の土を思い浮かべてみなさい。森には色々な草や木があって水がある。森の土にはたい肥は必要かい?」
「必要ないです。」
「土は植物が住むところで、栄養と水を含んでいる。その栄養は植物から来ているんじゃ。葉っぱは落ちた後どうなる?」
「乾燥して、虫が食べる。」
「雨季にはだんだん腐っていく。」
「誰がその葉っぱを腐らせているんじゃい?」
「水!!」
「おまえさんは水を飲むと腐るのかい?水を溜めているバケツは腐るか?」
「・・・バクテリアかなぁ?」
「そう、バクテリア。バクテリアはきみらと同じ生き物じゃ。じゃあ生きているってどういうことだい?生きるためには何がいる?」
「食べ物!!」
「そうバクテリアもおまえさんたちと同じように食べて糞をする。その糞が土の栄養分になるんじゃ。バクテリアがどれくらい小さい生き物が知ってるか?」
「うーん。。。」
「1立方センチメートルの土には、1億匹のバクテリアが住んでいる。つまり土そのものが生き物みたいなもんなんじゃ。植物がバクテリアに栄養を与えて、バクテリアが土の栄養分をつくる、そしてその土でまた植物が育つ、これが切っても切り離せない植物とバクテリアと土の関係じゃ。」
さっきまで退屈そうにしていた村人たちも、この研修を聞き入っている。

「それじゃあ、またたい肥の話に戻るが、森と農地の違いは何じゃ?」
「森にはたくさんの種類の木や草があります。」
「森は整備されてないけど、農地は整備されています。」
「整備されているっていうのはどういうことじゃい?」
「えーと、森では色々な植物があるけど、農地では何種類かの決められた作物を育てます。」
と、今までの研修で一度も自分から口を開いたことのないコッタグダ村のおっちゃんも今日は積極的に発言する。和田代表が続ける。
「そう、森では色々な植物があってそれぞれ違う時期に枯れるから、常に土がつくられ続けている。しかし農地では作物ごとに植えているし、枯れる前に取り除くから土が出来ない。つまり作物は土から栄養を取るけど、土に栄養は返さない。だから農地では意識的に作物が取った分の栄養を返す必要があるんじゃ。
さっき説明した植物とバクテリアと土の関係は覚えているかい?この循環を意識的につくるのがたい肥の役割じゃ。しかし、森で土が出来るのに時間がかかるように、バクテリアだけでは土が出来るのにすごく時間がかかる。だからミミズの助けをかりて、バクテリアが食べ物を消化しやすくすることで、土が出来るまでの時間を短縮する。それがミミズたい肥ということじゃ。」
退屈しのぎにトイレに行っていた村人たちも、和田代表の研修は食い入るように聞いている。そして、なにより、参加者全員が楽しそうに質問に答える。テルグ語が苦手で普段は研修で喋るのを躊躇しているような参加者さえ和田代表の研修では口を開く。
和田代表の研修のあとで、村人たちは視察研修で学びたいことを確認した。「土」と「ミミズ」という意識があるからこそ、「ミミズたい肥」のつくり方を学ぶのではなく、農業カイゼンのためにミミズたい肥について学ぶという意識が生まれてくる。なぜなら、村人たちは土が重要なことを誰よりもよく知っているのだ。
そして、農業カイゼン、ミミズたい肥づくりもまた、流域管理の一部なのだ。植林や石垣など構造物の構築を通した森での土づくりと、農地での土づくりの違いが、ミミズたい肥づくりと流域の関係ということ、この部分はこれから何度もつついていくことになるだろう。



4. オラがミミズたい肥づくり名人

和田代表の研修を経て、事前準備はばっちりの村人たち、今度は農業カイゼンの先輩であるB村の農家を訪ねて研修を受ける。B村での視察研修当日、たい肥づくりの指導員は村のなかでも特に熱心に農業に取り組むチランジービー。昨年P村が農業カイゼンの視察でB村を訪れた際にも農業カイゼンの普及に中心的な役割を果たした青年である。
そして、流域管理研修の指導員としておなじみのアナンドも加わる。
たい肥小屋の大きさや、たい肥づくりに必要な素材や道具などを丁寧に説明するチランジービー。葉っぱは苦みのないものを選ぶだとか、小屋は日の当たる場所に建ててはいけないなどのつくり方の部分と、牛糞など他の肥やしと比べて使い勝手が良いことや、土の質を高めることができることなどの、利用方法や効果まで漏れなく解説する。そして、一通り説明をすると

「さぁ、オラがいま説明したことを言ってみて。」
と、参加者の理解度を確認しながら研修を続ける。その姿は、まさに名人と呼ぶのがふさわしかった。
「ミミズはどこで手に入れるの?」
と参加者に聞かれれば、
「オラのミミズを売ってやるから安心しろ。」
と、しっかりと商売も意識している。彼は今までもミミズたい肥やバイオ農薬(化学薬品を使わない農薬)を作り、自分の農地で利用し、そして他の農家たちにも販売している。今まで店から化学肥料を買ってきていたころのような出費はもういらない。それどころか、今度は自分のもつ資源を利用してお金を稼ぐまでになっている。
B村で一目置かれるチランジービーは、他の村の人たちにとっても、モデル農家だった。研修が進むと少し違うトピックの質問も出てくる。すると、チランジービーは、
「まずはこの説明を終わらせてから、その話をすっぞ。」
と、参加者が混乱しないように一つ一つ順を追って説明する。事前研修の後でキョーコさんから、この視察研修で見落としてはいけない重要ポイントのアドバイスをもらっていたモニタリング担当の筆者たちだったが、チランジービーは重要な点を見落とすことなく進めていく。それどころか、ミミズたい肥づくりの研修をこえて、農業カイゼンの研修になっていく。
SRIについて、バイオ農薬について、牛糞や牛尿を利用した液肥について、チランジービーと参加者たちの熱い議論は続く。
「でもオラたちの村では、耕す田んぼを2年ごとに代えていくから、これを続けていくのは難しいな。」
コッタグダ村の村人がつぶやいた。
「それなら今度はお前さんたちが、次に田んぼを耕す人にこのやり方を教えてやればいい。」
チランジービーはそう答えた。
「オラはミミズたい肥づくりの最初の研修には参加しなかった。でも(自ら試行錯誤を繰り返して)今ではこうやって自分が研修する側になったんだ。」
チランジービーの顔は自信に満ち溢れていた。農業カイゼンへの挑戦も2年目を終えようとしているB村、その成果は個人の農業カイゼンを超え、村の農業カイゼンになり、そしてそれが今度は地域全体の農業カイゼンにつながっていく。彼はきっとこれからも先頭をきって走り続けていくに違いない。







 


5. 広がり始まる農業カイゼン

先輩農家たちからたい肥づくりについて学んだ村人たちは、さっそく準備を始めている。チランジービーたちの指導に基づいて、たい肥小屋の建設を終え、いよいよこれからミミズたい肥づくりが始まる。この研修で学んだ、他の農業カイゼンの技術もこれから実践していく農家は増えていくだろう。流域管理技術に続き、広がりはじめた農業カイゼン、これからの進展の様子はまた次回以降のよもやまで乞うご期待。









注意書き

ラトナ=ソムニードインディアのスタッフ。オバチャン相手に長年の研修経験を持つオバチャン。
スーリー=ソムニードインディアのスタッフ。長年の現場経験をもつ。
筆者=實方博章。現場で修行中。
キョーコさん=前川香子。ムラのミライの名ファシリテーターで、本事業のプロジェクトマネージャー。流域管理プロジェクトの他にも研修事業から出版事業まで全てを統括するスーパーチーフ。


2015年2月17日火曜日

人に期待する前に、まず自分でやってみる

ネパールの首都・カトマンズを流れるバグマティ川を舞台にした、地域コミュニティ強化プロジェクトと生活環境改善プロジェクトを担当しています。ネパール事務所駐在員、池崎です。

現地からの最新情報として発信する、でこぼこ通信第13号「建設予算の開示無くして何が住民主体プロジェクト?」 (2014年9月16日発行)では村の建設事業予算の開示についての、スタッフ間のすったもんだについてお伝えしました。

そのすったもんだとは、、、、
デシェ村の人たちに予算を包み隠さず公開しようとする私たちムラのミライ(旧称ソムニード)のやり方に、不安を覚えるネパール人の建設関係者たち。その理由は、建設には利害関係がつきもので詳細まで開示することによって起こりうるデシェ村のヒトたちとの騒動、利害関係者との調整の困難さ、そしてそのことによる建設作業の遅れを懸念するということでした。現地カウンターパートのネパール人スタッフは、予算を村の人たちに開示しない、あるいは部分的になら開示する方向で行きたいと主張するところ、私たちは「最後の1パイサ(=最後の1円単位)まで、デシェ村住民に公開し、理解してもらうことは必須」ということで、デシェ村住民へ予算の全面開示を行いました。(詳細はでこぼこ通信第13をご覧ください)



書籍『途上国の人々との話し方』では、「予算こそ核心:これを村人がつくらずに村人のオーナーシップはありえない」(第3部 メタファシリテーションの実践 390頁)とあります。「予算づくりを実際にやっていなければ、メンテにいくらコストがかかるか分かりようがなく、それが分からなければ、必要な資金を調達することも事実上不可能」まさしくその通りなのです。

さてこの予算づくり。アクション・プランづくりともいっていますが、「いつ」「どこで」「だれが」「なにを」「どうする」という視点が各工程にぎっしり詰まった一覧表です。例えば建設作業であれば、具体的に何がいつから始まり、誰がそれを行い、そしてお金は何を根拠にいくらかかるのかということが詳細にかいてあります。建設であればそれなりの工程が含まれるわけですから、慣れていなければ作るにも時間がかかりますし、完成した一覧表を理解し、更新し続けるにも根気と訓練が必要です。



正直なところ、ソムニードスタッフ(ネパールの現地ローカルカウンターパート。私たちムラのミライと一緒に事業を行っています)にとっても、このアクション・プランは超がつく苦手分野。上記書籍392頁に「アクション・プランづくりも技術:沢山練習しないとできるようにならない」とありますが、本当にその通りで、これは経験者しかわからない大変な部分があることは否めません。しかし、本当の意味での「持続可能な取り組みへの唯一の道」を辿るためには、ネパール人ソムニードスタッフがアクション・プランづくりのための技術を習得し、その技術が研修を通じてデシェ村住民へと受け継がれ、それが他地域へと普及していくというプロセスが欠かせません。



対話型ファシリテーション自主学習ブログ読者の皆さんも是非、このアクション・プランづくりをまず自分で作ってみるところから始めてみてください。


(ネパール事務所駐在員 池崎翔子)

2015年2月10日火曜日

見落としがちな解決方法

前回のブログでは、課題解決を手助けする手法として、
「類似の課題を以前に解決した経験を思い出してもらう」というものをご紹介しました。
それまでに起きた同じような問題を、
その時その人がどうやって解決したのかを思い出させることで、
今直面している課題の解決方法に気付かせるというものです。
しかし、その人が初めてその課題に直面した、という場合も十分考えられます。

そんな時は、その人の身近な他者、
つまり同様の問題を抱えていた他者の問題解決の経験から学ぶよう促します。
同じ部署の知り合いや、他の部署の人で、
同じような問題を解決した例はないか探っていくというわけです。

ひとつ例をご紹介します。
ある国際協力団体が行ったベトナムでの幼児栄養改善事業のケースです。

栄養不良の子どもが多い村に入る援助団体は、子どもたちを集めて給食活動を行ったり、貧困家庭に食糧支援を与えたりするのが普通だった。つまり、子どもの栄養不良という問題に対して、食糧の不足という外的な要因に光を当てて解決を図ろうとする。ところが、子どもの生活状況の改善活動において豊富な経験を持つことで知られるこの団体はまったく違ったアプローチを取った。

 この団体の担当者は、村の女性の中から保健ボランティアを募り、彼女らを集めて研修を開始した。そこでまず、「子どもたちの栄養不良の原因は何か?」という質問が保健ボランティアたちに投げかけられた。女性たちは、その第一の原因は、「家が貧しいこと」だと口をそろえて答えた。例によって、貧困、つまり食糧の不足という経済的な要因が最も大きいと考えたわけである。そこで事業の担当者はたずね返した。「では、あなた方の近所には、経済的には貧しいのに、子どもたちは健康で発育がよい家庭はないのでしょうか」と。女性たちは互いに相談しあった末、「村の中に数軒そのような家が確かにある」という結論に達した。

担当者はさらにたずねた。「では、貧しいのに子どもの発育がいいのはどうしてでしょうか」。女性たちはいろいろ話し合ってみたが、誰もはっきりした答えが出せなかった。「それでは、実際に一軒一軒たずねて、秘訣を教えてもらいに行きませんか」と女性たちに呼びかけた。それに応じた女性たちに対してこの団体は、どのような聞き取りをすれば効果的に聞き出せるのかの訓練をまず行った。そして村の中に送り出した。

彼女らは、貧しいのに栄養状態がよい家庭では子どもに何をどんな風にして食べさせているかを徹底的に探った。多くの場合、それは芋のツルであったり、小さな沢ガニやアサリであったりと、村では簡単に手に入るのに、食べるのに適さないとか小さな子どもに与えるべきでないと信じられているものだった。こうして村の女性たちは自分たちの手で、村で手に入る「安くて栄養価の高い食品」を発見した。
(書籍『途上国の人々との話し方』より)

このように、村の女性たちは外からやってきた部外者からではなく、
村の中にいた「身近な他者の経験と知恵」から学んでいったのでした。
「栄養不良の原因は家が貧しいこと」という固定観念のまま話が進められていれば、
必要なものが村の外から持ち込まれるだけで、
住民主導のプロジェクトにはならなかったでしょう。

状況の改善に向かって行動を起こすのは村人自身。
なかなか気付きにくい内的な要因に気付かせ、受け入れさせることこそ、
対話型ファシリテーションの果たす、大きな役割なのです。

詳細は書籍『途上国の人々との話し方』をご覧ください。
本書籍の英語版も近日発売予定です。どうぞお楽しみに!

2014年度インターン 山下)

2015年2月3日火曜日

トークイベントでも、ファシリテーション

ムラのミライで共に働く仲間シリーズ(勝手に命名)、今回私(宮下)がご紹介するのは、海外プロジェクトチーフの前川香子さんです。(ブログですので、普段呼んでいる通り、以下「香子さん」と書きます。)

香子さんは20151月現在、海外プロジェクトや海外での研修全般の企画運営を見つつ(中間管理職というやつです)、インド農村部での「かっこいいムラづくり」をプロジェクトマネージャーとして統括しています。普段はインドの山奥や現地事務所で、村の人たちやスタッフを相手に、日々地道な、そして時には鮮やかなファシリテーションをおこなう香子さん。その活躍の様子はプロジェクトを詳細に描いた「よもやま通信」でお読み頂けます・・・が、今回は「よもやま通信」には掲載されることのない、日本事務所でのエピソードをご紹介します。

それは、インドとネパールに駐在するスタッフが帰国する時期に合わせて、活動紹介をするトークイベントを実施した時のことでした。参加者からの質疑応答の時間。ある人がこんな質問をしました。

「インドはカースト制などの古い習慣がまだまだ残っていますし、文化も日本とは大きく違います。そうした文化や習慣の違いによって活動がうまくいかなかった、難しかったということはありますか?」

私はこれを聞いて
「あーやっぱり出たね、この手の質問。文化が違う、宗教が違う、カースト制がどうの・・・という質問、インドやネパールでの活動報告をすると、ほんとよく出るよなー。文化や生活が違ったって、人間そうそう変わらないっつーの」
などと内心やや毒づいておりました(ガラが悪くてすみません)。
というのは、「カースト制のような身分制度を保持する遅れた社会」「宗教に大きく生活を左右される、近代化されていない社会」だから支援してあげないと・・・という思い込みにはうんざりしているからなのですが、さてこの質問に、香子さんがどう答えたか。

「うーん、文化や習慣の違いが原因で難しいな、と感じたことは覚えていませんね。でも、私やスタッフから(村の人へ)の投げかけ・働きかけがまずいせいでうまくいかなかったな・・・もうちょっとこう働きかけたら良かったな・・・と思ったことはたくさんあります。」

私は声には出さず「お見事!」とつぶやきました。質問者の思い込みを正面から否定しないでおきつつ、「活動がうまくいかないのを相手のせいにするのは簡単ですけどね・・・そうじゃないんですよ」というのを示した、この回答。
思い込みにとらわれた空中戦をせず、事実を丹念に検証する。それが対話型ファシリテーションの基本の一つですが、空中戦にはまってしまう要因の一つとして、「人は自分にとって心地の良い言い訳を求める」というものがあります。「文化が違うから・・・」「カーストがあるから・・・」という言い訳をするのは簡単。でも事実は、こちらからの働きかけ方がうまくなかったから、かもしれない。それを検証するのが先ですよ、ということを示す、見事な返し方でした。


(事務局長代行 宮下和佳)