2016年12月27日火曜日

「みんな」は誰でもない

ネパールからナマステ!久々のブログ執筆です。

ムラのミライのインド事業を引っ張ってきたラマラジュさん、キョーコさんの名コンビ。
(そんな二人の活躍のようすは「よもやま通信」で!)

まずは、そんな二人がネパールオフィスのスタッフたちへのトレーニングをしたときの一場面をご紹介します。


*****
ソムニード・ネパールのディベンドラとウジャールが、事務所でこれまでのネパールでの活動をラマラジュさんとキョーコさんに説明していたときのことでした。
彼らのプレゼンをずっと黙って聞いていたラマラジュさんとキョーコさんですが、あるとき、「ちょっといいですか?」とキョーコさんが切り出しました。


キョーコさん:「「コミュニティ」って出てきていますが、これは何を指しているんですか?」

キョーコさんの質問の意図がわからなかったと思われるディベンドラ。

ディベンドラ:「資源を共有する一定のエリアに住んでいる人たちのことで…」(これは、コミュニティの「定義」)

キョーコさん:「いや、そうじゃなくて。ディベンドラさん、さっきからコミュニティ、コミュニティと言っているけど、そこには誰が住んでいるのかを知りたいんです。」

ディベンドラ:「えーと(としばし沈黙する)…DEWATS(分散型排水処理施設)を使っている人とか?」

キョーコさん:「ほかには?」

ウジャール:「デシェ村では、村の人たちはDEWATSの利用者という側面と、学校の保護者という側面があって…」

ラマラジュさん:「じゃあ、今出てきたデシェ村で考えてみましょう。どんな人が住んでますか?」


ここで、デシェ村を事例に、そこにどういう人が何人住んでいるのか、ディベンドラとウジャールがホワイトボードに書き出していきました。
そう、彼らは
「コミュニティの人たちと協力して、●●を実施しました。」
「コミュニティの人たちが主体になって…」
などと「コミュニティ」という言葉を多用してはいましたが、具体的な「誰か」を想定して話していたわけではなかったのです。
キョーコさんがツッコミをいれた「コミュニティ」という言葉、実体があるように見えて、まったくない言葉だったんですね。
*****


こんなふうに、ネパールで仕事をしていると、スタッフや村のオッチャン、オバチャンから
「みんな」「コミュニティ」「いつも」「ネパールの人は…」
という言葉をよく耳にします。
けれども、往々にしてこれらは実体のない言葉。
たとえば「みんなでやる」と言っても、その「みんな」に実体がない(=具体的に誰かが想定されていない)から、それは「誰も何もやらない」ということになりかねません。
そこによく効くのが事実質問!だと私は思っています。


つい最近、ネパールオフィスで一日に複数の研修やミーティングが入ったことがあります。
「みんなでやればいい」精神で、予定をどんどん入れてしまうネパールオフィスのスタッフたち。
その結果、ずらっと予定がならんでしまいましたが、スタッフの人数には限りがあります。
「こんなに予定が入って大丈夫なの?」と聞くと、
「みんなで動けばなんとかなるよ」と返されてしまうのですが、(明らかに何とかならへんやん…)という予定。


*****

私:「この研修は誰が行くの?」

ディベンドラ:「私が行きますよ」

私:「じゃあ、こっちのミーティングは誰?」

ウジャール:「ぼく」

私:「じゃあ、もう一つの研修は私が行かないといけないですかね。」

私:「研修で使う文房具を車で運ばないといけないですよね。時間が重なっているけれど、車はどう動いてもらうの?何時にオフィスに来てもらって、最初の研修場所へは何時に出発してもらう?その時に担当スタッフは乗っていく?」

ディベンドラ:「車は一台だけだから、トキエさん(筆者)が使っていいよ。研修の文房具だけドライバーにあとで運んでもらうから。」

私:「私(筆者)はネパール語でのコミュニケーションに難ありだから、私が行く研修には、だれかネパール人スタッフについてきてもらわないと。AさんもBさんもほかの用事で出るなら、誰についてきてもらえますか?」

ディベンドラ:「プリティかな」

私:「じゃあ、誰がオフィスに残って電話対応するの?」

ディベンドラ:「・・・じゃあ、マニーク・・・」

私:「この日に休暇をとるスタッフっていなかった?」

ディベンドラ:「あ、マニークは休暇をとる予定だった」
*****


と一つ一つ始業時間からの動きを確認していくと、無理のあることがわかってきました。
なんてことはない確認作業ですが、「みんな」でわかった気にならず、自分が「いつ」「だれが」「どこで」と具体的に想像できないことはきちんと確認するのが、事実質問の練習につながるだろうと、(よく玉砕しますが)日々オフィスのスタッフ相手に実践を試みています。
メタファシリテーションの実践というと「フィールドで実践!」というイメージが強いかもしれません。でも、こうした日々のオフィスでのやりとりでも、基本的な事実質問の練習になります。ぜひ!




(ネパールオフィス   田中十紀恵


註:ディベンドラ、ウジャール、プリティ、マニーク:ソムニード・ネパールのスタッフの名前




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2016年12月20日火曜日

ある罠のハナシ 「収入が足りません」

ブルンジ、イラク、フィリピン、スーダン、スリランカ、南スーダン、ウガンダ、ザンビア、これらの国から計12人が参加した「参加型コミュニティ開発」研修に、初めてコースリーダー(メイン・ファシリテーター)の役を仰せつかった6週間。

これは、JICA関西と関西NGO協議会の共催で開催された研修コースで、途上国からNGO職員や政府職員を招へいして、様々なスキルや知識を身に着けてもらう、というもの。
これまでは中田さんがコースリーダーを15年近く務められた、とても由緒ある研修コースでもあります。
なので、私がどれだけ緊張していたかは、ご想像の通り。


今回の12名は、NGO職員や公務員で役職も様々でしたが、村の人たちから上がってくる意見はおねだりが多い事や、それを突き返す方法も知っていたし、実践している人たちも多かったのです(そこにビックリ)。
ですが、メタ・ファシリテーションの基本事項である事実質問について室内研修をしていた時に、次のようなやり取りがありました。


私:「ため池が必要だ、作ろう、となった時に、どういう問いかけが考えられますか?」

研修員1:「どれだけの大きさで、どこに造るか?そして、それはどうやって算出したのか?」

私:「そういう質問を実際にした事はありますか?」

研修員2:「もちろん。そうしないと、村の人たちも思いつきで言うコトが多いですからね」


私:「へぇ、すでにこういう対話をしているとは、スゴイですね」



私:「ところで、収入向上が必要だ、と皆さんの内何人かも、手に職をつける研修を提供したり、収入向上事業をされたりしていますよね。では、収入を増やさなければ、と住民の人たちが何々の研修をしてほしい、と言ってきた時にはどういう風に話を進めていっているのですか?あるいは、どのように対応しますか?」

研修員3:「何の研修をいつ、どこでするのか?」

研修員4:「どこで何を売るのか?」


研修員5:「どういう職業に就くのか?」


私:「それらの話をする前提として、知っておかねばならないことがあるかと思うのですが」

そう言って、私は「収入向上」「収入が足りない」という言葉をホワイトボードに書きだしました。
すると、政府部局でNGOの活動や財政監査を職務とする、ある研修員が言いました。

研修員6:「How much?」

研修員6:「僕がよく使っている疑問詞だよ。何百ものNGOがいうんだよね、資金が足りないとか資金援助をしてくれって。だから聞くのさ、いくらあったら足りるの?って。その根拠は?って。そしたら答えないんだけど。ははは」

私:「収入が足りない、増やさなければ、と言っても、月に10ドル増やすのか、1千ドル増やすのかで、活動が全然違ってきますよね」

研修員7:「あと、それ(金額)が無ければ、収入が『向上』できたのかどうかもわからない」

私:「(にんまり)」


それなりに現場で実践してきた研修員たちも、やはり「収入向上事業」のひとつの罠にはまっていたのです。
この他にも、もちろん収入だけでなく支出のことなどにも触れましたが、モニタリングや評価にしても、基準や共通理解のないままに「多い」「少ない」を判断すると更に罠に落ちていくよ、ということにも気付いた研修員たちでした。


前川香子   事務局次長/海外事業部チーフ)



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2016年12月13日火曜日

厄介な「やらず嫌い虫」

初めまして、インターンの鳥居と申します。
社会人インターンとして、月2回ほどのスローペースで活動しています。

と言いつつも、インターン参画前含め通算5回はメタファシリテーション関連の講座に参加し、
『途上国の人々との話し方』も一通り読み、さすがに日常会話で事実質問を意識しない日はありません。(もちろん上手く使えているかは別として・・・)


ご存知の通りメタファシリテーションは、相手に気づきをもたらし、行動変化を促す手法です。
しかし、このブログの執筆にあたって「最近人に何か発見をもたらしたことはあったかな?」と振り返ったところ、
何と他ならぬ私自身の悪い癖を発見しまったのです。

それは、食わず嫌いならぬ「やらず嫌い」ということ。
何か行動を起こす前に、なんだかんだ理由をつけて諦めたり先延ばししたりしてしまうのです。

例1:(仕事中)「いくら新人だからって、こんな小さなことで質問したらダメだよね、自分で考えよう。」

例2:(家で)「このシャツ、シワだらけだけど、週末に数着まとめてアイロンかけたほうが効率的だよね。」

例3:(休日の前)「友だちとご飯に行きたいけど、今週はみんな疲れているだろうから誘うのはやめよう。」

ところが、事実質問をこんなふうに自分に投げかけてみると・・

例1:「些細なことを質問して、誰かに怒られたことはある?」
→ない。むしろこの前打ち合わせの後、「何でもいいから一個は質問するように」って先輩に言われたな・・。

例2:「まとめてアイロンがけするのと、一枚ずつ気づいた時にやるの、何分違うんだろう?」
→(きちんと測ったことはないけどおそらく)たった数分。むしろ出かける前にアイロンがかかったシャツがないことに気づいて、急いでかけて集合時間に遅れたことが・・・ 。

例3:「自分が疲れている時、ご飯に誘われて嫌な気持ちにことあったっけ?」
→(程度にもよるけれど)ない。
むしろ、この前友だちに誘われて行ったときはリフレッシュできてよかったな。


この私の癖、「やらず嫌い虫」の一番厄介なところは、
決して怠けたり面倒くさがったりしているつもりはなく、
ちょっと賢く振る舞いたいが故に発生しているということ。
「人に頼らずに自分で理解できる私、賢い!」
「効率的に家事ができる私、賢い!」
「人のためを思いやれる私、賢い!」
 ・・・などなど。

これからは、「やらず嫌い虫」を発見し次第直ちに事実質問を投げかけ、
思い当たることがなければ即行動に移すことで撃退しようと思います。




(ムラのミライ 関西事務所インターン  鳥居亜佑



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2016年12月6日火曜日

「留学どうだった?」「楽しかった!」本当に一言で表せられる?

こんにちは!ムラのミライ関西事務所インターンの吉﨑です。
朝晩の冷えこみが厳しくなりすっかり冬になってしまいました。
さて、今回はまだ「メタファシリテーションって何だろう……」と思っている方や
「いや、もうすでに知っているよ」という方にも私の体験談をぜひ共有したいと思います。

「カナダどうだった?」
1年間のカナダ高校留学から帰ってきた際、耳にタコができるくらい聞かれた質問です。
みなさんは何と返事をしますか?
私は「うーん、いろいろあったけど楽しかったよ。」などとテキトーに返事をしていました。
正直私の留学生活は、「毎日がワンダフル~♪」という訳でもなく、
むしろしんどかった時期の方が長かったくらいです。
しかし「どう(HOW)だった?」と聞かれると、
『辛いことも多かったけど、最後は笑って終われたし楽しいこともあったしなー。
てかそもそも一年を一言で言い表せへんなー。』と思うあまり、
結局「楽しかった。」というあいまいな返事になってしまうのです。
さて、これが普段のたわいもないおしゃべりなら問題はありません。(ちょっと相手が返事に困るくらいです。)
しかし、もしもこれが相手に何か問題が生じていてそれを解決しなければいけない…!というシチュエーションだったとしましょう。
その問題の本当の原因・解決策は何なのか、相手自身に気づかせる必要がありますよね。
これが「(対話型)メタファシリテーション」なのです。
なんだか難しそうだな…と思うかもしれませんが、方法はいたって簡単!
「いつも」や「どんな」「どう」「なぜ」、つまり相手の考えや思い込みを聞かずに事実のみをきいていきます。
なので、もしこの方法を使って当時の私と対話をしていたら、
『カナダでは誰と一緒に住んでたの?』
「ホストママと1歳下のホスト、留学生の韓国人の女の子、あと犬と猫2匹だよ。」
『へえー。カナダの家族って大家族をイメージしてたけど、二人だったんだね。ホストファミリーとはどこかに旅行で出かけたりした?』
「うん、留学当初にホストママのおばさんの別荘にみんなで遊びに行ったよ。けどそれ以外は行っていないやー、泊りがけでチアの大会に出に行ったけど…」
…というように話が進んでいき、そのチアの大会宿泊直後にホストママと大喧嘩をしたことやそれが原因で悩んでいた時に学校の友達に救われたこと等事実が出てきていたでしょう。
しかし「どうだった?」の一言ではこんな事実にはたどり着けないと思います。

もっと当時のことをだらだらと書きたい気持ちもありますが、
『メタファシリテーションブログ』なので今回はここらへんでやめておきたいと思います。(笑)
帰国時の私は、ほかの友達と自分を比べて自分の1年が失敗したように感じていました。
しかし今回この内容を記事にするべく、自分自身にメタファシリテーション(事実質問)をしたところ、当時の自分は精一杯頑張っていたし失敗じゃなかったのではないかと思えるようになりました。
長くなりましたが、今回はこの辺で終わりにします。
最後まで読んでくださりありがとうございました。





(ムラのミライ 関西事務所インターン  吉崎日菜子



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