2011年10月15日土曜日

水・森・土・人 よもやま通信 第2部 第1号「村での再会、そして再開」

 

目次

1.  はじめに
2.  1年間のご無沙汰
3.  オラが村でしてきた活動、現状はいかに?
4.  モニタリングって何?
5.  新しい活動の始まり

1. はじめに

2011年9月下旬。
モンスーン終わりかけの雨が名残惜しげに降りさかる頃、村では主に水田での雑草取りの作業をしている。
今年はまとまった雨の降り始めが遅かったので、田植えも8月に入ってから。まだ青々とした稲が、勢いよく延びている。
アーンドラ・プラデシュ州の北部に位置するスリカクラム県。県内でもさらにオリッサ州に近い3つの流域が事業地であり、この通信の舞台でもある。


2010年8月に事業が終了してから1年。そうした村のオッチャン、オバチャンたちは何をして過ごして来たのか、よもやま話をまずはご紹介。


2. 1年間のご無沙汰

前回事業の目的は、村の人たちが自分たちで村の自然資源を管理できるようになることだった。
そのために3年の時をかけて、自分たちで村の資源の現状を調査し、必要な活動とそれにかかるコストを計算して計画を立て、実行し、終盤では管理するための自治組織も立ち上げた。
具体的な活動には、水源地を涵養し且つ食・材・薬・薪・飼料を得るための植林、渓流の水流を弱めるための堰堤の設置、土壌流出を防ぐための石垣の建造等がある。
そして半ば土に埋もれたままだった貯水池も整備し直し、ダダ漏れしていた雨水を蓄えられるようになった。
その七転八倒の道のりは、「水・森・土・人 よもやま通信(全22話)」に詳しくあるので、そちらをご一読いただきたい。

そして3年の事業が終了した直後、ただ植えて造って終わりではなく、モニタリングをすることになり、研修を通じて村の人たちは自らモニタリング・フォーマットを作った。そして各村の自治組織は総会も開催し、ソムニード(現ムラのミライ)もオブザーバーとして招待を受け、村へ足を運んだこともある。
事業終了後も、絶えず窓口を開き、必要とあらば研修を行うのがソムニードである。というより、事業終了後からが、本当の村の人たちの自立的な活動が始まるのだ。
自転車で例えるならば、3年間という事業でようやく補助輪無しで自転車に乗れる感覚を覚え始めたばかり、自転車がこけた時にいつでもサポートできるように準備はしている。
但し、こけたからと言って「大丈夫?」とすぐには駆け寄らないのも、ソムニードなのだ。

さて、そうして自転車をこぎ始めた、、、

もとい、自分たちでモニタリングや諸々の活動を始めた村の人たちだが、2011年9月から、再びこの村の人たちと一緒にJICA草の根技術協力事業を始めることになった。自転車に乗り始めたのだから走る道も同時に良くしていこうじゃないか、ということである。
新しい事業のタイトルは、

「多角的資源活用農法(DIFS)を通した農地利用と集水地域保全普及発展型地域住民主導マイクロウォーターシェッド・マネージメント」。

これは、前回事業で造り出し保全し始めた水資源や土壌を、農業に有効的かつ最大限に活用していくことを目的としている。そしてさらに、前回事業でマイクロウォーターシェッド・マネージメント(小規模流域管理)のコンセプトとその方法を身に付けた村のオッチャンオバチャンたちに指導員となってもらって、近隣の村へ流域管理の活動を波及していく。
実際、村のオッチャンオバチャンたちが汗水流して植えた苗木も、近隣の村の人たちの野焼きに巻き込まれたり、苗木を引っこ抜かれたりしたのだ。あるいは、石垣の石をどこかの村の工事用に持って行かれそうになったこともある。山が隣接していてクリアな境界線がないならば、他の村も巻き込まないでどうすんべ、ということだ。


3. オラが村でしてきた活動、現状はいかに?

そして事業開始後の9月下旬、筆者たちソムニードのスタッフは、オッチャンオバチャンたちのモニタリングの様子と、貯水池や石垣等の建造物や苗木の状態を確かめるべく、村へと通った。
モニタリング・チームを選び、毎月、それぞれの状態を見てフォーマットにチェックを入れている村の人たち。
「ナマステー。お久しぶりですね」
「おやまぁキョーコさんにラマラジュさん、久しぶりじゃないですか」
「この1年間、モニタリングをしてきたってスゴイですねぇ。ちょっとモニタリング・シートを見せてもらっていいですか?」
「どうぞどうぞ、ほら、ちゃんとモニタリングしてますよ、僕たち。」
「毎月チェックが入っていますね。ふーん、石垣も堰堤(えんてい、ダムより小規模な堤防)もほぼ壊れることなく、何の変化もなく造ったままの状態なんですねぇ」
と、シート全てに目を通す筆者たち。

「はい、バッチリ良い状態です」
「ちょっと一緒に現場まで行ってもらえますか?」

ということで、山を登って石垣から堰堤、貯水池に植林地と一通りオッチャンオバチャンたちと見て回る。
渓流に造った堰堤は、上流部からの土も堰き止めており、場所によっては40センチほどたまっている所もある。

「こうして土が溜まってきていますが、この後どうしますか?」
「そうですねぇ、さらに石を積立てて高さを上げる、とか?」
苦笑いする村のオッチャン。
「そしてまた土が溜まったら?」
「もっと石を積みます・・・」
「山の高さまで積んでいきますか?」
えへへと苦笑いする村のオッチャン。

なんだか3年前にも同じような会話をどこかの村でしたような、
とデジャブを覚える。
B村での堰堤でも、やっぱり上流から流れてきた土が溜まっている。
特に中流域に多く溜まっていて、ほぼ堰堤の高さ(約50センチ)にまで届きそうだ。
その場所で、B村は主要作物の一つ、パイナップルの栽培をわずかながら始めていた。


「キョーコさん、ラマラジュさん、見てください。同じ斜面なのに、堰堤に溜まった土で育てているのと、それ以外の土で育てているのと、成長具合が全然違うのです」

確かに、堰堤の上部に植わっているものは葉の繁り具合も勢いがあるし、株全体が大きい。
パイナップルの実も収穫した時は少し大きかったらしい。
一見して分かる違いは、同じ斜面の他の場所は岩肌で表土が少なく、土も乾燥しているが、堰堤に溜まった土は厚く湿っている、という点。
T村でもそうだったが、堰堤に溜まった土と他の土を、オッチャン達と一緒に見て、触ってみる。

「なんだかよくわかんないけど、この場所は良いんだね」
と、B村青年リーダー、モハーンはほほ笑む。
今はまだ「なんだかよくわかんない」かもしれないが、これこそが、この事業の核心である。
タイミングが来たら、もっとグリグリ突っ込んでいくことになるだろう。

P村では、政府の農村雇用促進事業(NREGS)の一環で石垣を造らされることになり
(村人が提案する事業計画は受け入れられない)、前回事業で石垣をすでに造った場所では、新設せずにその幅と高さを倍にする、という作業をしていた。
しかし、モニタリング・シートには「異常なし」。

「もの凄くサイズが変わってるよね」
と筆者の指摘に、頭をかく青年リーダー。

一方、貯水池では遅い雨季の始まりでもあったため、9月下旬でも満々と水を湛えている。
G村では事業終了後から魚を養殖し始めており、1年で、すでに投資した金額を上回る収入を得ていた。
しかも、水路の掃除や貯水池の堤防の雑草刈りなどを、自治組織の代表委員メンバーが作業計画を立てて、村人を動員して、雨季前に実施していた。
さらにその記録をきちんと集会の議事録に残している。
作業に参加した村人への報酬は、養殖した魚を一人1キロずつ。

これには筆者たちも心底驚いた。
青年リーダー、ガンガイヤの成長ぶりには嬉しさを通り越して感心する。
こうして感心させられることもあれば、ガクッとすることもあるのが、ある意味フィールドの面白さ。
ほとんどの村の植林地では、10か所弱あるモニタリング・プロットのいくつかは「生存率ゼロ」となっている。
しかし実際にそのプロットを見ると、発芽した苗木はすくすくと育っている。

「50センチくらいになったかな?」と目を光らせるラマラジュさん。
「でもモニタリングしたとき(4カ月前)は、何もなかったんだと思いますよ」
と首を傾げるオッチャン。そんなハズはないだろうと、真に受けない筆者たち。

4. モニタリングって何?

こうして筆者たちは各村を訪れて、それぞれの村の現状を把握することができるが、村同士ではお互い何をしてきたのか、それぞれの苗木や構造物の現状は知らない。
そこで、一度みんなで集まってミーティングを開き、お互いに、良い効果も芳しくない現状も共有した。
モニタリングの方法も、植林地では実は各プロットに一人ずつでしかモニタリングに行ってないことも明らかに。
(だから正確に把握できないのよねぇと、筆者の心の声)

そしてモニタリングの目的を改めて思い起こす。


何を知るためにモニタリングを始めたのか?
「苗木の成長具合や、植林場所ごとの違いを見るため」
「堰堤が壊れたら意味がないから、壊れていないかどうかチェックする」
「失敗や成功を、次の活動に反映する」
「石垣でどれくらい土砂をせき止めているかチェックする」
などなど、諸々の点を挙げていく村の人たち。

「では何が失敗で、何が成功ですか?」
「次の活動への反映ですが、このモニタリングから、何がどのように反映できますか?」
という問いかけに考えるオッチャンオバチャン。

「う~ん、どうしよう・・・」
「堰堤のおかげで鉄砲水はなくなったよね。別の渓流にも設置しておきたいなぁ」
その後も続くやり取りの中で、出てきた発言。

「やっぱりモニタリングのフォーマットを作り直して、もう一度きちんとやり直したいです!」
そうこなくっちゃ、と心の中で筆者とラマラジュはほくそ笑んだ。


5. 新しい活動の始まり

現状を知ってから始まる次のステップ。
そして、もう一度、流域管理とはどういうことだったかをおさらいし、石垣や堰堤の役割、植林の目的など一つ一つ、オッチャンオバチャンたちに自分たちの言葉でもう一度、落とし込んでもらう。
何しろ1年間のブランクがあるのだ。



そして今回の事業は4年間もある。ゆっくり、じっくりいこうじゃないか。
そして村の人たちに投げかけた最後の質問は・・・
「2010年7月まで行っていた事業、誰と一緒にやっていましたか?」
「えーっと、ソムニードと、ジャイカ!」
「そうですね。皆さんが今まで頑張って続けてきた活動を、ソムニードとJICAと皆さんで、もっと良くし続けていくために、今からまた、一緒に活動をしませんか?」
「それは嬉しい。ぜひ、一緒にやらせてください!」と異口同音に答える村の人たち。

またおいしいお昼ごはんが食べられると、嬉しそうな顔をするオッチャンも。

この時点では、事業タイトルも事業内容も、まだ明らかにしない。自分たちで、
「今度はどうやって水や土を農業に活かすか」という事に気づき、
「他の村にも自分たちがしてきた活動を広めよう」と決めていくプロセスが、事業のオーナーシップへと繋がる。

第2フェーズは、まだ始まったばかり。
村のオッチャンオバチャンたちの七転八倒にまつわるよもやま話は、これから更に続いていく。