2016年4月26日火曜日

「頭中のシミュレーション」から、「身体を動かすシミュレーション」へ

3月、PKPMプロジェクトやCDプロジェクト(※)を通じてメタファシリテーションを学び、インドネシア各地で実践しているマスターファシリテーターたちが、インドネシアのロンボク島に6年ぶりに集まり、フォローアップを兼ねた指導者養成研修を実施した。
その講師として呼ばれた和田さんに同行し、私も研修運営のお手伝いをする傍ら、マスターファシリテーターたちと一緒に研修に参加させてもらった。
この記事では、研修中に私が気づいた、「シミュレーションの重要さ」について紹介したい。

今回研修は全部で5日間。
真ん中の3日間はフィールド実践+振り返りという流れで実施し、私もマスターファシリテーターの一人とペアになり、農村でのインタビューを実践した。
3回のインタビューでは、ペアのファシリテーターの技に圧倒されながらも、私の番になると苦戦した。「事実を聞く」ということはある程度クリアできたと思うが、「このインタビューで〇〇について明らかにしたい」というゴールに向かって質問を組み立てることがなかなかできない。
毎回の実践後、ペアのインドネシア人大先輩にフィードバックをもらい、「あ~、なるほど、あそこでこう聞けばよかったんだ!」と納得した気分になるものの、それを次の実践に結び付けるのがなかなか難しい。

そんな敗北感いっぱいの気分で臨んだ4日目の振り返りセッションだったが、そこでとってもシンプルなヒントを得ることができた。
この日のエクササイズは、コメ農家のおっちゃんにインタビューすることを想定して、100個以上の質問を書き起こすというグループワーク。
お題は、「今のコメ栽培と、過去のコメ栽培のしかたの両方について、その過程をできるだけ細かくブレークダウンする」こと。
和田さんからは、「相手の答えも想定しながら質問を考えること」という指示がでた。

「コメを植えたのは誰の土地ですか?」や「整地には何を使ったのですか?」という田植え前の段階から、「収穫したコメのうち、販売した量と家族で食べるためにに保管している量はそれぞれどれくらいですか?」といった収穫後のコメの用途にいたるまで、各プロセスに関わるアクター(人手・道具・コストなど)を洗い出すように質問を組み立てていった。

ひとつひとつの質問を書き出していくなかで、同じグループの参加者たちからは、
「『苗木はどこで手に入れましたか?』という質問から、村の経済について聞き込むことができるよね。」
「『この田んぼには、どこから水を引いているんですか?』からは、コミュニティ内での水資源管理の話にもっていくこともできるよね。」
などといったコメントが途切れなく出てくる。

今回のお題は、「コメ栽培のプロセスについてのブレークダウン」だったため、制限時間もあり、こういったトピックへの深堀りは避けた。
しかし、私にとっては、「おー、そこで自分の持って行きたい方向に質問を組み立てていくんだ!」という目からウロコの発見をした瞬間だった。

まずは、農作業の流れや各工程に関わるアクターを洗い出し、「これは気になる!」と思った点を覚えておいて、「先ほど、〇〇とおっしゃっていましたが・・・。」と戻って深堀りしていく・・・。
慣れれば頭の中だけでこういったシミュレーションができるようになるのかもしれないが、まだまだ場数の少ない私にとっては、紙に書いてみることで、やっと質問の組み立て方が整理されて見えてきた。


思えば、和田さんからよく、「いつも、『こう聞いたら相手はどう答えるだろうか?』とか、『こう答えられたら次にどう聞こうか?』ということをシミュレーションするんだ。」とアドバイスをもらっていたものの、私は頭の中で少し考えただけで、「うーん、でも実際はどうなるか分からへんし!」と諦めてしまっていたような気がする。

それはまるで、サッカーでゴールに向かってボールを蹴る流れをコーチに教えてもらっても、頭の中のシミュレーションをしただけで、実際にボールを蹴る練習を怠っているようなものだ。
もちろん、実際のサッカーの試合だって、練習した通りに相手が動くかは分からない。
しかし、色んなパターンを想定したうえで、チームメイトに敵役になってもらったり、コーンを敵チームに見立てて一人で蹴ってみたりという練習をするだろう。

この「コーンを置いてボールを蹴ってみる」という練習のやり方。
メタファシリテーションの場合は、「考えられる質問と答えを紙に書いてみる」ことが当てはまるのではないだろうか。

時間のかかる練習ではあるが、実践練習なしに技術は身に着かない。
「頭中のシミュレーション」から、「身体を動かすシミュレーション」へ。
練習の重要さを改めて確かめた体験となった。

※PKPMプロジェクト(2004~2006年実施)
和田信明・中田豊一が専門家として参加していたODAプロジェクト「市民社会の参加によるコミュニティ開発」。詳しくは、本プロジェクトのコミュニティ開発アドバイザーを務めた西田基行さんの著書「PKPM ODAの新しい方法論はこれだ」でお読みいただけます。

※CDプロジェクト(2007~2010年実施)
PKPMプロジェクトで認定された「マスターファシリテーター」へのフォローアップ、さらなるマスターファシリテーターの輩出や行政等との連携の強化のために実施された、同じくODAプロジェクト「スラウェシ地域開発能力向上プロジェクト」。

近藤美沙子 ムラのミライ 海外事業・研修事業コーディネーター/ネパール事務所)


http://muranomirai.org/category/trainingactive/studytour

2016年4月19日火曜日

すっぽりとハマったMの罠

ネパールからナマステ!
地震、燃料不足の影響でスタート遅れに遅れたうえに、豪雨の影響で建設地を変えざるを得ないというトラブルにも見舞われつつ、現在絶賛建設中のDEWATS(分散型排水処理施設)。
詳しくはこちら(プロジェクト通信)

そんな建設と同時並行で進めているのが、DEWATSを設置する、バスネット村の地図作成と世帯調査です。村人たち自身に村のことを知ってもらうために、村の8人のオバチャンたちに協力してもらって作業を進めています。

そんなオバチャンたちとの作業を任されることになった私。(実際にはソムニード・ネパールのスタッフが通訳兼見守り役でいつも同行してくれていますが)
完成品のイメージはこちらから提供しつつも、実際の作業の進め方や細かいルールづくりはオバチャンたちにやってもらうように、和田さんのアドバイスをもらいながら、ミーティングの進め方のカンペを作ったり、想定問答集を作ったりして、オバチャンたちとのミーティングに臨んでいました。
へっぽこながらもなんとかオバチャンたちとのミーティングを進めていたそんなある日の出来事です。

さて、この世帯調査のキモは、DEWATSを利用する村人の人数をヌケ・モレ・重複なく正確に把握すること。そのためには、オバチャンたち自身が作成した地図をもとに、一軒一軒の家を調査に回り、家族構成を本人に聞くことが重要だと考え、調査フォームには「本人サイン欄」を作成していました。
オバチャンたちに、調査のときには、その家に住む人に家族構成を確認し、その家の人から確認のためのサインをもらうことを念押しするべく、こんな質問を投げかけました。

私「ねぇねぇ、確認ために家を訪問したら、誰もいなかった。どうする?サインもらえないけど、他人が勝手にサインしてもいい?」
村のオバチャンたちだって、他人に勝手にサインされちゃうのは気持ちが悪いんじゃないかと思い、きっと「それはアカンやろ~」という答えが出てくるであろうと、それ以上の問答は準備していませんでした。
ところが。

オバチャン「えー、家族構成をよく知っている家なら、自分(調査員)がサインしてもいいんとちゃう?」
予想外の答えで、頭が真っ白になり、うまい切り返しが思い浮かびません。
どう切り返そう?としどろもどろになりつつも、話を先に進めなければと、あまり意味のない質問を出す私。

そんな私のようすを見て、ほかのオバチャンたちが「あー、(筆者は)他人がサインをすることを良しと思ってないんだな」と察したのでしょう。
「ちゃんと一軒一軒回って、本人に確認してもらって、サインするで!」と言わせてしまいました。
その言葉を聞いた瞬間に「あーあ、やってしもた…」と思いましたが、まさにMの罠。
オバチャンたちは私の顔色を見て、それが「私の望まないことである」と察してしまったのですから。

ちなみに、このやりとりを通訳してくれていたソムニード・ネパールの同僚は、途端にしどろもどろになった私には気づいたようでしたが、なぜそうなったのかには気づいていないようす。(原因がわかっていれば、あれこれとネパール語でフォローに回るので。)
きっと、オバチャンたちと一緒で「何でアカンの?」と思っていたのでしょう。

さて、そんな敗北感いっぱいのミーティングのあと、和田さんに
「もし、和田さんだったらどう切り返しますか?」と聞いてみたところ、
「まだまだオバチャン度が足りなかったんだねー」と笑いつつ、答えてくれたのは
・「ふーん、じゃあそうすれば?」と突き放す
・「勝手に他人にサインして、借金背負わされたらどうなんだ?」と返す
などなど…「オバチャンたちを突き放す」という回答。
一番思いもつかなかった、私にとってはまだまだ怖くて切り出せない奥の手です。

和田さんのように、オバチャンたちを突き放すのはすぐにマネできないかもしれませんが、次にやるときには、ここぞというところで頭が真っ白にならないよう、「ここがポイント!」というところでは、最もあり得なさそうなやりとりのパターンも想定して臨む。それでも、頭が真っ白になる場面に出くわしたら、無理して先に話を進めずに、話の立て直しに注力しようと思いました。(もちろん、頭が真っ白なんてことは表情に出さないようにしながら)
その積み重ねで、頭の引き出しからいろんなやりとりのパターンが引き出せるようになれれば、ちょっとは成長したかな?と思える日が来るかもしれません。

田中十紀恵 ムラのミライ 海外事業・研修事業コーディネーター/ネパール事務所)


バスネット村のオバチャン達と付き合い始めた頃のエピソードは下記リンクのプロジェクト通信でもお読み頂けます
http://muranomirai.org/dekoboko-22

2016年4月12日火曜日

現場で実践してみました in フィリピン

名古屋の対話型ファシリテーション自主勉強会に参加して、早いもので4年経つ。
月一度の短い時間ではあるが、仲間と一緒に勉強する時間というのは事実質問を意識できる良い機会でもあり、毎回メンバーや事例、練習から新しい気づきがある。

今月、私が働いているNGOからフィリピンでおこなっている高等教育支援の現場(学校)へ出張に行ってきた。
毎回現場に行くと、いつ事実質問を使おうかとワクワクする。
生徒やスタッフに現状の聞き取り調査をする、というのが出張の目的の1つであった。
その為、事実質問を使って聞き取り調査をした。 

今回はファシリテーターとして対話相手に気づきを与えたというわけではないが、事実質問をすることによって以下の3点、実践できた。

① シンプルかつ、相手が答えやすい質問をする
② 相手の答えから、質問を組み立てる
③ より詳細な情報(事実)を得る

まずは①と②について。シンプルな質問を続けて聞いて行くことは意外に容易ではない事が自分の経験からも理解できる。
私も勉強し始めた頃は、3つくらい事実質問をすると質問が全くでてこない! という状況に陥る事は多々あった。
これは普段の会話から意識して事実質問を使ったり、勉強会などで練習する事によって身についたという事に気づいた。
②についても、あらゆる答えであってもシンプルな事実質問で聞き返す事が身についていると実感した。

例えば、学校の生徒と話していた時に彼自身が「なぜこの学校に入ったのか」を聞く事にした。 

松浦: どこの民族出身なの?
生徒: A島のB族出身です。
松浦: それってフィリピンのどの辺りにあるの?
生徒: M島の北東あたりにあるよ〜。 (地図を出して教えてくれた)
松浦: この辺りの人って何語を話すの?
生徒: ここと同じビサヤ語だけど、民族によって言葉が違うだ。
(Dialect(方言)という単語を使ったので、言語について聞く事にした。)
松浦: 近くに他の民族ってあるの? あればその民族で誰か知っている人いる? 
生徒: 近くではないけど、あるよー、D族って名前だよ〜。 高校の同級生でそこの民族の人もいたけど、あまりその時は自分たちの民族について話す事はなかったんだ。
松浦: じゃあその同級生が彼の民族の言語を話しているのってきいたことある?
生徒A:それがないんだよね。ただ、ここ(大学)に来て同級生と自分たちの民族について話す事によって、自分たちの言語が他の民族とは違うって事に気づいた。

という具合に、15分くらいは彼の民族の話を聞いていった。
この学校に来る前は自分たちの文化については興味もなく、むしろ差別の対象になるので隠していたくらいだったが、今は非常に誇りをもっているのを感じた。
彼の家族、5人いる兄弟、農作物、野ブタの狩りの話など、楽しそうに話をしてくれた。
その後、今の学校に入る経緯などを聞くのにさほど時間もかからず、難しくはなかった。

③については、日本に帰国し同僚、支援者などにレポートをしたり、共有する必要性があった。 共有する情報は全て事実であり、私の私見が入っていない。
伝言ゲームのように伝えていった相手によって話がかわっていくのではなく、同じ情報が共有できるという事は当たり前だけど、今まで出来ない部分もあり必要だと感じた。
そして私が得た情報の中には、ほかスタッフが誰も知らなかった情報もあった。
これは特別な情報を入手したわけではなく、事実質問を繰り返した結果であると思う。

今回の出張がインドネシアでのマスターファシリテーター研修の日程とかぶってしまい、参加できたなかったのが非常に残念ではあった。
しかしながら、現場で実践する事ができ、そして勉強会での成果も感じる事ができた。

松浦史典 ムラのミライ認定講師/NPO法人名古屋NGOセンター理事)


松浦さんが講師の「メタファシリテーション入門セミナー」開催情報はこちらから
http://muranomirai.org/intro201604

2016年4月5日火曜日

植林するのは、山の斜面?それとも平地?

2009年から毎年年に2回、実施している「コミュニティ・ファシリテーター研修」(2015年度は3回実施!)、これまでに延べ50人の方が、南インドの農村で、あるいはスラムで、事実質問の実践に挑戦してこられました。

同じ村に行っても、各人の関心事から掘り下げる(掘り下げたい)トピックは、農業からプロジェクトのこと、教育からゴミのことなど様々。今日は、そんな研修中での事実質問や観察についてのエピソードを、いくつかご紹介します。

◆トンボから池の整備年数を当てる!
ある年に、驚異的な動体視力をお持ちで、しかも学生時代はトンボを研究していた、というNGO職員の方が参加されました。

この方の「この池はいつ作ったのですか?」という質問に、「3年前かな」と答える村のおっちゃん。

それを聞いて「やっぱり」とつぶやく。
何が「やっぱり?」と疑問に思ったところ、「先ほどここを飛んでいたトンボは、比較的新しい水を好む種類で、池ができてから3年くらいまでの処に生息するのです」とのこと。

そして、「今さっきのトンボの羽は、こういう色と模様でしたよね?」と聞かれ、村のオッチャンオバチャンたちも、びっくり仰天。
「あんた、ピュッと飛んだトンボの羽が見えるんかい?」

観察と質問を組み合わせて物事の事実をつかみ取るフィールドワークで、究極的な観察眼を見せてくれました。

◆下痢ってナニ?
村での病気について興味のあった参加者は「最近、下痢になった人はいますか?」とある村で聞きました。
「いや、無いかな」という答え。

「最後に、村で下痢になった人を知っていますか?それはいつですか?」と質問を変えたところ、「10年ほど前に、子どもや年寄りが下痢になって、病院に駆け込んだことがあったかな」と、記憶をたどる村の人たち。

食べ物やら水の状況などを聞いて、とりあえず「この村では10年前から下痢の人はいなさそうだ」という結論を出されました。

ところが、山のふもとを歩いてみれば、「青空トイレ」の跡がそこかしこに。
そして、そこに落ちているものはまさしく「下痢」やそれに近いものばかり(尾籠な話でごめんなさい!)。

村の人たちにとっては、そういうお腹の調子が「普通」なので「下痢」とは認識していなかった、のです。質問だけに頼ってては不十分、という経験でした。


◆Simple Fact Questionの逆攻め
とある村での植林について話が及んだとき、ある参加者が「植林するときに、まず最初にすることは何ですか?」と聞きました。
すると、村の兄ちゃんは「あなたは山の斜面にしたいのか?それとも平地か?」と逆に質問してきました。

「え~っと、山の斜面かな」という参加者の答えに対して、「そこは小川とか水に近いところか?それとも全く水のないところか?」と更に質問。
「え~っと、水のないところ」
「岩だらけか?それとも土はあるのか?」
「ちょっとあるかな」
「じゃぁ、植える種類としては『釈迦頭(カスタード・アップルとも言う)』やカシューナッツの樹がいいかもな」と、まずは植える樹の『選定』をし、それから「カシューナッツの場合、苗木だとまずは30センチ四方の穴を掘り・・」と植林方法について、説明をしてくれたのでした。

投げかけた質問自体があやふやなものだったということもありますが、そこを村の兄ちゃんが上手く突いて「Simple Fact Question」を畳みかけてきたわけです。
また、彼らの逆質問から、この村での植林地のタイプや彼らの樹の選定方法などが垣間見える、という刺激的なシーンでもありました。

最近発行された、中田豊一著『対話型ファシリテーションの手ほどき』にも登場する、南インドの村の人たち。村の成り立ちから、最近の結婚式事情まで、いろんなことを話してくれます。
ただし、それは聞き方次第!

前川香子 ムラのミライ 事務局次長/海外事業チーフ)