2016年9月27日火曜日

シンプルな事実質問から

今年は私が職員を勤めるNGOから海外の事業地に長期で何度か出張に行く機会があった。 
村人にインタビューやお話を聞く機会も多く、
現場での実践を積むことができる大きなチャンスでもあった。
 

村の自助グループのリーダーを務めるアヤレチさんにお話を伺った時のこと。 
僕は靴が大好きなのもあり、他人の足元についつい目が行ってしまう。
アヤレチさんの靴は花柄で可愛らしいものであった。 
まずは自助グループの事やグループに加入した理由について話を聞いて行った。
そのあと、気になっていた靴のことを聞いてみた。 

私:その靴可愛いですね! どこで買われたんですか?
ア:アルバミンチで買いました。
アルバミンチはこの村から徒歩で約8時間ほど行ったこの地域では一番大きな町
私:最後にアルバミンチに行ったのはいつですか?
ア:1週間前です。
私:その時に靴を買ったんですか?
ア:そうです、その時買いました。
私:1週間前は、靴を買う目的でアルバミンチに行かれたんですか?
ア:違うんです。実は。。。

通訳を務めてくれたエチオピア人スタッフが、
「フミ、良い質問だね!」と言い本当の理由を教えてくれた。
アヤレチさんはアルバミンチに行った理由が息子に会いに行ったこと。
その息子がある問題を抱えており、
それについて悩んでいることについて長く話してくれた。 


この事例に限らず、シンプルな質問から思いもよらない返答であったり、
事実がわかったりする事例が他にもあった。
初めてエチオピアに来た4年前のことを思い出し、
どれだけ事実質問をしても何も起こらないことがほとんどだったことを思い出した。
ただシンプルな事実質問をするだけではなく、
適切な質問ができるようになったことも今回の事例を通して実感したことであった。 



(ムラのミライ認定トレーナー 松浦史典



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2016年9月20日火曜日

「自分のことは自分でやる」子になる対話って? 後編


前回の”「自分のことは自分でやる」子になる対話って? 前編”の続きです!
まだ読まれていない方はぜひ前回の記事を読んでからお読みください!


■メタの部分:「ワタシ」を見るワタシ■

「どうしたら次回から(将来から)息子が○○する(しない)ようになるか、そのために今なにを伝えればよいか」を考えていない「ワタシ」、という点に自分で気づくことができるかどうか、ココが「メタ」の部分です。

人(相手)に行動変化を促す投げかけをする前に、まず自分で自分の行動(言動)を認識する、これが出来て初めて相手への投げかけが出来るようになります。
 
原はこれまで「支援しない技術」というタイトルで何度か講演をしてきましたが、その際には「インドのおばちゃんたちを支援しようとするワタシは一体、ナニサマなのか?」を自分で自分に問いかけた、という話をします。
「今」起こっていることを分析し「それ以外の何か」を相手に提案する際、「それ以外の何か」が果たして「’今’起こっていることに勝る価値があるのか?」
そうした自分への問いかけなしに、相手への働きかけるということは、「ワタシは持っている(知っている)、アナタは持っていない(知らない)、だから与える(教える)」になりがちです。
 
私は常々、将来息子には掃除・洗濯・炊事などの毎日の家事が大事なことで、顔を洗ったり、歯を磨いたりするのと同じくらい「当たり前のこと」としてできる大人になってほしいと思っていますが、最初のやりとりには、これを実現するための投げかけは一切ありませんでした。
ワタシが優先したのは「ワタシの都合」です。
 

さて、このくらいで分析はやめておきます。
中田さんならこのわずかな会話からも、私の10倍くらいの分析をしてくれそうですが、そこまでは私には出来ません。
「よくまあこんなつまらない日常会話をグダグダと分析するもんだ」と思われる方もおられるでしょうが、この「分析」ができないと、息子に「手がベタベタになったら洗う」という行動変化を促すような投げかけはできないのです。 
しかし、これを1時間かけて分析しても、1日後に分析をしても、その場(この場合は朝ご飯後テーブルと椅子の回りがベタベタしていることに気づいた時)で息子への的確な投げかけはできません。
 
難しいのは、ベタベタの手、机、テーブル、息子を目の前にして、一気に(数秒で)上記の分析をし、その場で的確な投げかけをしていかねばならない、ということです。
 
以前、このブログで出ていたかと思いますが、「分析」というのは、ギリシア語の「分解する」という語源を持っています。分解(分析)を瞬時に行い、相手が「決める」ように投げかけてゆくのが、メタファシリテーションの事実質問です。
 

さて分析の次は、冒頭のやりとり以外の「ワタシ」の投げかけをシュミレーションしてみましょう。

〜朝食後、息子の椅子の縁や机の周りがベタベタなことに気づくワタシ〜
ワタシ「自分の周りの椅子とか机と触ってごらん」
ボク「あれ〜ベタベタしてる〜」
ワタシ「まず、何をする?」
ボク「手、洗ってくるわ。」
ワタシ「それがいいね。」
手洗い後、おもちゃで遊び出す息子。
ワタシ「手はきれいになったね、じゃあ椅子や机は?」
ボク「まだベタベタしてる。お母さんが代わりに拭いておいて。」
ワタシ「”お腹が空いたから、お母さんが代わりにご飯食べておいて”と言う?拭いてあげてもいいけど、昼ご飯も代わりに食べてあげるね。」
ボク「じゃあ自分で拭く」
ワタシ「布巾、上手に絞ったね。自分でベタベタにしたところを、自分できれいにして、偉かったね。」
ボク「次も自分で拭くよ」

 上の例は正解ではありませんので、「こんなシュミレーションもあるよ〜」という方は是非、教えてください。次の朝食後に実践してみます!

 「冒頭のやりとりとの違いは何だったか?」皆さんはもうお気づきですね。
そうです、「ワタシ」は机も椅子も拭いてません!

上のシュミレーションで、「ワタシ」がやったことは次のことです。
  ・ベタベタしていることをまず観察。
  ・息子に自分で机や椅子を触らせてその状態に気づかせる。
  ・「まず何をするか?」を息子に決めさせる。
  ・「手を洗う」という息子の決断を肯定する。
  ・机や椅子の状態をもう一度、息子に確認させる。
  ・例え話「お腹が空いたら代わりにお母さんが食べる」を使う。
  ・「拭く」という行為を観察し、息子が一人でできたことをまず誉める。(例:布巾を上手に絞った)
  ・「自分で拭いた」という行為を誉める。

最後に「次も自分で拭こうね」とは言ってはいけません。
息が言うのを待つ。たとえ息子が「次も自分で拭くよ」と言わなくても、次回、同じことが起こった時に、違うやりとりを考え、「自分のことは自分でやる」を当たり前にしてゆくまで、繰り返し投げかけを続けなければなりません。
 
一度の事実質問や一度の働きかけで大きく変わることは滅多にありません。
しかし「毎日の家事はとても大事で当たり前のこととして出来る大人になってほしい」と願い続ける「ワタシ」がいれば、息子が「自分で動く」ように働きかけてゆくことは可能です。
ここでブレてはいけないのは、息子でなく、ワタシなのです。
 

メタファシリテーションで問われているのは
「事実質問をつなげ、相手に気づかせ、相手の行動変化を起こしてゆく」技術だけではなく、「それを相手に投げかけるワタシはどうしたいのか?」を対人支援や子育ての一瞬、一瞬の場で自分に問いかけ、相手に投げかける、という技術が含まれています。
 
いつも脱力の文章を書いている私にしては、精一杯、理屈っぽいことを書いた今回のお話。

慣れない文章を書いて、疲れてしまったので、この辺でやめておきます。次回はいつも通り、肩の力を抜いた話をお伝えしますので、お楽しみに~



原康子 ムラのミライ認定メタファシリテーション講師)


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このブログ記事の筆者=原康子も各地で講師として登場します!

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2016年9月13日火曜日

「自分のことは自分でやる」子になる対話って? 前編

こんにちは、メタファシリテーション基礎講座で、講師をしている原康子です。
この夏、4年暮らしたネパールから引越し、16年ぶりに日本で暮らし始めたばかり。
見た目は日本人ですし、日本語もできるので、わかりにくいのですが、中身は現在日本事情をなかなかキャッチアップできておらず、外国から日本にやってきたばかりでオロオロする方々の気持ちに近いと思います。
 
しばらくは京都を拠点にして、西へ東へ、南へ北へと、国内外のメタファシリテーション講座で皆さまにお目にかかる機会も増えそうで、今から楽しみにしております。
 

さて今日は「ムラのミライ認定メタファシリテーション講師」という私の肩書の「認定」部分を削除されそうな、メタファシリテーションを使ってない日常をまずご紹介します。

 
ある夏休みの朝食後、食器を片付けていると、息子(8歳)が座っていたテーブルと椅子の周りがベタベタしていることに気づいた私。

ワタシ(原)「なんで(なぜ)アンタが座っていた周りだけこんなにベタベタしてるの?」
ボク(息子)「だって、さっき食べたグレープフレーツで、手がベタベタになっちゃったんだ。
お母さん、なんでもっと食べやすく切ってくれなかったの?
それにボク、椅子は触ってないから、なんでベタベタか知らないよ」
ワタシ「もおお〜、食べたらすぐ手、洗わないとダメでしょう!ベタベタした手でなんにも触らないで!」と言ってテーブルと椅子を拭いた私。

あまりご紹介したくない朝の一コマです。
「WHY(なぜ)を使わない対話術」と、講座で皆さんに伝えておきながら、しっかり「WHY(なぜ)」から始める息子との会話。
 
このブログの記事が原因で
「’認定”が取り消されたどうしよう~」
と、おっかなびっくり書いております。
 
それはさておき、ここで、メタファシリテーション基礎講座や入門講座を受けた皆さんにエクササイズを2つ。

1:上の会話を分析してみてください。
2:1の分析をベースにして、メタファシリテーション・スイッチ(そんなスイッチがあれば、ですが)を入れて、ボク(息子)が「次回からベタベタの手でテーブルや椅子を触らなくなるような」投げかけをシュミレーションしてみてください。

「忙しい朝に、息子とのやりとりでメタファシリテーションなんて使っていられないよ」
というのも本音ですが、普段から気を付けているといないとでは大違いなのです。

まずは、この会話を分析してみましょう
「こんなつまらない会話を分析してど〜すんの?」と思われる人も多いでしょう。
しかしこの世の中、本当に「つまらない」ことは実はヒジョーにわずかです。
一見「つまらない」日常の中に、様々な課題の解決策は隠れていますので、「こんなつまらない」という”思い込み”は、要注意です。

さて、私と息子のやりとりを、以下の3つに分けて分析してみましょう。最初は「対話」、次は「行動」、最後にメタファシリテーションの「メタな部分」についてです。



■  対話について ■

ワタシ「なんでアンタが座っていた周りだけこんなにベタベタしてるの?」
最初から「なぜ」を使っているワタシ(原)。
これ以外にもまだまだあります。
・    (靴下が片方だけ洗濯機の底からみつかって)「なんで(なぜ)靴下、片方しかないの?」
・    (道で転んだ息子に)「なんで(なぜ)よく下をみて歩かないの?」
毎日の生活で「なぜ」の使用を禁止してみると、意外にしんどいのは、皆さんはもうご経験すみでしょう。
 
お約束通り、「なぜ」の後には「だって」が続きます。
息子「だって、さっき食べたグレープフレーツで、手がベタベタになっちゃったんだ。
お母さん、なんでもっと食べやすく切ってくれなかったの?
それにボク、椅子は触ってないから、なんでベタベタか知らないよ」
 
「だって」の後に続くのは、「言い訳」。ボクは悪くない、悪いのは「グレープフルーツ」か「お母さん」というのがボクの言い分です。
「なぜ?」→「言い訳」→「悪いのは自分以外」と続きます。
 
そのうえ、もし「ワタシ」が「なんでワタシが悪いの?」と続ければ、延々と言い争いは続きます。
「もおお〜、食べたらすぐ手、洗わないとダメでしょう。
ベタベタした手でなんにも触らないで!」と息子にしてほしいことを、ワタシが言ってしまっていますね。
 
If I hear it, I will forget it. (人に言われたことは忘れる)の典型パターンです。
息子は、ベタベタの手であちこち無意識に触っているわけで、別にそれが問題(悪い)とは全く思っていません。
「食べたら手をすぐ洗う、ベタベタの手で何も触るな」と母親から言われだけでは、なかなか息子は「ベタベタの手でものを触ってなぜいけないのか?」が理解できないでしょう。
自ら「これはやめないと、変えないといけない」と気づいていないことで、息子の行動変化を望むのは難しいことです。
 
せいぜい「母親がガミガミうるさいから、手を洗っておくか」という程度は思うかもしれませんが、自発的に続けられません。
 
しかし、母親の投げ方次第では、息子の行動変化は可能です。
それは、母親による「なぜ(なんで)で始まる」以外の投げかけに大きな鍵がありますが、まずは母親自身も「なぜ(なんで)以外の投げかけがある」という事実を知らなければ始まりません。
 
幸い、このブログの読者の皆さんは講座に出られた方が多いので、具体的に「どのように投げかけたらよいか」はともかく、「なぜ(なんで)以外の投げかけがある」ということはご理解いただいていると思います。
 
さあ「対話の分析」の次に、「行動の分析」ですが、皆さん、どのように分析されましたか?



■  行動について ■

ワタシ「もう〜、食べたらすぐ手を洗ってよ。ベタベタした手でなんにも触らないで!」
と言って、テーブルと椅子を拭いた私。
 
これでわかるように、ベタベタになったところを拭いたのは母親です。
息子は、ベタベタの手でどこを触ろうと特に困ることはなく、母親だけが困っています。
息子もそのうちテーブルや椅子がベタベタで困ることがでてくるかもしれませんが、困る前に母親が拭いてくれているのですから、当面「困る」ことはなさそうです。
 
この「ワタシ」の行動から、彼女がここで「大事にしていること」は何だったと思いますか?
 
それは「息子に注意すること」と「テーブルをさっさと拭いてベタベタをなくしてしまうこと」です。

「どうしたら次からベタベタの手で息子があちこち触らなくなるか?」
「どうしたらベタベタの手を自分から洗いに行くようになるか?」
「どうしたらベタベタの場所を自分で拭くようになるか?」などは、「ワタシ」は考えていません。



原康子 ムラのミライ認定メタファシリテーション講師)


気になる”メタファシリテーションの「メタな部分」”については
次週の”「自分のことは自分でやる」子になる対話って?後編”でお届けいたします!
お楽しみに~!


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この記事の作者=原康子も各地で講師として登場します!

http://muranomirai.org/basictrg201605

2016年9月6日火曜日

脱・あたりさわりのない会話 等身大の答えを引き出す質問とは?

久保田絢です。
はじめてのブログへの投稿になります。
名古屋在住で大学の教員をしています。
対話型ファシリテーションとの出会いはもう5年以上前になります。
インドでのコミュニティファシリテーター研修や日本で中級研修などを受け、今は認定講師となり講座の講師も担当しています。

 
私が対話型ファシリテーションの練習を続けてこられたのは、自分の人生に役立っているという実感があるからですが、それに加えて定期的に一緒に練習したり、対話型ファシリテーションについて話ができる仲間がいるからだと思っています。
その仲間というのが名古屋自主勉強会のメンバーです。
勉強会には2年半前くらいからほぼ毎月参加していて、夜19時半から2時間程度、事実質問の練習や事実質問を使ってみた経験の共有などをしています。
昨年から勉強会の主要メンバーを講師としてセミナーを行うという新たな目標を立て、昨年1回と今年1回、大学生対象の自主セミナーを開催しました。
今回は8月中旬に行われたセミナーについてご紹介します。


セミナーに参加したのは中山間部の集落調査に行く直前の大学生と大学院生8名。
調査が充実したものになるようにという目的で事実質問を学びました。
相手に気づきを促すという事実質問の本来の目的とは逸れていますが、集落の「現実」を知るためにも事実質問という質問法は有効ではないかと私たちは考えました。

セミナーの流れは
(1)質問票を用いたペアワーク
―調査で用いる質問票からいくつか選んでそのまま質問をし、答えてもらう

選んだ質問票の質問:「○○さんの一日の生活について伺いたいのですが・・起床時間と就寝時間はだいたい何時くらいですか?」
「食事は3食ともご自分で作っていますか?」
「ご近所付き合いはありますか?どのようなご近所付き合いですか?」

(2)事実質問についてのレクチャー

(3)事実質問の練習
①「これは何ですか?」
②(1)の質問を事実質問に変えて聞いていく


私と勉強会のメンバーが思わず微笑んでしまった感想を1つご紹介します。
それは、事実質問に答えるのは「見栄を張ることがなくて楽だった」というもの。
「普段何時に起きますか?」と言われると、実際には9時のときもあれば11時のときもあるけれど、11時というと恰好が悪いから、9時と言っておこうと見栄を張ってしまうけど、「今日は?」「昨日は?」というように時が限定されれば、そういうことを考えなくてよいので楽というとても素直な感想で嬉しかったです。
そして、私自身、事実質問の説明をするときに、
「等身大の現実が見えてくる」
など質問者側のメリットを強調しがちだったのですが、答える側のメリットを改めて感じさせてもらいました。



(ムラのミライ 理事 久保田 絢






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