2018年11月27日火曜日

気づきをもたらす「たとえ話」の秘訣 観察・交流・そして・・・

みなさん、こんにちは。
今回もセネガルからお伝えいたします。

まだまだメタファシリテーション初心者の私ですが、セネガルでは幸運なことに、その生みの親である和田さん中田さんを始め、メタファシリテーションを自在に操る方々のそばで見聞きすることができています。

今回もセネガルでの研修や村訪問でのメタファシリテーションの場面から、ヒントになる!と思った技をご紹介したいと思います。

1例目

2018年7月の和田さんによる「モデル農家養成研修」での一コマ。

研修では、農業経営に関わる作物栽培の収支計算をしていました。研修生の唐辛子畑を例に、栽培に係るコストと生産高を計算し、そこから利益を割り出していきます。

「18,000フランセーファー」

これが生産高から費用を引いた月ごとの利益でした。

ここで和田さんが一言。
「あなたたちはタバコを吸いますか?タバコだと何箱買えますかね?」

すると研修生たちは、
「うーん、タバコか。1箱600Fから800Fするかな。そうだとすると・・・」
「お茶の葉だとどうかな。僕たち毎日飲むしね。一箱300Fだから、1か月だと10,000Fくらいかかっているな。」
 ・・・と、議論が盛り上がっているようでした。



2例目

同じく和田さんの研修。

土の中の水の動きを説明しているところでした。
「あなたたち、冷蔵庫は見ますよね?商店に置いてあって、スプライトとかファンタとか飲み物が入っていますよね。冷蔵庫を開けるとひんやり感じるのはどうしてだと思う?」

すると研修生たちはまた考え始めます。
そう、この問いかけによって和田さんは、研修生たちに考えさせ、空気や水は温度の高いほうから低い方へと動く性質があることを説明しようとしたのです。
 

3例目

今度は2018年5月に行われた、ムラのミライの前川香子による農家研修のモニタリングの場面でした。

「新しい井戸2つが欲しい。ムラのミライでは井戸作りの支援をしてくれないの?」
と、現場ではあるあるのお願いをしてきた研修生の一人に対して、香子さんが切り返しました。

「井戸が2つ必要というのは、どうやって計算したのですか?あなたの畑にどれだけの水が必要か分かりますか?」
研修生「はっきりとは分かりません。」

「結婚式でチェブジェン(魚の炊き込みご飯)を作るときには、ゲストに100人来るなら100人用。あるいは1000人来るなら1000人用って作るんですよね?」

香子さんはこの話によって、井戸の水も同じで、どのくらい必要なのか分からなければ、「ボール1杯分しかないチェブジェンを100人で分けるようなもの」、つまり「的外れな量」で計算してしまうということを説明したかったのです。


 

以上、3例をご紹介しましたが、ここでの共通点は「たとえ話」。
相手が分かりやすいように、いずれも相手の身近な例を使っています。そして、それが気づきを促すのに効果的なのです。

対話型ファシリテーションの手ほどき』(p.57)にもありますが、「普段から村人とやりとりをして」、あるいは普段から相手や相手が身を置く環境を観察し、それを身近な例として対話に取り入れることで、相手が気づきやすくなるとのことです。

上記の例では、和田さんは、村人が普段口にするタバコやお茶などを見て、あるいは商店に行ったときに冷蔵庫を見て説明に取り入れています。

香子さんは、実際にご本人が数日前に参加した、同僚の親戚の「結婚式」をヒントに分かりやすいストーリーを組み立てています。
これはやはり、普段から村人を観察したり、交流したりしないとできないだけでなく、相手に対する関心と、寛容と、何といっても愛がなければできない技だなと、私は後になってしみじみと思ったのでした。

相手に分かってほしい時には自分の説明に集中しがちです。
しかし、そこから少し冷静になって、私たちのいる全体の環境と話している相手に心を向けることによって、この「愛にあふれるたとえ話」は生まれるのだと思います。

たかが(例)、されど(例)。

この例一つが全体の対話を突破口に導くカギになるのかもしれません。
メタファシリテーションのそんな奥深さをまたまた実感した、お2人とのセネガルでの日々でした。


菊地綾乃 ムラのミライ 海外事業コーディネーター/セネガル事務所)




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2018年11月20日火曜日

住民主体の地域づくりを生むコミュニケーション、基本の基本

わが自治体も、地域づくり、地域おこしに取り組もう!
市民との協働で・・・地域資源を活かして・・・と、がんばって開いた住民参加型ワークショップ。
いろいろなアイデアが出た挙句「あとは事務局に」と言われて、逆に役所の仕事が増えてるんですけど・・・なんてことも、あるとかないとか。

「この行政依存、何とかしたいよね」
・・・でも、いったい依存させているのは誰?どうすれば、その構造から抜け出せる?

コミュニケーションという観点から考えてみるために、以前にムラのミライがインドネシアで実施した研修での一コマをご紹介します。

2016年3月、インドネシアのロンボク島で研修が開かれました。
主催したのは、インドネシアのファシリテーター・ネットワーク。
以前にJICAプロジェクトを通じてメタファシリテーションを学び、インドネシア各地で実践しているマスターファシリテーター達が6年ぶりに大集合し、フォローアップを兼ねた指導者養成研修を自ら企画・実施したのでした。
講師はメタファシリテーションの生みの親=和田信明。研修参加者は、NGOや国際機関・行政など様々な組織で、あるいは独立コンサルタントとして、コミュニティ開発に携わるインドネシアのファシリテーターたちです。


初日、各自の近況をシェアした後、講師から参加者へのこんな質問から研修がスタートしました。
 

講師  村人が「定期的に貯蓄なんてできない。ビンボーだから」と言ってきた。何て答える?
参加者 「なぜですか?」
講師  ちがう!
参加者 「いちばんお金のかかる生活必需品は何ですか?」
講師  ちがーう!
参加者 「今日は何を買いましたか?」
講師  うーん、悪くないけど・・・ちがう!
・・・
参加者 「ビンボーって、どういう意味?」
講師  その通り!これ、6年前に教えたぞー。覚えてるか?
参加者一同 (異口同音に)ハイ、覚えてます!
講師  ウソついてるだろ!
(一同爆笑)

以前のプロジェクトを通じて既に和田からイジめられ・・・いえ鍛えられてきた参加者たち。ぐりぐりとイジめられるのが楽しくて仕方がない様子(笑)


講師  じゃあ、続き。「ビンボーって、どういう意味?」って聞いたら、相手が「お金が足りないってことよ」と答えた。次に何て質問する?
参加者 「いくら足りないの?」
講師  そう。こう聞くと、答えられないことが多い。で、たとえばこう言ったりする。「精米機が必要なんだけど、お金がなくて買えないのよ」。そしたら、何て聞く?
参加者 「収穫期はいつ?」
講師  ちがう。
参加者 「どこで精米するの?」
講師  ちがう。
参加者 「(その精米機は)いくらするの?」
講師  そう。知らなければ、それは単なる願望。知っていたなら次に「○○ルピア足りないって、どうやって(いつ)わかったの?」と、さらに聞いていくことができる。

講師  この場面で、ファシリテーターの担うべき役割は何だ?
参加者 情報を橋渡しすること。
参加者 精米機が必要かどうかをふりかえらせること。
参加者 リアリティを見ること。
参加者 相手に考えさせること。
講師 その通り。質問を重ねていくことで、相手を考えさせる。相手が「そういえば・・・」と考え始めた時、物事のイニシアティブは相手のものとなる。考えさせることができず、こちらから答えを提供してしまったら、相手はずっとイニシアティブをこちらに求めてしまうことになる。依存関係ができてしまう。

その後も、次々と参加者に質問をつきつける和田。果敢に答えようとする参加者。

いみじくも、”ファシリテーターの役割は、相手に考えさせること”という原則通り、研修は展開していったのでした。



宮下和佳 ムラのミライ専務理事)

ティータイムに「次はどうやってあいつらイジめようかな…」とほくそ笑む講師


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