2014年1月28日火曜日

最後の一言は相手に言わせるべし②

前回掲載した息子との会話の続きは、下記のようになりました。

私「それでお前は、S君に対して次に何か言ったのか?」

息子「『いや~、俺にはできへん。そんな根性ないわ』と言った」

私「そしたら、S君は何と言った?」

息子「『いや、習慣の問題やで。最初は苦しいけど、しばらくがんばってやってたら慣れて来て、自然にできるようになるもんやで』というようなことを言ってくれた」

 ここで私は再び、「S君がそう言ってくれてるんやから、お前もやってみたらどうや」と言いかけましたが、踏ん張り直して、次のように聞いてみました。

「で、それでお前はどうしたんや?」

 息子はしばらく考えてから、「よく覚えてへん。たぶん、別の話しになったんやと思う」と答えました。私は、息子のやや虚ろな表情などから、ここが潮時と判断し、「へー、そうやったんや」と言っただけで、その話しは切り上げました。

 それから数日後でした。息子が「お父さんが受験勉強に取り掛かった時、最初に何から始めた?」と尋ねてきました。私は、「遠い昔のことではっきり覚えてないけど、英語の単語集を買って来て、片っ端から覚えることから始めたような気がするな」とだけ答えておきました。
 
 すると、その翌日、家にいた私に息子の携帯から電話がかかってきて「今本屋におるんやけど、どんな単語帳買ったらいいかな?」と聞いて来たのです。私はこの時も自分の考えを押し付けないで、自分で選ぶように仕向けました。

 息子は、その次の日当たりから、意識的に時間を作ってその単語帳を覚えることを始めたようでした。これが、私の知る限り、息子が勉強らしい勉強を自分で始めた最初でした。もちろんそれが順調に続いて習慣化したわけではないようですが、とにもかくにも、自分から勉強するという習慣をつけようとする努力の始まりとなったことは間違いありません。
成績はともかく、最近では、時間を決めて勉強することが完全に習慣化したらしく、勉強はそれほど苦痛でないとうそぶくまでになってきました。

 今にして思えば、私のファシリテーションの成果というより、たまたまそういう自覚が出て来た時期だっただけのような気もするのですが、私としては、押し付けないという姿勢を貫き通せたあの時の自分を褒めてあげたいと今でも思っています。
 
 基本的には、親子の間ですから愛情があれば、たいがいのことは許されるでしょうから、ここまで神経質になる必要はないかもしれません。ただし、こちらが意図していることと相手の受け取り方が大きく食い違ってくることが多くなると、親子といえども、コミュニケーション不全の状態に陥ります。そうならないよう普段から心がけることが大切ではないでしょうか。
 
 公私にわたる経験を通じて、対話型ファシリテーションは、コミュニケーション不全を防止する最強のツールだという確信が私の中ではますます強まっています。今回ご紹介したことを頭の片隅にでも留めておいて、よりよいコミュニケーションのために、折に触れて思い出して使っていただけたら、こんなうれしいことはありません。

(ムラのミライ共同代表 中田 豊一)

2014年1月21日火曜日

最後の一言は相手に言わせるべし①


対話型ファシリテーションとは、思い込み質問を避けて簡単な事実質問で組み立て、最後の一言は相手に言わせるべしと繰り返し教えてきたものの、後輩たちを前に頼まれもしない提案、つまり説教を垂れたり、家族に対してあいまいな質問をしてひんしゅくを買うこともないわけではありませんから。

はいえ、こういうことを他人様に教えている手前、ここが勝負時だと意識した際には、できる限り忠実に手法を駆使してやるように心がけています。

 ファシリテーションは基本的に外部者、利害関係の小さい第三者のための技能ですので、身近な人間に対するほど使うのは難しくなる傾向があります。その意味では一番難しいのは家族に対した時です。正直、妻とは未だに空中戦を戦うことが多く、夫婦とは所詮そんなものと半分開き直っています。

 ただし、子どもたちには、そうは行きません。私には、大学三年生の娘と、高校三年生の息子がいます。彼らの人生の大事な場面で、相談を持ちかけられることがたまにはあり、その際には、できるだけファシリテーターモードで対するよう努めています。

 息子は、中学高校とずっとサッカー部に所属していて、夏前に引退するまで、毎日遅くまで練習していましたが、お世辞にもうまいとは言えず、レギュラーにはほど遠いようでした。
 加えて、家で勉強している姿を見ることはめったになく、成績も普通の県立高校で真ん中より下でした。大学に行くつもりなんだろうか、それとも他の道を考えているのだろうかといよいよ気になり始めたこの3月頃のことです。

練習から帰った息子と雑談していたら、ふと次のようなことを言いだしました。

「今日は、S君と途中までいっしょに帰って来たんや。S君は、サッカーもうまいし、勉強もとてもよくできるんで、聞いてみたんや。『こんなに練習が厳しくて僕なんか毎日へとへとで勉強する気にもなれへんのに、どうやって勉強してるん?』って。そしたら、『1日2時間、必ず勉強すると決めて、実行してるんや。転がって単語帳見るんでもいいし、何でもいいけど、とにかく2時間は勉強する。でもそれ以上はやらないと決めて実行してるんや』って教えてくれたんや。えらいよな」

 もしあなたが私の立場にいたら、次はどんな言葉を息子にかけるでしょうか。

 実を言えば私も、「せっかくS君がわざわざ教えてくれたんやから、お前も同じようにやったらどうや」とか、「人のことに感心するばかりで、なんで自分でもやろうと思わんのや(…関西弁ですみません)」などいう「提案型の説教」が喉まで出かかったのですが、ここは踏ん張り時と思い直して、事実質問に徹することにしました。とすると私の次の質問は、何だったと思いますか。

続きは次週。

(ムラのミライ共同代表 中田 豊一)