2015年9月28日月曜日

「理由」と「きっかけ」 似て非なるもの

留学生に日本語を教えています。

みなさんは、「きっかけの意味は?」と聞かれたら、なんと答えますか。
「原因・理由」と答えたくなりませんか?

この語彙を授業で担当したことがあります。
「Xがきっかけで、日本へ留学しました」の「X」を文作させたところ、
・日本のアニメがすきなのがきっかけで…
・日本の大学に進学したいのがきっかけで…

などなど、日本語ネイティブからすると、違和感を感じるものがでてきました。
「通じたらいいじゃん」という考えもありますが、中上級レベルの学生には、
もう少し精度を求めなければなりません。

違和感の正体はなにか?それは、「きっかけ」って、「理由」じゃないということです。
じつは、学生の違和感文作で、私もはじめて気がついたんですが…。
だいたい用意した会話文も悪かった。

A:Bさんは、どうして日本へ留学しようと思ったんですか?
B:そうですね、~がきっかけです。

これじゃ、学生が「アニメがすきなのがきっかけで」と答えたくなります。
『きっかけ』って『経験』!
ということは、事実質問を実行するチャンスです。さっそく「いつ?」「何か経験した?」と
聞いていきました。

文作も、「Xがきっかけで」をあらため
「私は~とき(いつ)、動詞タ形(経験)のがきっかけで、日本へ留学しました」
すっきり。(ちなみに動詞タ形は過去形のこと)みんな上手に文作できました。
それだけでなく、会話が続く「きっかけ」になったようでした。「どうして日本へ?」
には「進学」「就職」「日本文化」などかっこいい答えが出てくるんですが、そうすると

へえ、そうですか。がんばってください。

で終わってしまいがち。でも、「きっかけ」を話すと、「○○?ああ、知ってる」
「わたしも見た」「小学生のとき、わたしの国でも放送されてた」など、わきあいあい。
すると、ある学生が、

「先生、私は…大学2年生のとき、両親に留学しなさいと言われたのがきっかけで、日本へ来たんです」
とこっそりおしえてくれました。
なんか本音がきけて、変なんですけど、ちょっと、うれしくなったのでした。

(ボランティア/日本語教師 吉田佐内)



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2015年9月22日火曜日

相手に語らせる

友人や家族、同僚との会話で、頼まれてもいないのに「こうしたらいんじゃない?」と、つい提案してしまうことはよくあることです。相手が、とにかく聞いて欲しいだけで別に解決案が欲しくて話をしているとは限らないのに、提案してしまいます。ムラのミライが、国内外問わず地域開発の現場にて有効としてオススメしている「対話型ファシリテーション」は、対話を通じて、こちらから提案するのではなく、相手に気づきをもたらすところから始まります。この「気づき」をもたらすためのテクニックとして、「相手に語らせる」ことがあります。この「相手に語らせる」こと。このことを最近とても身近な存在である母との会話で成功したので、その時の様子をお伝えしたいと思います。

背景:自分自身の楽観的なところ、根拠無き自信の塊のような私は、どのようにして形成されたのだろうと疑問に思うことがありました。あっけらかんとしてのんきな父親から影響を受けているに違いないと思っていたのですが、よく考えてみれば、小中学生の時に口を酸っぱくして言われていた母からの一言「あんたはやったら絶対できるから!」は、もしかすると自分にとても大きな影響を与えていたのかもしれないと思うようになりました。そこで今回、「事実質問」を意識しながら、母の私に対する根拠無き「やったらできる!」はどこから来ているのか、母も彼女の両親に同じようにいわれて育ったのか、その辺を探りたいと思い聞いてみることにしました。いきなりいろいろ質問すると怪しまれるため、まず上記の理由を簡単に説明した上で、「で、お母さんも同じようにおばあちゃんとおじいちゃんたちに、「やったらできる!」で育てられたん?」という質問から入りました。

私「お母さんも同じようにおばあちゃんとおじいちゃんたちに、「やったらできる!」で育てられたん?」
母「いや~全然そんなことない。何も言われてないな~。うちの兄がよくできるから兄は期待されていたけど、私に対しての親からの期待は無かったよ。」
私「おじさんってめっちゃ成績優秀やったん?」
母「よくできた。勉強しなくても成績よかったよ。」
私「じゃぁ、お母さんは、おばあちゃんに「あんたはやったらできるから」と言われて育てられた記憶が無い?」
母「そんなん全然いわれへんかったで」
(私:なるほど。おばあちゃんのお母さんに対する教育方法と、お母さんの私に対する教育方法が違うなぁ)
私「おじさんが勉強しなくても成績よかったっていうのは、おじさんが勉強しているところをお母さんがみたことがないってこと?」
母「ほとんどない。よく外に行って遊びにいってたよ。」
私「お母さんは?」
母「私も兄と一緒に外で遊ぶか、漫画ばっかり読んでた。」
私「お母さんの成績はよかったの?」
母「悪くはなかった。」
私「漫画ばっかり読んでいたのに?それっていつ頃?」
(ここで私は、かつて母が自分のことを「ガリ勉だった」といっていたので、あれ?と思い、「いつ?」質問をすることに)
母「小学生のころかな~」
私「ふーん、じゃぁ、小学生の時は別に成績悪くはなくて、でも勉強した記憶もなくて、いつも漫画ばっかりお母さんは読んでいて、できのいいお兄さんがいたってことね。」
母「そう。それで、兄の出来があまりにもいいから、大阪の中学校にいかせるために、引っ越した。」
私「そうなんや。勉強のために滋賀から家族で引っ越したの?」
母「そう。そこで兄が、初めて成績トップでなくなった。マンモス学校に入ったことで、生徒の母数も大きかったから。でも、兄が勉強したらすぐ挽回して次の試験では上位に入りはったんよ。」
私「へ~!すごい!優秀!で、お母さんも中学から大阪に行ったんでしょ。お母さんも同じように成績落ちたん?」
母「それがな、まぐれやと思うねんけど、特に勉強してないのに、まぐれで成績1位をとってん。」
私「へ~!一位!すごい。」
母「そうしたら、おばあちゃんに、「あんたもやったらできるんやね~」って初めて言われてん。それから、一生懸命勉強にするようになって、成績はよかったよ。」
・・・
 私の母が、かつてはガリ勉だったと言っていたのは、この中学校での成績まぐれ一位事件をきっかけに勉強するようになってからのことを言っていたのだと初めて知りました。それまでの小学校時代の母は漫画好きでほとんど勉強しない子供であったようです。教育熱心な母に育てられた私は、自分自身をガリ勉と称していた母は子供のころから成績優秀な頭のいい人であったと思っていたのですが、その考えは「思い込み」であったと気づきました。
初めて、知らなかった幼少期の母の一面が見えた気がしました。
このやりとりを通じて感じたことは、母を語らせることができたということでした。

私は中学校1年生位までに、私の両親の両親、つまり祖父母は全員亡くなっていました。従って、自分の家族のルーツを知るためには親に聞くしかなく、過去になんどか根掘り葉掘りきいたことがありました。当時は「事実質問」は知らず、自分の好奇心を埋めるためにとにかく質問、思いついた順に質問を並べ立て、「なんで?」を連発し、質問を受けた母をよく疲れさせていました。「もう疲れたからしんどい」と言われて強制終了を余儀なくされた、私の「家族のルーツ知りたい質問」の経験は苦い経験です。下手に質問するとまた答えてもらえなくなる、、という懸念があったのですが、「事実質問」は相手に考えさせず「思い出させる」ことが鉄則なので、練習の意味で、「なんで」を使わず、母に強制終了させられずに、会話を繋げてみようと思い、始めました。
上記の会話は記憶をたどって再現したものですが、実際にはもう少し長いやりとりがあり、基本的には母を気持ちよく語らせることができたと感じるものになりました。

「対話型ファシリテーション」は、対話を通じて相手に「気づき」をもたらすというところが特徴の一つです。
今回の私の「事実質問」練習から、母へもたらされた「気づき」は特にありません。また今回、その部分は意識しておらず、私の「自分自身の根拠無き自信」は、親からどのように影響を受け、またその親はどのようなきっかけで「基本的に大概のことはやったらできる」と思うようになったのかという単純な疑問の答えを「事実質問」を意識しながら探るというところにありました。

結果、母の私に対する「やったらできる」論は、彼女の中学生以降の体験に基づいたものであり、彼女自身もガリ勉になる転機(つまり、まぐれでとれた学年1位の成績が、彼女の母(私の祖母)の「やったらできるんやね~」の一言につながり、そこから勉強するようになった)があったということがわかりました。相手を語らせることができたという経験と、実はガリ勉ではなく漫画を読みふける少女時代があった母の新たな一面を発見し、自分の母の知らない部分は沢山あるな~と思った次第です。

さてこんな風に時々「事実質問」の練習台にさせられている私の家族。
私が「事実質問」を使いながら会話を途切れさせることなく、相手に語らせ、そこから相手に「気づき」をもたらせ、そして最終的にその「気づき」による行動変化が伴うような名ファシリテーターには、まだまだ道のりは遠いのです。私の身内、周りの人たちは私の練習台にまだまだ付き合わされることになりそうです。


(海外事業コーディネーター 池崎翔子

2015年9月15日火曜日

ファシリテーション手順 その2



前回(8月4日)の記事でファシリテーションの具体的な手順IIまでお伝えしました。

I:セルフエスティームが上がるようなエントリーポイントを見つける→道具を褒める

II:課題を整理する:それは本当に問題なのか

その後家庭内や職場で試されましたか?今回は前回続きIIIとIVをお伝えしたいと思います。



III: 一番最初(最近)にそれがおこったのはいつですか?→時系列を組み立てる
課題を聞く時のコツとして、①「一番最近その問題が起こった(顕在化)したのはいつですか?どこですか?誰がどう困りましたか?」と、最近のことから聞いていくのが有効です。以下途上国の人々との話し方に掲載されている例です。



ある女性(Hさんとしておく)が、中学生の息子があまり元気そうでない表情をしているのに気がついた。その際のやり取りである。
母「浮かない顔して何か心配事でもあるの。」

息子「うん、最近よく宿題を忘れて・・・・。」

母「そう。じゃ、一番最近忘れたのはいつ。」

息子「一週間くらい前。」

母「じゃ、その前に忘れたのは。」

息子「二ヶ月くらい前かな。」

母「その前は。」

息子さんは、しばらくして考えて答えた。

「その前にはなかったかもしれない」

そう答えながら、息子さんの表情が少し明るくなったのに彼女は気がついたという。

もうひとつの聞き方は、②「それが一番最初に起こった時のことを覚えていますか。いつですか。どこでしたか。」と問題が最初に顕在化したときまで遡って聞くことです。①と②に共通して大事なことは、時系列に沿って質問すること。奨励するパターンは、まず①を聞いて、その課題が本当に課題かどうか確認します。もし課題でないと分かったら、更に聞き込み「本当は問題ではない」「問題は別の所にある」といったことに相手が気づくよう、事実質問を繰り返し問題について検証してもらいます。

IV: 課題・問題の起点に遡る


相手が課題や問題が原因で困ったことがあるなら、同じような問題が最近起こったかどうか聞きます。もしくは「その問題が一番最初に起こったときのことを覚えていますか?いつですか?どこですか?」と尋ね、相手と一緒に問題の「起点」を探します。課題分析を誤ったと思ったら、「起点」の捉え方に誤りがあった可能性を考え、問題が顕在化した時からの経過を具体的に追う質問を繰り返しましょう。ここで一番大事なのは、問題の原因追求にこだわらないことです。
今回はIVまで紹介しました。身近に悩んでいる方がいる場合、前回の記事でご紹介したI:相手のセルフエスティームを上げるところから会話を始め、問題の起点まで遡ってみてはいかがでしょうか。次回はV 解決方法を探るについて投稿したいと思います。

引用
「途上国の人々の話し方」p297~p299

(ボランティア 池田) 

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2015年9月8日火曜日

夏休みの宿題

小学校4年生の息子がいます。
妖怪ウォッチのゲームが生きがいです。
私が見咎めて声をかけるまで、ずーっとゲームをしています。

さて、問題は、長い長い夏休み。
私が仕事で留守の間、たぶん、のびのび、ゲーム三昧。

いままでは、「どうしてそんなにゲームばかりするん」と小言を言っていました。
でも、今年の夏休み、私は自分自身に「事実質問を実践すること」という宿題を
課してみました。

私:なあなあ、いつもさあ、一日何時間くらいゲームしてるん。
息子:えー…たぶん2時間くらい。
私:(嘘やな。)ふーん。じゃあさ、今日は何時間ゲームしたん。
息子:知らへん。
私:確かDSって、ゲームした時間わかる機能ついてるやろ。見してみー
息子:えーーーー
私:何時間やった?
息子:(おそるおそる見る)…15時間…
私:15時間?!
息子:ちゃうねん!これは充電してから、ゲームした時間!今日だけちゃう!
私:充電したのっていつよ
息子:おととい
私:じゃあ、一日何時間やってる?はい割り算
息子:5時間…
私:一日5時間。
息子:……長いな。

子ども本人の口から「長いな」という言葉がでました。
事実質問、成功です。

このあと、彼は、私がなにも指示しないのに、台所からキッチンタイマーを持ってきて、
自分でゲーム時間を決めてゲームをし出しました。
これは夏休み中つづきました。私は小言をいわずに済み、めっちゃ楽チンでした。

私の夏休みの宿題も無事に達成でき、めでたしめでたし。

(ボランティアスタッフ/日本語教師 吉田佐内)



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2015年9月1日火曜日

むかしばなしで気づきを促す

ある日、農村の道を、一人の老師が牛車に乗って旅をしていました。荷台の前に座った老師はのらりくらりと牛を歩ませながら、傍らを歩く弟子の少年に「道がデコボコで荷物が落ちるかも知れないから、ちゃんと見ておくように」と言いました。荷台には、道中の煮炊きに必要な鍋釜や老師の本など、色々と積み上げられています。
デコボコ道に時々よた付きながらも、目的地にたどり着いた二人。さて、お茶でも沸かそうかと荷台から降りた老師は、あるはずの荷物のいくつかが無くなっていることに気づきました。「ちゃんと見ておくように言っただろう」と老師は怒ります。弟子は、「ちゃんと見てましたよ、落ちていくところも。でも拾えとは言われませんでした」と答えたとさ。
 
これは、私たちの活動地、南インドの農村でも知られている民話の一つです。この話から、皆さんは何を汲み取るでしょうか?
「指示の仕方が悪い」あるいは「ちゃんと荷物は括っておかないと」という意見もあるでしょうか。

【相手の気づきを促す】時に、事実質問に加え、例え話(比喩)もよく使います。例えば「村人が希望しているため池のサイズが、灌漑したい水田地の面積に対して全く理に叶っていない」時に、和田さんは「それは1匹の鶏を100人で食べるようなものだ」とまず一言で返します。すると、村の人たちはハッとして、改めて池のサイズや水田面積を見直し、意味のないプランだったことに自分たちで気づくのです。

冒頭の民話は、村の人たちが山に設置した石垣など構造物のモニタリングをしなければ、と動き始めた時に、よもやま通信でもおなじみのラマラジュさんが引き合いに出した話です。村の人たちが模造紙に書きあげたモニタリング内容は、「何月に誰それが見て回る」ということを書き連ねたものでした。そこで、おもむろに冒頭の民話を語り出したのです。
村の人たちも最初は「あほやなぁ」と笑っていましたが、しばらくして呟きました。「ボク達が書いた事も、ただ見てるだけかも?」
そして、何のためにモニタリングをするのか、『荷物が落ちたらそれを荷台(元の状態)に戻す』という事が必要で、それはつまりメンテナンスをしなければいけなくて・・と、まず『モニタリングの目的』が明確になり、それに沿った内容ができあがったのでした。

事実質問を使って気づきを促す時に、まず相手にとって馴染みのある事柄に惹きつけてからポイントに持って行く、という一つの技です。

ではどうやって馴染みのある話や出来事を見つけていくのか。それは、日常での観察や会話、体験の積み重ね。これが、「10歳の子どもでも80歳のお年寄りでも分かる」ように説明することにも繋がっていくのです。



(事務局次長/海外事業部チーフ 前川 香子

記事に出てきたプロジェクトの様子はこちらから