2017年11月28日火曜日

メタファシリテーションの失敗談~教育現場で~

もう何年も前、メタファシリテーションの中級研修を受けた私は、大学教育の中でこの技術を活用し、学生が主体的に学んでいく手助けができればと思っていた。当時英語を主に教えていた私は英語に関する相談を受けた際や授業中の学生とのやり取りの中で積極的に事実質問を使っていた。今振り返ってみると、少し力が入りすぎていたように思う。そしてほどなくして手痛い失敗をした。

それは少人数の英語の授業の中で起こった。学期はまだ始まったばかりで、私は学生のことをまずは把握したいと思っていた。そこで初回に事実質問を使って学生にこれまでの英語との関わり方などを聞いてから詳しい授業プランを立てることにした。そうすることによって、学生に合った授業ができるのではないかと思ったからだ。また、自分の英語との関わりについて振り返ってもらうことで、学生の主体的に学ぶ意欲が少しでも沸いてくれればとも思っていた。

私は1対1で話せる場を作り、学生に事実質問をしていった。質問の内容は主にこれまでの英語との関わりについてにし、時系列を意識した。時系列に聞いていくと、挫折したポイントがはっきりと見えてくる学生もいた。そして、やり取りをしているうちに、将来やりたいことと英語とのつながりが見えてきた学生もいて、質問している側としては非常に興味深かった。全体として、うまくいったという感触を持っていたと思う。

しかし、次の週から丁寧に答えてくれた学生の1人が授業に来なくなってしまった。その学生とはやり取りがスムーズに進んだように私には見えていたし、手ごたえを感じていた。授業に対するモチベーションアップにつながってくれたのではないかと期待すらしていた。それなのになぜ?と私は混乱した。今から考えるとなぜ気がつかなかったのかと思うような大事なことを私は見落としていた。セルフエスティーム(自己肯定感)に対する配慮が欠けていたのだ。

その学生は英語に強い苦手意識を持っていた。相手は英語教員である私。その時のセルフエスティームはかなり低かったと考えられる。また、はじめて会う教員に対して警戒感を持っていたはずだ。話してもらう内容は成績評価にはまったく関係ないということや差支えのない範囲で構わないということは伝えたものの、先生に聞かれたんだから答えなくてはという気持ちになっていたのかもしれない。そのような中で、苦手意識を持っている英語について、事実質問をされる。事実質問はwhy等の質問と違って、考える質問ではない。事実を聞かれるので、はぐらかしようがない。逃げ場がないと言ってもよいかもしれない。ポジティブな面について多く質問したつもりではあったが、それでも居心地の悪さを感じたのではないだろうか。

この失敗から大切なことを私は学んだ。ファシリテーションをしたい、つまり相手の課題発見・解決の手助けをしたいと思ったら、まず相手が安心して自分のことを話せるような関係が構築できているかを注意深く観察しなければならないということ。自分から相談に乗ってほしいと来る学生の場合、この点は問題ないことが多いが、自分から助けを求めているわけではない学生相手のときには細心の注意を払わなければならない。中には、セルフエスティームが低く、極度に自分のことを聞かれることに不安を覚える学生もいるということを理解しておく必要がある。

まだ信頼関係が構築できていない相手に対しては、まずは安心して話せると思ってもらうことが大切である。焦りは禁物。ゆったり構えて、まずは相手が話しやすいことから聞いていく。そして相手のセルフエスティームを上げるポイントを探っていく。相手が話したいという何らかのサインを出したら深く聞きこんでいく。この経験からそういったことを意識するようになった。

事実質問をただ重ねればメタファシリテーションになるのではなく、相手をよく観察しながらその場その場で適切な事実質問を積み上げていってはじめてメタファシリテーションになる。事実質問は相手の課題発見・解決を手助けするのに有効な方法であるが、下手に使うと相手を追い詰めてしまうということを忘れてはならない。


(ムラのミライ 理事 久保田 絢





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2017年11月7日火曜日

あなたの収入、おいくらですか?


過去の出来事を聞いて行くときに、その時、その場面の絵を描く(絵が浮かび上がる、のほうがしっくりくるかもしれません)ように質問をしていく…という話の続きです。

 

国際協力の現場でよく見かける「収入」のお話。

村の人たちの暮らしぶりを知りたいと思ったときに、何を聞きますか?

私がぱっと思い浮かぶのは、話を聞く人の家族構成や、職業、買い物する場所、収入…などなど。おカネに関係することはわかりやすかったりしますよね。

「●●をして収入を向上させる」というプロジェクトも、政府やNGO問わずよく見かけます。

 

では、その人がどのくらい稼いで、どのくらい使っているんだろうと気になった時、どういう質問なら事実を聞くことができるでしょうか?

「あなたの先月の収入はいくらですか?」?

それとも、「あなたの年収を教えてください」?

(初対面の人にいきなり収入を聞くのは失礼ですが、今回はそこは抜きにして、あくまで質問方法にフォーカスします)

 

私は、自分自身を含め、近しい人のほとんどがサラリーマン。

(民間企業勤めというだけでなく、所属先から給与が支給されるという意味です)

だから、私は月収や年収でモノを測るのに慣れきっています。「月収このくらいだったら、このくらい使っても貯金ができるなぁ」とか「もうちょっともらわないと生活が苦しいなぁ」とか。

なので、ついつい「先月の月収はいくらでしたか?」と聞いてしまいそうになります。

 

同じネパールでも、カトマンズ近郊のオバチャンと話していると、

「仕事のオファーがあったんだけど、月給が●●ルピーだったの。働くとなると、子どものティフィン(昼食)を学校に頼まなくちゃならないんだけど、そのお金じゃあ、月々のティフィン代とトントンだしなぁ。」といった具合になりますが、

カトマンズから離れた農村に行くと、農作物の収穫期におカネが手に入って…という暮らしになります。必ずしも月に一定の収入が手に入るというわけではありませんし、なにより本人が「月々いくら稼げる」というふうに収入をとらえているとは限りません。もしくは、いつ、いくら稼いだかなんて覚えていないかもしれません。

そんな場合、「月収」や「収入」という聞き方をしても、返ってくるのは「なんとなく、このくらい?」という回答者のパーセプション(思い込み)である可能性大です。

 

昨年8月にネパールで入門ツアーを実施したときのこと。

このときも、参加者が村に行って聞いてみたいことの一つに「村人たちの収入」があがりました。そこで、「あなたの収入はいくらですか?」とは違う聞き方で収入について聞いてみようという話になったと記憶しています。

インタビューを引き受けてくれたのは、農家のオッチャンであるGさん。

参加者+講師のキョーコさん(注)(以下、M)とGさん(以下、G)とのやりとりです。

 

M:この畑の世話をしているのはGさん一人ですか?

G:いや、次男が一緒に世話をしてくれているよ。ここは、ちょっと前までカリフラワーを栽培していたんだ。

M:カリフラワーですか。前回、カリフラワーを収穫した時には、どのくらい収穫できたか覚えてらっしゃいますか?

G:ここの乾燥地の畑から700キロ、もう一つある湿地の畑(※元は水田だったところをカリフラワー栽培に使っているそうです)から700キロ(合計1.4トン)。

M:へええー、そんなに!収穫に何日くらいかかったのですか?

G20日から25日くらいだったかな。

M:その時は、いくらで売れたんですか?

G:日々値段は変わるんだけど…その時は1キロ40ルピーだったよ。

(話を聞きながら、1,400×40は…と計算してみる私)

M:収穫したカリフラワーはどうやって売るんですか?売買をするような場所があって、自分たちで持っていくんですか?それとも…

…と、話が続いていきました。

 

いきなり「収入」について聞くのではなく、前回の収穫の時のことを時系列で聞いて行って、Gさんに、その時の売り上げも含め、当時のことを思い出してもらったというわけです。

その時は、そこまでは聞く時間はありませんでしたが、前回はいつ、その前はいつ…と聞いて行き、カリフラワー以外の作物についても聞くと、年間の大体の収入や、カリフラワーからの収入がどのくらいGさんの生活にとって重要かがわかったかもしれません。
「収入」ひとつでも自分の思い込みで質問を組み立ててしまいがちですが、過去の出来事を詳しく聞いていくことで、そんな自分の思い込みに気づくことにもつながったのでした。



注:キョーコさん:ムラのミライスタッフの前川香子
 
 
 
 
(ムラのミライ 事務局長 田中十紀恵
 
 
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