2017年11月7日火曜日

あなたの収入、おいくらですか?


過去の出来事を聞いて行くときに、その時、その場面の絵を描く(絵が浮かび上がる、のほうがしっくりくるかもしれません)ように質問をしていく…という話の続きです。

 

国際協力の現場でよく見かける「収入」のお話。

村の人たちの暮らしぶりを知りたいと思ったときに、何を聞きますか?

私がぱっと思い浮かぶのは、話を聞く人の家族構成や、職業、買い物する場所、収入…などなど。おカネに関係することはわかりやすかったりしますよね。

「●●をして収入を向上させる」というプロジェクトも、政府やNGO問わずよく見かけます。

 

では、その人がどのくらい稼いで、どのくらい使っているんだろうと気になった時、どういう質問なら事実を聞くことができるでしょうか?

「あなたの先月の収入はいくらですか?」?

それとも、「あなたの年収を教えてください」?

(初対面の人にいきなり収入を聞くのは失礼ですが、今回はそこは抜きにして、あくまで質問方法にフォーカスします)

 

私は、自分自身を含め、近しい人のほとんどがサラリーマン。

(民間企業勤めというだけでなく、所属先から給与が支給されるという意味です)

だから、私は月収や年収でモノを測るのに慣れきっています。「月収このくらいだったら、このくらい使っても貯金ができるなぁ」とか「もうちょっともらわないと生活が苦しいなぁ」とか。

なので、ついつい「先月の月収はいくらでしたか?」と聞いてしまいそうになります。

 

同じネパールでも、カトマンズ近郊のオバチャンと話していると、

「仕事のオファーがあったんだけど、月給が●●ルピーだったの。働くとなると、子どものティフィン(昼食)を学校に頼まなくちゃならないんだけど、そのお金じゃあ、月々のティフィン代とトントンだしなぁ。」といった具合になりますが、

カトマンズから離れた農村に行くと、農作物の収穫期におカネが手に入って…という暮らしになります。必ずしも月に一定の収入が手に入るというわけではありませんし、なにより本人が「月々いくら稼げる」というふうに収入をとらえているとは限りません。もしくは、いつ、いくら稼いだかなんて覚えていないかもしれません。

そんな場合、「月収」や「収入」という聞き方をしても、返ってくるのは「なんとなく、このくらい?」という回答者のパーセプション(思い込み)である可能性大です。

 

昨年8月にネパールで入門ツアーを実施したときのこと。

このときも、参加者が村に行って聞いてみたいことの一つに「村人たちの収入」があがりました。そこで、「あなたの収入はいくらですか?」とは違う聞き方で収入について聞いてみようという話になったと記憶しています。

インタビューを引き受けてくれたのは、農家のオッチャンであるGさん。

参加者+講師のキョーコさん(注)(以下、M)とGさん(以下、G)とのやりとりです。

 

M:この畑の世話をしているのはGさん一人ですか?

G:いや、次男が一緒に世話をしてくれているよ。ここは、ちょっと前までカリフラワーを栽培していたんだ。

M:カリフラワーですか。前回、カリフラワーを収穫した時には、どのくらい収穫できたか覚えてらっしゃいますか?

G:ここの乾燥地の畑から700キロ、もう一つある湿地の畑(※元は水田だったところをカリフラワー栽培に使っているそうです)から700キロ(合計1.4トン)。

M:へええー、そんなに!収穫に何日くらいかかったのですか?

G20日から25日くらいだったかな。

M:その時は、いくらで売れたんですか?

G:日々値段は変わるんだけど…その時は1キロ40ルピーだったよ。

(話を聞きながら、1,400×40は…と計算してみる私)

M:収穫したカリフラワーはどうやって売るんですか?売買をするような場所があって、自分たちで持っていくんですか?それとも…

…と、話が続いていきました。

 

いきなり「収入」について聞くのではなく、前回の収穫の時のことを時系列で聞いて行って、Gさんに、その時の売り上げも含め、当時のことを思い出してもらったというわけです。

その時は、そこまでは聞く時間はありませんでしたが、前回はいつ、その前はいつ…と聞いて行き、カリフラワー以外の作物についても聞くと、年間の大体の収入や、カリフラワーからの収入がどのくらいGさんの生活にとって重要かがわかったかもしれません。
「収入」ひとつでも自分の思い込みで質問を組み立ててしまいがちですが、過去の出来事を詳しく聞いていくことで、そんな自分の思い込みに気づくことにもつながったのでした。



注:キョーコさん:ムラのミライスタッフの前川香子
 
 
 
 
(ムラのミライ 事務局長 田中十紀恵
 
 
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