2016年12月27日火曜日

「みんな」は誰でもない

ネパールからナマステ!久々のブログ執筆です。

ムラのミライのインド事業を引っ張ってきたラマラジュさん、キョーコさんの名コンビ。
(そんな二人の活躍のようすは「よもやま通信」で!)

まずは、そんな二人がネパールオフィスのスタッフたちへのトレーニングをしたときの一場面をご紹介します。


*****
ソムニード・ネパールのディベンドラとウジャールが、事務所でこれまでのネパールでの活動をラマラジュさんとキョーコさんに説明していたときのことでした。
彼らのプレゼンをずっと黙って聞いていたラマラジュさんとキョーコさんですが、あるとき、「ちょっといいですか?」とキョーコさんが切り出しました。


キョーコさん:「「コミュニティ」って出てきていますが、これは何を指しているんですか?」

キョーコさんの質問の意図がわからなかったと思われるディベンドラ。

ディベンドラ:「資源を共有する一定のエリアに住んでいる人たちのことで…」(これは、コミュニティの「定義」)

キョーコさん:「いや、そうじゃなくて。ディベンドラさん、さっきからコミュニティ、コミュニティと言っているけど、そこには誰が住んでいるのかを知りたいんです。」

ディベンドラ:「えーと(としばし沈黙する)…DEWATS(分散型排水処理施設)を使っている人とか?」

キョーコさん:「ほかには?」

ウジャール:「デシェ村では、村の人たちはDEWATSの利用者という側面と、学校の保護者という側面があって…」

ラマラジュさん:「じゃあ、今出てきたデシェ村で考えてみましょう。どんな人が住んでますか?」


ここで、デシェ村を事例に、そこにどういう人が何人住んでいるのか、ディベンドラとウジャールがホワイトボードに書き出していきました。
そう、彼らは
「コミュニティの人たちと協力して、●●を実施しました。」
「コミュニティの人たちが主体になって…」
などと「コミュニティ」という言葉を多用してはいましたが、具体的な「誰か」を想定して話していたわけではなかったのです。
キョーコさんがツッコミをいれた「コミュニティ」という言葉、実体があるように見えて、まったくない言葉だったんですね。
*****


こんなふうに、ネパールで仕事をしていると、スタッフや村のオッチャン、オバチャンから
「みんな」「コミュニティ」「いつも」「ネパールの人は…」
という言葉をよく耳にします。
けれども、往々にしてこれらは実体のない言葉。
たとえば「みんなでやる」と言っても、その「みんな」に実体がない(=具体的に誰かが想定されていない)から、それは「誰も何もやらない」ということになりかねません。
そこによく効くのが事実質問!だと私は思っています。


つい最近、ネパールオフィスで一日に複数の研修やミーティングが入ったことがあります。
「みんなでやればいい」精神で、予定をどんどん入れてしまうネパールオフィスのスタッフたち。
その結果、ずらっと予定がならんでしまいましたが、スタッフの人数には限りがあります。
「こんなに予定が入って大丈夫なの?」と聞くと、
「みんなで動けばなんとかなるよ」と返されてしまうのですが、(明らかに何とかならへんやん…)という予定。


*****

私:「この研修は誰が行くの?」

ディベンドラ:「私が行きますよ」

私:「じゃあ、こっちのミーティングは誰?」

ウジャール:「ぼく」

私:「じゃあ、もう一つの研修は私が行かないといけないですかね。」

私:「研修で使う文房具を車で運ばないといけないですよね。時間が重なっているけれど、車はどう動いてもらうの?何時にオフィスに来てもらって、最初の研修場所へは何時に出発してもらう?その時に担当スタッフは乗っていく?」

ディベンドラ:「車は一台だけだから、トキエさん(筆者)が使っていいよ。研修の文房具だけドライバーにあとで運んでもらうから。」

私:「私(筆者)はネパール語でのコミュニケーションに難ありだから、私が行く研修には、だれかネパール人スタッフについてきてもらわないと。AさんもBさんもほかの用事で出るなら、誰についてきてもらえますか?」

ディベンドラ:「プリティかな」

私:「じゃあ、誰がオフィスに残って電話対応するの?」

ディベンドラ:「・・・じゃあ、マニーク・・・」

私:「この日に休暇をとるスタッフっていなかった?」

ディベンドラ:「あ、マニークは休暇をとる予定だった」
*****


と一つ一つ始業時間からの動きを確認していくと、無理のあることがわかってきました。
なんてことはない確認作業ですが、「みんな」でわかった気にならず、自分が「いつ」「だれが」「どこで」と具体的に想像できないことはきちんと確認するのが、事実質問の練習につながるだろうと、(よく玉砕しますが)日々オフィスのスタッフ相手に実践を試みています。
メタファシリテーションの実践というと「フィールドで実践!」というイメージが強いかもしれません。でも、こうした日々のオフィスでのやりとりでも、基本的な事実質問の練習になります。ぜひ!




(ネパールオフィス   田中十紀恵


註:ディベンドラ、ウジャール、プリティ、マニーク:ソムニード・ネパールのスタッフの名前




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2016年12月20日火曜日

ある罠のハナシ 「収入が足りません」

ブルンジ、イラク、フィリピン、スーダン、スリランカ、南スーダン、ウガンダ、ザンビア、これらの国から計12人が参加した「参加型コミュニティ開発」研修に、初めてコースリーダー(メイン・ファシリテーター)の役を仰せつかった6週間。

これは、JICA関西と関西NGO協議会の共催で開催された研修コースで、途上国からNGO職員や政府職員を招へいして、様々なスキルや知識を身に着けてもらう、というもの。
これまでは中田さんがコースリーダーを15年近く務められた、とても由緒ある研修コースでもあります。
なので、私がどれだけ緊張していたかは、ご想像の通り。


今回の12名は、NGO職員や公務員で役職も様々でしたが、村の人たちから上がってくる意見はおねだりが多い事や、それを突き返す方法も知っていたし、実践している人たちも多かったのです(そこにビックリ)。
ですが、メタ・ファシリテーションの基本事項である事実質問について室内研修をしていた時に、次のようなやり取りがありました。


私:「ため池が必要だ、作ろう、となった時に、どういう問いかけが考えられますか?」

研修員1:「どれだけの大きさで、どこに造るか?そして、それはどうやって算出したのか?」

私:「そういう質問を実際にした事はありますか?」

研修員2:「もちろん。そうしないと、村の人たちも思いつきで言うコトが多いですからね」


私:「へぇ、すでにこういう対話をしているとは、スゴイですね」



私:「ところで、収入向上が必要だ、と皆さんの内何人かも、手に職をつける研修を提供したり、収入向上事業をされたりしていますよね。では、収入を増やさなければ、と住民の人たちが何々の研修をしてほしい、と言ってきた時にはどういう風に話を進めていっているのですか?あるいは、どのように対応しますか?」

研修員3:「何の研修をいつ、どこでするのか?」

研修員4:「どこで何を売るのか?」


研修員5:「どういう職業に就くのか?」


私:「それらの話をする前提として、知っておかねばならないことがあるかと思うのですが」

そう言って、私は「収入向上」「収入が足りない」という言葉をホワイトボードに書きだしました。
すると、政府部局でNGOの活動や財政監査を職務とする、ある研修員が言いました。

研修員6:「How much?」

研修員6:「僕がよく使っている疑問詞だよ。何百ものNGOがいうんだよね、資金が足りないとか資金援助をしてくれって。だから聞くのさ、いくらあったら足りるの?って。その根拠は?って。そしたら答えないんだけど。ははは」

私:「収入が足りない、増やさなければ、と言っても、月に10ドル増やすのか、1千ドル増やすのかで、活動が全然違ってきますよね」

研修員7:「あと、それ(金額)が無ければ、収入が『向上』できたのかどうかもわからない」

私:「(にんまり)」


それなりに現場で実践してきた研修員たちも、やはり「収入向上事業」のひとつの罠にはまっていたのです。
この他にも、もちろん収入だけでなく支出のことなどにも触れましたが、モニタリングや評価にしても、基準や共通理解のないままに「多い」「少ない」を判断すると更に罠に落ちていくよ、ということにも気付いた研修員たちでした。


前川香子   事務局次長/海外事業部チーフ)



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2016年12月13日火曜日

厄介な「やらず嫌い虫」

初めまして、インターンの鳥居と申します。
社会人インターンとして、月2回ほどのスローペースで活動しています。

と言いつつも、インターン参画前含め通算5回はメタファシリテーション関連の講座に参加し、
『途上国の人々との話し方』も一通り読み、さすがに日常会話で事実質問を意識しない日はありません。(もちろん上手く使えているかは別として・・・)


ご存知の通りメタファシリテーションは、相手に気づきをもたらし、行動変化を促す手法です。
しかし、このブログの執筆にあたって「最近人に何か発見をもたらしたことはあったかな?」と振り返ったところ、
何と他ならぬ私自身の悪い癖を発見しまったのです。

それは、食わず嫌いならぬ「やらず嫌い」ということ。
何か行動を起こす前に、なんだかんだ理由をつけて諦めたり先延ばししたりしてしまうのです。

例1:(仕事中)「いくら新人だからって、こんな小さなことで質問したらダメだよね、自分で考えよう。」

例2:(家で)「このシャツ、シワだらけだけど、週末に数着まとめてアイロンかけたほうが効率的だよね。」

例3:(休日の前)「友だちとご飯に行きたいけど、今週はみんな疲れているだろうから誘うのはやめよう。」

ところが、事実質問をこんなふうに自分に投げかけてみると・・

例1:「些細なことを質問して、誰かに怒られたことはある?」
→ない。むしろこの前打ち合わせの後、「何でもいいから一個は質問するように」って先輩に言われたな・・。

例2:「まとめてアイロンがけするのと、一枚ずつ気づいた時にやるの、何分違うんだろう?」
→(きちんと測ったことはないけどおそらく)たった数分。むしろ出かける前にアイロンがかかったシャツがないことに気づいて、急いでかけて集合時間に遅れたことが・・・ 。

例3:「自分が疲れている時、ご飯に誘われて嫌な気持ちにことあったっけ?」
→(程度にもよるけれど)ない。
むしろ、この前友だちに誘われて行ったときはリフレッシュできてよかったな。


この私の癖、「やらず嫌い虫」の一番厄介なところは、
決して怠けたり面倒くさがったりしているつもりはなく、
ちょっと賢く振る舞いたいが故に発生しているということ。
「人に頼らずに自分で理解できる私、賢い!」
「効率的に家事ができる私、賢い!」
「人のためを思いやれる私、賢い!」
 ・・・などなど。

これからは、「やらず嫌い虫」を発見し次第直ちに事実質問を投げかけ、
思い当たることがなければ即行動に移すことで撃退しようと思います。




(ムラのミライ 関西事務所インターン  鳥居亜佑



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2016年12月6日火曜日

「留学どうだった?」「楽しかった!」本当に一言で表せられる?

こんにちは!ムラのミライ関西事務所インターンの吉﨑です。
朝晩の冷えこみが厳しくなりすっかり冬になってしまいました。
さて、今回はまだ「メタファシリテーションって何だろう……」と思っている方や
「いや、もうすでに知っているよ」という方にも私の体験談をぜひ共有したいと思います。

「カナダどうだった?」
1年間のカナダ高校留学から帰ってきた際、耳にタコができるくらい聞かれた質問です。
みなさんは何と返事をしますか?
私は「うーん、いろいろあったけど楽しかったよ。」などとテキトーに返事をしていました。
正直私の留学生活は、「毎日がワンダフル~♪」という訳でもなく、
むしろしんどかった時期の方が長かったくらいです。
しかし「どう(HOW)だった?」と聞かれると、
『辛いことも多かったけど、最後は笑って終われたし楽しいこともあったしなー。
てかそもそも一年を一言で言い表せへんなー。』と思うあまり、
結局「楽しかった。」というあいまいな返事になってしまうのです。
さて、これが普段のたわいもないおしゃべりなら問題はありません。(ちょっと相手が返事に困るくらいです。)
しかし、もしもこれが相手に何か問題が生じていてそれを解決しなければいけない…!というシチュエーションだったとしましょう。
その問題の本当の原因・解決策は何なのか、相手自身に気づかせる必要がありますよね。
これが「(対話型)メタファシリテーション」なのです。
なんだか難しそうだな…と思うかもしれませんが、方法はいたって簡単!
「いつも」や「どんな」「どう」「なぜ」、つまり相手の考えや思い込みを聞かずに事実のみをきいていきます。
なので、もしこの方法を使って当時の私と対話をしていたら、
『カナダでは誰と一緒に住んでたの?』
「ホストママと1歳下のホスト、留学生の韓国人の女の子、あと犬と猫2匹だよ。」
『へえー。カナダの家族って大家族をイメージしてたけど、二人だったんだね。ホストファミリーとはどこかに旅行で出かけたりした?』
「うん、留学当初にホストママのおばさんの別荘にみんなで遊びに行ったよ。けどそれ以外は行っていないやー、泊りがけでチアの大会に出に行ったけど…」
…というように話が進んでいき、そのチアの大会宿泊直後にホストママと大喧嘩をしたことやそれが原因で悩んでいた時に学校の友達に救われたこと等事実が出てきていたでしょう。
しかし「どうだった?」の一言ではこんな事実にはたどり着けないと思います。

もっと当時のことをだらだらと書きたい気持ちもありますが、
『メタファシリテーションブログ』なので今回はここらへんでやめておきたいと思います。(笑)
帰国時の私は、ほかの友達と自分を比べて自分の1年が失敗したように感じていました。
しかし今回この内容を記事にするべく、自分自身にメタファシリテーション(事実質問)をしたところ、当時の自分は精一杯頑張っていたし失敗じゃなかったのではないかと思えるようになりました。
長くなりましたが、今回はこの辺で終わりにします。
最後まで読んでくださりありがとうございました。





(ムラのミライ 関西事務所インターン  吉崎日菜子



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2016年11月29日火曜日

「木彫りの女性からおじさんの生活をみる」とは?

ムラのミライでインターンをしております、三谷と申します。
先週(2016年11月22日)の和田さんの記事を拝見しまして、改めて相手の立場に立って物事をみる難しさを実感する、とあるインターン出勤日の午後。

なるほど!コーヒー一杯でこんなにも質問できるのか!
よし、私も練習しよう!と事務所のパソコンから顔を上げ、目の前にあるもので試してみる。
"SOMNEED"と書かれた女性像が立っている。
よし、彼女をターゲットにしよう。
しかし、頑張って搾り出しても10個程しか出ず断念。
なんていう入門セミナーや基礎講座Ⅰの受講者の方、多いのではないでしょうか。
そんな方にとっておきの練習方法がございますので紹介させていただきます。





以下、「途上国の人々との話し方」から一部抜粋しました。



◆身の回りの「もの」を取り上げ事実質問を30考える

例えば以下のようなものがあるが、家中、あるいは事務所中を探せば、さらにいろいろなものが見つかるはずだ。

例:机の上や引き出しの中から貰った文房具、お気に入りの装身具や衣類、子どもの頃に書いた絵や作文

これを目の前い置いて、どんな事実質問が可能か、とにかく羅列してみる。
最初の質問は常に「これは何ですか」。
次は「いつから持っているのですか」
  「どこで手に入れたのですか」
  「いくらでしたか」
  「材料は何ですか」
  「使ったことはありますか」などなど、モノの性格によって質問も多少は違ってくるが、
とにかく30を目指して質問を作ってみる。

次は、質問に続いて、答えも考えてみる。
ひとつの質問が出てきたらさらにそれに関する事実質問をしてみる。
数珠繋ぎに質問するうちに、最初のものからどんどん方向が逸れて行っても一向に構わない。
大切なのはとにかく事実質問をしてみるを繋げていくことであるから。
そのうち、これまで忘れかけていた思い出や、意識していなかった好みなどが浮かび上がったら大成功である。


ちなみに私の場合だと、
パソコン机の隅に、直径10センチくらいある大きな竹筒でできたペン立てが置いてある。
これはラオスで村人からプレゼントされたもので、本来は弁当箱(もち米入れ)だったものをペン立ての代用をしている。
実は普段このことをすっかり忘れてペン立てだと思い込んでいたのに、実例を探そうとしているうちに、そのことを思い出したのである。

実際に練習する際には、
「これは何ですか?」
「ペン立てです。でも本来は弁当箱です。」
「いつ手に入れたのですか?」
「2003年の終わりごろだと思います。」
さらには、「どこで」「誰に」と自問自答していくわけである。
ひとつやってみて、うまくいかないようだったら、他のもので試してみよう。
とにかくどんどんやってみるのがいい。
いくつかやってみて、どんなものが質問しやすかったか、しにくいものはどんなものだったか、などを振り返るのもいい。

ここで重要なのは、ひとつの「もの」や「こと」には、多様な側面があることに気づくことである。
相手が持っている鉈(なた)ひとつ取っても、材質(これも取っ手の材質と刃の金属の部分に大きく分かれ、入手方法もメンテナンスの仕方もそれぞれ全く違うことが考えられる)、用途、大きさ、デザイン、値段、使用暦、耐久性などなど実に多様な側面を持っているのであるからそれぞれの要素について執拗に事実質問していくならそれだけで何時間でも質問を繋げていくことができる。
あくまでも原理的にはということであって、実際には行き詰ることなく、かつ互いに飽きることなく対話を続けていくには、そのための技術と経験が必要であることは言うまでもない。

裏を返せば、事実質問を行うことは、物事の持つ多様な側面についての知識と各要素間の相関関係への理解を深めるための絶好の訓練になる。
その積み重ねが、ものごとへの理解を飛躍的に高めてくれること、設けあいである。
その入り口としてこの練習をぜひやってみてほしい。


(書籍『途上国の人々との話し方』p274-p276より)

私とモノとの関係性を考えながら
もう一度考え直してみる。
誰に聞くことにしようかな。
女性像を売ってるおじさんに聞くとしよう。
「おじさんが作ったの?」
「何の木で何の道具で作ったの?」
「誰かモデルがいるの?あなたのお母さんとか、奥さんとか。」
「この女性に名前はついているの?初恋の人とか…」
いつもの私の「いつ」「どこ」「誰」だけのありきたりな質問から具体的な質問が出てくるぞ!
この練習を続けていけばいつもと違う景色が見えてくるかもしれない!
毎日30個を目標にして色んな側面を見ることができる目を養いたいと思います。
尚、今回ご紹介したファシリテーションの練習方法は、
書籍『途上国の人々との話し方』で詳しく紹介しています。



(ムラのミライ 関西事務所インターン 三谷遥来



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2016年11月22日火曜日

「一杯のコーヒーから相手の暮らしをみる」とは?

 今度、京都で基礎講座Iを終えて
さらに技術の向上を目指す方たちのために、基礎講座IIをやります。
「さらに技術の向上を目指す」のですから、参加される方たちは、
当然ながら基礎講座Iで習ったことを日々(ま、毎日じゃなくてもいいですけど)
実践していることが前提です。
 

前振りはこのくらいにして、何をするのか、お話しします。
 
この基礎講座IIのキーワードは、「階層化」です。
 「階層化」についてお話しする前に、
エントリーポイントとリカバリーポイントを覚えていますか?
忘れちゃった方は、「途上国の人々との話し方—国際協力メタファシリテーションの手法」のパートIIIの第一章、「メタファシリテーションの技法解説」を復習してください。

例えば、コーヒーをエントリーポイントにして
インタビューを始めるという例を挙げましたね。
話の糸口を探っていく基本は、「もし自分が相手だったら・・・」ということでしたね。

コーヒーを買ったのかな?
自分で作ったのかな?
買ったとしたらどこで買ったのかな?
自分で作ったとしたら、どこで作ったのかな?
コーヒーを淹れるとしたら、まずお湯を沸かす。
その水はどこから汲んだのかな?
沸かすときの燃料はなに?などなど。

コーヒーのことをずっと聞いていく。
そうすると、相手の暮らしの様子が少し見えてくる。
でも、あ、これ以上質問が出てこなくなった、というときのためのリカバリーポイント。
あ、そうそう、水は井戸から汲むと言っていたな。
じゃ、井戸について聞いてみるか。
これで、またしばらく質問が続き、
さらに相手の暮らしの様子が分かってきますね。
でも、また袋小路に・・・あ、じゃあ燃料は薪だと言っていたから薪について聞いてみよう。
はい、またリカバリーポイントのお世話になりました。
 
これは、コーヒーを淹れるという行為にまつわる諸々を、一つずつほぐしていく、相手の答の中に次の一手を探っていくというやり方です。
まず、このやり方に慣れてください。
段々習熟していくうちに、対話の流れが見えてくるようになります。
もちろん、対話の「ネタ」を見つけるための観察も重要です。
いざ話を始める前までの観察、そして対話の最中の観察も。
 

ところで、リカバリーポイントは、別の言葉で言うと
コーヒーという「ネタ」の下の階層にある「サブ・ネタ」です。
あなたの前に、カップに入ったコーヒーがあります。

とりあえずここから考えられるサブのネタは、
コーヒーの豆、淹れるための水、水を沸かすための燃料、など。
他にもありますが、それを考えるのは読者の皆さんにお任せします。

さて、このサブ・ネタの下にも、さらにサブ・サブ・ネタがあります。
基礎講座Iでは、これを対話を通して探っていく、
つまり対話の時間の経過に従って、リカバリーポイントが増えていく、
という風に教えています。
というより、事実質問というものを体感し、それを続けていく、
そのために対話をしながら次の質問を見つけていくということをしました。
 

基礎講座IIでは、
あらかじめある程度対話の道筋(道は一つではありません)を思い描きながら、
つまり幾つかの道筋を考えながら(ざっとした地図を画くようなものです)対話を進める、
ということを学びます。
それが、ネタの階層化をざっと最初にしてしまうという技です。

この続きは、基礎講座IIに出て学んでください。




和田信明





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このブログ記事の筆者=原康子も各地で講師として登場します!

http://muranomirai.org/basictrg201605

2016年11月15日火曜日

「基地がなくなると地元が困る」これって事実?


9月末に、ムラのミライが主催で、
沖縄の米軍基地問題をテーマにした映画「標的の村」の上映会を行いました。
私も、関西学院大学に行っている息子に、
そのチケットを友人にも売ってくれるように頼んでいました。
すると、ある夜、次のようなことを言ってきたのです。


「チケットを薦めているうちに友だちといろいろ議論になった。
同じように米軍基地がある山口県の町から来ている友人が、

『確かに地元の負担は大きいけど、その一方で、基地がなくなったら、
雇用の問題などで地元の企業や住民が困るのではないか』

と言うんや。そう考えるとこれは結構微妙な問題やないんかな、
と思えてきたんやけど…」



こんな俗説にすぐに惑わされる息子が情けなくてあきれ返ったものの、
ここはしっかり理解させなければと思い直し、
以下のように問いかけ始めました。


私「基地がなくなると地元の人が困る、と言うわけやな。
  じゃあ、それは、お父さんがいなくなったら、お前たちが困るということと同じか」

息子「うん、学費が払えなくなるからな」

私「確かに、お父さんは、今夜寝ているうちに、心臓発作か脳卒中であの世に行くかもしれん。
  あるいは、インドネシアのスラウェシ島あたりに出張中に、
  のどかな海辺の村にそのまま居つきたくなって、
  失踪してしまうこともありえる。そういうことやな」

息子「ないとは言えんな、お父さんやったら(笑)」

私「じゃあ、聞くけど、沖縄の米軍基地も、お父さんがいなくなるように、ある日急になくなるものか?」

息子「いや、それはないな。
   あんな巨大な施設が他に移転するためには、けっこうな時間がかかるやろな」

私「実際にどのくらいかかるかはお父さんにもわからんが、
  最終的に決まるまでに相当の時間がかかるやろし、
  決まってから実行に移すまでも3カ月や半年の仕事やないやろな。
  実際に移転の作業となると、さらに数か月か、あるいは数年の単位が必要かもしれん」

息子「確かに」

私「で、その間に、地元の人や企業や自治体、そして政府は何もせんといるか?」

息子「いや、雇用創出など、代わりの対策をなんぼでも打てると思う」

私「そういうこと。要は、基地に依存しない地域を本気で作る気が、行政や地元にあるかどうかにかかってる、いうことやろ」

息子「確かにそうやな。とすると、基地がなくなったら地元が困る、というのは根拠のない一般論に過ぎなかったわけや」

私「お父さんたちの言い方やと、『それはパーセプション、つまり思い込みに過ぎない』ということやな」



子どもたちが中学生や高校生だった頃には、
練習を兼ねてことあるごとにやっていた対話型ファシリテーションの実践を久々にやってみた、その報告でした。

なお、実際のやり取りはここまで体系的ではなく、また記憶があいまいなところもあったので、
息子の協力を得て二人で再構成したものが上記のやり取りです。
この後、同様な構造を持つ原発の立地の問題や、
同じように見えても構造の違う炭鉱と夕張市の関係などについても少し話し合ったのですが、
長くなるので今回はこのへんに留めておきます。





中田豊一 ムラのミライ 代表理事)


http://muranomirai.org/trg2016cfindia
「課題を浮かび上がらせる対話」を実地に学ぶ研修

2016年11月8日火曜日

「サッカーボールが無い」って本当の問題? ~協力隊・NGO/NPOスタッフに必要な質問力

ムラのミライ関西インターン生の三谷です。
近日11月19日(土)に、京都でスタディツアー合同説明会があるということで、今回は私が実際に体験した海外ボランティアでの出来事をお話したいと思います。


大学一回生の長い春休み、
アフリカの大地に想いを馳せていた私は海外ボランティアとして1ヶ月、ケニアの地に降り立ちました。
小学校の衛生改善活動として施設の修復やトイレ建設のお手伝いし、活動も終盤にさしかかった頃、なにか最後に生徒達に何かプレゼントしようと思い、仲の良かったカルビンという女の子に聞き込みをしました。


状況:私も含め生徒100名ほどと放課後サッカーをした帰り道。
私は150人の全生徒がみんなで共有できる遊び道具を贈りたいと考える。
全員に聞くことは難しいので、仲の良かったカルビンという少女に聞き込む場面。

私       :「いつもは放課後なにして遊んでるの?」
カルビン:「サッカー!」
私       :「そっか!昼休みは?」
カルビン:「サッカー!」
私       :「そっかそっか!みんなサッカー大好きやねんな!」
カルビン:「でもね、サッカーボール持ってないの!」
私       :「え?じゃあ何でサッカーしてるの?」
カルビン:「これ!」
と、見せてくれたボールは服を丸めて作ったボールでした。

私はサッカーボールをあげたら喜ぶだろうと思い、
セレモニーの際、サッカーボールをみんなに贈りました。
みんなは飛び跳ねて喜びサッカーを楽しんでいました。
ところがしばらくして、サッカーをしていた100人程の子ども達が30~40人程になってしまいました。

私は先生にどうしたんでしょうかと聞くと
先生は「サッカーボールは服で作ったボールと比べて硬いから、裸足の子は蹴れないよ」と。
靴を履いてる子だけがサッカーができる。
校庭で小さな差別が生まれました。
サッカーボールをあげるとみんなが喜ぶと思い込み、靴を持っていない子ども達が大半を占めていた事実が見えていませんでした。



ではあの時、私はカルビンにどんな事実質問すれば良かったのでしょうか。
例えば…
・「サッカーボール買おうかと話し合ったり、誰かに相談したりしたことある?」
   
もし、本当にサッカーボールが欲しかったり必要であれば、既に友達や先生の間で話し合いや対策など、なにかしら行動をしているはず。
でも何もしていないなら、”サッカーボールがない”ということは、本当の問題ではないのかもしれない。


・「最近、サッカー以外の遊びって何かした?」
・「何か皆でもっと楽しく遊べる方法ないかなーってやってみたことある?」 
   
サッカーボールなどの遊び道具がないとみんなで楽しく遊べないという思い込みをしていた私。
サッカー以外で皆がする遊びを聞き出せれば、道具を使わず喜んでもらう方法、例えば、日本の”だるまさんが転んだ”など、遊び方を贈るという方法もあったかもしれません。


こんな事実質問をしていれば私はサッカーボールの有無が本当の問題ではないと気づき、何か違う方法で皆を笑顔にする方法を考えたでしょう。

何はともあれ、この出来事がきっかけでメタファシリテーションと出会えたのでボランティアに参加して良かったなと、思っています。
世の中には沢山の海外ボランティアやスタディツアーがありますが自分の成長と発見ができるプログラムと出会えるといいですね!
京都でのスタディツアー合同説明会当日はムラのミライのブースもありますよ~!




(ムラのミライ インターン 三谷遥来




~いい旅はこの説明会から始まる~2016年11月19日 (土)京都にて開催決定!
 第15回 NGOスタディツアー合同説明会」 (京都で開催) 


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2016年11月1日火曜日

身近にあるある「ひとくくりワード」の巻


前回のブログ記事が前編と後編の長文だったせいか
「今回は短く書いてください」とブログ担当者から指示を受け、短く書いています。
といっている端から脱線して長くなりますが、
この指示、字数制限もナシ、締切日もナシのユル〜イ指示で、
カッチリしたことが苦手な私には大変ありがたいものでした。
締切がないと安心して、素早く書いてしまうことが多々あるのですが、
そこを見透かされた指示だったかもしれません。
 


ところで、メタファシリテーション1日基礎講座や入門セミナーに参加された皆さんにはお馴染みの3つの質問です。

「朝ご飯は何が好きですか?」
「いつも朝ご飯は何を食べますか?」
「今朝は何を食べましたか?」
 
このうち「事実」を聞いているのは1番目の質問でしたね。


ここでツッコミを入れられない人は、もう一度11月の講座に申し込みましょう。
申込みはこちらです。
 
話を戻して「事実」を聞いているのは、「今朝は何を食べましたか?」だけでしたね。
 
今回は3番目の「事実」を聞いている質問ではなくて、
事実を聞いていない2番目の質問に表れる「いつも」という言葉に
スポットライトを当ててみたいと思います。
 
この「いつも」という言葉。
私の講座に出られた方は「ひとくくりワード」と覚えておられるかもしれません。
1日の基礎講座をする度に、それが日本でも海外でも、
私は参加者の皆さんに
「ここで出て来た’いつも’に似た’ひとくくりにしてしまう言葉’を挙げてみてください」
と聞いてみることにしています。
 

答えは、
ときどき、普段は、いつでも、どこでも、誰でも、
日本人は、ネパール人は、関西人は、京都の人は、みんなは、岐阜では、
おばちゃんは、女の人は、A型の人は、年寄りは、この社会では、田舎では〜など、
まだまだいっぱい挙げられます。

こうしてたくさん挙げてもらった後の演習でも、
やっぱりひとくくりワードをいっぱい使って対話をしてしまい
「事実質問だけで対話をつなげてゆくのはムツカシイ〜」
と実感されている方は多いことでしょう。
このまま書き続けていくと「短く書いてね」という指示を無視して、
また前編後編を書いてしまいそうなので、
今回はこの辺でやめておきます。
 

次にじっとこの「ひとくくりワード」を見てください。
どれも、さらに細かく分解していくことが出来る言葉だと分かりますね。
「’ネパール人は ’ってあなたの身近な人では誰のこと?」
「’みんなは ’って具体的には誰のこと?」
「’いつでも ’って、一番最近はいつ?」などなど。
 
こうした「ひとくくりワード」は、
「個々の事実から目をそらしてしまう光線」と
「もっともらしさ光線」を高レベルで発しています。

これらの光線は「それって事実でしょう」と思わされてしまうような成分が多分に含まれています。
「ここは!」という時には、
UVカットメガネではなくて、
事実質問メガネをかけて、
まず自分の対話、他人の対話を観察してみてください。
「ひとくくりワード」が対話の中で次から次へと出てきたら、
それを「事実だ」と勘違いしないように気を付けてください。

(おわり)
 
さて「ひとくくりワード」の話は短く終わったので一安心です。
次は、メガネの話をしましょう。
読者の中には
「なぜ、UVカットメガネや事実質問メガネのたとえを使ったの?」
と聞きたくなった方がいるかもしれません(いないかもしれません)。
なぜと聞かれれば
「最近メガネを新調したからです。今まで緑のメガネだったので、
今度は赤いメガネを買いまして、メガネのたとえ話がすぐに浮かびました」
と私は答えるでしょう。
もしあなたがここで「なぜ?」を使わずに、
私がメガネを新調した理由(メガネのたとえ話をつかった理由ではなく)を、
事実質問だけで聞いてみたとしましょう。
全く別の答えが浮かび上がってきます。
私は、超がつくほど近眼で、イノシシ歳ですから、仮説を立てるのは簡単です。


ではホントにここで、今回はおわり。






原 康子 ムラノミライ認定メタファシリテーション講師)





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2016年10月11日火曜日

フィールドワークって何をするの? 村の人が見ている本当の景色を知る技術


8月11日~17日、「都市と農村のつながりを考えるフィールドワーク入門ツアー」をネパールで開催しました。

このツアーは、以前にムラのミライとソムニード・ネパールが活動していたマクワンプール郡の村を訪問して、フィールドワークの方法を学んでもらうというもの。
現地ではガティコラ村、ゴパリ村、パルン村という隣接する3つの村を訪問し、村の人たちに話を聞かせてもらいました。
スタッフの前川(以下、「プロジェクト通信」でおなじみの“キョーコさん”と表記します)が講師をつとめ、ソムニード・ネパールのディベンドラが案内人兼通訳として、私もロジスタッフ(と少しの通訳)として同行しました。

村に訪問する前に、参加者のみなさんには、自分たちの知りたいことを、どうすれば知ることができるかを考えてもらいました。
時には夜遅くまでミーティングをしながら、何をどう質問するかを考えに考え抜き、村で実践した参加者たち。
ツアー中、そんな参加者と村の人たちとのやりとりを、キョーコさんは時には助け舟を出しつつ、基本的には手や口を出さずに見守っていました。

最初に訪れたガティコラ村では、カトマンズなどの大都市に出荷するカリフラワーを収穫したばかりという農家のオッチャン、グプタさんに話を聞くことができました。

その時のやり取りの一部です。

・収穫したカリフラワーはどうやって売るんですか?売買をするような場所があって、自分たちで持っていくんですか?それとも…
―仲買人が各農家を回って買っているんだよ。うちにも来てもらうんだ。
・買い取りの値段は誰が決めるんですか?
―仲買人だね。カトマンズの市場の価格を見て、買い取り価格を提示するんだ。
・じゃあ、グプタさんは価格交渉ができないってことでしょうか?
―いいや、仲買人は一人だけじゃないから、ワシも納得できる値段で買ってくれる人に売るんだよ。

このやりとりから、仲買人の存在を知ることができました。
ですが、代金は仲買人から現金で支払われるのか、はたまた銀行振り込みなのか?
その場でお金が手に入るのか?
…といった疑問は残ったままでした。

お次は、その翌日に、ゴパリ村で女性グループのメンバーに集まってもらって話を聞いたときのやりとりです。

・グループではどんな活動をしているんですか?
 ―研修を受けたりしていますよ。
 野菜の栽培方法だったり、家畜の育て方、DVから身を守る方法、
 あとポテトチップスの加工と販売とかね。
・へー、ポテトチップスの作り方の研修を受けたのはどなたですか?
 作ったポテトチップスは販売してるんですか?
 ―私の畑では、ジャガイモを育てて売っているんだけど、
 仲買人がすぐにお金をくれるわけじゃないし、少しでも現金収入がほしくてねぇ、
 ポテトチップスの加工を始めたのよ。
・いつからですか?
 ―去年くらいかねぇ。
・どこに売りに行ったんですか?
 ―この近くの市場。でも、パッケージにしろ、油にしろ、
  私たちのポテトチップスでは競争力がないとわかったからやめてしまったわ。
  今は、家で食べるか、近所の人におすそ分けするか…。


こんなふうに女性グループの活動から、ポテトチップスビジネス、農業へと話が進んでいきました。

こうして3つの村を訪問した後、キョーコさんから参加者にこんな質問が投げかけられました。

キョーコさん「グプタさんとの話で残った疑問、"農作物の売り上げがすぐに手に入るのか"という 点、その答えになるような話がゴパリ村で聞けましたね。覚えていますか?やりとりを思い出してみてください。」

みなさんは、どのやりとりだと思われますか?

そう、ゴパリ村のオバチャンは、
 「仲買人がすぐにお金をくれるわけじゃない」って言ってたんですよね。
ガティコラ村ではわからなかったことも、他の村で得た情報でその答えを知ることができたのです。
(この記事ではヒントになる部分を取り出していますが、実際には、この他にもいろいろな話題があったので、気を付けていないとサラッと流してしまいそうなやりとりでした。)

これを皮切りに、3つの村に行って聞いた話を整理し、関連づけていき、「都市と農村のつながり」を紐解いていったキョーコさん。

キョーコさん「フィールドワークって、その場その場で話を聞くことだけじゃないんです。みなさん、3つの村でたくさんの情報を集めましたよね。この情報を整理して、分析する。これがフィールドワークなんですよ。」

その時の参加者たちの表情から、「はぁ~なるほど」という感嘆の声が聞こえてきたような気がしました。まさに「腑に落ちた」と。
私も彼女たちと同じ表情をしていたかもしれません。

参加者が、自分たちで質問をして得た情報を思い出してもらいながら、その情報を分析していくことで「フィールドワークって何をするの?」というのを解説して見せたキョーコさん。

それは参加者の学び、発見になっただけではなく、そのやり方を端で見ていたディベンドラや私にとっても
「相手の経験を引き出し、分析するってこういうことなんですよ」
と教えてくれるものでもありました。同時にその難しさも。

ちょっと違う角度から「景色が変わる瞬間」を見ることのできたツアーでした。



 (ネパール事務所 田中十紀恵




→このブログ記事に登場する前川香子と共にがっつりフィールドワークをする研修@インド



2016年10月4日火曜日

協力隊受験者必見!「その質問、誰目線?」国際協力で大切なこと

こんにちは。「ムラのミライ」のインターン生、三谷です。
9月に入り、青年海外協力隊の秋募集もいよいよ始まりますね。
そんな青年海外協力隊の募集を考えている方必見のセミナーが「ムラのミライ」関西事務所で開催されています!
今回は私の体験談を交えながら入門セミナーでどの様なことするのかを紹介したいと思います。


先日8月29日(月)、「ムラのミライ」関西事務所にてメタファシリテーション入門セミナーが開催されました。
当日は大雨でしたが、予定通り私を含め5名の方が参加してくださいました。

2時間の入門セミナーは
①    講師:宮下和佳 (認定NPO法人ムラのミライ専務理事)の事例
・インドのおばちゃん信用金庫
・ペット会
②    対話型ファシリテーションとは?
・「甘いものは好きですか?」
③    事実質問の練習
④    まとめ
・プットシル村の事例
の流れで進んでいきました。

「え?インドのおばちゃん?ペット会ってなに?」と、お思いの皆さま。
セミナーで講師が面白く楽しくお話ししてくれますので、この場で私の説明は控えさせていただきます。
気になって仕方がない皆さま、ぜひお話を聞きにセミナーにいらして下さい!

私が今回お伝えしたいものは③の事実質問の練習での出来事です。
練習では3人一組になり、質問される役、ファシリテーター役、オブザーバー役に分かれました。
私はファシリテーター役になり、男性に質問していきました。
私は男性のオシャレなメガネから事実質問していこうと狙いを定め、
「このメガネはいつ買ったのですか?」
「メガネをみにいった日、その日に購入しましたか?」
「他にも色違いがありましたか?」
と、質問を進めていきました。
終盤、私は男性に「何がこのメガネを選んだ決め手だったのですか?」と尋ねました。
男性「決め手…なんだっけ…。」
オブザーバー「終了!ところで“決め手”をきくのは事実質問?」
その時私ははっとしました。

決め手。決め手ってそもそも何でしょうか。

・決め手:物事の真偽や勝負事での勝ち負けを決定する手段・方法。また、そのよりどころ。「―を欠く」「物的証拠が―となる」(goo辞書)
と辞書にはあります。

でも良く考えてみると物事決定する際、よりどころがない場合だってありますよね。
例えば「何となく今日の気分で。」とか。
恋人にした決め手?そんなものはない!
気づいたら好きになってた!
なんていうのも良い例ですよね。
私は物事を決定する際“決め手”が必ず存在するという思い込みをしていました。
決め手は?と質問された人は何か答えなきゃ!
と事実ではないことを言ってしまう。
これでは相手から本当のことを聞き出せませんよね。
常に相手の立場にたって物事をみる難しさを改めて感じました。
入門セミナーでは一度の練習でしたが、
受講された方それぞれ自分自身に関する“気づき”が得られます。
もっと深く学びたい!
練習してみたい!
という方は一日のメタファシリテーション基礎講座もございます。


セミナーの最後はメタファシリテーションの練習方法を教えていただきました。
ずばり、やり取りを観察する!
モノについてきく!
道のりをききホントの動機を探る!です!
私も繰り返し練習に励みたいと思います。

ぜひ一度お気軽にお越しくださいませ。



(ムラのミライ インターン 三谷遥来



→関連記事 「サッカーボールが無い」って本当の問題?


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2016年9月27日火曜日

シンプルな事実質問から

今年は私が職員を勤めるNGOから海外の事業地に長期で何度か出張に行く機会があった。 
村人にインタビューやお話を聞く機会も多く、
現場での実践を積むことができる大きなチャンスでもあった。
 

村の自助グループのリーダーを務めるアヤレチさんにお話を伺った時のこと。 
僕は靴が大好きなのもあり、他人の足元についつい目が行ってしまう。
アヤレチさんの靴は花柄で可愛らしいものであった。 
まずは自助グループの事やグループに加入した理由について話を聞いて行った。
そのあと、気になっていた靴のことを聞いてみた。 

私:その靴可愛いですね! どこで買われたんですか?
ア:アルバミンチで買いました。
アルバミンチはこの村から徒歩で約8時間ほど行ったこの地域では一番大きな町
私:最後にアルバミンチに行ったのはいつですか?
ア:1週間前です。
私:その時に靴を買ったんですか?
ア:そうです、その時買いました。
私:1週間前は、靴を買う目的でアルバミンチに行かれたんですか?
ア:違うんです。実は。。。

通訳を務めてくれたエチオピア人スタッフが、
「フミ、良い質問だね!」と言い本当の理由を教えてくれた。
アヤレチさんはアルバミンチに行った理由が息子に会いに行ったこと。
その息子がある問題を抱えており、
それについて悩んでいることについて長く話してくれた。 


この事例に限らず、シンプルな質問から思いもよらない返答であったり、
事実がわかったりする事例が他にもあった。
初めてエチオピアに来た4年前のことを思い出し、
どれだけ事実質問をしても何も起こらないことがほとんどだったことを思い出した。
ただシンプルな事実質問をするだけではなく、
適切な質問ができるようになったことも今回の事例を通して実感したことであった。 



(ムラのミライ認定トレーナー 松浦史典



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2016年9月20日火曜日

「自分のことは自分でやる」子になる対話って? 後編


前回の”「自分のことは自分でやる」子になる対話って? 前編”の続きです!
まだ読まれていない方はぜひ前回の記事を読んでからお読みください!


■メタの部分:「ワタシ」を見るワタシ■

「どうしたら次回から(将来から)息子が○○する(しない)ようになるか、そのために今なにを伝えればよいか」を考えていない「ワタシ」、という点に自分で気づくことができるかどうか、ココが「メタ」の部分です。

人(相手)に行動変化を促す投げかけをする前に、まず自分で自分の行動(言動)を認識する、これが出来て初めて相手への投げかけが出来るようになります。
 
原はこれまで「支援しない技術」というタイトルで何度か講演をしてきましたが、その際には「インドのおばちゃんたちを支援しようとするワタシは一体、ナニサマなのか?」を自分で自分に問いかけた、という話をします。
「今」起こっていることを分析し「それ以外の何か」を相手に提案する際、「それ以外の何か」が果たして「’今’起こっていることに勝る価値があるのか?」
そうした自分への問いかけなしに、相手への働きかけるということは、「ワタシは持っている(知っている)、アナタは持っていない(知らない)、だから与える(教える)」になりがちです。
 
私は常々、将来息子には掃除・洗濯・炊事などの毎日の家事が大事なことで、顔を洗ったり、歯を磨いたりするのと同じくらい「当たり前のこと」としてできる大人になってほしいと思っていますが、最初のやりとりには、これを実現するための投げかけは一切ありませんでした。
ワタシが優先したのは「ワタシの都合」です。
 

さて、このくらいで分析はやめておきます。
中田さんならこのわずかな会話からも、私の10倍くらいの分析をしてくれそうですが、そこまでは私には出来ません。
「よくまあこんなつまらない日常会話をグダグダと分析するもんだ」と思われる方もおられるでしょうが、この「分析」ができないと、息子に「手がベタベタになったら洗う」という行動変化を促すような投げかけはできないのです。 
しかし、これを1時間かけて分析しても、1日後に分析をしても、その場(この場合は朝ご飯後テーブルと椅子の回りがベタベタしていることに気づいた時)で息子への的確な投げかけはできません。
 
難しいのは、ベタベタの手、机、テーブル、息子を目の前にして、一気に(数秒で)上記の分析をし、その場で的確な投げかけをしていかねばならない、ということです。
 
以前、このブログで出ていたかと思いますが、「分析」というのは、ギリシア語の「分解する」という語源を持っています。分解(分析)を瞬時に行い、相手が「決める」ように投げかけてゆくのが、メタファシリテーションの事実質問です。
 

さて分析の次は、冒頭のやりとり以外の「ワタシ」の投げかけをシュミレーションしてみましょう。

〜朝食後、息子の椅子の縁や机の周りがベタベタなことに気づくワタシ〜
ワタシ「自分の周りの椅子とか机と触ってごらん」
ボク「あれ〜ベタベタしてる〜」
ワタシ「まず、何をする?」
ボク「手、洗ってくるわ。」
ワタシ「それがいいね。」
手洗い後、おもちゃで遊び出す息子。
ワタシ「手はきれいになったね、じゃあ椅子や机は?」
ボク「まだベタベタしてる。お母さんが代わりに拭いておいて。」
ワタシ「”お腹が空いたから、お母さんが代わりにご飯食べておいて”と言う?拭いてあげてもいいけど、昼ご飯も代わりに食べてあげるね。」
ボク「じゃあ自分で拭く」
ワタシ「布巾、上手に絞ったね。自分でベタベタにしたところを、自分できれいにして、偉かったね。」
ボク「次も自分で拭くよ」

 上の例は正解ではありませんので、「こんなシュミレーションもあるよ〜」という方は是非、教えてください。次の朝食後に実践してみます!

 「冒頭のやりとりとの違いは何だったか?」皆さんはもうお気づきですね。
そうです、「ワタシ」は机も椅子も拭いてません!

上のシュミレーションで、「ワタシ」がやったことは次のことです。
  ・ベタベタしていることをまず観察。
  ・息子に自分で机や椅子を触らせてその状態に気づかせる。
  ・「まず何をするか?」を息子に決めさせる。
  ・「手を洗う」という息子の決断を肯定する。
  ・机や椅子の状態をもう一度、息子に確認させる。
  ・例え話「お腹が空いたら代わりにお母さんが食べる」を使う。
  ・「拭く」という行為を観察し、息子が一人でできたことをまず誉める。(例:布巾を上手に絞った)
  ・「自分で拭いた」という行為を誉める。

最後に「次も自分で拭こうね」とは言ってはいけません。
息が言うのを待つ。たとえ息子が「次も自分で拭くよ」と言わなくても、次回、同じことが起こった時に、違うやりとりを考え、「自分のことは自分でやる」を当たり前にしてゆくまで、繰り返し投げかけを続けなければなりません。
 
一度の事実質問や一度の働きかけで大きく変わることは滅多にありません。
しかし「毎日の家事はとても大事で当たり前のこととして出来る大人になってほしい」と願い続ける「ワタシ」がいれば、息子が「自分で動く」ように働きかけてゆくことは可能です。
ここでブレてはいけないのは、息子でなく、ワタシなのです。
 

メタファシリテーションで問われているのは
「事実質問をつなげ、相手に気づかせ、相手の行動変化を起こしてゆく」技術だけではなく、「それを相手に投げかけるワタシはどうしたいのか?」を対人支援や子育ての一瞬、一瞬の場で自分に問いかけ、相手に投げかける、という技術が含まれています。
 
いつも脱力の文章を書いている私にしては、精一杯、理屈っぽいことを書いた今回のお話。

慣れない文章を書いて、疲れてしまったので、この辺でやめておきます。次回はいつも通り、肩の力を抜いた話をお伝えしますので、お楽しみに~



原康子 ムラのミライ認定メタファシリテーション講師)


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このブログ記事の筆者=原康子も各地で講師として登場します!

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2016年9月13日火曜日

「自分のことは自分でやる」子になる対話って? 前編

こんにちは、メタファシリテーション基礎講座で、講師をしている原康子です。
この夏、4年暮らしたネパールから引越し、16年ぶりに日本で暮らし始めたばかり。
見た目は日本人ですし、日本語もできるので、わかりにくいのですが、中身は現在日本事情をなかなかキャッチアップできておらず、外国から日本にやってきたばかりでオロオロする方々の気持ちに近いと思います。
 
しばらくは京都を拠点にして、西へ東へ、南へ北へと、国内外のメタファシリテーション講座で皆さまにお目にかかる機会も増えそうで、今から楽しみにしております。
 

さて今日は「ムラのミライ認定メタファシリテーション講師」という私の肩書の「認定」部分を削除されそうな、メタファシリテーションを使ってない日常をまずご紹介します。

 
ある夏休みの朝食後、食器を片付けていると、息子(8歳)が座っていたテーブルと椅子の周りがベタベタしていることに気づいた私。

ワタシ(原)「なんで(なぜ)アンタが座っていた周りだけこんなにベタベタしてるの?」
ボク(息子)「だって、さっき食べたグレープフレーツで、手がベタベタになっちゃったんだ。
お母さん、なんでもっと食べやすく切ってくれなかったの?
それにボク、椅子は触ってないから、なんでベタベタか知らないよ」
ワタシ「もおお〜、食べたらすぐ手、洗わないとダメでしょう!ベタベタした手でなんにも触らないで!」と言ってテーブルと椅子を拭いた私。

あまりご紹介したくない朝の一コマです。
「WHY(なぜ)を使わない対話術」と、講座で皆さんに伝えておきながら、しっかり「WHY(なぜ)」から始める息子との会話。
 
このブログの記事が原因で
「’認定”が取り消されたどうしよう~」
と、おっかなびっくり書いております。
 
それはさておき、ここで、メタファシリテーション基礎講座や入門講座を受けた皆さんにエクササイズを2つ。

1:上の会話を分析してみてください。
2:1の分析をベースにして、メタファシリテーション・スイッチ(そんなスイッチがあれば、ですが)を入れて、ボク(息子)が「次回からベタベタの手でテーブルや椅子を触らなくなるような」投げかけをシュミレーションしてみてください。

「忙しい朝に、息子とのやりとりでメタファシリテーションなんて使っていられないよ」
というのも本音ですが、普段から気を付けているといないとでは大違いなのです。

まずは、この会話を分析してみましょう
「こんなつまらない会話を分析してど〜すんの?」と思われる人も多いでしょう。
しかしこの世の中、本当に「つまらない」ことは実はヒジョーにわずかです。
一見「つまらない」日常の中に、様々な課題の解決策は隠れていますので、「こんなつまらない」という”思い込み”は、要注意です。

さて、私と息子のやりとりを、以下の3つに分けて分析してみましょう。最初は「対話」、次は「行動」、最後にメタファシリテーションの「メタな部分」についてです。



■  対話について ■

ワタシ「なんでアンタが座っていた周りだけこんなにベタベタしてるの?」
最初から「なぜ」を使っているワタシ(原)。
これ以外にもまだまだあります。
・    (靴下が片方だけ洗濯機の底からみつかって)「なんで(なぜ)靴下、片方しかないの?」
・    (道で転んだ息子に)「なんで(なぜ)よく下をみて歩かないの?」
毎日の生活で「なぜ」の使用を禁止してみると、意外にしんどいのは、皆さんはもうご経験すみでしょう。
 
お約束通り、「なぜ」の後には「だって」が続きます。
息子「だって、さっき食べたグレープフレーツで、手がベタベタになっちゃったんだ。
お母さん、なんでもっと食べやすく切ってくれなかったの?
それにボク、椅子は触ってないから、なんでベタベタか知らないよ」
 
「だって」の後に続くのは、「言い訳」。ボクは悪くない、悪いのは「グレープフルーツ」か「お母さん」というのがボクの言い分です。
「なぜ?」→「言い訳」→「悪いのは自分以外」と続きます。
 
そのうえ、もし「ワタシ」が「なんでワタシが悪いの?」と続ければ、延々と言い争いは続きます。
「もおお〜、食べたらすぐ手、洗わないとダメでしょう。
ベタベタした手でなんにも触らないで!」と息子にしてほしいことを、ワタシが言ってしまっていますね。
 
If I hear it, I will forget it. (人に言われたことは忘れる)の典型パターンです。
息子は、ベタベタの手であちこち無意識に触っているわけで、別にそれが問題(悪い)とは全く思っていません。
「食べたら手をすぐ洗う、ベタベタの手で何も触るな」と母親から言われだけでは、なかなか息子は「ベタベタの手でものを触ってなぜいけないのか?」が理解できないでしょう。
自ら「これはやめないと、変えないといけない」と気づいていないことで、息子の行動変化を望むのは難しいことです。
 
せいぜい「母親がガミガミうるさいから、手を洗っておくか」という程度は思うかもしれませんが、自発的に続けられません。
 
しかし、母親の投げ方次第では、息子の行動変化は可能です。
それは、母親による「なぜ(なんで)で始まる」以外の投げかけに大きな鍵がありますが、まずは母親自身も「なぜ(なんで)以外の投げかけがある」という事実を知らなければ始まりません。
 
幸い、このブログの読者の皆さんは講座に出られた方が多いので、具体的に「どのように投げかけたらよいか」はともかく、「なぜ(なんで)以外の投げかけがある」ということはご理解いただいていると思います。
 
さあ「対話の分析」の次に、「行動の分析」ですが、皆さん、どのように分析されましたか?



■  行動について ■

ワタシ「もう〜、食べたらすぐ手を洗ってよ。ベタベタした手でなんにも触らないで!」
と言って、テーブルと椅子を拭いた私。
 
これでわかるように、ベタベタになったところを拭いたのは母親です。
息子は、ベタベタの手でどこを触ろうと特に困ることはなく、母親だけが困っています。
息子もそのうちテーブルや椅子がベタベタで困ることがでてくるかもしれませんが、困る前に母親が拭いてくれているのですから、当面「困る」ことはなさそうです。
 
この「ワタシ」の行動から、彼女がここで「大事にしていること」は何だったと思いますか?
 
それは「息子に注意すること」と「テーブルをさっさと拭いてベタベタをなくしてしまうこと」です。

「どうしたら次からベタベタの手で息子があちこち触らなくなるか?」
「どうしたらベタベタの手を自分から洗いに行くようになるか?」
「どうしたらベタベタの場所を自分で拭くようになるか?」などは、「ワタシ」は考えていません。



原康子 ムラのミライ認定メタファシリテーション講師)


気になる”メタファシリテーションの「メタな部分」”については
次週の”「自分のことは自分でやる」子になる対話って?後編”でお届けいたします!
お楽しみに~!


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この記事の作者=原康子も各地で講師として登場します!

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2016年9月6日火曜日

脱・あたりさわりのない会話 等身大の答えを引き出す質問とは?

久保田絢です。
はじめてのブログへの投稿になります。
名古屋在住で大学の教員をしています。
対話型ファシリテーションとの出会いはもう5年以上前になります。
インドでのコミュニティファシリテーター研修や日本で中級研修などを受け、今は認定講師となり講座の講師も担当しています。

 
私が対話型ファシリテーションの練習を続けてこられたのは、自分の人生に役立っているという実感があるからですが、それに加えて定期的に一緒に練習したり、対話型ファシリテーションについて話ができる仲間がいるからだと思っています。
その仲間というのが名古屋自主勉強会のメンバーです。
勉強会には2年半前くらいからほぼ毎月参加していて、夜19時半から2時間程度、事実質問の練習や事実質問を使ってみた経験の共有などをしています。
昨年から勉強会の主要メンバーを講師としてセミナーを行うという新たな目標を立て、昨年1回と今年1回、大学生対象の自主セミナーを開催しました。
今回は8月中旬に行われたセミナーについてご紹介します。


セミナーに参加したのは中山間部の集落調査に行く直前の大学生と大学院生8名。
調査が充実したものになるようにという目的で事実質問を学びました。
相手に気づきを促すという事実質問の本来の目的とは逸れていますが、集落の「現実」を知るためにも事実質問という質問法は有効ではないかと私たちは考えました。

セミナーの流れは
(1)質問票を用いたペアワーク
―調査で用いる質問票からいくつか選んでそのまま質問をし、答えてもらう

選んだ質問票の質問:「○○さんの一日の生活について伺いたいのですが・・起床時間と就寝時間はだいたい何時くらいですか?」
「食事は3食ともご自分で作っていますか?」
「ご近所付き合いはありますか?どのようなご近所付き合いですか?」

(2)事実質問についてのレクチャー

(3)事実質問の練習
①「これは何ですか?」
②(1)の質問を事実質問に変えて聞いていく


私と勉強会のメンバーが思わず微笑んでしまった感想を1つご紹介します。
それは、事実質問に答えるのは「見栄を張ることがなくて楽だった」というもの。
「普段何時に起きますか?」と言われると、実際には9時のときもあれば11時のときもあるけれど、11時というと恰好が悪いから、9時と言っておこうと見栄を張ってしまうけど、「今日は?」「昨日は?」というように時が限定されれば、そういうことを考えなくてよいので楽というとても素直な感想で嬉しかったです。
そして、私自身、事実質問の説明をするときに、
「等身大の現実が見えてくる」
など質問者側のメリットを強調しがちだったのですが、答える側のメリットを改めて感じさせてもらいました。



(ムラのミライ 理事 久保田 絢






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2016年8月30日火曜日

「あの研修のインパクト、あった?」がわかる、たったひとつの質問


皆さん常々お感じのことと思うのですが、事実質問の神髄は、講義だけではなかなか伝わりにくいものです。ですから、現場に行った際には、できるだけ自分でやってみせることにしています。
今回は、ミャンマーで活動している日本のNGOの現地スタッフに研修した際に行った、その手のデモンストレーションのひとつを紹介します。

そのNGOは、農村の女性たちを相手に母子保健についての研修を長年実施してきました。現地スタッフたちが、少し前に行った母子保健研修の参加者の家を訪ねて、研修のインパクトをモニターする現場に私が同行した際のことです。

彼らは、研修の内容を覚えていますか」、「その後実践してみましたか」など教わったばかりの事実質問を使って研修の効果を聞き出そうと努めるのですが、あいまいな答えや、こちらに迎合したような受け答えが多く、本当にインパクトがあったかどうか今一つはっきりしません。
そこで「じゃあ今度は私が少し聞いてみましょう」と、その家のお嫁さん(仮にAさんとする)に聞き始めました。

私「その研修には、一人で行きましたか?」
A「隣の人といっしょに行きました」
私「帰りもいっしょでしたか?」
A「はい、いっしょでした」
私「帰り道で、その人と研修のことについて何か話しをしましたか?」
A「いいえ、特に」
私「家に帰って何をしましたか?」
A「食事の準備を始めました」
私「家には誰がいましたか?」
A「夫と義母がいました」
私「研修のことについて何か聞かれましたか?」
A「いいえ」
私「あなたから何か話しましたか?」
A「いいえ」
私「他の誰かに話したりはしませんでしたか」
A「上の娘には、飲み水を清潔に保つ必要性について少し話しました」

同行した日本人スタッフのEさんはこのやり取りの意味がよくわかったらしく、他の現地人スタッフに「本当によかったのなら、誰か他の人に話すよね」などと私に代わって解説してくれました。

次に行ったところでは、何人かがこれを真似て同じように聞き込んでいったのですが、他の人に話したという例にはほとんど出あえなかったようです。Eさんたちは少々がっかりしたものの、これを契機に研修全体のやり方の見直しを始めたそうです。その後は、このことに限らず、これまでにも増して、研修の効果を上げるための工夫を続けているとのことです。

「研修(講義、授業、イベント、映画、コンサートなどなど)は、どうでしたか?」「よかったですか?」と聞くのではなく、「帰り道に誰かとそれについて話をしましたか?」「その後誰かに、例えば家族や友人にそのことを話しましたか?」と聞いていくというのが、インパクトを聞き出すための鉄則です。
答えが「いいえ、特に」だったら、それまでです。

逆に「はい」だったら、「誰にですか」「いつですか」「何をどんな言葉で伝えましたか」「その方は、どんな反応を見せましたか」などなどと具体的に聞き込んでいくことで、その人が何にどんなインパクトを受けたのか、さらには、何をどう伝えれば、その感動や学びをその場にいなかった他者に伝えることができるのか、などなども具体的に学ぶ機会にもなります。

実は私は今週末からまたアフガニスタンでの稲作技術普及プロジェクトの研修のために、イランに行くのですが、次回の研修のテーマのひとつが「農民から農民への普及(farmer to farmer extension)」なのです。そこでは、上記のような質問術を伝えながら、「技術研修に参加した農民が他の農民にも思わず話したくなるような研修とはどんなものだろう」と問いかけていくことになるでしょう。


中田豊一 ムラのミライ 代表理事)



http://muranomirai.org/trg2016cfindia
講師の技を見て、マネて・・・現場での研修は効果大

2016年8月16日火曜日

もしかして、浮気?

みなさんお待ちかね、クイズで対話型ファシリテーションシリーズ。
今回は「恋人との対話」の場面です。

恋愛に悩みはつきものですよね。
でもその悩み、あなたの思い込みではありませんか?
今回は、ある恋人達を対話型ファシリテーションで「すれ違い」から救いましょう!

最近、恋人であるB男さんから連絡が途絶えている・・・と不安でいっぱいのA子さん。
心の中は
「最近なにか悩んでいる様子だったなぁ。」
「他に好きな子ができたのかな。」
「このまま自然消滅してしまうのかな。」
とネガティブ思考に陥ります。
でもめげてはいけません。
そんな不安を押し殺し事実質問で彼の心をのぞいてみましょう。

<問題>
夜19:00すぎ、A子さんは携帯をとり、B男さんに電話をかけます。
「もしもし。」
B男さんが電話にでました!

さぁ問題です!
B男さんに最初に投げかける言葉は次の3つのうちどれが適切でしょうか。

①「久しぶり!なんで連絡くれなかったの?」

②「久しぶり!最近忙しいの?」

③「久しぶり!今何してたの?」



正解は…………
③の「久しぶり!今何してたの?」でした!

<解説>
①の「久しぶり!なんで連絡くれなかったの?」は乙女なら誰もが心のどこかで思ってしまうもの。
しかし声に出してはいけません。
”なぜ?”と答えを強要されると彼の口から出てくるものは事実ではなく言い訳です。

②の「久しぶり!最近忙しいの?」は一見事実質問にみえますよね。
”なぜ?”と聞いていないし、忙しいか否かはyesかnoで答えられる。
しかし!最近って…いつですか?今日か昨日か、わかりませんよね。
また、何について忙しいと言えばよいのか、どんな状態を「忙しい」というのか、B男さんは困ってしまいます。
そんなB男さんから出てくる言葉は「まぁまぁ」や「ぼちぼち」です。
事実質問する際は”時系列”と”細分化”に注意しましょう!

③の「久しぶり!今何してたの?」という質問をされると、B男さんは考えることなく、受話器をとる前の行動を思い出します。
この事実質問を最近元気がなく連絡をくれなかったB男さんが悩みの根源をみつけたり、きっかけや原因を思い出してもらうためのエントリーポイント(対話の導入部)にし、どんどん時系列をさかのぼっていきましょう。

B男さん:「もしもし。」
A子さん:「久しぶり!今何してたの?」

この続きは次回に致しましょう!






(ムラのミライ インターン 三谷遥来



★迷ってしまった方、間違ってしまった方はブログの過去の記事や書籍で復習しましょう!

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メタファシリテーション基礎講座

http://muranomirai.org/basictrg201605

2016年8月9日火曜日

メタファシリテーション体験記 おすすめセミナーの効果@我が家

「ムラのミライ」インターンとして活動し始めた私、三谷は先日、7月18日に行われたメタファシリテーション基礎講座に初めて参加させて頂きました。
当日の参加者は私を含めて4名。他の受講者の方々は以前に参加経験があるということで、初心者の私は何度も先輩方に助けて頂きました。
初めての参加だったのでとても不安でしたがセミナー中は終始和やか。私の不安は「ムラのミライ」オフィスの扉を開けた瞬間に飛んでいってしまいました。

午前中は先生からの説明からスタート。午後は練習、練習、繰り返し練習。
ファシリテーターは身の回りにあるものから休日の過ごし方、改めたい習慣など、様々なシチュエーションの中から「事実」だけを引き出していきます。
質問される側は、その時の状況を思い出し質問に答えていきます。すると脳内でどんどん発生してくる言葉、”そういえば”。
「そういえば最近こんなことあったな。」
「そういえば最近あんなもの買ったな。」
「そういえば最近ネットでこんなこと検索したな。」
質問されなければ思い出しもしなかった状況から事実が出てくる出てくる!その場ではモヤモヤしていたことも帰宅後入浴中に 「はっ!」 と、時間差でやってきた事実もありました。その気付いた事実に潜む解決の糸口。人から言われるのではなく、自分で気付くからこそ自分で変化を起こせるのだというメタファシリテーションという手法の素晴らしさを基礎講座で体感することができました。

セミナーでは上手く事実質問ができなかった私。何事も上達には練習が必要不可欠!ということで早速、練習してみようとまず身近な自分自身と母に使用してみることにしました。
我が家の永遠の悩み、それはずばり「服の断捨離ができない!」
季節や流行の流れと共に増え続けてきた服を目の前にして
「最近いつ着たかな?」
「何処に着ていったっけな?」
「その前はいつ着た?」
「何処で買ったっけ?」などと、問いかけていきました。
すると、一年以上着ていない服や、以前に購入した同系色で似た様な服の存在が明らかに!
逆に捨てようと考えていたけども以前は頻繁に会議で着ていたことを思い出し、フォーマル用にとっておこうとクローゼットの前列に昇格した幸運な服もいました。
またこのプチ・メタファシリテーションで整理整頓ができたことに加えて、喧嘩がなくなりました。以前は私が「もう捨てたらー?」と提案していたので母が導き出した答えではありませんでした。
となると、後々必ず出てくる厄介な「捨てなければよかった」問題。我が家でこの問題をめぐる論争は夕飯に響くほど深刻です。しかし今現在この論争が起こっていません!
今回は家庭内という小規模な問題でしたが、大きな規模、例えば国際協力や経営の場で似たような問題を解決しようとした場合、メタファシリテーションを使用した結果5S(整理・整頓・掃除・清潔・しつけの5つの頭文字Sを集めた経営管理法)に結びつき問題が改善した!なんてことになるかもしれません!

メタファシリテーションは私のようなささいな家族問題から社会問題まで、ありとあらゆるシチュエーションに応用できるものだと感じました。私もまだまだ初心者。上達に向けて身近な問題をテーマにして練習していこうと思います。


(ムラのミライ インターン 三谷遥来






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2016年7月26日火曜日

過去を知ることで、考えはじめる未来 地域でのインタビューの先にあるスキルとは?

ムラのミライ初の沖縄・久高島でのフィールド研修では、講師の和田が島のオバァに短い時間でしたがお話を聞くことができました。

翌日のクラスルーム・セッション後半では、和田がどういう意図でオバァへの質問を組み立てていたのかをふりかえりましたが、その一部をご紹介します。



挨拶や自己紹介をした後、オバァがつけていた金の指輪について「素敵な指輪をされていますね」というところから始めました。

薬指ではなく中指にはめてらしたのを見て、
「この島にも結婚指輪をする習慣があるのかな?」
と、興味がわいたという和田。
一緒にいたもう一人のオバァもプラチナの指輪をつけていたのを、ちゃんと見てとっていました。

-指輪をするという習慣が昔からこの島にあったのか、それとも、どこかの時点で入ってきたのか。

指輪ひとつを入り口(エントリーポイント)に、色んな視点で仮説を立てることができます。
メタファシリテーションの入門セミナー基礎講座でも練習する「これは何ですか?」から始まる事実質問の応用編ですね。
これができるようになるために、平素から、ひとつのモノに対して、一瞬にして30くらいの要素について仮説を立てる訓練をしてみましょう。

たとえば、仮に経済圏という要素について仮説を立てるとすると・・・
指輪は明らかに、久高島では作っていない。また、宝石店も見当たらなかった。そうすると、指輪は外部から持ち込まれたモノと推測できます。
久高島を中心として、どれだけの範囲まで経済圏として広がるか。オバァの話から、この輪=経済圏の範囲を広げていくことができます。
もし仮に南城市の○○ショッピングモールで買ったとしたら、○○ショッピングモールができるまではどこで買っていたのか・・・と、聞いていきます。


指輪にも、オバァの人生にも、何にでも歴史があります。
指輪であれば、どこで作られ、どこで売られ、誰が買い・・・(時間軸)。
そして、どちらも、この久高島というコンテキストの中で展開したということ(空間軸)。

ふたつの軸を頭の中に描きながら、
「自分がこのオバァだったら・・・」
と想定すると、聞くことはいくらでも出てきます。

過去が明らかにならない限り、未来を推測することはできません。
過去を聞いていくと、いくつものランドマークが出てきます。

たとえば、買い物袋。(和田は少し前から、常にエコバッグを持ち歩き、買い物袋を極力断るようにしているのですが・・・)買い物袋ひとつとっても、過去、ある時期からスーパーマーケットでプラスチックの買い物袋をくれるようになりました。
これは、一つのランドマークですよね。

「思い出してみると、僕が8歳かそこらの時、母たちが『明日からメートル法になったから、これからは”味噌何グラム”と言って買わないといけないね~気をつけないとね~』・・・という会話をしていた記憶がある。つまりここに、それまでは量り売りだったのが、瓶や袋に詰めた状態で売られるようになったという、もう一つのランドマークがある。(僕らは、こういうランドマークになるできごとを単に「便利になった、進んだ」と表現してしまっているけど・・・)」



すべてのモノから歴史が見えます。

あのオバァへのインタビューを何回も繰り返したり、他の人にも聞いたり・・・としていくと、時間軸×空間軸というジグソーパズルのマス目が大きく・細かく埋まっていきます。
色や陰影のついた画が浮かび上がってきます。

そこまでやって初めて、その先=つまり、未来を考え始めることができるのです。


今回、台風が接近していたために久高島での滞在を短縮してしまい、過去から未来へ、島の方たちと一緒に考える時間を取ることができませんでした。島のあちこちを案内してもらい、お話を聞かせてもらっただけになってしまいました。
次回は台風オフシーズンに訪れて(または台風が来たら数日間は島にとどまれるスケジュールを組んで?)、島の方たちと一緒に、島の歴史地図を歩きたいと思っています。



宮下和佳 ムラのミライ専務理事/関西事務所)




今年後半~来年の国内外フィールド研修も準備中です

2016年7月12日火曜日

自分なら、どう暮らしを立てる? 地域づくり・地域おこしのファシリテーション第一歩

先週、ムラのミライ初の沖縄でのフィールド研修を開催。研修生6人、講師2人、スタッフ2人の総勢10人で沖縄・久高島を訪れました。


今回は、久高島でのフィールドワーク翌日、クラスルーム・セッションでのやり取りをご紹介します。

会場は、JICA沖縄国際センターの研修室。何とテラスから海が見える(!)ステキなお部屋。
朝9時過ぎからスタートしました。

まず、講師の和田から参加者みんなに質問が投げかけられます。

最初の質問
「フィールドワークで一番心がけないといけないのはナニ?」(長期滞在でなく短期訪問の場合)

参加者が答えたのは・・・
「外部の人間であることの自覚」
「相手との関係性をつくる」
「暮らしを尊重する」
「挨拶/自己紹介」
「目的(何を知りたいのか)をはっきりさせる」

講師からのコメントは・・・
「それらも、もちろん大切だし正解。
自分自身が心がまえとしているのは、自分がその場所にいたら、どう暮らすだろう、ということ。
その土地にはまだ誰も住んでいない、という仮定で”自分ならそこで暮らすためにどうするか””どういう風景を見てどう暮らし始めるか”という事を考える。」

そして、質問その2
「そういう風に考えるとすると、出会った方にどういう聞き方をするだろう?」

それは、”ここに何がありますか”ということ。
つまり、何をもって暮らしを立てているか(いたか)、ということ。
久高島で人が住み始めた時から今まで、どういう暮らしが営まれてきたのか。

これは、メタファシリテーションの基本視点「自分が相手の立場だったら」の応用編ともいえます。

実際に、昨日のフィールドワーク中、講師がこだわって質問していたことは何かというと・・・
・土
・水(どこから手に入れるか)
の2つでした。

たとえば、講師の和田が、島を案内してくださった内間さんに投げかけた質問のひとつ
「地下貯水槽があったことはありますか?」
なかった、との回答でした。
目にした雨水貯水槽は割と新しく(昭和になってから)設置され、使っていたものだが、今は使っていない、と。
今は本島から海底トンネルで水を運び、給水塔でくみ上げて給水している、と。

ここまで聞いていくと、心の中の「自分だったら」目線から、疑問が出てきます。
「じゃあ、ここに暮らし始めた人は、水をどうやっていたんだろう?特に食料生産=農業にかかる水をどうしていたんだろう?そもそも、どうしてこの島を選んで住みついたんだろう?」

はい、時間軸へのとっかかりがが出てきたところで、今回はこのへんで。
次回、オバァへのインタビューを通して、時間軸・空間軸の話をお届けしたいと思います。

宮下和佳 ムラのミライ専務理事/関西事務所)




インドやネパールでのフィールド研修も参加者募集中です

2016年6月30日木曜日

でこぼこ通信_第24号_「ママ、もう1個ゴミ箱いるんじゃないの?」2016年6月30日発行

でこぼこ通信第24号「ママ、もう1個ゴミ箱いるんじゃないの?」2016年6月30日発行

In 601プロジェクト通信 ネパール「バグマティ川再生 でこぼこ通信」 by master


目次

  1. エコレンジャーを目指すオバチャンたち
  2. ママ、もう1個ゴミ箱いるんじゃないの?
  3. 子は親の鏡~ゴミ分別を続けるコツは、「習慣化」
  4. 行動の伴わない人の言葉に誰が耳を傾ける?

1.エコレンジャーを目指すオバチャンたち

5月30日の朝、和田さん(※1)と一緒に、研修の会場に向かった。事務所から車で20分ほどかけて行く、ナイドール村。ここでは、バグマティ川中上流に住む村の人たちを対象にした「エコレンジャー」育成研修を週に一回開催してきた。

研修では、まず、「川の汚染や路上に廃棄されるゴミといった問題に取り組むために、地域で具体的にどのような行動を起こすべきか?」を参加者自身が考えるような問いかけやグループワークを行った。それを受けて、参加者の大半は、家庭でできるゴミ分別・生ゴミ堆肥づくりや、地域での定期的な清掃活動、また近所の人へと学んだことを伝えるといったアクションも起こし始めている。

今後は、これまでの研修や自分たちで始めた活動を通して学んだことを周りの人へと伝え広げる「エコレンジャー」として、参加者自身が研修を担っていく。今日は、他の参加者やソムニード・ネパールのスタッフ、そして研修講師の和田さんの前で、これから予定している研修のデモンストレーションをする日。

研修の参加者は、ほとんどが女性。学生もいるが、多くが家庭を持つ「オバチャン」。この日は、朝から雨が降りそうな天気だったが、オバチャンたちは、暗くどんよりした空気を吹き飛ばすほどの明るい顔で、「ナマステ~!」と迎えてくれた。

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 2. ママ、もう1個ゴミ箱いるんじゃないの?

勢い溢れるオバチャン参加者のなかでも、私(※2)が特に注目しているのが、マイナ・ディディ。(“ディディ”とは、ネパール語で「お姉さん」の意味。年上の女性に対して“~さん”という丁寧な呼び方をするために使われる。)

研修の内容を熱心にメモに取り、質問に対して常に発言し、グループワークではまとめ役を買って出る、とにかく積極的な参加を見せている。

そんな彼女が、デモンストレーションンのなかでみんなに伝えたエピソードのひとつに、こんなものがあった。

「私には、3歳の息子と6歳の娘がいます。研修に参加し始めてから家でのゴミ分別を始めましたが、娘は、ゴミの種類ごとに別々のゴミ箱に入れる習慣がつきました。息子は、まだ幼くて分別はできませんが、『ゴミをゴミ箱に入れる』ということは身に着けています。」

発表では、さらりと終わらせてしまったこの話。

実は、子どもたちへの影響はこれだけではないということを、私は知っている。というのも、前回の研修の休憩時間中、彼女は嬉しそうにこんなことを語ってくれたからだ。

「研修を受けたあとには、必ず子どもたちに話をするの。ゴミ分別も子どもたちと一緒に始めたのよ。ほら、これがその写真。最初はゴミ箱を3つ置いて、家にあるゴミを全部分別することにしたんだけどね、今では4つに増やしたのよ。だって、しばらくしてから娘にこう言われちゃったんだもの。『ねぇママ、金属ゴミを入れる箱もいるんじゃないの?』ってね。

息子はね、外に一緒に出かけたとき、道端に落ちてるゴミを見て、『ママ、これゴミだよね?ゴミ箱に入れないと!』って言って、拾ってゴミ箱に入れたのよ。」

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3. 子は親の鏡~ゴミ分別を続けるコツは、「習慣化」

このエピソードは、マイナ・ディディについて、2つの事実を物語っていると思う。

1つ目は、もちろん、この研修の目的通り、「(ゴミ分別という)アクションを、他人に伝え広げる」を実行しているということ。

そして2つ目は、口先だけでなく、ゴミ分別を、「習慣化している」ということだ。

私は、彼女の話を聞きながら、ある回の研修の中で和田さんが紹介した「子は親の鏡」という話について思い出していた。

「みなさんは、今では『家でゴミを分別しています』と言っていますね。その行動を続けるためには、習慣化する必要があります。みなさんには、子どもがいますよね。子どもというのは、親の行動を映す『鏡』です。ポイ捨てをしない子は、親の行動を見てそれを身に着けているはずです。もしあなたの子がポイ捨てをしているなら、それはあなたの行動を真似ているからですよ。子どもの行動を観察することで、自分の習慣について振り返ってみてください。」

良くも悪くも、私たちは親や周囲の大人の行動を真似て、自分の習慣を形成していく。

例えば、ゴミ箱のないところで捨てたいものがあるとき、ポケットやカバンに入れて家まで持ち帰ることは、日本人にしてみれば、当たり前のことかもしれない。

ネパールに住んでいると、バスの中で食べたお菓子の空袋を外に「ポイッ」とする人や、歩きながら小さなゴミを道に落とす光景は、珍しくない。それは別に、「ゴミを捨ててやろう」と意図的にポイ捨てしているわけではない。ただ単に、「必要のないものだから手放す」という感覚が当たり前で、無意識のうちに癖になっているのだと思う。

マイナ・ディディの子どもたちが親になる頃には、ネパールでも、「無意識」にゴミをゴミ箱へ入れる人が増え、種類別にゴミを分けて処理することが「当たり前」になるだろうか?

彼女の嬉しそうな顔を見ながら、そんな期待を抱かずにはいられなかった。

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4. 行動の伴わない人の言葉に、誰が耳を傾ける?

さて、発表の後に和田さんがオバチャンたちに念押ししたこと。

「外に出かけるとき、みなさん、必ず携帯を持って出ますね?その時に、買い物で使うためのマイバッグも手に取るのです。行動の伴わない人の言葉は、誰も信じません。もし、誰かがあなたに『ゴミを減らさないといけません』などと説教をたれることがあれば、聞き返せばよいでしょう。『あなたは、マイバッグを持ち歩いていますか?』と。」

そう、口で言うことは誰にだってできる。

でも、カトマンズのゴミ問題を解決するためには、行動が伴わなければ意味がない。

平気な顔でポイ捨てをしているネパールの人だって、(おそらく、当たり前すぎて無意識だからこそ「平気な顔」でしているのだと思うが・・・)聞かれれば、「ポイ捨てはよくない」「ゴミを減らさないといけない」と言うだろう。


しかし、言葉通り実践できている人はいったいどれくらいいるだろうか?

研修のネパール語通訳をしているソムニード・ネパールのウジャールでさえ、和田さんに

「ウジャール、おまえはマイバッグ持ってるか?」と聞かれると、

「持ってます!」と答えながらも・・・、実際には、ヨーグルトを買いに行ったさい、ビニル袋に入れてもらってきていたこともある。

私自身、ネパールで働き始めてから、自分の行動を見直すようになった。

「ネパールで何をしているんですか?」と聞かれるたびに、

「NGOで働いています。私たちの団体は、バグマティ川をきれいにするプロジェクトをしていて、家庭から出る排水やゴミによる環境汚染を食い止めるために、地元の人々の習慣を変えるための研修をしています。」といった答え方をしてきた。

新しい人と出会い、この質問をされるたび、内心“ドキッ”とする。果たして、私自身の生活はどうだろうか?と。

この仕事をしている私は、バグマティ川の汚染を減らすような生活ができているだろうか?生活の中で、少しでもゴミを減らす努力をしているだろうか?

家では、プラスチックのゴミ箱と缶・瓶用のゴミ箱、そして生ゴミ・紙ゴミを分けている。生ゴミ・紙ゴミ以外は、オフィスに持ってきて、オフィスのゴミとまとめてリサイクルに出している。思えば、日本でここまで分別にこだわったことはなかった。そして、自分の生活から出るゴミの量について振り返ることもなかった。

今、日本の生活を振り返ったとき目に浮かぶのは、様々な包装紙やプラスチック包みですぐにいっぱいになる、自分の部屋のゴミ箱。そして、何を買うにしても、過剰に包装のされた商品の並ぶ店。

日本では、道端や川にゴミ山ができている光景を目にすることはほとんどないが、かといって、ゴミがネパールより少ないわけではない。大量に排出されているゴミを燃やすだけの燃料とお金が、ネパールよりもあるというだけのこと。

 

6月3日、日本に戻った私は、八百屋さんで野菜を買った。

スーパーではなく八百屋さんを選んだ大きな理由は、個包装されていない野菜を買う選択肢があると思ったからだ。あいにく、すでにパッケージされている野菜も一部あったが、それでも、スーパーで買い物するよりかはゴミを減らすことができた。

消費者としてのこの行動は、とても些細なものかもしれない。

でも、「口だけではなく、実際にアクションを起こし、それを継続する」というのが、私が研修でオバチャンたちと一緒に学んだこと。小さなことだろうと確実に行動を積み重ねる。それなしにはネパールのオバチャンやその子どもたちに顔向けできない。

「他にも、私にできること・私がすべきことは何だろう?」と、オバチャンたちの表情を思い浮かべながら考えるのだった。

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注意書き


※1 和田さん:ムラのミライスタッフ(そして設立者)和田信明。

デモンストレーション研修について鋭いコメントを入れつつも、ジェスチャーや声のトーンで参加者を笑わすことを忘れない。すっかりオバチャンたちの心をつかみ、研修の最後の集合写真タイムでは、個別の写真撮影もねだられることに・・・。


※2 私:筆者、ムラのミライスタッフ近藤美沙子。

ネパール人にも日本人にも「ネパール人に見えるね~」と言われつつも、ネパール語の習得は遅く、オバチャンたちとのやり取りは簡単なネパール語or英語。ちなみに、マイナ・ディディの子どもたちの話は英語でしてもらった。