2016年10月11日火曜日

フィールドワークって何をするの? 村の人が見ている本当の景色を知る技術


8月11日~17日、「都市と農村のつながりを考えるフィールドワーク入門ツアー」をネパールで開催しました。

このツアーは、以前にムラのミライとソムニード・ネパールが活動していたマクワンプール郡の村を訪問して、フィールドワークの方法を学んでもらうというもの。
現地ではガティコラ村、ゴパリ村、パルン村という隣接する3つの村を訪問し、村の人たちに話を聞かせてもらいました。
スタッフの前川(以下、「プロジェクト通信」でおなじみの“キョーコさん”と表記します)が講師をつとめ、ソムニード・ネパールのディベンドラが案内人兼通訳として、私もロジスタッフ(と少しの通訳)として同行しました。

村に訪問する前に、参加者のみなさんには、自分たちの知りたいことを、どうすれば知ることができるかを考えてもらいました。
時には夜遅くまでミーティングをしながら、何をどう質問するかを考えに考え抜き、村で実践した参加者たち。
ツアー中、そんな参加者と村の人たちとのやりとりを、キョーコさんは時には助け舟を出しつつ、基本的には手や口を出さずに見守っていました。

最初に訪れたガティコラ村では、カトマンズなどの大都市に出荷するカリフラワーを収穫したばかりという農家のオッチャン、グプタさんに話を聞くことができました。

その時のやり取りの一部です。

・収穫したカリフラワーはどうやって売るんですか?売買をするような場所があって、自分たちで持っていくんですか?それとも…
―仲買人が各農家を回って買っているんだよ。うちにも来てもらうんだ。
・買い取りの値段は誰が決めるんですか?
―仲買人だね。カトマンズの市場の価格を見て、買い取り価格を提示するんだ。
・じゃあ、グプタさんは価格交渉ができないってことでしょうか?
―いいや、仲買人は一人だけじゃないから、ワシも納得できる値段で買ってくれる人に売るんだよ。

このやりとりから、仲買人の存在を知ることができました。
ですが、代金は仲買人から現金で支払われるのか、はたまた銀行振り込みなのか?
その場でお金が手に入るのか?
…といった疑問は残ったままでした。

お次は、その翌日に、ゴパリ村で女性グループのメンバーに集まってもらって話を聞いたときのやりとりです。

・グループではどんな活動をしているんですか?
 ―研修を受けたりしていますよ。
 野菜の栽培方法だったり、家畜の育て方、DVから身を守る方法、
 あとポテトチップスの加工と販売とかね。
・へー、ポテトチップスの作り方の研修を受けたのはどなたですか?
 作ったポテトチップスは販売してるんですか?
 ―私の畑では、ジャガイモを育てて売っているんだけど、
 仲買人がすぐにお金をくれるわけじゃないし、少しでも現金収入がほしくてねぇ、
 ポテトチップスの加工を始めたのよ。
・いつからですか?
 ―去年くらいかねぇ。
・どこに売りに行ったんですか?
 ―この近くの市場。でも、パッケージにしろ、油にしろ、
  私たちのポテトチップスでは競争力がないとわかったからやめてしまったわ。
  今は、家で食べるか、近所の人におすそ分けするか…。


こんなふうに女性グループの活動から、ポテトチップスビジネス、農業へと話が進んでいきました。

こうして3つの村を訪問した後、キョーコさんから参加者にこんな質問が投げかけられました。

キョーコさん「グプタさんとの話で残った疑問、"農作物の売り上げがすぐに手に入るのか"という 点、その答えになるような話がゴパリ村で聞けましたね。覚えていますか?やりとりを思い出してみてください。」

みなさんは、どのやりとりだと思われますか?

そう、ゴパリ村のオバチャンは、
 「仲買人がすぐにお金をくれるわけじゃない」って言ってたんですよね。
ガティコラ村ではわからなかったことも、他の村で得た情報でその答えを知ることができたのです。
(この記事ではヒントになる部分を取り出していますが、実際には、この他にもいろいろな話題があったので、気を付けていないとサラッと流してしまいそうなやりとりでした。)

これを皮切りに、3つの村に行って聞いた話を整理し、関連づけていき、「都市と農村のつながり」を紐解いていったキョーコさん。

キョーコさん「フィールドワークって、その場その場で話を聞くことだけじゃないんです。みなさん、3つの村でたくさんの情報を集めましたよね。この情報を整理して、分析する。これがフィールドワークなんですよ。」

その時の参加者たちの表情から、「はぁ~なるほど」という感嘆の声が聞こえてきたような気がしました。まさに「腑に落ちた」と。
私も彼女たちと同じ表情をしていたかもしれません。

参加者が、自分たちで質問をして得た情報を思い出してもらいながら、その情報を分析していくことで「フィールドワークって何をするの?」というのを解説して見せたキョーコさん。

それは参加者の学び、発見になっただけではなく、そのやり方を端で見ていたディベンドラや私にとっても
「相手の経験を引き出し、分析するってこういうことなんですよ」
と教えてくれるものでもありました。同時にその難しさも。

ちょっと違う角度から「景色が変わる瞬間」を見ることのできたツアーでした。



 (ネパール事務所 田中十紀恵




→このブログ記事に登場する前川香子と共にがっつりフィールドワークをする研修@インド