2016年12月20日火曜日

ある罠のハナシ 「収入が足りません」

ブルンジ、イラク、フィリピン、スーダン、スリランカ、南スーダン、ウガンダ、ザンビア、これらの国から計12人が参加した「参加型コミュニティ開発」研修に、初めてコースリーダー(メイン・ファシリテーター)の役を仰せつかった6週間。

これは、JICA関西と関西NGO協議会の共催で開催された研修コースで、途上国からNGO職員や政府職員を招へいして、様々なスキルや知識を身に着けてもらう、というもの。
これまでは中田さんがコースリーダーを15年近く務められた、とても由緒ある研修コースでもあります。
なので、私がどれだけ緊張していたかは、ご想像の通り。


今回の12名は、NGO職員や公務員で役職も様々でしたが、村の人たちから上がってくる意見はおねだりが多い事や、それを突き返す方法も知っていたし、実践している人たちも多かったのです(そこにビックリ)。
ですが、メタ・ファシリテーションの基本事項である事実質問について室内研修をしていた時に、次のようなやり取りがありました。


私:「ため池が必要だ、作ろう、となった時に、どういう問いかけが考えられますか?」

研修員1:「どれだけの大きさで、どこに造るか?そして、それはどうやって算出したのか?」

私:「そういう質問を実際にした事はありますか?」

研修員2:「もちろん。そうしないと、村の人たちも思いつきで言うコトが多いですからね」


私:「へぇ、すでにこういう対話をしているとは、スゴイですね」



私:「ところで、収入向上が必要だ、と皆さんの内何人かも、手に職をつける研修を提供したり、収入向上事業をされたりしていますよね。では、収入を増やさなければ、と住民の人たちが何々の研修をしてほしい、と言ってきた時にはどういう風に話を進めていっているのですか?あるいは、どのように対応しますか?」

研修員3:「何の研修をいつ、どこでするのか?」

研修員4:「どこで何を売るのか?」


研修員5:「どういう職業に就くのか?」


私:「それらの話をする前提として、知っておかねばならないことがあるかと思うのですが」

そう言って、私は「収入向上」「収入が足りない」という言葉をホワイトボードに書きだしました。
すると、政府部局でNGOの活動や財政監査を職務とする、ある研修員が言いました。

研修員6:「How much?」

研修員6:「僕がよく使っている疑問詞だよ。何百ものNGOがいうんだよね、資金が足りないとか資金援助をしてくれって。だから聞くのさ、いくらあったら足りるの?って。その根拠は?って。そしたら答えないんだけど。ははは」

私:「収入が足りない、増やさなければ、と言っても、月に10ドル増やすのか、1千ドル増やすのかで、活動が全然違ってきますよね」

研修員7:「あと、それ(金額)が無ければ、収入が『向上』できたのかどうかもわからない」

私:「(にんまり)」


それなりに現場で実践してきた研修員たちも、やはり「収入向上事業」のひとつの罠にはまっていたのです。
この他にも、もちろん収入だけでなく支出のことなどにも触れましたが、モニタリングや評価にしても、基準や共通理解のないままに「多い」「少ない」を判断すると更に罠に落ちていくよ、ということにも気付いた研修員たちでした。


前川香子   事務局次長/海外事業部チーフ)



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