皆さん常々お感じのことと思うのですが、事実質問の神髄は、講義だけではなかなか伝わりにくいものです。ですから、現場に行った際には、できるだけ自分でやってみせることにしています。
今回は、ミャンマーで活動している日本のNGOの現地スタッフに研修した際に行った、その手のデモンストレーションのひとつを紹介します。
そのNGOは、農村の女性たちを相手に母子保健についての研修を長年実施してきました。現地スタッフたちが、少し前に行った母子保健研修の参加者の家を訪ねて、研修のインパクトをモニターする現場に私が同行した際のことです。
彼らは、研修の内容を覚えていますか」、「その後実践してみましたか」など教わったばかりの事実質問を使って研修の効果を聞き出そうと努めるのですが、あいまいな答えや、こちらに迎合したような受け答えが多く、本当にインパクトがあったかどうか今一つはっきりしません。
そこで「じゃあ今度は私が少し聞いてみましょう」と、その家のお嫁さん(仮にAさんとする)に聞き始めました。
私「その研修には、一人で行きましたか?」
A「隣の人といっしょに行きました」
私「帰りもいっしょでしたか?」
A「はい、いっしょでした」
私「帰り道で、その人と研修のことについて何か話しをしましたか?」
A「いいえ、特に」
私「家に帰って何をしましたか?」
A「食事の準備を始めました」
私「家には誰がいましたか?」
A「夫と義母がいました」
私「研修のことについて何か聞かれましたか?」
A「いいえ」
私「あなたから何か話しましたか?」
A「いいえ」
私「他の誰かに話したりはしませんでしたか」
A「上の娘には、飲み水を清潔に保つ必要性について少し話しました」
同行した日本人スタッフのEさんはこのやり取りの意味がよくわかったらしく、他の現地人スタッフに「本当によかったのなら、誰か他の人に話すよね」などと私に代わって解説してくれました。
次に行ったところでは、何人かがこれを真似て同じように聞き込んでいったのですが、他の人に話したという例にはほとんど出あえなかったようです。Eさんたちは少々がっかりしたものの、これを契機に研修全体のやり方の見直しを始めたそうです。その後は、このことに限らず、これまでにも増して、研修の効果を上げるための工夫を続けているとのことです。
「研修(講義、授業、イベント、映画、コンサートなどなど)は、どうでしたか?」「よかったですか?」と聞くのではなく、「帰り道に誰かとそれについて話をしましたか?」「その後誰かに、例えば家族や友人にそのことを話しましたか?」と聞いていくというのが、インパクトを聞き出すための鉄則です。
答えが「いいえ、特に」だったら、それまでです。
逆に「はい」だったら、「誰にですか」「いつですか」「何をどんな言葉で伝えましたか」「その方は、どんな反応を見せましたか」などなどと具体的に聞き込んでいくことで、その人が何にどんなインパクトを受けたのか、さらには、何をどう伝えれば、その感動や学びをその場にいなかった他者に伝えることができるのか、などなども具体的に学ぶ機会にもなります。
実は私は今週末からまたアフガニスタンでの稲作技術普及プロジェクトの研修のために、イランに行くのですが、次回の研修のテーマのひとつが「農民から農民への普及(farmer to farmer extension)」なのです。そこでは、上記のような質問術を伝えながら、「技術研修に参加した農民が他の農民にも思わず話したくなるような研修とはどんなものだろう」と問いかけていくことになるでしょう。
(中田豊一 ムラのミライ 代表理事)
講師の技を見て、マネて・・・現場での研修は効果大 |