2015年2月10日火曜日

見落としがちな解決方法

前回のブログでは、課題解決を手助けする手法として、
「類似の課題を以前に解決した経験を思い出してもらう」というものをご紹介しました。
それまでに起きた同じような問題を、
その時その人がどうやって解決したのかを思い出させることで、
今直面している課題の解決方法に気付かせるというものです。
しかし、その人が初めてその課題に直面した、という場合も十分考えられます。

そんな時は、その人の身近な他者、
つまり同様の問題を抱えていた他者の問題解決の経験から学ぶよう促します。
同じ部署の知り合いや、他の部署の人で、
同じような問題を解決した例はないか探っていくというわけです。

ひとつ例をご紹介します。
ある国際協力団体が行ったベトナムでの幼児栄養改善事業のケースです。

栄養不良の子どもが多い村に入る援助団体は、子どもたちを集めて給食活動を行ったり、貧困家庭に食糧支援を与えたりするのが普通だった。つまり、子どもの栄養不良という問題に対して、食糧の不足という外的な要因に光を当てて解決を図ろうとする。ところが、子どもの生活状況の改善活動において豊富な経験を持つことで知られるこの団体はまったく違ったアプローチを取った。

 この団体の担当者は、村の女性の中から保健ボランティアを募り、彼女らを集めて研修を開始した。そこでまず、「子どもたちの栄養不良の原因は何か?」という質問が保健ボランティアたちに投げかけられた。女性たちは、その第一の原因は、「家が貧しいこと」だと口をそろえて答えた。例によって、貧困、つまり食糧の不足という経済的な要因が最も大きいと考えたわけである。そこで事業の担当者はたずね返した。「では、あなた方の近所には、経済的には貧しいのに、子どもたちは健康で発育がよい家庭はないのでしょうか」と。女性たちは互いに相談しあった末、「村の中に数軒そのような家が確かにある」という結論に達した。

担当者はさらにたずねた。「では、貧しいのに子どもの発育がいいのはどうしてでしょうか」。女性たちはいろいろ話し合ってみたが、誰もはっきりした答えが出せなかった。「それでは、実際に一軒一軒たずねて、秘訣を教えてもらいに行きませんか」と女性たちに呼びかけた。それに応じた女性たちに対してこの団体は、どのような聞き取りをすれば効果的に聞き出せるのかの訓練をまず行った。そして村の中に送り出した。

彼女らは、貧しいのに栄養状態がよい家庭では子どもに何をどんな風にして食べさせているかを徹底的に探った。多くの場合、それは芋のツルであったり、小さな沢ガニやアサリであったりと、村では簡単に手に入るのに、食べるのに適さないとか小さな子どもに与えるべきでないと信じられているものだった。こうして村の女性たちは自分たちの手で、村で手に入る「安くて栄養価の高い食品」を発見した。
(書籍『途上国の人々との話し方』より)

このように、村の女性たちは外からやってきた部外者からではなく、
村の中にいた「身近な他者の経験と知恵」から学んでいったのでした。
「栄養不良の原因は家が貧しいこと」という固定観念のまま話が進められていれば、
必要なものが村の外から持ち込まれるだけで、
住民主導のプロジェクトにはならなかったでしょう。

状況の改善に向かって行動を起こすのは村人自身。
なかなか気付きにくい内的な要因に気付かせ、受け入れさせることこそ、
対話型ファシリテーションの果たす、大きな役割なのです。

詳細は書籍『途上国の人々との話し方』をご覧ください。
本書籍の英語版も近日発売予定です。どうぞお楽しみに!

2014年度インターン 山下)