目次
1. ポガダバリ村までの準備
2. 同じ目線に立つ事業パートナーとして
3. パスプ(ターメリック)から始めてみる
4. 世界で一つしかない「ポガダバリ村の植物図鑑」づくり
5. インド建設よもやま話
前回、自分の村には「宝」がいっぱいあるということに気づいた村人と、一緒になって、宝となる植物資源をまとめて図鑑にするべく動き始めたソムニード(現ムラのミライ)・スタッフ。
村のおばあちゃんが知っていること、おじさんが知っていること、母親が知っていること、別々に聞いたことを一つの様式に収めて、カラフルなイラストを使った「植物図鑑」のサンプルをまずは作成。
1. ポガダバリ村までの準備
さて、ソムニードのスタッフで、同村のフィールド担当のスタッフは3名。
しかし、この3名、ソムニードに就職する前は、別のNGOで働いており、そのときの習慣がなかなか抜けない。例えば、何か調査をしようということになれば、NGOが様式を作り、その様式を埋めるのもNGO、村人は単にインタビューされるだけ。「読み書きできない村の人たちがわかって、使える魅力的な植物図鑑」なんて発想や、「村人自身が様式を作って、調査をして、図鑑を作る」なんて発想は、ゼーンゼンない。
そこで、州の公用語であるテルグ語ではなく、隣のオリッサ州で使われている言葉、オーリヤ語の新聞を見せて問いかけてみた。
「オーリヤ語は読めないよね?この白黒の文字だけのページと、写真もあってイラストもあるカラーのページと、どっちを手にとってみようと思う?」
「そりゃ、キョーコさん、やっぱりカラフルなページです。文字が読めなくても、写真とかから何のことか想像できるし、見てて楽しいいし。」
「今から作ろうとしている植物図鑑も、同じことじゃないかな?子どもにもお年寄りにも、読み書きできない人にも見て楽しいと思うようなものにするには、写真やイラストがたくさんある方がいいと思わない?」
「そうだね?」
そして、ソムニード・スタッフが村の人たちと一緒に村の中、森の中を歩いた時に見聞きした41種の植物から、ターメリック(うこん)を選んで、発表するべく準備をすること2週間。
図鑑に掲載する項目には、植物名や高さ、森や湿地など生えている場所といった基本事項の他、収穫時期や、食用・薬用などに使うものにはその作り方・保存の仕方についての項目、使わずに捨ててしまう部分、そしてその植物にまつわる説話や信条についての項目など合計12項目を設定。すべて、村の人たちから聞いたことを元にして設定した。
この「植物図鑑」は、「自分たちは何も知らない、何も持っていない。だからNGOや政府から、もらえるものはもらうんだ」と思い込んでいる村の人たちが、「自分たちにも資源はあるんだ、知識はあるんだ」と気づくためにも作成する意味はある。
このイラストは焼畑に見える?もっとアップの写真はない?と何十種類ものイラストを探すのにも一苦労。模造紙大の紙に印刷し、ホワイトボードやそれを乗せる台も準備して、いざポガダバリ村へ出発。
2. 同じ目線に立つ事業パートナーとして
朝もやの残るでこぼこ道を、頬かむりをしたりショールを巻きつけたり寒そうにしている人たちとすれ違いながら、ゆっくりとジープが進んでいく。7時半少し前にポガダバリ村に着くころには朝もやも晴れ、村の入り口にある貯水池に蓮の花が咲き乱れているのを横目に見ながら、村の人たちが待つコミュニティホールへと向かった。
コミュニティホールの入り口前には2畳よりやや広めの場所があり、そこは地面より一段高くなっている。村の人たちは、そこにスタッフ用に椅子を並べて会場の用意をしてくれていたが、椅子をのけて、村の人たちとスタッフたちが座るゴザを敷いてもらうように頼むソムニード・スタッフ。
私たちは別に偉い人でも招待客でもないのだから、一段高いところの椅子に座る必要はないし、これから一緒に事業をしていくパートナーなのだから、いつも同じ目線で話し合いたい。
ソムニード・スタッフのラマラジュが村の人に尋ねる。
「この7、8月からソムニードと何をしてきましたか?振り返ってみましょう。」
「え~と、7月にチャタジーさんと黄門様が来たね~。」
「そうですね。何をしたんでしたっけ?」
「え~と、チャタジーさんとか黄門様は、ワシが若いころはどんな草木があってどんな動物がいたのか聞いてたし・・・」
「そこらへんに生えている草が、田んぼの畦に植えると土手の強化になるってことも教えてくれたわよね。」
「最後には、一緒に村のこれからのことを考えて、森とか土とか水を良くして行こうって話したし。」
「ソムニード・スタッフの皆さんから、『村の植物について教えて欲しい』って言われたから、一緒に村や森の中を歩いたのは、ついこの前だな。」
「その時、スタッフの一人が『この村にはなんてたくさんの植物があるんだ!』ってカンドーしてたよ」
などなど、これまでのプログラムについて村の人たちに思い出してもらい、言葉にしてもらう。
村を一緒に歩いたことも、ソムニード・スタッフが村の人たちに植物について色々説明してもらったのも、これから作っていく「植物図鑑」も、すべては、村の人たちによる村の宝(資源)探し!
3. パスプ(ターメリック)から始めてみる
「それでは、今から先月、皆さんから教えてもらったたくさんの植物から一つだけ選んで、それをまとめてみましたので、ちょっと見てください。何か間違っているところ、書き方を変えた方がいい所があれば、教えてくださいね。」
ラマラジュが、項目のタイトルやイラスト、写真だけ見せながら、村の人たちに答えてもらう。
「名前はなんていいますか?」
「パスプ!(テルグ語で「ターメリック」の意)」
先生が来るまでの間、子どもたちも一緒に座って時々声を出している。
「これはいつ採れますか?」
「寒いときだよね。」
「ポンガル(1月中旬にある収穫祭)の後に、雨が降ってから採るよ。」
「ラマラジュさん、その絵(乾季、雨季、冬季)は分かりにくいよ。1月から12月まで、メジャーなお祭りの絵を並べておいてくれると、印が付けやすくなると思うんだけどな。」
オジサンがそう言いながら、他の人の賛同を求める。
「そうそう、花とか実とか、いつ植えるかとか収穫するかって、何かのお祭りの前とか後とか、そうやって考えるわね。」
「なるほど。では、そのイラストを次回までに探しておきましょう。」
ターメリックについての全12項目を、村の人たちの意見も聞きながら、一通り確認し終えた後、他の植物についてもやってみたいかどうか聞いてみた。
「うんうん、やりたい。これがあると、うちの子どもたちが大きくなったときにも役に立つだろうし。」
「薬の作り方とか、わからないときにはコレを見れば良いしね。」
「隣の村の人にも、うちの村には何があるのか、聞かれたときに見せながら話ができるよね」
ということで、一気にやる気の火のついた村の人たちは、ソムニード・スタッフに調べ方・書き方の研修をして欲しいと言ってきた。
村の人たちに、研修の参加人数、参加者、日時、場所を決めてもらい、それにスタッフが合わせるのだが、そう言われて村の人たちはビックリ。
これまでは、NGO側から日時や場所も指定されて、参加者もほぼ指名されていたから、自分たちで決めろと言われて、最初はオロオロとするばかり。日時と場所、参加人数はその場で決まったものの、誰が参加するかは、後で村のミーティングで話し合うことになった。
4. 世界で一つしかない「ポガダバリ村の植物図鑑」づくり
本格的に始まる世界で一つしかない「ポガダバリ村の植物図鑑」。
「オラが村には、役立つ草や木がぎょうさんあるやんけ」と、自らその宝(資源)に気づいた村人たちが、それを活用するために、次世代に残すために、その図鑑作りを始めようとしている。
村の人たちが、研修が必要だと思い、ソムニードがそれをサポートする。
次回からは、図鑑作成の七転八倒をお伝えします。
5. インド建設よもやま話
1ヶ月かかって作成したトレーニングセンター建設工程表にしたがって、柱、梁、天井工事と順調にすすむ工事現場。
天井部分の電気系統の工事をするため、その資材の見積もりを電気技師の人が出してくれたのだが、「ボクを店まで連れて行ってくれたら、一番質のいい資材を揃えてもらえるよ」と言うので、「それは良い」と単純に喜ぶ私の袖を、会計担当スタッフが引っ張ってささやく。
「キョーコさん、ダメですよ、連れて行っちゃ。もしも技師を連れて行くと、店の人が客紹介料(技師に支払う「お客を連れてきてくれてありがとう」料金)を上乗せしますから、こちらは余計なお金を払うことになっちゃいます!」
あやうく魔の手(?)にひっかかりそうになりつつ、「質なら僕だって知っている」という会計担当スタッフと一緒に、村の電気屋で資材を購入。
しかし配達日を過ぎても資材は来ない。電話をしても店に押しかけても「今日には配達しますよ」の一点張りで、悠久の時間のみが過ぎていく。
結局、村の電気屋の注文をキャンセルし、ビシャカ市内の電気屋で買うことにしたのだが、やはり都会、店の奥から注文した品すべてを出してくれて、1日で買い物終了。
電気系統の工事もすみ、天井部分の建設も160人強の労働者を使って1日で無事に完了。
これから壁のレンガ積みが始まるのだが、はてさて何が起きるやら。
6. 注意書き
キョーコさん=前川香子。アシスタント・プロジェクト・マネージャーという肩書きに負けじと、忙しい プロジェクト・マネージャーの代わりに、インドのエンターテイメントの情報収集にも力を入れる。この通信の筆者。
ラマラジュ=前JICA事業の通称「PCUR-LINK事業」でもお馴染み。村の人へのファシリテーションのほかにも、フィールドスタッフに喝を入れたり、工事現場の監督をしたり、VVKのオバチャンたちの相手をしたりと忙しい日々。
チャタジーさん=本通信第1号にも登場した、森・土・水の専門家。コルカタを拠点にするNGOの代表者。
プロジェクト・マネージャー=原康子。あちこちに動きまわるソムニード・スタッフをまとめ上げ、事業を進めつつVVKのオバチャンたちの相手もする毎日。