目次
1. 建設作業ははかどるが
2. 不安ゆえの計画案
3. 彼らは無力ではないし、ソムニード(現ムラのミライ)もサンタクロースではない
雨期到来の遅さ、降雨量不足は、毎年のように報じられているが、今年もやはりインド各地はもとより、アーンドラ・プラデシュ州でも8月になっても雨が降らず、田植えができなかったり去年より遅くなったりしていた。
マーミディジョーラ村(以下、マ村)、ポガダヴァリ村(以下、ポ村)、ゴトゥッパリ村 (以下、ゴ村)でも、延々と雨雲を待ち望んだ果てに、オジサン・オバチャンたちの祈りが通じたのか、ようやく雨が降り出し田植えができるようになったのも8月半ばから下旬にかけて。
青年ガンガイヤ率いるマ村のある集落で建設した貯水池は(※よもやま通信第14号参照)、一滴一滴、雨水をしっかりと溜め込め、周囲の木々を美しく水面に映している。水門の開け閉めを管理しながら、田んぼに常時水が張ってある様子は、去年までは見られなかった風景だ。
1. 建設作業ははかどるが
そんなマ村と対照的に、ポ村では雨は降るものの全く足りず、稲の苗が植える前に乾ききってしまう水田もあったが、辛抱強く時を待つ間、村の人たちは活動計画を前倒しにしながら、山の斜面に石垣を建設したり、小川に石堤を作ったりと、着々と建設作業を進めていた。
7月下旬に、作業の進捗状況を見ようと、再びポ村へとやって来た森林・水利事業の専門家チャタジー氏(※よもやま通信第1号&第9号に登場)から、石堤の形や大きさにちょっとした改善点をアドバイスしてもらい、喜び勇んでその作業にも村人総出で取り組んだ。
そして9月半ばに入って、計画していた建設作業のほとんどが予定よりも早く終わりそうなのに気付いたオジサンたち。植林作業への支払いを終えて帰ろうとする筆者たちを呼び止めて、ためらいがちに話し出した。
「黄門様に、新しく貯水池や石垣を建設する許可をもらいたいんですけど、いいですかね?ラマラジュさん」
「許可をもらえるかどうかはわかんないけど、活動計画はちゃんと作らなきゃダメだよ」すると、自信満々にジャジャーンと模造紙を広げるオジサンたち。とりあえずは、作業名や作業責任者、期間、場所、大きさ、なぜそれが必要なのか、必要経費、という項目が、きちんと書き込まれている。
「灌漑したいから5000立方メートルの貯水池って書いてますけど、なぜ4500や6000立方メートルじゃダメなんですか?」
「それはですね、キョーコさん、その土地の縦横の最大限の大きさがそれだけで、深さもそれくらいあればまぁ十分かな、って感じで・・・」
「黄門様に突っ込まれますよ。あと、なぜこの作業を今の活動計画に盛り込んでおかなかったのか、って聞かれますよ」
「なんでって、なんででしょう?ラマラジュさん?」
黄門様に見せる前に、予想外に色々と突っ込まれてアワアワと慌てふためくポ村のオジサンたち。とにかく、もう少し活動計画を詰め直して、黄門様に掛け合うことにしたようだ。
一方、マ村のダンダシたちは、中央政府スキームでの賃労働もなくなり、田植えも終わりかけたしで、そろそろ懐が寂しくなり始めたぜ、とばかりにイソイソとソムニードを訪ねてきた。
「お久しぶりです。マ村は何の作業を始めさせてもらったらいいでしょうか?」
と、揉み手をするオジサンたちに雷が落ちる。
「阿呆!お前さんたちが作った活動計画だろう、ワシらに聞いてどうする?何の作業があるかなんて、お前さんらが知っとるじゃろうが」
「それがですねぇ・・・隣の州に出稼ぎにいった村人が、荷物と一緒に活動計画も持っていってしまって、村に無いんです」
エヘヘと頭をかくオジサンたちに、開いた口が塞がらない黄門様。
自分たちで何の作業をするのか決めてから出直して来い、と一喝を食らい、事務所にあるコピーをもらってスゴスゴと村に帰っていったオジサンたちは、数日後に再びやって来た。
オジサンたちが口を開く前に、黄門様からお達しが。
「一度に色々と作業を始めてはいかん。一つの作業をまずはやり通してからじゃないと、労賃も支払わない。お前さんたちのやる気を見せろ」
ははーっと印籠にひれ伏すオジサンたちは、雨で土が柔らかくなっている今しかできない作業、来年の植林準備のための作業を自分たちで決めて、黙々とやり始めた。
4つの山が活動計画に挙げられているのだが、ダンダシのリーダーシップは再び発揮されていくのか、オジサンたちのやる気はホンモノなのか、筆者たちも見守っている。
2. 不安ゆえの計画案
そして、再びポ村。
オジサンたちは、練り直した活動計画と共に黄門様を村で迎えて、貯水池やら石垣やらどこにどんな大きさで造りたいのか、切々と語り始めた。
結局は、今年は田植えが少ししかできず収穫も見込めない、イコール、現金収入が減るという不安と、もう活動計画のほとんどの作業が終わりかけている、イコール、労賃収入がこの先なくなるという不安、色々な不安が重なっての思いつくままの計画案だった。
「黄門様、お願いですぅ。貯水池を造らせてくださいよ」
「地形的には、水を集めやすく良い場所だが、かんがい用にするには水田から遠すぎる。それより、ここに保水効果を高める池を造った方がよかろう。」
と、代替案を提案する黄門様。
「でも、それじゃぁ労賃が足りません。このままじゃぁ、ワシら、出稼ぎに行ってしまいますよ」
「労賃がもらえなくなったら、ワシら、食うものも困ります」
「収入がなければ、子どもらも学校に行かせられん」
「やっぱり、出稼ぎに行かないと。そうなりゃ、村からは男が居なくなるぞ」
「おぉ、困った、困った」
と、お涙頂戴作戦に乗り出すオジサンたち。
「おぉ、出稼ぎに行きたきゃ行きゃいいさ。ワシらは、活用できないようなものは造らせん」
「そんなご無体な、黄門様ぁ」
そして一喝とともに飛び出す印籠。
「なにを勘違いしておるか!ワシらはお前さんたちに何を教えた?何が必要かを探り、それを実行するために必要な活動計画作りと言うものを教えたろうが。労賃を恵んでやるための活動計画とは違うぞ。
貯水池だけじゃなく、石垣だろうがナンだろうが、それが必要なら資金源はいくらでもあるじゃないか。ソムニード、中央政府、州政府、少数民族対象事業・・・
自分たちの将来の活動計画じゃろう。どこと何の活動をするのか、自分たちで決めるのが活動計画じゃ。ただの労賃稼ぎのためではないぞ」
黄門様の言わんとすることが分かる青年リーダー、ソメーシュは、年長の村人たちを前にして決断した。
「わかりました。色々と新しく計画を立てましたが、黄門さまのアドバイスどおり、無理なかんがい用の貯水池は造らないことにします」
3. 彼らは無力ではなく、ソムニードもサンタクロースではない
ポ村は、田植えが上手く進んでいれば、決してこのような新しい活動計画は提案してこなかっただろう。
マ村やゴ村は、運よくそこそこ田植えができているから、ポ村のような要請はでてこない。
彼らの現金収入減少の不安は良く分かる。
だけど、ソムニードそしてこの事業は、サンタクロースのように欲しいままのプレゼントを単純にあげるものではないし、オジサンやオバチャンたちも、手を差し出してただ待っているだけの村人ではもう決してないのだ。
ポ村も、労働に携わった全ての村人たちが、貴重な労賃から今まで一定金額を、将来村全体で使えるようにと共同の資金として貯蓄してきた。マ村、ゴ村も同様に貯蓄してきているが、これからどのように使っていくのか、収入源は労賃の一部だけに頼っていいのか、オジサン・オバチャンたちは考え始めている。
そして、そろそろ、事業が終わってからでも続く村の将来のための活動計画を作る、準備体操が始まる。
肉体労働が多かったこの2・3ヶ月とは対照的に、これからは久しぶりに脳みそ沸騰の研修が待ち受ける。
続きは次号で。
注意書き
黄門様=和田信明。特定非営利活動法人ソムニード(現ムラのミライ)の代表理事。
ラマラジュ=ソムニード・インディアの名ファシリテーター。
キョーコ=前川香子。本通信の筆者。