2014年10月14日火曜日

基準は何ですか?

私(實方)が現場で少しずつ研修を任さられるようになって、事実質問の中で特に気を付けなければならないと実感したのは「何(what)」の使い方です。「これは何ですか?」の質問に代表されるように、「何」を使った質問は事実を聞く出すために非常に有効な質問になります。一方で、「何(What)が問題ですか?」のように、それが事実のようにみえて、相手の考えを聞いてしまうこともあります。


以前、ある村で種の保管に関してのルールをまとめる研修がありました。村人たちが各家庭から種を持ち寄り、保管に適した種を選んで保管庫で管理して、今後必要に応じて種の貸し借りを行います。この種の貸し借りのシステム(種子銀行またはシードバンク)を整備することで、村人たちは外部からの現金調達をすることなく、必要な種を村の中で賄うことを目指しています。村人たちは、種の収集、管理、貸付、回収、という一連の流れに関するルールづくりを行いました。村人たちは、私たちより遥かにすぐれた農業の知識と経験を持っています。私たちの役割は、その経験をルールとして定める手助けをすることです。

この研修で、あるスタッフが、「種選びの基準は何ですか?」と村人たちに尋ねました。

すると、村人たちは、色や大きさなどといういくつかの項目をあげました。このやりとりを聞いていた私は、「基準は何ですか?」という質問で聞けるのは知識であり、私たちが聞くべきなのは経験のほうだと判断しました。

そこで私は「種を選ぶ作業で何をしましたか?」という質問をしました。

このときの狙いは、知識だけではなく自らの経験に基づいて「保管に適した種」の選び方を明確にすることです。その質問に対して、村人たちは「大きすぎる種と小さすぎる種は除いた。」というように、具体的な経験を話してくれました。そして、そういった経験がそのまま種選びのルールとして適用されました。


 答えだけは聞けばさほど違いの見えない場合も、「知識」を聞くのと「経験」を聞くのとでは、その意味合いが全く異なります。質問を事実・考え・感情の三種類に分ければ、知識は考えであり、経験は事実です。つまり、人に何かを思い出させるためには、知識ではなく経験を聞く必要があります。そして、「何(what)」という言葉は、使い方次第で知識を聞く質問にもなれば、経験を聞く質問になります。今回は「何(what)」ですが、おそらくこのように事実を聞いているようで、考えを聞いてしまう質問もあるように感じます。今後も、この一見変わらないように見えても、意味が大きく違う質問に気を配りながらファシリテーションスキルを高めていきたいと思います。




(インド事務所駐在員 實方博章