2019年8月15日木曜日

セネガルからのお便り 〜プロジェクト&研修報告以外のお話編 その1

はじめに:「報告書」ではない理由を800字以内で述べる


皆さん、こんにちは。

このお便りは私、原康子が7月2日から8月28日までNGOスタディ(注1)という研修制度 で訪れているセネガルからお伝えしています。
アフリカ大陸最西端の地が見えるところにも行きました
もう帰国してしまってから、皆さんにお便りしている可能性大なのですが、そこはセネガルと日本の1万4千キロという距離と、時差(注2)のせいということにしておいてください。

「NGOスタディって何?」
「セネガルで何の研修を受けているの?」
「研修とか言って、ホントは、夏休み(ヴァカンス)なんじゃないの?」
という疑問をお持ちの方もおられると思います。

帰国後、真っ黒に日焼けした私の姿をみた方は、その疑問が確信に変わるかもしれませんが、研修のお話は追々することにして、今回はセネガルでの研修やプロジェクト報告以外のお便りを中心にお伝えします。

それには理由が2つあります。

一つ目の理由は、日本も暑いでしょうし、セネガルも暑いので、ちょっといつもの報告以外の、のんびりとしたお話を夏休みスペシャルでお伝えしたかったという点。
スーパーの魚売り場の氷に突き刺さるセネガル国旗カラーのパプリカ


二つ目は、私の反省からくるものです。

インドやネパールにいた頃から、そしてどこの国に仕事に出かけても、「ワタシは○○プロジェクトの担当でこの国にいるのだから」と、プロジェクトのことばかり書いていましたし、プロジェクトのことで本まで出していました(注3)。

「○○プロジェクトでその国に行っているのに、それ以外のことをやっているのではないか?」と思われてはダメだとか、「仕事をしている(研修に参加している)アピールをしなければいけない」とか、自分でプロジェクト以外のことを書くこと、写真を撮ることなどに、勝手にブレーキをかけていました。もちろんそれは、税金や寄付金を使わせていただいているプロジェクトであれば、当然のことです。今回のセネガルでの研修もきちんと研修報告書を提出し、公開もする予定です 。(注4)

しかし、その国に行ってみなければわからない、見たこと聞いたこと、出会った人のことなどは、こうした報告書には全く書けません。

というのも報告書というは、事前に枚数や字数が決まっていて、さらに渡航する前から計画書が決まっていて、さらにその計画書にあること以外を書くのは歓迎されないことが多いのです。

長年、そんな報告書ばかり書いてきたものですから、プロジェクトや研修報告以外のことは書かないようにしようという体質になってしまったのだと思います。そんな反省から、今回はいさぎよくプロジェクトでもなく、研修でもない、セネガルで見聞きしたことをお伝えしようと思ったのです。

注1 外務省「NGOスタディ」というNGOスタッフへの研修制度があり、それに応募したところ「アンテルモンド」というセネガルの団体で、「循環型有機農業をテーマにした住民参加型の研修が組み立てられるようになる実地研修」を受講できることになりました。セネガル滞在中はダカールから車で2時間ほどのンブール県内の民宿に滞在しながら、アンテルモンドが所有する3ヘクタールの農場に通っています。

注2 セネガルと日本の時差は9時間。日本のお昼の12時は、セネガルの午前3時です。

注3 原康子著「南国港町おばちゃん信金〜支援って何?おまけ組共生コミュニティの創り方〜」新評論2014年

注4 NGOスタディの報告書は外務省のページで公開予定です。

1)やっと本題、セネガル便り:最初の3回は綾乃さんのこと

前置きが長すぎまして、読者の皆さんがお疲れになったような気がします。お待たせしました、やっと本題です。最初にご紹介するのは、菊地綾乃さんのお話です。

2017年5月からムラのミライのセネガル駐在員としてダカールで暮らしつつ、プロジェクト地のンブール県まで車やバスやタクシーや馬などを乗り継いで通っています。

秋田県の出身で、イギリスの大学院の修士号を持ち、ベナンやバングラデシュでの海外経験があり、福島の障害を持つ方の施設でのボランティア経験があり、フランス語、英語、ウォルフ語(セネガルで使われている現地語)、秋田弁を巧みに操り、関西弁リスニングを難なくこなします。

年間330日ほどセネガルに赴任しているので、京都に住んでいる私はこれまでなかなか綾乃さんと一緒になる機会がありませんでした。私はセネガルのプロジェクト担当でもないので、綾乃さんとメールでやりとりすることも少なく、年に1回の総会前後の会議で会うくらいでした。

こちらに来て、1日、2日と綾乃さんと一緒にいる時間が長くなりにつれ、「なんと、素敵なひと!」ということがわかり、まず3回にわたって綾乃さんのことをお伝えします。その1は、「通訳と綾乃さん」です。その2は「小銭入れと綾乃さん」、その3「バッグと綾乃さん」と続きます。

1−1)通訳と綾乃さん


言葉が出来ない私


セネガルでは、フランス語が公用語です。

しかし、私はフランス語がさっぱりできません。

「そんな地で研修なんて出来るの?」と呆れる方もおられるでしょうが、研修中は通訳してもらっているので安心です。問題は、それ以外のときです。

滞在中の民宿のスタッフにちょっとした相談があるとき「ガラスのコップを割ってしまったのでホウキとちりとりを貸してほしい」とか、アンテルモンドのスタッフに「A4サイズの紙がほしい」などの用事を頼むとき、お店で「おつりがどうも少ない?」と感じたときなど、そばに綾乃さんがいると、ウォルフ語に通訳してもらうことになります。通訳してもらいながら、ふと自分がインドに駐在していた頃を思い出しました。

蘇る20数年前の私


当時、ちょうど今の綾乃さんの年齢くらいだった私は、インドのムラのミライのプロジェクト地を訪れる日本人の方の通訳をすることがたびたびありました。よくテルグ語(インドで使っていた現地の言葉。日本でも公開されたテルグ映画「バーフバリ」で使われている言葉)や英語で通訳していました。綾乃さんの流暢なウォルフ語に比べれば、かなりいい加減な英語やテルグ語でしたが。

綾乃さんは会う度に、セネガルのカラフルな民族衣装を着ているのですが、そんな民族衣装を着て、通訳してくれる姿も、インドの民族衣装(サリーとかパンジャビドレスという上下)ばかりを着ていた当時の自分の姿に重なります。洗濯の繰り返しで、色の褪せた民族衣装のよれっとした感じ、現地の食べ物ばかりをモリモリと食べる姿も自分の姿と重なるのです。

ただ、つるつると小麦色に焼けた綾乃さんの姿と、カサカサと日焼けした現在の私の姿はさっぱり重ならないのですが、それはさておき。
アフリカの布を使った服を着る綾乃さん
上の写真に並べて「20年前のインドの民族衣装を着る筆者」の
写真を載せようとしましたが、デジタル写真でないのと
その他の理由で思いとどまりました


20数年前の自分の姿が綾乃さんに重なると同時に、私に通訳されていた日本から訪問者の方たちの姿は、現在の自分に重なります。

「ああ〜日々の小さなことが、なかなか相手に伝わらなくてもどかしい〜。」という一方で、「あれこれ面倒な交渉も、言葉が出来ないと、通訳さんに頼れて、楽ちんだなあ」とか。

今更どうにもなりませんが、綾乃さんに通訳してもらいながら、反省もします。

水のボトル一本という買い物も、お店まで一緒に付いてきてくれて、丁寧に通訳してくれる綾乃さん。彼女が私にしてくれるように、20数年前、日本からの訪問者の皆さんに通訳できていただろうかと。今後、セネガルで私が綾乃さんに通訳することはないでしょうから、日本や他の国に行って通訳をすることになったときは、綾乃さんを思い出そうと思うのでした。

携帯電話で日本語


綾乃さんはセネガル赴任してから習い始めたというウォルフ語が、とても流暢です。彼女の携帯電話は鳴りっぱなし。かかってくる電話の9割くらいは、ウォルフ語でやりとりをしています。

あるとき、珍しく日本語で電話をかけているのを見ました。「こんにちは、ムラのミライのきくちあやのです」と言いたかったようなのですが、舌を噛んでしまい「けくちあやのです」と言っていました。「ウォルフ語にない発音が、難しくなってるんだ」と、とても感心しました。「セネガルの人には、Kが続くKIKUCHIという発音が難しくて、なかなか名字は覚えてらえないんですよ〜」と話していたのを思い出したからです。

私が一緒のときは、なるべくウォルフ語と日本語の通訳をしてもらって、日本語を思い出してもらおうと思いました。「要するに、フランス語もウォルフ語を覚えるのが面倒なのでしょう?」という読者がいたら、それは考え過ぎというものです。
綾乃さんに村で通訳してもらう筆者

本屋でウォルフ語の辞書を見つけて、嬉しそうな綾乃さん


1−2)小銭入れと綾乃さん

ある日、ダカール市郊外にあるアンテルモンドの事務所に向かう途中、大渋滞に巻き込まれました。クーラーの効かない車の窓を全開にして、少しでも風が入ってこないかと外を見ていると、渋滞で数センチずつしか動かない車と車の間をぬうようにして、次から次へ物を売りの人たちがやってきました。売っているものは、バナナ、みかん、カシューナッツ、車のワイパー、ティッシュペーパー、水、大きめの扇子、USBケーブル、洗剤など様々です。どんな商品が売られているのかと、飽きずに見ていたのですが、言葉が出来るわけでないので、ただ見ているだけです。

インドにいた頃など、物売りの人と目が合おうものなら、ものすごい勢いで「買え、買え」と迫られ、買うまで車のあとを付いてこられることもしばしばだったので、なるべく物売りの人と目を合わせないように、最初は商品を見てないふりをして、見ていました。しかし、セネガルの物売りの人たちは、物静かに「買ってくれないかな?」という感じで近づいてきて、2回ほど「いまは要らないです」と手振りで伝えれば、すぐに次のお客さんを探しに行くので、とてもあっさりしていました。

綾乃さんは、物売りの人たちに話しかけられれば、「みかんは1キロいくら?」とか「このUSBメモリーはどこの国の製品?」「この扇子は素敵だけど、大きすぎて、バッグに入らないから要らない」など、ウォルフ語で話し始めます。渋滞を利用しておしゃべりを楽しんでいるかのようでした。

こうした物売りの人たちに混じって、子どもの物乞いがヨーグルトの空き容器を片手に、車の窓から小銭や食べ物を恵んでほしい、と綾乃さんに話しかけてきました。話しかけれてすぐ、小銭入れをカバンから取り出し、子どもに小銭を渡す綾乃さん。小銭をもらって去っていく子どもの背中に向かって「車があぶないから気を付けなさいね」と一声かけ、また小銭入れをバックに戻したのです。この一連の流れに全くのムダがなく、あまりに自然な動きで、私は心を打たれたのでした。最後の一声など、まるで知り合いの子どもに声をかけるような様子でした。


物乞いする少年の後ろ姿(注:ダカール市内の渋滞のときではありません)

その後、その小銭入れが素敵だったことを思い出し、後日、見せてもらいました。2011年の東日本大地震の後、福島の障害者の方の施設でボランティアをしていた際、その施設で作られた小銭入れを買ったのだそうです。

思えば、2019年6月、ムラのミライの2018年度活動報告会のときも、綾乃さんの、ぽつりとつぶやくひと言に感動したことがありました。報告会は綾乃さんのセネガル事業の報告から始まったのですが、小さなお子さんが椅子に座っているのに退屈し、会場内をよちよちと歩き始めたのでした。その時もサラリと「今日は、小さいお子さんにも参加してもらえて、心が癒されます」と一声添えてから活動報告を始めたのでした。そのあまりに自然なひと言に、他の参加者もほっとして、報告会が和やかな雰囲気で始まったのでした。

さて綾乃さんが小銭を少年に渡した自然な姿に感動して以降、自分も実践しているかというと、そういうわけではなく、小銭をあちらのカバンのポケットに入れてはなくし、こちらの服のポケットに入れてはなくし、という具合に、まず小銭がなくなる状態をなんとかせねばなりません。おそらく小銭入れを持ったら、その小銭入れをなくしそうです。ムダのない動きで、物乞いの少年に小銭を渡し、「気をつけなさいよ」と声をかけられるようにはなかなか時間がかかりそうです。しかし、物乞いの少年から「おばちゃん、ちゃんと同じところに小銭をしまっておかないとダメだよ」と注意される日は近そうです。
綾乃さんの小銭入れ

1−3)バッグと綾乃さん

ムラのミライのスタッフとしては1人でセネガルに駐在する綾乃さんは、やっぱり仕事が多くなってしまいます。もちろん綾乃さんだけがセネガルの事業をしているわけでなく、アンテルモンドのスタッフもファーマーズスクール(私が研修で通っているところです)のスタッフもとてもたくさんの仕事を同時にこなしています。

しかし、フランス語、ウォルフ語、日本語を扱い、パソコンもスマホも使いこなせる人は綾乃さん以外におらず、結果、1人で何役もこなすことになっています。

おそらくアンテルモンドの事務所中で一番忙しい人ではないかと思いますし、ムラのミライのスタッフの中でも抜群に仕事量の多い人です。一方、抜群に仕事量が少ない代わりに、抜群に口数が多い私。研修の合間をみつけては、何かと綾乃さんを手伝おうとするのですが、手より口が動いてしまい、綾乃さんの仕事を減らすどころか、逆に増やしてしまっている感が大です。

それはさておき、綾乃さんの仕事量の多さは持ち運ぶバッグの数からも伺えます。

最初の写真は、8月に一緒に村に行った時のことです。ファーマーズスクールのスタッフが綾乃さんと同じ村に行く、というので私も付いて行きました。その時の荷物の数が3つ。
荷物が3つのとき

これまでの20数年間、私も様々な国で、何人もの人たちと村を訪れましたが、畑の中で村人の話を聞くという日に、3つの荷物を抱えて行く人は綾乃さんが初めてでした。

「何が入っているの?」を聞くと、「もしものときに、この書類も、あの書類も必要なるかもしれないから」と、書類棚ひと棚分相当のファイルや書類をバッグに入れて持ち歩いているようなのです。この日は、荷物が3つでしたが、畑を歩く予定だったので、綾乃さん的には少なめの日だったそうです。

小柄な綾乃さんなのですが、軽々と3つの荷物を肩にかけて、畑を歩いているのをみて、「1つ持とうか?」と気軽に声をかけたのですが、肩にぐっと紐が食い込む重さで、断念。綾乃さんは「大丈夫、大丈夫、今日はそんなに重くないですから」と言うのを、今度は村の人が見かねたのか、1つ持ってくれました。

話はそれますが、セネガルに来てからというもの、何かと相手を見上げて話しをする機会が増えました。「実は、私も小柄な方だったのだ」と人生で初めて思う日々です(筆者の身長は170センチ)。

話を元に戻して、次の写真はこれからンブールの宿を発って、セネガルに戻るという日の綾乃さんの写真です。
荷物が6つのとき

この姿をみて、畑を歩いていたとき、「今日はそんなに重くないですから」というひと言に納得。私にはとても重そうなこの大荷物なのですが、この日も、荷物を6つも持っていているのに、なんとも爽やかに、軽々と歩いていく姿をみて「ただ者ではない綾乃さん」としみじみと思いました。

さて、ここまで、綾乃さんのことを3回続けてお知らせしましたが、続いて綾乃さんには登場してもらいつつ、今度はアンテルモンドのスタッフの皆さんのことをご紹介しましょう。テーマは「働き方改革」です。

(ムラのミライ 研修事業チーフ 原康子