2019年8月21日水曜日

セネガルからのお便り 〜プロジェクト&研修報告以外のお話編 その2

最先端の働き方〜アンテルモンドの事務所


原康子が2019年7月2日から8月28日までNGOスタディという研修制度で訪れているセネガルからお伝えしているシリーズ記事です。(その1はこちら

綾乃さんのお休みはいつ?

夜の9時を過ぎると会社中の電気が消えたり、休日にパソコンにアクセスしようとしても自動でログインできないという話を聞いたことがあるという方は多いのではないでしょうか。

ムラのミライでは、以前から日本とセネガルとの時差9時間に関わらず、日本が昼間の時間に綾乃さんからメールが来るのを不思議に思っていました。セネガルなら、真夜中とか早朝とかの時間なのです。

「一体、いつ休んでいるのかしら?」

1人だけの駐在員で、セネガルの皆さんとの仕事、日本語での報告の仕事も、何もかもやらねばいけない状況ではあるものの、働き過ぎが以前から心配されていました。

今回の私に与えられたセネガルでの裏ミッションは、綾乃さんの働き過ぎを阻止することも含まれていました。

ムラのミライは、セネガルのカウンターパートNGO「アンテルモンド」の事務所を間借りしているのですが、綾乃さんの部屋ではいつもパチパチパチとパソコンをタイプする音が聞こえてきます。しかし、他の6部屋からは、話し声ばかりが聞こえてきます。

アンテルモンド事務所の入り口
2階が事務所になっていて、会議室を含めて6部屋あります。綾乃さんの部屋はメラニーさんという女性スタッフ(アンテルモンド副代表)と一緒です。

パソコンに集中する綾乃さんに、メラニーさんをはじめ、ママドゥさん(アンテルモンド代表)、その他のスタッフもしょっちゅう、声をかけてくるそうです。
 「あやの、5分に1回は他のスタッフと話さないとだめだよ。」
 「パソコンばっかりみてないで、散歩でもしておいで。」
 「あやの、ご飯できたよ。」
 「ちょっとランチに行くなら、僕の分もついでに運んできて」
 「今日は夜遅くに3階のゲストルームにお客さんが来るから、綾乃も一緒にいて、話しを待っていてよ」などなど。

綾乃さんは、かなり早い時間に事務所にやってきて、かなり遅くまで事務所で働いている唯一のスタッフ。ママドゥさん、メラニーさんからのあれこれ相談を受けて、頼りにされているだけでなく、会計担当スタッフ、警備員さん、運転手さん、料理担当のスタッフまでみんなが綾乃さんを頼りにしている様子でした。

これが実は彼女の仕事時間を長くしている一因でもありそうですが、それはともかく、アンテルモンドの最先端の働き方をご紹介します。

最先端のアンテルモンドの働き方


まず、何時から何時まで終業時間、お昼みは何時間という決まった勤務時間がありません。

代表のママドゥさんが、たった1人で暗くなるまで、残業しているような、新聞を読んでいるような感じで事務所に残っていても、他のスタッフはさっさと好きな時間に帰宅します。

午前10時頃に出勤し、お昼休みもなく夕方まで仕事をする人もいれば、午前11時頃に出勤してきて、半分仕事の話をして、あとの半分は政治と親戚の話をして、午後2時には帰宅してしまうスタッフもいます。毎日1人1人の働き方が、バラバラなのです。

私も、アンテルモンドの運転手さんに「今、ちょっとプールに入っているから、迎えに行くの30分後にしてね」と言われたり、メラニーさんに「今日は親戚のお祝いパーティがあるから、帰りにみんなで寄っていきしょう」と言われ、突然パーティに連れて行ってもらったりしました。

この自由な働き方、私には最先端に思えたのです。

インドとも、ネパールとも違う、アンテルモンドの働き方の自由さは突出していました。

特に3年間日本で暮らし、久しぶりに2カ月間という長い期間、セネガルに滞在しているから余計そう思えるのかもしれません。連日のように日本のニュースで耳にする長時間労働、過労、孤独などの言葉を忘れてしまうようなアンテルモンドの働き方です。

あるとき、日本からアンテルモンドを訪れた人が「何時に帰宅されるのですか?」と何気なくママドゥさんに聞いたら、「疲れたときに帰ります。」との返事。

また「昼ご飯は何時に食べるのですか?」と聞いたら、「お腹が空いたときに食べます」との答え。
こうした答えはまさに「その通り!」と思いました。

アンテルモンド事務所の会議室でママドゥさんとミーティング

綾乃さんのお休みをつくる

そんな自由な働き方のアンテルモンドの中でも、というかそんなアンテルモンドだからこそ、なかなか綾乃さんの仕事が減りません。

働き方最先端のような自由なアンテルモンドのスタッフのようにはいかなくても、何事も「やってみせる」ことが大事だと、率先して綾乃さんと一緒に息抜きをすることにしました。買い物に行ったり、海で泳いだり、おいしいものを食べたりなど、休む、休む、働く、休む、休む、働くというのを、徹底的に肩の力を抜いてやってみました。

ひと月近く経ったある日、綾乃さんがつぶやきました。

「あるとき久しぶりにセネガルの音楽を聴いたらですね、音楽があることを忘れて仕事してた自分に気づいてしまったことがあったのですよ。音楽っていいなあ〜としみじみ思ったのです。私、そんなに肩に力を入れて、仕事しなくてもいいんだな、と原さんの働き方をみて、音楽に気づいたときのことを思い出しました」

「おお〜肩の力を抜くというのをやってみせた甲斐があった!」と喜びつつ、20数年前、1人でインドに駐在していた頃の私の姿がまた重なりました。インドでの駐在をはじめて、最初の5〜6年間は綾乃さんのように仕事、仕事、仕事という時期がありました(今の綾乃さんの5分の1の仕事量やスピードだったかもしれませんが、私にしては猛烈な仕事量、高速スピードでした)。今の駐在2年目の綾乃さんの「頑張ってしまう」働き方は、身に覚えのあることなのです。

その当時の反省から、数年かけて、一生懸命、肩の力を入れないようにしてきましたので、50歳に近づいた現在では、かなり肩の力を抜くことが出来るようになりました。しかし、今度は一体どこに力をいれるかわからなかったり、力を入れたいときには肩こりがひどかったりと、脱力状態が続いています。

セネガルに来て、少し脱力状態から回復するかな、と期待したのですが、アンテルモンドの最先端の働き方を見せられ、「私などまだまだ〜」と実感。さらなる脱力状態を目指そうと思っているところです。


(ムラのミライ 研修事業チーフ 原康子