2021年4月27日火曜日

「ちゃんと」薬はまいたのに・・・

とある国の農業局職員と農家の会話です。
農業局職員は、新しい害虫忌避剤を普及させるための研修を農家に対して実施しましたが、農家からまだ虫が出ると知らせが入りました。
そこで、きちんと薬剤を散布しているのかどうか、確認するための質問を試みます。

役人 こんにちは。この前、唐辛子について私が指導した有機殺虫剤は撒きましたか?
農家 撒きましたよ。
役人 原材料は何を使いましたか?
農家 いわれた通りに(詳細は言わず)。
役人 30倍の水で薄めて、と研修で伝えましたが、その通りにしましたか?
農家 しました。
役人 効きましたか?
農家 効いたところもあるけど、まだ虫は出るね。なんで完全に効かないんだろう?
役人 ちゃんと葉っぱの後ろまで撒いておいてくださいね。

このような農家とのやり取りでは、「研修で指導したようにやっているようだけどなあ・・・」とあやふやな感じのまま、最後は職員からの指導で終わる会話になってしまっています。
そこで、メタファシリテーションのセオリーに従って聞いてみると、次のようになります。

役人 こんにちは。今日もインゲンがまた一段と成長していますね。立派ですね。
農家 はい、脇芽の摘心もやってるので、蔓の伸びがすごいんです。
役人 唐辛子の個所を見てもいいですか?。
農家 はい。(移動して)この前、教えてもらった有機殺虫剤は撒きましたよ。でもまだ虫がつくんです。
役人 そうですか。最後に撒いたのはいつでしたか?
農家 今朝です。
役人 薬剤は何から作りましたか?
農家 教わった通りに(詳細を言う)。
役人 何の道具を使いましたか?見せてもらってもいいですか?。
農家 これです(小さな手桶)。これのここまで原液を入れました(指で指しながら)。
役人 なるほど、ちょっとペットボトルで容量を量ってみましょう。だいたい100ミリリットルですね。これを水と混ぜたんですよね?何を使いましたか?
農家 これです(噴射器)。これの半分まで水を入れました。
役人 5リットルの容量の内2.5リットルですね。0.1リットルの原液に2.5リットルの水。この前、私がどれくらいに薄めるか言ったことを覚えていますか?
農家 何か違ったかな。よく覚えていないな。もう一回教えてくれ。
役人 手桶のここまで原液を入れたら、この噴射器の半分より少し多いくらい、水を混ぜてください。原液の30倍です。
農家 なるほど。
役人 撒いた時は、どのように噴射しましたか?
農家 (葉っぱの上に噴射器の先を向けて)こうやって・・・。
役人 葉っぱの後ろに虫を見たことはありますか?
農家 あるよ。・・・そうか、葉っぱの後ろも撒かないといけないな。

前の会話に比べて、農家の反応が随分と違うようになりますね。
まず最初に、良いところを見つけて農家の自己肯定感を高めています。
そして、量を確かめる際には、何グラム・何ミリリットルという単位を極力使わずに、実際に使った道具を目で確かめます。
実際に使った道具を見せてもらうことで、単なる「手桶」「噴射器」等の言葉から想像する大きさではなく、同じものを見ながら実際の量を確認できるのです。
これも一つの共通認識を持つ、ということです。

また、具体的に聞くということは、農家の人に散布した時のことを再現してもらうということです。
そうすることで、何が足りなかったのかを自分で見つけることができ、最後の「葉っぱの後ろにも撒く」という言葉を農家自身が言えるようになるのです。

(前川香子 ムラのミライ 海外事業チーフ)