目次
1. 「チキンカレーをつくるにはどうすればいいか?」
2. 村人たちの宿題発表にむけて
1. 「チキンカレーをつくるにはどうすればいいか?」
日本の春のように、3月から4月は南インドでもあちこちで花が咲き始めるが、大抵の人が一番気にするのはマンゴーの花。村の人も街の人も、気温が上昇するのに比例するように、花が咲き、実が成り、育ち熟していく過程への関心は高まっていく。
そんなマンゴーの花が咲き盛りの頃、地図作りに必要なデータを、それぞれの村で集めて、その結果を発表して共有するミーティングが開かれた。
予定していた日にちが一週間ずれたが、ポガダヴァリ村(以下、ポ村)とマーミディジョーラ村(以下、マ村)から、研修の参加者たちが集まった。今まではオジサンばかりが参加していたマ村も、今回はオバチャンたちもやって来た。
そして相変わらず、もう一つの村、ゴトゥッパリ村(以下、ゴ村)からは誰も来ない・・・・・
そこへ、黄門様がラマさんを連れてやって来た。
ラマさんが、オジサンやオバチャンたちの前に姿を現すのは数ヶ月ぶり!ラマさんがいる~、とみんなキンチョーしながらも、嬉しさは隠せない。
発表もあるしグループ作業もあるしで、机に向かい、イスに座っていたオバチャンたちとオジサンたちは、ものの十分ほどで、「もうダメ~。ラマラジュさん、やっぱり前回みたいにゴザの上に座りましょ~」と、慣れないイスを放り出し、車座になった。仕切り直して、黄門様から最初の一言。
「さてさて、まずは誰でもいいから、今までに何をやって来て何を話し合ってきたのか、説明してくれるかの。」
ソムニードの研修ではもう定番の、「いままでのお話」タイム。
インドのテレビ番組の連続ドラマのように、最初の数分間は、どういう登場人物がいてどんな山あり谷ありを経て、前回はどこで終わったのか、を今までの話を知らない人にも分かるように説明し、今回からでも十分に参加できるように共有する時間だ。
ポ村の人たちによる植物図鑑作りの研修に始まり、村独自の自然資源を記録し始めたこと、前回の合同ミーティングで、水や森や土の状況を載せた自分たちの村全体の地図を作ることになったこと、そのために必要なデータを、今回は薬草に限って集めることにしたことを、マ村のオジサンが話した。
「で、前回のミーティングが終わって村に帰ってからは、何をしたんだい?」と静かに質問を投げかけるラマさん。
「(ひぇ~;心の声)ポ村では全体会議を開いて、他の人たちにも地図作りのことやそのデータ収集のことを話しました。」
「マ村でも、他の人たちとミーティングの内容を共有しました!」
そして、地図作りに必要なデータである、「育成場所」「場所の特徴」「水資源の有無」「1平方mの植生密度」「土壌の質」「周りに生えている植物」について、集めた分を発表しあいました。
「お前さんたちこの作業をして、何がわかって、何が分からなかったのかの?」と問いかける黄門様。
「それぞれに、適した土の種類が赤土だったり黒土だったり違うんだなということが分かりました!」
「特定の薬草は、育成場所が限られているってことも、分かった。」
「薬草の一種は、大きな木の下で育つって事にも気づいたわ。」
「無くなりつつある薬草もあるんだよね。」
「植生密度っていうのも、どうやって測ればいいのかしら?平方メートルって何だかよく分からなかったわ。」
「それにね、村の他の人たちからは『薬草なんて、今時、そんな面倒くさいものを誰が使うかい?カプセルや錠剤といった薬の方が効き目が早いよ。こんなデータを集めて何になる?』って聞かれました。」
「だから、『こういうデータを集めることで滅びつつある植物を見つけることが出来るし、それを守ることもできる。木を守ることで、ダムにも水が来るようになるのよ』って答えたんだけど・・・」
「お前さんたちは、薬草を使うのと薬局の薬を使うのと、どっちがいいんだ?」
静かに尋ねるラマさんに、毅然として答える参加者たち。
「薬草です!」
そして、これら集めたデータの薬草や周りの植物を守り、更に増やしていくためには何が必要なのか、ということで話し合った結果、出てきたのは・・・・・
▲土壌を良くすること、
▲水資源を確保すること、
▲家畜が入らないような柵を作ること、
▲苗床を作ること、
▲山火事から守ること、
等々。
これらは、いわゆる「チキン・カレーを作りたい」と言っているようなもので、チキン・カレーを作るためにはどういった材料がどれだけ要り、何人分必要で、誰が何の役目をするのか、どこで作るのか、ということが明らかにならないまま「チキン・カレーを作りたい」と言っているようなものである。
なので、リソースマップに必要なデータを集めつつ、「土壌を良くする」「水を涵養する」「苗床を作る」「山火事から守る」
と言うことについて、どうすれば良いのか具体的に考える、と言うことが宿題に出された。
「え~、教えてくれないの~?」と言う村人たちに、喝を入れる黄門様。
「お前さんたちがどこまで知っているのかを、全員で確認するんじゃ。例えば、お前さんたちが100の内30まで知っているなら、わしらは31から教えてやるし、それに合う講師を連れてくることも出来るじゃろ!」
ということで、1ヶ月後に「チキン・カレーを作るにはどうすればいいか」、もとい、「自分たちで考える必要なことをするには、どうすればいいか」を共有することになった。
2. 村人たちの宿題発表にむけて
さて、村の人たちが宿題を考えている1ヶ月の間に、植物図鑑作りに掲載する植物の写真を撮りに出かけたキョーコとラマラジュ。
陽炎が揺らめき立つフィールドでは、日中は熱中症などの恐れもあるので出かけられず、早朝か夕方に村へ行く。もちろん、村の人たちもヒマワリの種を採ったりマンゴーの実を収穫したりという農作業がある時も、早朝か夕方に行う。
宿題にどんな答えを出しているかな~と、楽しみに出かけてみると、マ村はなにやら忙しげに出かける準備をする人たちでドタバタしている。それというのも、政治家のおエライ先生がやって来るから、会いに行かないと!ということなのだ。
これは政治家のキャンペーンの一つで、各村落自治組織(パンチャヤート)に政治家がやって来て、「何か困っていることはないですか?欲しいものはないですか?」と聞いてまわり、「ため池が欲しいでがんす」「野菜の種をください」と頼む人々に、色んなモノやお金をばら撒き、票稼ぎをする。
ポ村では、政策の一部である家をセメント製に建て替える作業で忙しく、「村の人たちが集まって話を聞いてくれないの~」と、研修に参加したオバチャンは涙目である。
目の前にお金がありプレゼントがあれば、「どうすればいいのか考えなさい」と言われるよりも、それに飛びつくのが人というもの。
だけど、そうやってプレゼントされてきたチェックダムや水路が数年で使われなくなっていたり、田んぼや畑に変わっていたりするのが現実で、また「チェックダムをくだせぇ」と頼むのがお決まりのパターンだ。
そうした村の人たちをどう変えるかは、研修を受けてきたオジサンやオバチャンたちの変わりたいと思う意思や、村や森を自分たちで守って、増やして、管理していきたいという思いの強さにもかかってくる。
私たちも戦略を考えつつ、宿題発表を見るために、村へといざ出発!
以下、次号へ!
3. 注意書き
黄門様=和田信明。当団体の共同代表理事の一人。村での仕事は息抜きの一つ。
ラマさん=ラマ・ラージュ。ソムニード・インディアの代表で、40年近くフィールド活動を行う。実家が農家のため、農業にも詳しく、村の人たちの行動パターンも巧みに読む。
ラマラジュさん=本通信でも毎回登場するファシリテーター。ラマさんと区別をつけるために、ジュニア・ラマラジュと呼ばれることもある。
キョーコさん=前川香子。この通信の筆者。毎月発行を目指しているが、隔月発行になりつつあり、危機感を覚え始める。また、4月からプロジェクト・マネージャーに就任いたしました。前プロマネの原康子は、「CBO(Community Based Organization)育成専門家」として、この事業に携わります。若輩者のプロマネですが、当通信へのコメント含めて、みなさまからご指導いただけますと大変嬉しく思います。もしかしたら、隔月発行が毎月発行へ戻るやもしれません。