2008年7月11日金曜日

水・森・土・人 よもやま通信 第8号「あぁ、もったいない~長く使い続けるにはどうするべ?」

 

目次

1. 他所の構造物から学ぶ
2. ポガダヴァリ村の視察
3. マーミディジョーラの視察
4. 長く使い続けるにはどうするべ

 

1. 他所の構造物から学ぶ

うだるような暑さから一転、モンスーンの到来とともに気温も下がりつつある農村部。
自分たちの村にある構造物(※)の管理で散々なものが多くても、自分に甘く他人に厳しいのが人の常。最初から自分の村の構造物を見ても、その状態を冷静に分析できないと判断したソムニード(現ムラのミライ)は、近隣の村の構造物をパートナーの村人たちに視察に行ってもらうことに。


※例えば、灌漑に使うものから、土砂の流出を防止する石垣のようなもの、雨水を貯め、土地の保水能力を高めるもの、などなどの総称。同事業では、住民が維持管理できるインフラ設置を目指す。

ポガダヴァリ村(以下、ポ村)からの視察を一日、マーミディジョーラ村(以下、マ村)からの視察を一日、と設定し、それぞれの村から10人前後が参加した。
この参加者たちも、オジサンやオバチャンたちで決めたのだが、今までの研修にずっと参加してきた人から初めて参加する人まで、新旧混ざり合い、しかも腰の曲がったジイチャンやバアチャンも、オートリキシャ(自動三輪タクシー)にゴトゴト揺られて視察の村までやってきた。

ラマラジュさん、いつもと同じメンバーだと思ったら、初めて来る人たちもいますね」

「そうですねぇ。やっぱりアレですよ、キョーコさん。この前の、村全体でのミーティングで、今までのソムニードの研修やらこれからの予定やら全てを、研修を受けてきたオジサンたちがみんなとシェアしたときに、研修を受けてきていない村の人たちから色んな質問とか意見が飛び出してきたのが効いたんですよ。ほら、彼も質問をした一人ですよ。(※前号参照)」

初めて参加する人たちの中には「他所の村の構造物を見て、自分たちにとってナンか良いことあるの?」とソボクな質問をいきなりしてきたオバチャンもいて、常連参加のオジサンが「自分たちの村にはない設備もあるかもしれないし、どういう場所に貯水池やチェックダムを作ってるとか参考になるだろう?それに、建設や修理の方法も何か分かるかもしれないし。」と、やんわりと応える。
加えて、私たちからヒントを与える。

「これから見るものは、全てが成功例ではないかもしれないですよ。」

「それに、構造物の作り方とか直し方とか以外にも、村の人たちが建設前、建設中、建設後にどうやって係ったのか知っていますか?」

「構造物の設置や維持管理が上手くできていない村からも学べることは無いんですか?」

「もしも維持管理が上手く出来ているならば、どのように村の人たちが維持管理をしているんでしょうか?何か組織があるのでしょうか?あるのならば、どのように運営されているのでしょうか?」

「今も維持管理がきちんとされている村と、そうでない村の違いはどこにあると思いますか?」


私達の質問にもタジタジになって答えられないオジサン&オバチャンたちは、ただ見て作り方を教えてもらうだけでは自分達の村に活かせないことに気づき、どういう質問をしようか考え始めた。


2. ポガダヴァリ村の視察

そうしてポ村が行った村は、約100メートル四方の貯水池を持つA村と、頂上から裾野まで約5キロメートルに渡って、土壌流出を防ぐための石垣をもつB村の二つ。
まずA村に行って、ポ村の一人からこの約1年間ソムニードと一緒にどんな活動をしてきたのか、どうして今回視察に来たのかを話す。
お互いに同じパンチャヤート(村落自治組織)に入っているので顔見知りではあるが、構造物について尋ねあったことはなく、両村のメンバー共にちょっと緊張気味の様子。


基本的に、この貯水池の場所は、山から流れてくる雨水が溜まるにはいい場所である。
しかし、無残にも堤防の壁は崩れかけている。
ポ村のメンバーが、次々とA村の人たちに質問をぶつける。

「堤防のところに土の小山が出来てますね。あれは何ですか?」

「池の深さが足りないから、雨季の間、堤から水が流れ出て行くんだよ。だから、池の底を掘ってその土を堤防に上乗せしようと思って。」

「誰がしているんですか?」

「オレが声かけて、政府から労賃もらって何人かの人たちと工事してるんだよ。」

「あなたの田畑もここから水を引いているんですね?」

「違うよ。オレ、土地ないし。工事してるのも、土地を持ってないヤツらばっかり。」

「じゃぁ、この貯水池の水を使っている土地持ちの人たちは、何してるんですか?」

「何も。声かけても反応ないんだよね~。」

「・・・・・・・・・」

「それよりソムニードさん、この貯水池をもっと大きくしてくれんかのぉ?」

「・・・・・・・・・」


他に、建設時に「管理費」として確保していた資金もほぼ手付かずで残っており、この貯水池や他の灌漑設備を管理する委員会もあるようで無いような、ということが分かるにつれて、うなだれていくポ村のメンバー。

「場所的にも大きさ的にも、けっこう良い貯水池だと思うんだけどなぁ。ハァ、もったいない。」
成功例ばかりではない、と事前に聞いてはいたものの、『きっと、スゴイ立派な設備がある村に視察に連れて行ってくれるのよ』と思い込んでいたポ村のオジサンやオバチャンたちは、首を傾げつつA村を後にし、B村へと向かった。

B村は傾斜30度くらいの山の斜面に、幅8~10メートルの石垣を斜面に垂直になるようにして設置している。この石垣が、頂上から裾野付近までずら~っと並んでいるのだ。

「この石垣を作る前と後では、どのように違いますか?」

「作る前は、雨季のときここは泥川のように土砂が流れていったけど、今は見ての通り、土も流れずに木を育てることが出来るんだよ。木があって、土が流れていかなければ水も溜まるだろう。」

「どうして石垣を作ろうと思ったんですか?」

「みんなで話をしたし、地元のNGOや政府から研修を受けて、石垣が良いってことになったんです。」

「私たちの村でも、同じように雨水が土砂と一緒に流れていく場所があるけど、こういう石垣って良いなぁ・・・」

「もしも作るなら、僕たちが建設のノウハウを教えてあげても良いよ。ハハハ。」

そして、修理のための委員会があること、議事録を付けていることが分かり、石垣が崩れたときは自分たちで直すこともできる、ということも知り、スゴイなぁと感心するポ村のメンバー。

「でも、カシューの木の育て方はなってないわね。私たちの方が上手いわ」


3. マーミディジョーラの視察

そしてマ村の視察は、低地に流れる川から高地にある田畑への灌漑のためのリフト式灌漑設備を持つC村と、貯水池を持つD村。C村では、建設にかかった材料の名前や量の一覧がエンジン室の壁に書いてあり、コストとどんな部品が必要なのか一目瞭然である。そして、C村の建設に携わった人たちは、この一覧表を見なくても1ルピー単位で必要経費を説明していた。

「すごくよく覚えているんですねぇ」

「ワシらが作ったからの。」

「もしもエンジンとかパイプとかが壊れたら、どうやってその修理費は出しているんですか?」

「維持管理用の資金があるから、そこから使ってるんです。」

「その資金はどこからもらっているんですか?」

「もらうもなにも、自分たちが使うときに、使用料を払っているんじゃよ。これを管理する村の委員会にな。」

「じゃぁ、その口座もあるんですか?」

「いや、担当者が持っておる。」

「へぇ?では、お金の出し入れの記録は書いているんですか?」

「村の集会の議事録に書いとるぞ。」

「へぇ~・・・?」
リフト式灌漑施設そのものの立派さはもちろんのこと、建設時の委員会メンバーの数人が維持管理委員会のメンバーとしても活動しており、自分たちで修理や運営をしていることに驚いたマ村のメンバー。


D村は、対照的にほぼ残骸となりつつある貯水池。

「あのぅ、この堤防や水路の入り口は、修理しなくていいんですか?」

「どこにカネがあるんじゃ?」

「この貯水池へ水が流れてくる経路も、断たれていませんか?」

「だれもカネをくれん。」

「C村では、使用料を集めて修理に充ててるようでしたけど。」

「あそこの村はえぇのう。川が割りと近かったから、リフト式灌漑も作れたんじゃよ。」

「・・・・・・・・・・」

「誰か別の場所に貯水池作ってくれんかのぅ?」

「・・・・・・・・・・」

帰り際、「きちんと修理していれば立派な貯水池のままだったろうに。ハァ、もったいない。」とため息をつくマ村のメンバー。

ポ村もマ村も、灌漑施設を良い状態で長年利用している村とそうでない村の両極端なケースを見たわけだが、ここから何を理解できたか、次の振り返り研修で確認をすることに。


4. 長く使い続けるにはどうするべ

朝9時に研修開始と言う場合、今までなら早くて10時、遅い場合には11時半にやってきていた村の人たち。ところが、マ村のメンバーたちは今回8時50分という最速記録を樹立。
10時近くにやって来たポ村のメンバーたちに、「時間通りに来てもらわないと困るんだよねぇ」と文句を言い、研修中もリーダーが時間を見ながら制限時間内にきちんと発表材料を整えるという、今までにないマ村の、特に常連メンバーたちの変わり様に驚く私たちとポ村のメンバー。

「それでは、視察でいろいろと見たり聞いたりしたと思うのですが、各村での良い点、悪い点は何でしたか?」

「A村の貯水池はダメで、B村の石垣は良かったです。」

「C村のリフト式灌漑施設はものすごく良くって、D村の貯水池は最悪でした。」

研修へ臨む姿勢は変わるものの、発表の中身は相変わらずのポ村とマ村。

そこでラマラジュと筆者でオジサンやオバチャンたちに問いかけて、自分達が4つの村で何を見て聞いてきたのか、思い出させる。その過程でも、「委員会がないっていうのは良くないよね」というメンバーに対して、「なぜですか?委員会があるとどういう利点があるのですか?」「何の委員会が必要なんですか?」と問い続け、どれだけ村の人たちが理解しているのかを測っていく私たち。
そうして、A村やD村で利用されている構造物が何故ダメになっていたのか、B村やC村では何故良い状態で使われていたのか、ほぼ同じ時期に建設されている4つの村で、まるで正反対の結果となっている理由は何か、ポ村とマ村のメンバー達はさらに詳しく考えていった。
そして最後には、メンバーたちは、「村の全体集会を開き全員の意見を取りまとめる」「建設実行委員会を作り、特定の口座をもつ」「活動内容を明確にして全員に知らせる」「議事録、帳簿、出席簿などを管理する」「建設後には維持管理委員会を作って、毎年メンバーを入れ替える」というような、構造物を長く運用するためのポイントを、今回の視察から掴み取った。


もしも視察をせずに、「村全体で集会を開いてみんなの意見を聞きなさいよ」「建設実行委員会を作りなさいよ」「定期的な委員会を開きなさいよ」「議事録などを付けなさいよ」とソムニードから言っていれば、オジサンやオバチャンたちは「なぜそれらが必要なのか」を理解しないまま、「言われた通りにやります」という待ちの姿勢になってしまう。けれど、オジサンやオバチャンたち自身が視察から理解できたからこそ、「まずは村の集会からきちんと実行しないと」と、今回やる気を見せた。
視察の思惑、いや目的が果たせてラマラジュとほくそ笑む筆者。
そして他人の村については、あーだこーだと散々言い尽くしてみたポ村とマ村のメンバーたち。

「では、あなたたちの村の構造物の状況は、どうなっていますか?」

「え~っと・・・・・」

ということで、マ村とポ村、それぞれが自分たちの村にある、チェックダムや貯水池、水路などなど灌漑設備について、どういう目的で建設して、今はどのように機能しているか(チェックダムとして建設したものが、今はそこで稲が育てられている所もあるのだ!)、どのようにメンテナンスをしているか等、自分たちで振り返ってみることにした。
はてさて、自分たちの村でも「もったいない」と、ため息をつかなければならないのか!?

そして同時に、自分たちの村にはどれだけの委員会や組織があり、メンバーは何人で、代表や書記は誰でどのような仕事をしているのか、議事録や帳簿はあるのか等々も自分たちで調べ始める。
長年、地元NGOや政策の恩恵を受けるために、多くの農村では雨後の竹の子のように委員会や組織を設立してきている。ポ村やマ村も例外ではない。

はてさて、一体いくつ委員会があって、どんな活動をしているのか!?やる気を見せつつも、一歩、研修会場を出ればそれが続くかどうかは別のこと。ましてや、田植えの準備も始めなければならない今の時期。

はてさて、マ村とポ村、どれだけ調べることができるのか!?
結果は、次号で!

 

5. 注意書き

ラマラジュ=植物図鑑の研修をしてからというもの薬草に興味を持ち、トレーニングセンター敷地内にある雑草が薬草かどうか確かめるのに楽しみを覚える。

キョーコさん=前川香子。この通信の筆者。トレーニングセンターの雑草が薬草と分かれば、肝臓が悪くないのに肝臓病に効くという草を試食し、ハゲてないのに育毛剤になるという草を持ち帰らされる。

パンチャヤート(村落自治組織)=「よもやま通信Vol.4」を参照。