2008年10月8日水曜日

水・森・土・人 よもやま通信  第10号「七転び八起き、活動計画への道のり(1)」

 

目次

1. 活動計画は何のため
2. オラ達が作らずして誰が作る!?

雨季も半ばに入りかけた頃、ようやく降りだした雨に喜び、田植え作業にいそしむマーミディジョーラ村(以下、マ村)とポガダヴァリ村(以下、ポ村)の人たち。

村の中ではお互いに労働力を提供しあいながら田植えをする上、水路より離れた田んぼは水が十分に溜まるのも時間がかかるので、ほぼ一ヶ月間は田植えにかかりっきりになる。

村の人たちにとっては一年分の主食を確保するためにも重要な月だが、そんな超多忙な中、マ村からもポ村からも、予想以上に早いオジサンやオバチャンたちからの連絡に、ソムニード(現ムラのミライ)・スタッフは喜び勇んで村に向かうが、村の人たちがフリーになる時間は、一日の仕事が終わって夕飯を作り終える頃。

真っ暗闇の中の農道をゴトゴト車に揺られながらマ村に着くと、疲れきった顔のオジサンたちが迎えてくれた。「活動計画作りに必要なデータ集めについて、研修をしてほしい」との要請が!


1. 活動計画は何のため?



前回の研修に参加できなかった村の人たちもいるので、まずは研修に参加したオジサン数人から、チャタジーさんや黄門さまと何を話し合って、どんな課題を与えられたのか、他の人たちに話して聞かす。

「え~っと、ボクたちが今やっている事業は、ウォーター・・なんだっけ?」

「アレだよ、雨が降って、山のてっぺんからずっと田んぼまでの水の流れる範囲のことだよ。ね?ラマラジュさん

「そうですよ。英語では、マイクロ・ウォーターシェッドと言います。テルグ語では少し長くなりますね。」

「ほぉ~、うぉーたーしぇっどと言うのか。で、そこで何をするんだい?」

と、研修に参加していないオジサンたちから、ソボクな質問が飛び出す。
「えっ?なんだっけ?どうするんだっけ?」
と、事業名から今度は内容を思い出すのに目を白黒させている研修参加者のオジサンたち。

「山のてっぺんから田んぼまで、どういう風に分けるんでしたか?」

「水を上手に使うためには、どこの場所が一番大事なのですか?」

「植林をするには、いつの時期が良かったですか?」

「それで、作業を始めるためにいつまでに、何を作らなければならないのですか?」
と、おなじみ、質問を投げかけ続けるソムニードのスタッフ達。
研修を受けたオジサンたちも、ようように思い出し、「そうとなったら、早速、データを集めないと!」と、研修を受けていないオジサンたちもあせり始めるが、田植えが終わるもう少し先に、本格的に研修をスタートすることになった。

ポ村の人たちも、やはり田植えに忙しい。呼ばれて村に行ったものの、「やっぱり今日は無理」と言うことで、マ村と同じく少し先に延ばすことになった。
これが1年前のオジサンやオバチャンたちなら、田植え作業期間の真っ最中に、ソムニードに研修を開いてくれと連絡をすることはなかっただろう。
きっと、「ソムニードの方から来てくれるさ」「オラ達は、言われるままにすればええんだろうよ」と、のんびり構えていたに違いない。

この一年間、村の中に建てた施設や設備は一つもないし、プレゼントしたものも一つもない。ソムニードからしたことは、研修の一文字のみ。
オジサンやオバチャンたちも、一年間、モチベーションが上がったり下がったりしてきたが、意識の変化が明らかに目に見え始めている。


雨期の終わりごろ、少しは涼しくなり始めて田植えも終わり、まずはマ村の人たちと改めて今までのおさらいをした。
そして、活動計画をなぜ作らなければならないのか、そのために何を知らなければならないのか、オジサンやオバチャンたちと熱く議論を交わす。

「皆さんは、子どもの結婚式を行うことになったとき、まず何をしますか?」

「結婚式に、何がどれくらい必要か、何人の招待客が来そうか、お金はどれくらい必要か、計算するねぇ」

「で、借りて済むものは買わずにおくよ」

「そうですね、今、皆さんが作ろうとしている活動計画も、同じですよね。どれだけの水が必要なのか、そうした水を確保するために、どこに何が必要なのか、そのためにコストはいくらかかるのか、そうしたことが分からないままだと、何も作れないし買えないですね。」

そして、750万円が植林や構造物建設のために予算が組んであると聞いて、再び興奮する村の人たち。(一体、何回聞いたら驚かなくなるのだろうか?)

「よし、750万円を全部の村で使うために、活動計画を作るぞー!」

「おぉー!」
と、いきなりガンジーの顔が目にキラキラと映るオジサン・オバチャン。(※インドの紙幣は、ガンジーの肖像が使われているのです)

「ちょっと、ちょっと待ってください!一言、いいですか?」

「何ですか?キョーコさん

「750万円を使うために、活動計画を作るのですか?」

「へ?」

「今まで話してきたように、山のてっぺんから裾野の田んぼまで、みんなで水が使えるようになるために、活動計画を作るんじゃないんですか?」

「おぉ、そうか、そうだった。」

「みなさんは、お金を使うために子どもの結婚式を開くんですか?結婚式を開くから、そのために何がどれだけ必要で、いつ、何の準備をするか、費用はどれだけかかるか、そうやって計画を立てるんですよね?」

「そうだけど、750万円あるんだったら、一円も残さず何かに使わなくちゃ損よねぇ?」

「ねぇ?」
と、お金が目の前にちらつくと、変に計算を始めるたくましい村のオジサンやオバチャンたち。とにもかくにも、活動計画を作るための下準備が始まった。

村の人たちが挙げた集めるデータは、世帯毎に調査する森、湿地、乾燥地、焼畑などの土地の所有面積、所属する村の委員会やSHG(女性の自助グループ)、過去一年にかかった病気、シーズン毎の主食パターンなどなど。
そして、山のてっぺんから平野部まで3つに分けたゾーンごとの、灌漑施設の有無、作物の耕作パターン、果実の収穫パターンなどなど。

これらデータ項目も、オジサンやオバチャンたちが必死になって考えた。
「3年後、5年後、10年後に、2008年の今から、自分たちの村がどんな風に変わったか、これで分かるなあ」


そして、植物図鑑のためのデータ集めで、何人かはインタビューするのは経験済みなわけだが、まずは世帯毎に集めるデータについて、二人一組になって質問の仕方やデータの書き込み方を、何度も何度も練習した。

いつまで世帯毎のデータを集めるか、ゾーン毎のデータをいつから集めるか、村の集会をいつ開くのか、合間にどんな研修がいつ必要なのか、そうした向こう一ヶ月ほどのスケジュールを全部、村の人たちと一緒に立てると、オジサンもオバチャンもソムニード・スタッフも、気温のための暑さと研修の熱気にやられてもうヘトヘト。

マ村の人たちへの研修が終わると、数日置いて、同じテーマの研修をポ村のオジサン、オバチャンたちが受けた。ポ村のスケジュールも、マ村とほぼ同様なのだが、一点だけ違うのは、自分達の今の村の状況をミニチュアで作ることになったこと。

今の時代、グーグル・マップで自分達の村、その周辺の村々や山の形状がどうなっているか、一目でわかるし今までも何回か村の人たちと見てきたのだが、停電も多く、いつでも見れる状況ではない。けれど、研修を受けてきているポ村のオバチャンたちは、ソムニード・スタッフとやり取りする中で、こうした立体的な鳥瞰図があると、村の研修を受けてきていない人たちとも考え方を共有しやすい、と気づいたのだ。

村の三方を囲む山の形、集落の位置、田畑の位置など基本的な地形を一目で分かるようにして、集めたデータの結果をこのミニチュアに取り込もう、という計画である。しかも、粘土を購入しようと考えていた筆者たちに対して、ポ村の人たちは、自分達の森の粘土土に牛糞を混ぜて、表面にはなにやら加工した玉ねぎの皮を貼り付ければ、その上から絵の具も付けれると、まさに「自分達の村にあるもの」を最大限に活かしたミニチュア作りを提案してきた。


そうしてマ村もポ村も、活動計画作りに向けて走り出したわけだが、ここで、久しぶりにもう一つの村が再登場する。
読者の皆さんも、覚えていらっしゃるだろうか。よもやま通信第1号には、マ村、ポ村、そしてゴトゥッパリ村で登場し、第5号まではなんとかゴトゥッパリ村の文字も出てきたのだが、それ以降はほとんど、マ村とポ村の様子ばかりであった。マ村とポ村の人たちが研修を受ければ、ゴトゥッパリ村の人たちにもオジサンたちが電話などで共有してきたし、何度かソムニード・スタッフも村に赴いて、研修の日時を伝えたりしてきたのだが、サッパリ姿を見せなかった。ところが、「マ村とポ村が、今は活動計画作りを始めようとしている。ゴトゥッパリ村も合わせて、750万円が植林や構造物の建設費として予算がある」と言うことを伝えた途端、オズオズと研修への再参加を打診してきた。もちろん、私達にとってはウェルカムなのだが、今までマ村やポ村の人たちが必死になって受けてきた研修をすっ飛ばして、いきなり活動計画作りに取り掛からせるわけにはいかない。マ村の集会に呼ばれていた私達は、ゴトゥッパリ村からの研修生にも、そこにオブザーバーとして参加してもらうことにした。


2. オラ達が作らずして誰が作る!?

雨季も終わりになりかけたのに、低気圧が再び発達して大雨が降り続き、この区域にある貯水ダムの水位が危険水位をはるかに超えたこともあった。年々、天候がおかしくなっているのを感じるとオバチャンたちも言うが、今年はさらに、雨の降り方が奇妙だと言う。

そんな雨によってぬかるんだ道を、ひたすら歩き、岩だらけの山道を登り、蒸し暑さにフーフー言いながら一山超えると、マ村の中の一つの集落に到着する。マ村は、大小さまざまな集落が山頂から平野部まで点在しているのだが、研修に積極的に参加するのは裾野部の集落からで、山頂部の集落からは1~2人程度。

まずは、この集落の人たちにもこれまでの研修内容やこれからのスケジュールを共有するオジサンたち。すると、リーダー的存在であるオジサンが言った。

「活動計画ぅ?そんなもの、オラ達につくれるわけないだろうが。」

「そうそう、そういうのは、ソムニードが作るもんだろう?ワシらは言われた通りに、なんでも作るさ」

それを聞いて、この集落から毎回欠かさず研修に参加しているオジサンとオバチャンは真っ青になるが、どう反論していいものやら分からない。すると、ただ静かに座って聞いていた平野部の集落からのオジサン、名前をダンダシと言うのだが、彼が突然大声でしゃべりだした。

「まだ、何を言ってるんだ!いいか、これは、ワシらの事業なんだ。水は、山のてっぺんから下に流れてくる。この集落も、同じマ村のエリアなんだから、一緒に考えて事業をしなくちゃいけないんだ。ソムニードは、必要な研修をしてくれたり資金を提供してくれるだけで、何をするかはワシらが決めるんだ。
この集落からは、いつも研修には1人か2人だけで、しかも読み書きできる人は参加しない。ワシも読み書きはあまり得意じゃないけど、だけど、この集落からは記録をきちんと取れる人が参加しないから、この集落での共有がきちんとできないんだよ。だから、今でもそうやって、ソムニードの事業だなんて言ってるんだ。

これは、ワシらの事業だから、ワシらがこれから活動計画を作るんだ!」
ボーゼンとする、リーダーやその他オジサン・オバチャンたち。再度、このダンダシから今までの経過が話されると、読み書きできる若者から、

「植林が必要なら、一つの季節に集中して収穫する木ばかりじゃなく、一年を通して森から何かを収穫できるような計画を立てたほうが良いよね」

という意見も出て、また、彼が今後のスケジュールなども大きく模造紙に書いて、集会所となっている教会の壁に貼る準備をした。


それを見て、息巻いていたダンダシが彼に言った。

「お前、必ず次から研修に参加しなさい。もしも参加できなかったら、集落のリーダーは、罰金500ルピーだぁ!」

思わず周りのオジサンやオバチャンたちも笑い出すが、この日の集会が始まる前の雰囲気とは、違ったものが集会場に満ちていた。オブザーバーとして参加していたゴトゥッパリ村(以下、ゴ村)からのオジサンやオバチャンたちも、この迫力にビックリ。何しろ、自分達と同じく村の一人のオジサンが、「この事業はワシらの事業だ」と声を張り上げているのだ。

言葉少なめのゴ村からのオブザーバーたちだったが、「ボク達はちょっと遅れてしまっているけど、もう一度、マ村やポ村の人たちと一緒に、この研修に参加して行きたい」と言って、村に帰っていった。
実は以前、ダンダシはソムニード・スタッフにこう呟いていた。

「黄門様や、ソムニードのスタッフ達は、ワシらが理解できるのをずっと待っててくれたんだ、と言うのがようやく分かった。

これから何をしようとしているのか、そのために何を知っていなくてはいけないのか、そうした理解をするための時間が必要だったんですね。そして、それをプロセスと言うんでしょう?そして黄門様たちは、ずっとそれを待っていてくれたんですね。他のNGOや政府の人たちは、ワシらが理解しようとしまいと関係なく、とにかく事業をスタートして終わらせて、プロセスやワシらの理解度なんて見てもくれないけど、ソムニードのみなさんは、ずっと待っててくれた。それが、とても嬉しい。」

私達ソムニード・スタッフは、「プロセス」という言葉も、その意味も、村のオジサンやオバチャンたちに対して使ったことは無い。けれど、ダンダシは、1年前からずっとソムニードの研修に参加し続ける中で、そうした過程の重要性を感じ取っていたのだ。私達にとっても、この喜びに勝るものはない。

そして、マ村のオジサン、オバチャンたちの快進撃は続く。

数日後、マ村のエリアに属する全ての集落から数人ずつ集まり、山から雨水がどのように流れて集まるか、複数の集落で共有する山はどれか、どこに植林をすれば良いのか、それぞれの考えを出し合った。
自分の田んぼにどうしたら水が来るか、ではなく、村全体が水を有効に使えるようにするには、という視点で山から山へと歩き回るオジサンたち。


「ソムニードが活動計画を作るんだろう」と言っていたリーダーも、我先に先頭を歩き、山々の名前を聞かれればすぐに答える。
薬草に詳しいオジサンたちは、立ち止まっては効用を披露しあい、州の公用語テルグ語では○○だけど、ワシらの言葉サワラ語では△△だと言って、若者たちを指導する。

そうして何時間も歩いている中で、自分達の大切な財産でもあり、これからの収入源にもなりうる薬草園を作ろう、というアイデアも出てきた。そして、世帯毎のデータを集めたんだから、今度はこうしたゾーン毎の必要なデータを早く集めよう、とエンジンフル回転が止まらないマ村のオジサンたちは、ポ村も合同の研修日に、過去最大の19人編成(半分はオバチャンたち)で研修開始15分前に研修場所へと乗り込んできた。

そんな上昇気流に乗りに乗ったマ村の人たちと対照的なのが、ポ村の人たち。今までの過去最小の3人編成で、研修開始1時間後にやって来た。

ポ村では、今は雨季の影響もあって風邪やらマラリアやらで体調を崩している人も多く、また、様々な政府からの「プレゼント」を受け取るのに忙しく、最近はかつて研修を受けてきていたオジサンやオバチャンたちも、意気消沈気味。数ヶ月前までは、ポ村の勢いが強く、マ村は少しダレきっていたのが、今は全くの正反対。19人ものマ村のオジサン、オバチャンたちで熱気ムンムンの研修会場に、後ずさりをしてしまうが、「ワシらの村ももっとがんばらなアカンのう」と少しやる気を出した。

こっちが盛り上がればあっちが下がるという、シーソーのような二つの村だが、このマ村とポ村のオジサン、オバチャンの奮闘する姿がゴ村の士気も高めるのだ。

さてさて、これからゾーン毎の必要なデータを集めて分析し、活動計画作りへと突入していくのだが、マ村、ポ村、ゴ村のオジサン、オバチャンたちは、どこまでパワーアップしていくのか、次号乞うご期待!


3. 注意書き

黄門さま=和田信明。ソムニードの代表理事。

ラマジュさん=ソムニード・インディアのスタッフで村のオジサンたちの人気者。
キョーコさん=前川香子。この通信の筆者。10月17日に、念願の研修センター開所式を開催予定。お昼ごはんのメインのカレーはチキンね、デザートは何にしようかしら、と、準備に余念が無い。