目次
1. 集めたお金は何のため?
2. ルールを村の憲法に
3. 石橋を叩くことをためらう
4. 初めての○○
1. 集めたお金は何のため?
10月も終りになると、朝晩の気温が一気に下がり、といっても20度はあるのだが、それでも朝もやが立ち込めはじめ、市場へ野菜を売りに行く村の人たちの服装も、長袖シャツに耳当てという重装備に変わる。
昼間は相変わらず汗が流れるほどに暑い陽射しの中、マーミディジョーラ村(以下、マ村)、ポガダヴァリ村(以下、ポ村)、ゴットゥパリ村(以下、ゴ村)のオジサン、オバチャンたちは灌漑設備や土砂崩れ防止の石垣を作る作業にまい進していた。
今までお伝えしてきたように、オジサンやオバチャンたちは植林作業や貯水池造成など土木作業にこの数ヶ月は集中してきていたのだが、その労賃の中から定額を村の共同資金として自発的に納めてきた。
何に使うのか?
なんとな~く、「今作っている灌漑設備なんかの将来のメンテのため?」という感覚的な目的はあるものの、「コレコレの目的のためです」とはっきりと言える人はほとんどいない。
だけど、金額的にも大きくなってくるし、なんだかよくわかんないけどチョビチョビ使い始めている村もあり、村人の中には「はっきりさせい」と言って来る人も出始め、
「共同資金のルール作りについて、研修をしてください」
と、ソムニード(現ムラのミライ)に依頼が来た。
各村を回って、村の人たちの意見を引き出しながら、それぞれの村独自のルールを作り上げていく。
それは、単なるお金の出し入れの決まりごとではなく、「どういう村にしたいのか」というビジョンを掲げ、それに向かってどんな活動をしていくのかを具体的にし、そうした意思決定の場と時期、役割なども決めていく過程となっていく。
2. ルールを村の憲法に
ポ村のオジサンの一人が言った。
「コレが出来上がれば、ポガダヴァリ村の憲法になる!」
言葉としては大げさに聞こえるかもしれないが、まさに「オラたちのオラたちによるオラたちのための村の規則」を、オジサンやオバチャンたちは初めて自分たちで作っていく。
オジサンやオバチャンたちがやってきた植林作業や建設作業、これらがきちんと管理され、さらに発展させられなければ、村は住めない場所となり、人が居なくなり、近い将来になくなってしまうだろう。
オジサンたちは「ずっと村に居続けたい、もっと良い村にしたい」という気持ちがあるからこそ、再び脳みそを沸騰させながら、共同資金を貯めるだけでなく、その運用の規則作り、そしてそれを実行する組織作りの研修に自ら挑み始めた。
牛のように消化するには時間がかかるが、牛と同様、走り出すと結構早い、そんなオジサン、オバチャンたちの山あり谷ありの過程を今号からお伝えする。
3. 石橋を叩くことをためらう
今月はゴ村でのよもやま話をご紹介しよう。
ゴ村は、モハーンという青年のリーダーシップで徐々に動き出し、植林も見事にやり遂げたことは読者の皆さんのご記憶にも新しいかもしれない(よもやま通信第15号参照)。
そのゴ村も、マ村やポ村と同様、村の共同資金の運用についてルール作りを始めたわけだが、何しろ今まで他の村のように大きな建設作業もなかったため、ポ村の共同資金の4分の1も資金は貯まっていない。
それに土砂崩れ防止の石垣作りなど建設作業をもう始めてもいい時期なのに、誰も始めようとはしていない。
金銭出納簿の付け方やルール作りの考え方など、少し先をリードするポ村からソメーシュともう一人の若者がゴ村にアドバイザーとして、研修について来ていたが、ゴ村のそんな様子を見て唖然としている。
「ゴ村の人たちは、ソムニードから自分たちにこんなに意思決定の自由を与えてもらって作業も任せてもらっているのに、しかも支払いもきちんとしてくれるのに、なんでもっと積極的に動かないんでしょうね?」
と、不思議がるソメーシュ。
そんな彼から、ポ村の活動計画から今まで実施した作業、支払われた賃金、村の共同資金に集まった金額などが、ゴ村のオジサンたちに共有されると、一斉に上がる驚きの声。
「おぉー、スゴーイ」
さらに、ポ村が考えている村の共同資金の使い方を披露し始めると、ゴ村の人たちのソメーシュを見る目は、尊敬の眼差しでキラキラ光り始めている。
「おぉー、カッコイー」
「ラマラジュさん、もしかしたら、ポ村やマ村のいくつかの集落に視察に行って、作業の内容や方法を見たりルール作りの案を共有したりすると、ゴ村の人たちにとって良い刺激になるかもしれませんよ」
「そうですね、キョーコさん。マ村の中にはゴ村と同じサワラ語(少数民族の言葉)を話す集落がありますから、より気軽に色々と話せるでしょうし、提案してみますか」
ということで、ゴ村の人たちに提案してみると否応なくうなずくオジサンたち。
5人がマ村の山頂付近にある集落2つを視察することになった。その内一つは、最近よく登場する青年ガンガイヤが率いる集落である。
満々と水を湛える貯水池や水門、貯水池からまっすぐに伸びる水路などを目の当たりにし、ゴ村の青年たちは言葉も出ない。
さらに、もう一つの集落の青年たちとも一緒に、自分たちの活動計画や今までに完成させた構造物、これからの計画も共有していた。
「この事業では、何をしたいか、何をするべきか、ボク達が決められるんだ。誰かに言われてするんじゃないんだよ。しかも、労賃の支払いも、ボク達がソムニードに連絡すれば必ず来てくれる。政府のスキームじゃこうはいかない。
だから、作業記録や領収書の準備もしなくちゃいけないけど、これも僕らの責任の一つだからね。」
ゴ村の作業状況や研修の遅れを聞いたガンガイヤも、自分たちの経験を熱く語る。
ゴ村の人たちは、石橋を叩いて渡るというより、叩くことさえもためらっていた。ソムニードを疑ってはいないけど、「これからする作業は金額的にも大きいし、支払いもきちんとしてくれるよね?」と、他の村より作業経験が少ないゴ村の人たちは、多少不安に思っていたらしい。
だが、実際に他の村の実績を自分たちの目で確かめ、直に聞いて、激励されて、ゴ村の青年たちの目の色が変わった。
それと平行して、ルール作りの研修もエンジンがかかり、最初の案で出た共同資金の使い道は「クリスマスの集まりに必要な経費」の1点だけだったのが(ゴ村はクリスチャンの村)、今は構造物のメンテなど他にもポツポツと出始めている。
「ルールの一つに、『緊急の場合』と書いているね」
「そうです」
「じゃぁ、今日がこの映画の最終日で絶対に見なくちゃいけないから、チケット代と交通費と昼食代も出して、と言ったらくれるのか?」
「そんな無茶な」
「それじゃぁ、緊急の場合って何?」
「え~っと・・・」
こんなやり取りが何度も何度もあるわけだが、ソメーシュやガンガイヤ達に刺激を受けて本気モードになり始めたゴ村の人たち。
「そもそも、活動計画の作業を進めていかないと、構造物もナニもないよ」
「それに、村の共同資金も、建設作業をしないと貯まらない!」
と、作業スピードも一気に加速した。
4. 初めての○○
ゴ村がようやく歩み始めた頃、ソメーシュやガンガイヤの村は、すでに共同資金を扱う村の組織の骨組みを考え始めていた。
ポ村のある研修日、こちらの問題で30分ほど到着が遅れてしまったが、集まっていた村の人たちは、開口一番、こう言った。
「この事業が始まってから2年以上、今回初めて、ソムニードの皆さんは時間に遅れましたよ」
もちろん最初に謝ったが、村の人たちのこのような姿勢に、私たちは一種の感動を覚えた。
そんなポ村やマ村の「オラたちの村のルール作り」は、次号からお伝えしよう。
注意書き
ラマラジュ=ソムニード・インディアの名ファシリテーター。
キョーコ=前川香子。本通信の筆者。