【記録】産前産後のカップルに届けたい「パートナーシップ講座」(プロジェクトの記録 第6話)
「西宮で広げる、地域で助け合う 子育ての輪プロジェクト」の記録
第6話(2019年11月12日号)産前産後のカップルに届けたい「パートナーシップ講座」
10月の度重なる災害により亡くなられた方々のご冥福をお祈りしますととともに、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。避難所や被災したご自宅で、小さなお子さんと一緒にご苦労されている方々がまだまだいらっしゃるかと思います。一日も早く、おだやかな生活がもどってくることを願ってやみません。
第6話で、皆さんにご報告するのは、産前産後のカップルを対象にした「パートナーシップと子育てのよい関係」講座(以下略「パートナーシップ講座」)についてです。
目次
「アウェイ育児」と西宮プロジェクト
「パートナーシップ講座」で伝えたいこと
「夫婦だけで産後を乗り切らなくていい方法」有ります
パートナーシップ講座の課題
「アウェイ育児」と西宮プロジェクト
ところで「アウェイ育児」というのをご存じの方はいらっしゃいますか?『見知らぬ土地への転勤と激務で帰らぬ夫「アウェイ育児」に苦しむ妻』というネット記事によれば、「自分の育った市町村以外で子どもを育てること」だそうです。
*記事 11月5日付Yahoo!ニュース特集 取材:伊澤理江
この記事に登場する薫さん(30代・仮名)は、おそらく西宮市(もしくはその近郊)に夫の転勤で暮らすようになった女性です。2017年8月、全然泣き止まない生後6か月の息子さんを「もう、いい加減にして!」と叫びながら、1メートルほどの高さから薄い肌掛け布団めがけて投げつけてしまったそうです。
“見知らぬ土地での慣れない子育て。夫は激務で帰りが遅く、頼れる知人もいない。「アウェイ育児」に追い込まれた末のことだった”とこの記事は始まります。
もうすこし記事のご紹介を続けます。夫の転勤で引っ越してから、息子さんと二人だけで過ごす日々が続き、だんだん薫さんは育児ノイローゼになっていきます。6ヵ月健診、小児科、託児所などで、薫さんは何度も「このままでは息子を傷つけてしまう、誰か助けて」というSOSを発しますが、適切な支援には結びつかず、1年後にこの「赤ちゃん投げつけ事件」が起きました。
幸い、薫さんは、やっとのことでたどり着いたとある児童館で支援を受けることができ、今では保育園に子どもを預けながら働いているそうです。
復職後の薫さんの次の二つのコメントが印象的でした。一つ目は、“出産前には赤ちゃんのお風呂の入れ方やマタニティーヨガではなく、出産後にはこんな過酷な日々が待ち受けている、って教えてもらいたかった。泣きやまない子もいるんだよ、って。本やネットの情報に振り回されて比較しちゃいけない、って”。
二つ目は、 “仕事で帰れなかった夫に対しては、今も恨んでいます(中略)あの一番苦しいとき、家に帰ってきて助けてほしかった。あの恨みは一生消えないと思います”。
児童館で支援を受ける前の薫さんのような女性はまだまだたくさん西宮やその他の地域にいて、今この時も苦しんでいるかと思うと胸が痛みます。西宮プロジェクトは、薫さんのような女性を一人でも減らし、「大丈夫、大丈夫」と声をかけ合いながら、ご近所さん同士で子育て仲間を増やしていくプロジェクトなのだと改めてその重要性を実感しました。
今回、ご紹介する産前産後のカップルを対象にした「パートナーシップ講座」は、まさにこの記事に登場する薫さんとそのパートナーのような方たちに、産前や産後に参加してほしい講座です。もし、薫さんとそのパートナーがこの講座に参加していたら、赤ちゃんの世話が一番大変な時期を夫婦で一緒に、ときにはご近所さんの助けも借りて、乗り越えることが出来たのではないか、パートナーに対して「あの恨みは一生消えない」と言わなくても済んだのではないか、と思うのです。
まずは「パートナーシップ講座」とはどんな講座なのか、プロジェクト開始時からの経過と今年度の講座についてお伝えします。
「パートナーシップ講座」で伝えたいこと
西宮プロジェクトの初年度(2018年度)は、妊娠中から出産後(6カ月くらい)のご家族、延べ33名に計3回のパートナーシップ講座にご参加いただきました。西宮市在住の助産師やア・リトルのメンバーのヨガインストラクターゆうこさんとやよいさんが講師となり、夫婦で一緒にバースプランを作ったり、産後のバースレビューをすることが主なテーマでした。
参加者からは
「パートナーの本音が聞けた」
「産後のよその家族のことがわかった」
「講座参加後に家庭で夫婦の会話が増えた」
「2人だけでは行き詰っていたことが解決できた」
とのお声をいただきました。
3回の講座を通じて、産前産後の夫婦の実情も見えてきました。それは、出産や産後の生活に関して夫婦間で情報格差が大きいこと(情報収集や準備の負担が妊婦に偏る)、産後をパートナーと二人だけで(プラス遠方に暮らす実母)乗り切ろうとしていることなどが明らかになりました。
そこで、本連載第4回でお伝えした調査結果も踏まえ、2019年度は産前のカップルには「産前産後を夫婦だけで乗り切ろうとしないこと、そのために産前から出来る準備は何があるか」ということを考えるワークを行うことになりました。 産後のカップルには「赤ちゃん中心の生活から立ち止まって、夫婦でゆっくり今の暮らしや夫婦関係を振り返る時間を持つこと」を講座の内容に含めました
産前、産後の講座共に一回3時間ですが、産後の講座では、同じ会場内の別室で託児を行います。この託児担当も西宮市内に住んでいる方たちです。
さてここでは、産前の講座のトピックについて、その資料も踏まえながらご紹介しましょう。
「夫婦だけで産後を乗り切らなくていい方法」有ります
2019年度のパートナーシップ講座の講師はア・リトルのメンバーです。 写真はア・リトルのオリジナル教材、「産前産後リアル!事件簿ファイル」です。
前述の2018年度の講座参加者のコメントにあるように、なかなか他の家庭の産後の実情はわかりません。そこで2019年の講座では、ア・リトルのメンバー4人が自らの妊娠、出産、産後のことを
①妊娠中(初期、安定期、後期)
②出産(分娩前後の入院期間)
③産後1(退院から1カ月間)
④産後2(産後2カ月から1年)
に分けて、どんな出来事があったのか、そのときどんな気持ちだったのかをまとめたものを事件簿ファイルとして、講座の資料にしました。
4人とも全く異なる妊娠、出産、産後を過ごしているのが分かります。この教材を元に、参加者は4人から直接、それぞれの妊娠中から産後1年の間に実際に起きたことを聞きます。4人のなかには、実際に西宮で妊娠、出産を経験したばかりのメンバーもいました。
西宮で利用できる公的機関や民間団体の産後のサポートを総動員し、産後1カ月の産褥期にしっかり体を休めることができた、というア・リトルのメンバーの話は、出産後の子育てを西宮で予定しているカップルにはとても実践的です。参加者に産後のイメージを具体的にもってもらうことが出来たら、続いて夫婦でバースプランを作る時間が始まります。
出産はひとりひとり異なるものですが、産前から準備できることには共通のものがかなりあります。
このスコア表では「今できている準備」と「できていない準備」が一目で分かるようになっています。たとえこの講座を受けた時点で、とても低い点数だったとしても(例:ベビー用品をそろえただけの準備状態)、大丈夫です。なぜなら、出産までに出来る準備を夫婦で話し合い、「準備することリスト」の欄を一緒に埋めていけば、出産予定日1カ月前にもう一度、スコア表をつけてみたとき、必ず高得点になっているからです。高得点ということはそれだけ、産後の暮らしを夫婦や家族だけでなく、様々なサポートしてもらう体制が出来ている、ということになります。
2019年度の産前と産後の講座のご報告は、ア・リトルのサイトからご覧いただけます。
ア・リトルが西宮市と共催するイベント、「もうひとつの両親学級(2019年11月30日)」では、このア・リトルならではのスコア表の短縮バージョンを使った「バースプラン」のワークショップを行います。
*あと少し残席がありますので、ご参加をご希望される方は、リンク先からお申込みください。
目次へ
パートナーシップ講座の課題
この「もうひとつの両親学級」は、2018年度から続けてきた西宮プロジェクトの実績が西宮市に認められ、初めて同市との共催で実施することが出来た講座で、ア・リトルとムラのミライだけで情報発信していたときの何倍、何十倍の人たちに講座のご案内ができることになりました。一組でも多くの産前のカップルにこの講座を知っていただき、最初にご紹介した記事の薫さんのように一人で、そして夫婦二人だけで子育てに悩むことが減っていけばと、願っています。
一方で、「パートナーシップ講座」は、なかなか産前のカップルに開催についての情報をお届けできていないのが現状で、毎回参加者集めに苦労しています。今年はあと2回講座を予定していますし(参加お申込みはページ文末のフォームから)、2020年度も継続してゆく予定です。
あなたの近くにたくさん隠れている第2、第3の薫さんに「産前産後に一人で、夫婦だけで、悩まなくてもいいですよ。西宮には、あなたとあなたの家族と一緒に、ときには笑ったり、ときには泣いたりして子育てをしたい、という人がいますよ」ということを伝えるために記事&講座案内シェア、大歓迎です。
*バースプランとは:お産の計画や要望のこと。妊婦とそのパートナーが希望する出産の計画をたて、妊娠から産後の生活までを夫婦で話し合う材料とする
*バースレビューとは:出産体験を振り返ること。自分の出産体験を自由に語ってもらい、傾聴を基本的姿勢として受け止めていく援助のひとつ
2019年度のスケジュール
【産前講座】 2020年2/29(土)
【産後講座】 2020年3/7(日)
【申し込み先】フォームにご記入ください。
プロジェクト通信 第1話へ
プロジェクト通信 第2話へ
プロジェクト通信 第3話へ
プロジェクト通信 第4話へ
プロジェクト通信 第5話へ
プロジェクト概要へ