2025年9月26日金曜日

セネガル事業報告会レポート2:村での研修のやり方を再現

セネガル報告会レポート中編です!


ムラのミライの事業では、スタッフが一方的に村人(相手)に何かを教えるのではなく、対話をベースに活動をすすめます。なので、報告会でも、菊地さんと和田さんの対話がベースとなりました。
和田さんと菊地さんのほのぼのとしたやりとりに笑ったり、なるほど〜と思ったりしながら、あっという間で内容が盛りだくさんの時間となりました。その中でもとっておきの場面をお伝えします。

セネガルでムラのミライがやったこと・やらなかったこと

さて、セネガル事業は2017年から2025年まで続きましたが、2017年に開始した直後に、私、前川も初めてセネガルを訪れました。それまでは、山に囲まれたインドの村で活動していたので、セネガルの果てしなく続く地平線と視界を遮るものがほとんどない赤茶けた広い大地に驚き、絵本「星の王子さま」に出てくるバオバブの木を初めて見て感動していました。


私は10年近くインドやネパールで和田さんの研修を間近で見てきたので、セネガルでも変わらず「メタファシリーテーションの鉄則だなぁ」と思って和田さんや中田さんと農民の皆さんとのやり取りをみていたのですが、綾乃さんは当初、その研修スタイルに驚いたそうです。

菊地さんは事業が始まって数か月後の2017年5月にムラのミライに入職と同時にセネガルで駐在を始めました。報告会では、初めてセネガルで和田さんの研修に参加したときの様子をこう話していました。

菊地:私、最初に和田さんの研修に出た時、とってもびっくりしたんですね。私の知っている研修って、必ず講師が最初に「今日は○○の研修です」と言って始まったり、どこかに「○○の研修」と書いてあったりしてました。でも和田さんの研修では、そういうことが何もなかったんです!農業の事業と聞いていたので、研修も種とか農法の話から入ると思っていましたが、和田さんの村人への最初の質問は「最近、洪水はいつありましたか?」とか「朝、太陽が昇ったら何が起こりますか?」なんです。「えっ、今から何が始まるの?」「今日は何の研修なの?」と私も村人も一緒にびっくりしてました。和田さんは、毎回、研修のテーマを決めていましたか?事業の全体的なテーマも決まっていたのですか?
和田:菊地さんや村人たち、確かに驚いてましたね。研修全体のテーマ、事業期間を通してどのようなことを(村人に)わかってもらおうか、というのはあらかじめ決めていますよ。でもね、毎回の研修のやり方は、その日の村人たちの顔を見てその場で決めるのです。
菊地:だから「畑への水やり」という同じテーマでも、訪れる村ごとに研修のやり方が違ったのですね!

和田:なんで僕が村人に「太陽が昇ったら何が起こる?」というような質問をするか菊地さんはわかりますか?
菊地:うーん、村人たちの興味をひくためですか?
和田:それもあるけど、僕が村人との対話をベースに研修をする理由はね、村人たちが『何を知っていて何を知らないか』を分かってもらうためなんです。それが研修。『農作物への水やりはどのタイミングでやるのか、それは朝です』と言ったって村人は腑に落ちないし、頭にも残らない。「太陽が昇ったら何が起こるか」という現象を、自分の体験を、時系列で追体験してもらう。そのために村人に質問をしていくのです。


そこで、菊地さんが「私も追体験してみたいです」と和田さんにまさかのリクエスト。苦笑いしながら、和田さんが菊地さんに聞いていきます。

和田:日が昇るころに起きたことある?その時、あなたの身体に何が起こりましたか?
菊地:体、特に顔が暖かくなりました。
和田:そうだね、ぽかぽか暖かくなるね。その時、地面で何が起きているか知っていますか?
菊地:う~ん、・・・知りません
和田:その体験は、どこでしたの?
菊地:初詣です。
和田:なるほど、そこでは地面のことは体験し辛いかもしれませんね。だけど、セネガルでは相手は農民です。周りに土があります。朝日が昇ってくると、朝露がでてくる、地面が温かくなる、ということを思い出せるのです。
菊地:なるほど。私と同じように「体が温かくなる」という体験は一緒ですが、それ以上に「同時に地面で起きている現象」を具体的に答えられるのですね。

実際に「その場で体験しながら現象を理解する」という研修のワンシーンを、菊地さんは動画でも見せてくれました。
動画では、和田さんがコップの中にティッシュで作った「こより」の先を浸しながら、村人たちと会話をしています。それは、見えない土の中の「毛細管現象」を説明している場面でした。村人たちは、ティッシュがコップの中の水を吸い上げ湿っていく様子を見たり触ったりします。


メタファシリテーションを1対複数人でする時のポイント

和田:例えば「熱伝導」という科学用語をいきなり伝えるのではなく、「やかんでお湯を沸かすと、中の水がどうやって温まっていくか」という例をとったりするのも同じです。こうした現象を利用して、植物は水や養分を吸い上げる、という説明をするのです。
菊地:だから、村の人たちも最後は大きく頷いているのですね。
和田:そうです。最初の質問ではポカーンとしていた村の人たちも、質問に答えていく形で、自分たちの経験を知識と結びつける、ということができるのです。

菊地:全員が理解していたのでしょうか?
和田:優秀な人たちはいます。研修で10人に1人が喰いつけばいいし、20人に1人が実践し、その人から広まれば良いのです。事業開始当初、優秀だなと感じ入った人は3~4人。その中でも特に優秀なひとりは「わたしは何も知らなかったことを知りました」と嬉しそうに言っていました。最初から、全員が理解する必要はありません。
菊地:そうでしたね、何人かは研修後にすぐに実践しましたね。
和田:農業プロジェクトと言っても、ピーマンのつくり方を教えることはしませんよ。私自身も作ったことは無いですしね。ただ、ピーマンの栽培過程のどの時点で、水を集中的にやるか、というようなことは教えることができます。

つまり、和田さんが一貫して村人たちに教えてきたのは、彼ら自身が考えて実践するための知識や方法です。それを受けて、菊地さんがあるエピソードを思い出しました。

菊地:畑の面積を測って、必要な種の数や作業人数、日数などを算出するというような研修をした時、それまで面積を出したことはない人たちがほとんどでした。その計算中、トマトが一番効率よいということがわかって実践した農家もいました。こちら側が言わなくても、自分で発見して実践する、ということですね。

このように、写真や動画も見ながら、二人による和やかな対話の時間が終わりました。
後編は、参加者からの質問と和田からの回答を一部ご紹介します。

 

★2025年11月1日(土) には、イベント「セネガルのお話&ランチ交流会in 京都(西アフリカ料理)」を開催します。ぜひご参加ください! 


 

セネガルの小規模農家が抱えていた問題とは?

セネガルとインドの事業地の気候は、ほぼ真逆です。事業地のティエス州ンブール県の農村地帯は一面、赤茶けた乾燥地が広がっています。年間平均降水量は500ミリほどですが、降らない時は年間300ミリほどしかありません。乾燥地農業に最低限必要な雨量は年間250ミリといわれているので、ティエス州はギリギリの雨量ということでもありました。主な農産物は雑穀やトウモロコシなど天水に頼るもので、近年は野菜栽培が増加しています。
「50年程まえから、従来の農業に加えて商品作物の野菜栽培が始まり、井戸水を多く使うようになり、森を切り開いて畑地が拡大していきました」と農民は語ります。そうした農地の急激な利用変化は、土に大きなダメージを与えてしまいます。集中豪雨や過剰な灌漑などによって、土壌や水が塩化し、土壌の構造を悪化させて、雨や風で土壌が大量に失われてしまうのです。農業で食べていけなくなり、首都ダカールやヨーロッパに出稼ぎに行く村人も増える中、村で農業を続けたいというサンゴネさんたち若い農家を中心に、2017年に事業が始まりました。(セネガル事業の詳細は、こちらのページをご覧ください)