2025年11月10日月曜日

多職種で連携するために

ムラのミライの山岡です。今回は、講師派遣先である全国小規模保育協議会 医療的ケアチャプター様のご協力をいただき、保育者向けのメタファシリテーション体験セミナーについて、研修内容や参加者の声をご紹介します。


多職種で連携するために

まだ夏の暑さが残る9月、私は神戸市にある(特活)こどもコミュニティケアを訪問しました。こどもコミュニティケアさんも所属する全国小規模保育協議会 医療的ケアチャプター様から講師派遣の依頼をいただき、メタファシリテーション研修を行うためです。
研修は90分で、全国組織であるため対面とオンラインハイブリッドでの開催でした。参加者は、小規模保育施設で医療的ケアが必要な子どもたちの保育を行っている施設管理者、保育士、看護師、言語療法士など約30名。みなさん大変熱心に聞いて下さり、ワークにも主体的に取り組んで下さいました。


子どもの権利とメタファシリテーション

研修では、以下のような5つの内容をお話ししました。

・子どもの権利の紹介

・コミュニケーション・セルフチェック

・メタファシリテーション3つのルール

・事例紹介(管理者と保育士が、現場での課題を振り返る編)

・練習問題

ムラのミライでは、子ども・子育て支援者を対象とした研修は、まず「子どもの権利」の紹介から始めています。それは、子どもの権利を知っていただき、子どもの権利を尊重する手段の一つとして、メタファシリテーションを活用して欲しいと考えているからです。



次に、自団体のコミュニケーション・セルフチェックには、3月に発行した『子ども・子育て支援活動サポートブック』のチェックリストを利用しました。みなさんの組織では、いくつチェックが付くでしょうか?チェックが2つ以上付いたという方は、サポートブックに他団体の事例が掲載されていますので、ぜひ読んでみてくださいね。



保護者の話が聞けないのは、「人手不足」が原因?

事例紹介では、管理者がスタッフの課題を整理できなかった事例と事実質問への置き換え例をご紹介しました。

<登場人物>

・スタッフ(保育士3年目):保護者から子どもの話をうまく聞けないと悩んでいる

・マネージャー(保育士10年目):管理責任者、現場での課題を知り保育の改善に繋げたい

下図のような会話、みなさんの職場でもないでしょうか。マネージャーは、『人手不足だけが本当に課題なのか』と疑問を抱きながら、その場を離れてしまいます。

 さて、ここでクイズです。仕事で「保護者(クライアント)の話が聞けなくて…。」と悩んでいる部下の話を聞く時、何を質問すれば、部下がその時の出来事を思い出して答えてくれるでしょうか?

1. なぜ、聞けないの?

2. どんなふうに難しかった?

3. 最近、いつ保護者(クライアント)と話した?


・・・答えは、3番です。1番のように、何があったかを聞く前に『理由』を聞いてしまうことで、忙しいから、人手不足だからなど、言い訳を引き出してしまいます。2番は、相手の感覚から質問することで、何が起きたかが見えにくくなってしまいます。そこで、「最近、いつ〇〇した?」と実際に起きた出来事を思い出してもらいます。そして、「誰と何を話したのか、その前にも同じようなことがあったか」と時系列で聞いてみると、相手と一緒に課題を整理して、振り返ることができます。

最後の練習問題では、保育現場での支援者同士の会話の中から、事実を聞く質問と事実を聞けない質問を答えるドリルに取り組んでいただき、質疑応答に移りました。 参加者からは、保護者に子どもの状況を聞きたかった事例や、支援者間で情報共有をする方法などについてご質問いただきました。

また研修後、参加者から感想や実践報告をいただきました。『自分の質問の癖』に気づいた方や、保護者や子どもたちの状況を知るために、早速「いつ」質問を使い、『相手の状況把握』に役立てている方もおられました。今後も、保育や子ども支援の現場でこうした研修ができれば嬉しいです。ご参加下さった皆様、ありがとうございました!



<参加者の声>

・今回の研修で尋問にならない聞き方や、思い出しながら聞き出していく方法がとても勉強になった。医療機関受診のタイミングやこうした方がいいよなと思っていても、すぐに解決策やアドバイスをせず、話を聞きながら一緒に整理して、保護者が主体的に受診行動をとれるように関われたらいいなと感じた。

何を聞くべきなのか、把握しておくべきことは何なのかを自分の中で前もって考えておくことも必要であると思うし、問題を決め付けたまま質問を重ねるのではなく、相手と同じ目線で事実を確認していく中で、一緒に課題を見つけられるような姿勢も忘れずに持っていたいと思った。

・トラブルや課題のある話では、なんで?どうして?と聞きたくなるが、それを、いつ?の問いに変えることで、答える側は事実を思い出しやすくなることを知った。実際に演習する中で、すべての質問を「いつ?」に変えてみると、答えがはっきりと浮き出し、答えやすくなることを体験できた。

・講座の中で、講師の方から実際に事実質問を投げかけられたとき、とても答えやすく、そこから詳しく質問をしていただくことで思い出す内容がはっきりとしていくことを実感した。また、事実を知っていく質問の投げかけが、尋問となってしまわないよう、要所要所で相手の言葉を復唱し、共通理解につなげていく大切さを改めて学んだ。

・今回の研修で自分の質問の仕方ひとつで、相手から得られる答えが全然違ってくること、相手との関係性に大きく影響が出ることを学び、実際に保護者とのやり取りで実践してみた。
園での食事量が少ない子どもの保護者に「何時に朝ご飯を食べている?今朝は何を食べた?どれくらいの量を食べた?昨日は何を食べた?」と質問することで、朝ご飯を食べる時間が遅く、どのメニューであってもたくさんの量を食べていることがわかった。そして、この子どもはお腹があまり空いていないから園でのお昼ご飯が進まないんだなとアセスメントすることができた。

・特にスタッフへの言葉かけは難しく感じており、スタッフの困りごとなどを知りたくても、情報が少なくわかってあげられなかったことが多かったと思う。質問の仕方を変えてみるなど、本日教わった手法を取り入れてみたい。

・相手の話を聞きながら、すぐに自分なりに解釈してしまうこともあるなと気が付くとともに、俯瞰して聞く練習をしていきたいと思った。自己肯定感に配慮するというところでは、改めて大人も子どもも個人は尊重されていることを実感した。

・メタファシリテーション手法を意識して職場内の対話が進むと、お互いの自己肯定感や達成感を保ちながら、気持ちよく仕事ができると思う。まずは自分が実践できるよう今回の学びを少しずつでも活用していきたいと思う。

・メタファシリテーションの3つ目のルールに『求められないアドバイスはしない』とあり、アドバイスまでいかなくても、相手の話を遮ってしまうことや、先に提案をしたり、話をかぶせてしまったりする癖があるので、話したくなっても意識して我慢し、相手の主体性を大切に会話するようにしたいと思う。

・「メタファシリテーション」という言葉は、今まで私生活であまり聞かない言葉で、研修を受けるまでは具体的にどんな話が聞けるのだろうかと思っていた。実際に研修を受けてみると、とても身近な課題内容でした。特に日頃の子どもたち、保護者とのやり取りや個別面談での場面が浮かびやすかった。

・講義の中で印象に残ったのは「相手のペースに合わせること」という言葉。言葉数か少なく、コミュニケーションが苦手な方との最近の会話を改めて振り返り、言葉数やペースの違いに改めて気付くことができた。まずは相手の話をじっくり聞くこと、そこから会話を広げていくことや、無理強いなく答えやすい質問をしていくことを意識して今後も密にかかわっていき、まずは信頼関係を築くことを目標にしていきたいと思う。

・職場でも、相手の話を自分なりに解釈して聞き、事実を理解しないまま、求められていないアドバイスをしたことも多くあっただろうと思う。問題解決をするためには、何が問題かを知る必要がある。まず「事実」を共有することから一緒に考えることができる。相手が本当に伝えたいことは何かを知ることができるように、質問の仕方や聞く姿勢を変えていきたいと思う。コミュニケーションの大切さを改めて感じた。


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ムラのミライでは、保育や子ども・子育て支援の現場で子どもの権利を尊重するための事業や研修を行っています。講師派遣について、ご関心がある方はお問い合わせフォームから予算・内容などお気軽にご相談ください。

山岡 美翔 ムラのミライ事務局長)

2025年11月6日木曜日

イベント報告:代表継承記念イベント「18年ぶりの世代交代とこれから」

11月に入り、また気温が下がってきていますが、皆さんお変わりないでしょうか。今回は、代表継承記念イベント「18年ぶりの世代交代とこれから」について報告します。

イベントレポート「18年ぶりの世代交代とこれから」

7月の代表継承記念イベントには、国内外から34名もの方が参加して下さいました。
新旧代表の活動への想いはもちろん、活動の歴史やこれまで協働下さった方々のことを知っていただく機会となり、皆様からのあたたかいお言葉に大変勇気づけられました。

 イベントの詳細については、参加者の大森さんがご自身のnoteにレポートをアップしてくださいました。当日の新旧代表のあいさつなども丁寧にまとめて下さっています。まだ読んでいない方は、ご一読いただければ嬉しいです。

📒レポート:認定NPO法人ムラのミライ代表承継イベント「18年ぶりの世代交代とこれから」|大森 雄貴 / Yuki Omori

 


また、イベント後のアンケートにも多くのご回答をお寄せいただきましたので、ご紹介させていただきます。

<イベント参加者の声>

・発表や発言をされる方が、良いお顔をされていて素晴らしい組織だと思いました。

 ・貴団体の歴史を改めて知ることができました。また新旧の代表のお話をお聞き出来たこととで、これからの進展にも期待が大きくなりました。

 ・時間が短くて惜しいなぁ、と思うくらい充実した会でした。2時間でも3時間でも、ずーっと聴いていられそうでした。原さんの心境の変化とかももっと伺いたかったですが、それはまた個人的にお伺いするとして。質問形式もよかったです。
そんな感じで中田さんとさんのパネルトークみたいなものも聴いてみたいなぁと思いましたが、きっとこの前の総会に出席していたらそういう話もあったのでは、と悔やまれるところです。またみなさんにお会いできたら内輪話などこっそり伺ってみたいとおもいます!

 ・これまで触れることのなかった「ムラのミライ」の活動を深く知る機会となりました。一方で、時間が短く限られた場だったため、まだまだ聞きたい話も多かったように思います。

 ・ますます希薄になっていく人と人とのつながりを、濃厚・確実に支えていくことのできるコミュニケーションツールとして、メタファシリテーションが役に立ち、また危うさを裏打ちしていってもらえることを期待しています。

 10年ほど前に、体験講座に参加させていただいたことが、初めての出会いでした。今でも話を聞くとき、「いつ」から聞くととてもスムーズに話が進み、ムラのミライとの出会いをありがたく懐かしく思っています。これからもじわじわとファンを広げていってほしいと思います。

 ・久しぶりにZOOM越しに皆さんにお会いできてとてもうれしく思いました。ムラのミライのこれまでの活動についても知ることができ、また今後の思いを共有いただけたことで私自身も会の活動に対してできることを模索したいと思いました。原さんがおっしゃっていた土壌が地域で、ムラのミライの役割=ミミズの例は、とてもしっくりきました。ミミズを活用して多様な生き物が住む土壌を作っていきたいですね。

 ・率直に心開いてお話ししてくださる態度、そして、イベント前後に頂戴したメール文章や当日の司会進行からも他者尊重と心配りを感じたため。お話を初めて伺いましたが、これらは皆様が海外でも大切に育んで来られ点かと感じました。とても爽やかで清々しい体験でしたし、勉強になりました。ありがとうございました。

 ・私の現場は保育のため、子育て支援についてはとても興味があります。本来、保育所や保育士も子育て支援の業務を担っておりますが、保育を回していくことに精一杯な状況であり、保育所任せにならない保護者主体の子育てをどう支えていくのか模索しながら広場提供などの支援を行っています。
地域という別のアングルからの支援との連携など必要なことは山ほどありますが、保育所側からどのようにアプローチしてよいのか、地域の子育て支援では具体的にどのようなことがなされているのか、いろいろと具体的なお話をざっくばらんに聞く機会があれば、個人的にうれしいです。

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たくさんのご感想をありがとうございました!支援者の皆様に、ムラのミライの新しい門出を応援いただき、心強く感じました。今後もこうしたムラのミライの役職員の顔が見えるイベントを続けられたらと思っています。

 次回は、9月に行った保育現場でのメタファシリテーション研修について研修内容や参加者の声をご紹介します。お楽しみに! 

山岡 美翔 ムラのミライ事務局長)

2025年10月10日金曜日

セネガル事業報告会レポート3:「普及活動」や「持続性」の秘訣は何ですか?

セネガル報告会レポート後編です。

菊地さんと和田さんによる対話形式の報告のあと、参加者からもたくさん質問が上がりました。その一部をご紹介します。

 

Q:元々、事業地の小規模農家たちは「農業で生計が立てられなくなって都市や欧州に出稼ぎに行く」という問題を抱えてたとのことでしたが、ため池などで土壌の保水能力が向上し、(水やりなど)水のマネジメントがうまくいった場合、出稼ぎに行かなくても済む営農パターンというのはありますか?

和田:それはわかりません。ただ、教えたのは『何事にもコストがかかる』ということです。種や肥料を買うことだけがコストではない、労働時間や売る時の経費を含めて、すべての工程でどれだけのコストをかかるのか、ということが明らかになるようにしました。そこから、各自が判断すれば良いと思っています。(つまり、それぞれが自分で考えて「こういう農業をする」と決めて、実行する、それを続けていくということ)


Q:「指導員養成」や「指導員による循環型農業の普及」という活動について、指導員はどのように農法を普及していったのですか?ムラのミライから動機付けはどのように行ったのですか?

和田:普及方法は、自分の畑の周りのひとたちに伝える、ということです。まず、農民は遠くまで行けません。また、指導員の畑の周囲の農民たちが、「なにやってるんだ」と思い、(指導員に)聞く。そこで、指導員は系統的に教えるのではなく、それに応える・教える、という感じ。興味を持った人が聞いてきた時に、その場で教える、ということです。
また、ムラのミライは動機付けはしません。そうなるだろう、という予想がつくのです。ンディアンダ村の指導員の一人が、「土壌の塩化を防止するのが自分だけではだめだ」と気づいたように、それ(知識や発見)が動機づけになるのです。(場所を)限定的にするのではなく広範囲でしないとだめだ、ということに村人自身が気付くようになること。それが重要だと考えています。



他にも、最後の1年間にンディアンダ村で整備されたため池の使い方や効果、既存の灌漑設備の有無や研修に来ていた農民たちの選出方法など、終了時間ギリギリまで、参加者の質問は続きました。

 

まだまだあるエピソード

たくさんの方々に参加していただき、質問もいただき、本当にありがとうございました。

「大変勉強になりました。農民の皆さんの意識が少しずつ変化していく様子を思い描くことができ、大変興味深く拝聴いたしました」
「沢山の実践ベースのお話を聞くことができ、大変勉強になりました!」
などの感想もいただきました。

まだまだエピソードはあります。

続きは、11月1日(土)のイベント「セネガルのお話&ランチ交流会in 京都(西アフリカ料理)」でみなさんと共有できればいいなと思います。
ぜひご参加ください!


2025年9月26日金曜日

セネガル事業報告会レポート2:村での研修のやり方を再現

セネガル報告会レポート中編です!


ムラのミライの事業では、スタッフが一方的に村人(相手)に何かを教えるのではなく、対話をベースに活動をすすめます。なので、報告会でも、菊地さんと和田さんの対話がベースとなりました。
和田さんと菊地さんのほのぼのとしたやりとりに笑ったり、なるほど〜と思ったりしながら、あっという間で内容が盛りだくさんの時間となりました。その中でもとっておきの場面をお伝えします。

セネガルでムラのミライがやったこと・やらなかったこと

さて、セネガル事業は2017年から2025年まで続きましたが、2017年に開始した直後に、私、前川も初めてセネガルを訪れました。それまでは、山に囲まれたインドの村で活動していたので、セネガルの果てしなく続く地平線と視界を遮るものがほとんどない赤茶けた広い大地に驚き、絵本「星の王子さま」に出てくるバオバブの木を初めて見て感動していました。


私は10年近くインドやネパールで和田さんの研修を間近で見てきたので、セネガルでも変わらず「メタファシリーテーションの鉄則だなぁ」と思って和田さんや中田さんと農民の皆さんとのやり取りをみていたのですが、綾乃さんは当初、その研修スタイルに驚いたそうです。

菊地さんは事業が始まって数か月後の2017年5月にムラのミライに入職と同時にセネガルで駐在を始めました。報告会では、初めてセネガルで和田さんの研修に参加したときの様子をこう話していました。

菊地:私、最初に和田さんの研修に出た時、とってもびっくりしたんですね。私の知っている研修って、必ず講師が最初に「今日は○○の研修です」と言って始まったり、どこかに「○○の研修」と書いてあったりしてました。でも和田さんの研修では、そういうことが何もなかったんです!農業の事業と聞いていたので、研修も種とか農法の話から入ると思っていましたが、和田さんの村人への最初の質問は「最近、洪水はいつありましたか?」とか「朝、太陽が昇ったら何が起こりますか?」なんです。「えっ、今から何が始まるの?」「今日は何の研修なの?」と私も村人も一緒にびっくりしてました。和田さんは、毎回、研修のテーマを決めていましたか?事業の全体的なテーマも決まっていたのですか?
和田:菊地さんや村人たち、確かに驚いてましたね。研修全体のテーマ、事業期間を通してどのようなことを(村人に)わかってもらおうか、というのはあらかじめ決めていますよ。でもね、毎回の研修のやり方は、その日の村人たちの顔を見てその場で決めるのです。
菊地:だから「畑への水やり」という同じテーマでも、訪れる村ごとに研修のやり方が違ったのですね!

和田:なんで僕が村人に「太陽が昇ったら何が起こる?」というような質問をするか菊地さんはわかりますか?
菊地:うーん、村人たちの興味をひくためですか?
和田:それもあるけど、僕が村人との対話をベースに研修をする理由はね、村人たちが『何を知っていて何を知らないか』を分かってもらうためなんです。それが研修。『農作物への水やりはどのタイミングでやるのか、それは朝です』と言ったって村人は腑に落ちないし、頭にも残らない。「太陽が昇ったら何が起こるか」という現象を、自分の体験を、時系列で追体験してもらう。そのために村人に質問をしていくのです。


そこで、菊地さんが「私も追体験してみたいです」と和田さんにまさかのリクエスト。苦笑いしながら、和田さんが菊地さんに聞いていきます。

和田:日が昇るころに起きたことある?その時、あなたの身体に何が起こりましたか?
菊地:体、特に顔が暖かくなりました。
和田:そうだね、ぽかぽか暖かくなるね。その時、地面で何が起きているか知っていますか?
菊地:う~ん、・・・知りません
和田:その体験は、どこでしたの?
菊地:初詣です。
和田:なるほど、そこでは地面のことは体験し辛いかもしれませんね。だけど、セネガルでは相手は農民です。周りに土があります。朝日が昇ってくると、朝露がでてくる、地面が温かくなる、ということを思い出せるのです。
菊地:なるほど。私と同じように「体が温かくなる」という体験は一緒ですが、それ以上に「同時に地面で起きている現象」を具体的に答えられるのですね。

実際に「その場で体験しながら現象を理解する」という研修のワンシーンを、菊地さんは動画でも見せてくれました。
動画では、和田さんがコップの中にティッシュで作った「こより」の先を浸しながら、村人たちと会話をしています。それは、見えない土の中の「毛細管現象」を説明している場面でした。村人たちは、ティッシュがコップの中の水を吸い上げ湿っていく様子を見たり触ったりします。


メタファシリテーションを1対複数人でする時のポイント

和田:例えば「熱伝導」という科学用語をいきなり伝えるのではなく、「やかんでお湯を沸かすと、中の水がどうやって温まっていくか」という例をとったりするのも同じです。こうした現象を利用して、植物は水や養分を吸い上げる、という説明をするのです。
菊地:だから、村の人たちも最後は大きく頷いているのですね。
和田:そうです。最初の質問ではポカーンとしていた村の人たちも、質問に答えていく形で、自分たちの経験を知識と結びつける、ということができるのです。

菊地:全員が理解していたのでしょうか?
和田:優秀な人たちはいます。研修で10人に1人が喰いつけばいいし、20人に1人が実践し、その人から広まれば良いのです。事業開始当初、優秀だなと感じ入った人は3~4人。その中でも特に優秀なひとりは「わたしは何も知らなかったことを知りました」と嬉しそうに言っていました。最初から、全員が理解する必要はありません。
菊地:そうでしたね、何人かは研修後にすぐに実践しましたね。
和田:農業プロジェクトと言っても、ピーマンのつくり方を教えることはしませんよ。私自身も作ったことは無いですしね。ただ、ピーマンの栽培過程のどの時点で、水を集中的にやるか、というようなことは教えることができます。

つまり、和田さんが一貫して村人たちに教えてきたのは、彼ら自身が考えて実践するための知識や方法です。それを受けて、菊地さんがあるエピソードを思い出しました。

菊地:畑の面積を測って、必要な種の数や作業人数、日数などを算出するというような研修をした時、それまで面積を出したことはない人たちがほとんどでした。その計算中、トマトが一番効率よいということがわかって実践した農家もいました。こちら側が言わなくても、自分で発見して実践する、ということですね。

このように、写真や動画も見ながら、二人による和やかな対話の時間が終わりました。
後編は、参加者からの質問と和田からの回答を一部ご紹介します。

 

★2025年11月1日(土) には、イベント「セネガルのお話&ランチ交流会in 京都(西アフリカ料理)」を開催します。ぜひご参加ください! 


 

セネガルの小規模農家が抱えていた問題とは?

2025年9月8日月曜日

セネガル事業報告会レポート1:ムラのミライとセネガルとの出会い

こんにちは、ムラのミライの前川香子です。
8月23日(土)にセネガル事業報告会をオンラインで開催しました。その一部を、3回に分けてお伝えしたいと思います。

私の報告会の当日の担当は、司会進行でした。
スピーカーは2人のセネガル事業担当者。
1人は、和田信明さん(ムラのミライ シニアコンサルタント)、そしてもう1人は、菊地綾乃さん(元セネガル駐在員、ムラのミライ認定メタファシリテーション®トレーナー)でした。菊地さんは、ムラのミライ入職前にJICAの海外協力隊としてベナンでの活動経験がありました。(なので、菊地さんは駐在前からフランス語が堪能で、駐在中に現地語のウォロフ語も話せるようになりました)

2時間と長丁場の報告会でしたが、菊地さんが和田さんに質問する形式で和やかに進み、参加者の方(国内外のNPOの方々が多かったです)からの活発な質問も飛び交うとても楽しい時間でした。
では、報告会レポート前編です。

 

そもそも、なぜセネガルに??

「なんでムラのミライがセネガルで事業をするの?」
セネガル事業をするにあたって現地調査を始めた2012年、私は海外事業チーフとして主にインドやネパールの事業担当だったのですが、あちらこちらで聞かれました。
報告会でも、この部分に触れています。

菊地:ムラのミライって、セネガル事業の前まで20年近く、インドネパールといった南アジアが活動拠点でしたよね?私もムラのミライ=南アジア、というイメージでした。「セネガルで」というのは、誰が最初に言い出したのですか?
和田:僕と中田(前代表の中田豊一)の2人です。2人とも時期は違うのですが、フランスに留学経験があって、西アフリカならフランス語が使えるかなと思ったのです。そこは、一種のノスタルジーですね。
あと、僕と中田で開発した方法論(メタファシリテーション®)が南アジア以外でも汎用性を持つのか、というのも試してみたかったんです。インドでは、水資源を管理できる範囲で(1つの村)、水と土と森を村人が管理できるようにしていこうという事業をやっていました。村人はいわゆる家族で農業を営む小規模農家(以下、小農)の人たちです。この小農って、全世界の農家人口の85%を占めているんです。アフリカは全人口の51%が農民で、その大多数が小農。だから彼らが水や森を管理できないとなると、地球環境的にも大変なことになります。もうあちこちで猛スピードで大洪水や干ばつで大変なことになっていますよね。だからこそ、小農の彼らが使える資源を適切に活用して、水や土を再生していくよう方法論を確立したいという思いで、セネガルでの事業をスタートしたんですよ。
菊地:そうだったのですね。
和田:西アフリカといっても広いからね。最初からセネガルだった訳ではなく、ブルキナファソやマリも検討しました。でも、治安上の問題や、何よりこの方法論を理解してくれるセネガルの現地NGOに出会えたことで、最終的にセネガルとなったのです。

カウンターパート団体との共通認識のつくり方

和田さんから、セネガル現地NGOの話が出ましたが、それが、セネガル現地NGOアンテルモンドの代表ママドゥさんです。

和田さんや中田さんがママドゥさんに出会ってすぐに、セネガルでの事業がスタートしたわけではありません。まずは2014年、2015年とアンテルモンドのママドゥさんとメラニーさん、それと中田さん、和田さんの4人でセネガルの5州を巡り、ローカルNGOや農民の話を聞き、現地の様子を見ました。2016年には、ママドゥさんとメラニーさんにインドの事業地に来てもらい、村人による小規模流域管理事業を見てもらうことになりました。

ママドゥさんたちはいくつかの村を訪れ、「流域管理委員会」のメンバーである村人たちから、ため池や土壌流出防止のための石垣や植林地について、そして今後の計画についての説明を受けました。(ムラのミライのスタッフは、村では事業の説明をせず、ママドゥさんたちの通訳をしたり、村人の説明に少し補足説明をしたりするくらいです。)

『村にある知識やノウハウと、土壌・水保全の科学的な知識を結び付ける』そして『外から来たNGOが一方的に押し付けるのではなく、農民自身が考えて決める(自己決定)』というムラのミライのアプローチに、ママドゥさんたちは、大変驚きました。

そうして、「同じように土や水の問題を抱えるセネガルで、ムラのミライとぜひ一緒に事業がしたい!」とセネガルでの活動が始まりました。

セネガル事業開始エピソード続き、報告会では、「セネガルでムラのミライは何をしたの、何をしなかったの?」という話に続きます。続きは後編で。


★2025年11月1日(土) には、イベント「セネガルのお話&ランチ交流会in 京都(西アフリカ料理)」を開催します。ぜひご参加ください!




村人による小規模流域管理事業(インド)とは

2025年7月18日金曜日

18年ぶりの世代交代(3)名前のついていない時代に、橋をかける

 “空白の時代”を生きる私たちができること
経済、コミュニティ、環境のあいだに橋をかける――メタファシリテーションを片手に、“名前のついていないミライ”をつくる仲間を募ります!

分断を越えて橋をかける
こうした「ケアの危機」、「環境の危機」は、もはや未来の話ではなく、「今ここにある危機」です。私たちムラのミライは、そうした危機の最前線で、地域の実践者とともに取り組みを続けてきました。一人一人の力では決して背負いきれないその重みに向き合う仲間として、理事や監事認定トレーナー会員やサポーターのみなさんの存在があります。


 写真:セネガル・ンディアンダ村のため池。乾季に入っても水をたたえ、周囲の井戸水も干上がっていない。

“空白の時代”をつなぐ
イタリアの思想家アントニオ・グラムシが、20世紀前半に語った言葉です。
「古いものは死にかけていて、新しいものはまだ生まれていない。」まさにいま、私たちはその「空白の時代」を生きています。ムラのミライが目指すのは、この空白を“つなぐ”こと。あちらこちらで分断されてしまった領域のあいだに橋をかけることです。そして、その橋をかける技術が、メタファシリテーションです。

(出典:アントニオ・グラムシ『グラムシ獄中ノート』(三一書房、1978年/大月書店、1981年)原文:The old world is dying, and the new world struggles to be born.)


無視されてきた声に耳をすます
設立から32年間、ムラのミライが取り組んできたのは、インドやネパールでの水や森の保全、スラムの女性による信用金庫の立ち上げ、西宮での産前産後の家族支援の仕組みづくり、セネガルでの大地の再生、日本各地での子ども支援団体やひとり親家庭の支援団体との協働、そして公共の制度への働きかけなど、いずれも「無視されてきた声」に耳を傾け、そこから人びとが立ち上がっていく支援でした。

そして、これからも、就労困難を抱えた若者支援、子どもの権利を軸とした子ども支援団体・海外ルーツの子ども支援団体への伴走、ひとり親家庭の実態と可能性に関する調査、国内外でのメタファシリテーション研修や認定トレーナー等育成、自然資源の再生への取り組みなど、複数の現場で展開していきます。

橋をかけるという挑戦
昨年、前代表の中田は年次報告の中でこう語りました。「いま求められているのは、“自助”と“公助”のあいだに橋をかける試み」

その橋をどうかけるか——これは、いま私たちが直面する問いです。

ムラのミライは、まだ名前のついていない時代へ、迷いながらも一歩ずつ、仲間とともに歩んでいきます。これからも、名前のついていないミライづくりへのご参加、ご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

 写真:京都の会場で参加してくださった新旧役員・会員・サポーターの皆さん

原康子 ムラのミライ代表理事)

【お知らせ】7/27に記念イベント「18年ぶりの世代交代とこれから」を開催します。
初めての方も、お久しぶりの方もぜひご参加ください!
https://muranomirai.org/event/20250707/


2025年7月11日金曜日

18年ぶりの世代交代(2)グラスを洗いながら思った誕生日

新しい理事・監事との出会い
総会では、新しく選ばれた理事、監事の挨拶がありました。ベテランのライター、フェアトレードの先駆者、伝統野菜を使った企業の経営者、企業CSR部門で長年NPO支援をしてきた方など。この日は欠席でしたが、メディアで活躍する記者も新しく理事に加わってくれました。彼女たちと一緒に、新しいスタートが切れることが嬉しくてワクワクが止まりませんでした。また再任された河合監事は、「ここは気をつけないと!」と毎年ビシッと背筋を伸ばすのを手伝ってくださる組織基盤強化のプロフェッショナルです。新しい理事・監事たちに向けて「NPO法人の理事って?監事ってどんな役割、ムラのミライでは何をする?」という勉強会も予定しています。とっても心強い皆さんなのです。

話を元に戻すと、会場に集まった新旧の会員やサポーターの新理事、監事の皆さんは、初対面の方が多いとは思えない空気感。なんというか「お久しぶり!」という雰囲気で、オンライン参加の皆さんも含め、なんともいえないほんわかした空気が会場に満ちていました。

 


グラスを洗いながら思ったこと
総会後の理事会も無事終わり、ほっとして会場の後片付けをしている時ことです。流し台で、使ったグラスを洗っているとき「あっ、今日は新しいムラのミライの誕生日だ!」という気持ちになりました。グラスを洗う手を止めた途端、その場にはおられないけれど、何十年も支えてくださった正会員や、サポーターの皆さんの顔が、浮かんできました。そのおかげなのかどうか、グラスをよく割る私も、その日は1つもグラスを割らずに片付けることができました(「誕生日!」と私がぼーっとしている間に、新理事の一人が素早く洗ってくれましたし)。

“見えないもの”と向き合う
少しだけ、認定トレーナーの現場で起きていることの続きを、そして新理事・監事のみなさんの専門分野にも共通するテーマについて触れたいと思います。
私たちは「資本主義」という巨大な構造の中にいます。この仕組みを成り立たせてきたのは、本来は不可欠であるにもかかわらず、ずっと“見えないもの”とされ、正当に評価されてこなかった存在たちです。たとえば、植民地主義の名残として奪われた土地や資源、女性が担うものとされてきた再生産(ケア労働)、一方的に搾取・収奪されてきた生態系、そして国家が支える制度やインフラ。これらは「便利な土台」として当然のように資本主義社会で消費され続け、疲弊しきってしまっています。


写真:セネガルの土壌の塩化が進む大地(白い水玉模様の箇所が塩化している部分)

「今ここにある」危機の現実
その影響は、私たちの活動地でも危機的でした。たとえばセネガルでは、過酷な植民地時代を経てなお、今も土地と水資源の枯渇が猛スピードで進んでいます。そんな中、2024年度にはンディアンダ村から「よみがえる大地」の報告が届きました。動画もありますのでぜひご覧ください。

一方、日本では148カ国中118位というジェンダーギャップのなか、母親ひとりによる子育てが極めて困難な現実があります。そして、10〜19歳の死因の1位が「自殺」であること。2024年度には小中高生の自殺者が529人と過去最多となり、女子が初めて男子を上回ったことなどです。女性や子ども、若者にとって、どれほどこの国が生きづらいか、数字でも突きつけられています。さらに、高齢化の進行により、国民の5人に1人が75歳以上という時代に入り、医療・介護体制の整備は待ったなしの課題となっています。続きは3回目で!


写真:困難を抱える若者の就労応援プログラム(休眠預金等活用事業カウンターパート団体 一般社団法人nimo alcamo開催@京都)

原康子 ムラのミライ代表理事)

【お知らせ】7/27に記念イベント「18年ぶりの世代交代とこれから」を開催します。
初めての方も、お久しぶりの方もぜひご参加ください!
https://muranomirai.org/event/20250707/