2025年10月10日金曜日

セネガル事業報告会レポート3:「普及活動」や「持続性」の秘訣は何ですか?

セネガル報告会レポート後編です。

菊地さんと和田さんによる対話形式の報告のあと、参加者からもたくさん質問が上がりました。その一部をご紹介します。

 

Q:元々、事業地の小規模農家たちは「農業で生計が立てられなくなって都市や欧州に出稼ぎに行く」という問題を抱えてたとのことでしたが、ため池などで土壌の保水能力が向上し、(水やりなど)水のマネジメントがうまくいった場合、出稼ぎに行かなくても済む営農パターンというのはありますか?

和田:それはわかりません。ただ、教えたのは『何事にもコストがかかる』ということです。種や肥料を買うことだけがコストではない、労働時間や売る時の経費を含めて、すべての工程でどれだけのコストをかかるのか、ということが明らかになるようにしました。そこから、各自が判断すれば良いと思っています。(つまり、それぞれが自分で考えて「こういう農業をする」と決めて、実行する、それを続けていくということ)


Q:「指導員養成」や「指導員による循環型農業の普及」という活動について、指導員はどのように農法を普及していったのですか?ムラのミライから動機付けはどのように行ったのですか?

和田:普及方法は、自分の畑の周りのひとたちに伝える、ということです。まず、農民は遠くまで行けません。また、指導員の畑の周囲の農民たちが、「なにやってるんだ」と思い、(指導員に)聞く。そこで、指導員は系統的に教えるのではなく、それに応える・教える、という感じ。興味を持った人が聞いてきた時に、その場で教える、ということです。
また、ムラのミライは動機付けはしません。そうなるだろう、という予想がつくのです。ンディアンダ村の指導員の一人が、「土壌の塩化を防止するのが自分だけではだめだ」と気づいたように、それ(知識や発見)が動機づけになるのです。(場所を)限定的にするのではなく広範囲でしないとだめだ、ということに村人自身が気付くようになること。それが重要だと考えています。



他にも、最後の1年間にンディアンダ村で整備されたため池の使い方や効果、既存の灌漑設備の有無や研修に来ていた農民たちの選出方法など、終了時間ギリギリまで、参加者の質問は続きました。

 

まだまだあるエピソード

たくさんの方々に参加していただき、質問もいただき、本当にありがとうございました。

「大変勉強になりました。農民の皆さんの意識が少しずつ変化していく様子を思い描くことができ、大変興味深く拝聴いたしました」
「沢山の実践ベースのお話を聞くことができ、大変勉強になりました!」
などの感想もいただきました。

まだまだエピソードはあります。

続きは、11月1日(土)のイベント「セネガルのお話&ランチ交流会in 京都(西アフリカ料理)」でみなさんと共有できればいいなと思います。
ぜひご参加ください!


2025年9月26日金曜日

セネガル事業報告会レポート2:村での研修のやり方を再現

セネガル報告会レポート中編です!


ムラのミライの事業では、スタッフが一方的に村人(相手)に何かを教えるのではなく、対話をベースに活動をすすめます。なので、報告会でも、菊地さんと和田さんの対話がベースとなりました。
和田さんと菊地さんのほのぼのとしたやりとりに笑ったり、なるほど〜と思ったりしながら、あっという間で内容が盛りだくさんの時間となりました。その中でもとっておきの場面をお伝えします。

セネガルでムラのミライがやったこと・やらなかったこと

さて、セネガル事業は2017年から2025年まで続きましたが、2017年に開始した直後に、私、前川も初めてセネガルを訪れました。それまでは、山に囲まれたインドの村で活動していたので、セネガルの果てしなく続く地平線と視界を遮るものがほとんどない赤茶けた広い大地に驚き、絵本「星の王子さま」に出てくるバオバブの木を初めて見て感動していました。


私は10年近くインドやネパールで和田さんの研修を間近で見てきたので、セネガルでも変わらず「メタファシリーテーションの鉄則だなぁ」と思って和田さんや中田さんと農民の皆さんとのやり取りをみていたのですが、綾乃さんは当初、その研修スタイルに驚いたそうです。

菊地さんは事業が始まって数か月後の2017年5月にムラのミライに入職と同時にセネガルで駐在を始めました。報告会では、初めてセネガルで和田さんの研修に参加したときの様子をこう話していました。

菊地:私、最初に和田さんの研修に出た時、とってもびっくりしたんですね。私の知っている研修って、必ず講師が最初に「今日は○○の研修です」と言って始まったり、どこかに「○○の研修」と書いてあったりしてました。でも和田さんの研修では、そういうことが何もなかったんです!農業の事業と聞いていたので、研修も種とか農法の話から入ると思っていましたが、和田さんの村人への最初の質問は「最近、洪水はいつありましたか?」とか「朝、太陽が昇ったら何が起こりますか?」なんです。「えっ、今から何が始まるの?」「今日は何の研修なの?」と私も村人も一緒にびっくりしてました。和田さんは、毎回、研修のテーマを決めていましたか?事業の全体的なテーマも決まっていたのですか?
和田:菊地さんや村人たち、確かに驚いてましたね。研修全体のテーマ、事業期間を通してどのようなことを(村人に)わかってもらおうか、というのはあらかじめ決めていますよ。でもね、毎回の研修のやり方は、その日の村人たちの顔を見てその場で決めるのです。
菊地:だから「畑への水やり」という同じテーマでも、訪れる村ごとに研修のやり方が違ったのですね!

和田:なんで僕が村人に「太陽が昇ったら何が起こる?」というような質問をするか菊地さんはわかりますか?
菊地:うーん、村人たちの興味をひくためですか?
和田:それもあるけど、僕が村人との対話をベースに研修をする理由はね、村人たちが『何を知っていて何を知らないか』を分かってもらうためなんです。それが研修。『農作物への水やりはどのタイミングでやるのか、それは朝です』と言ったって村人は腑に落ちないし、頭にも残らない。「太陽が昇ったら何が起こるか」という現象を、自分の体験を、時系列で追体験してもらう。そのために村人に質問をしていくのです。


そこで、菊地さんが「私も追体験してみたいです」と和田さんにまさかのリクエスト。苦笑いしながら、和田さんが菊地さんに聞いていきます。

和田:日が昇るころに起きたことある?その時、あなたの身体に何が起こりましたか?
菊地:体、特に顔が暖かくなりました。
和田:そうだね、ぽかぽか暖かくなるね。その時、地面で何が起きているか知っていますか?
菊地:う~ん、・・・知りません
和田:その体験は、どこでしたの?
菊地:初詣です。
和田:なるほど、そこでは地面のことは体験し辛いかもしれませんね。だけど、セネガルでは相手は農民です。周りに土があります。朝日が昇ってくると、朝露がでてくる、地面が温かくなる、ということを思い出せるのです。
菊地:なるほど。私と同じように「体が温かくなる」という体験は一緒ですが、それ以上に「同時に地面で起きている現象」を具体的に答えられるのですね。

実際に「その場で体験しながら現象を理解する」という研修のワンシーンを、菊地さんは動画でも見せてくれました。
動画では、和田さんがコップの中にティッシュで作った「こより」の先を浸しながら、村人たちと会話をしています。それは、見えない土の中の「毛細管現象」を説明している場面でした。村人たちは、ティッシュがコップの中の水を吸い上げ湿っていく様子を見たり触ったりします。


メタファシリテーションを1対複数人でする時のポイント

和田:例えば「熱伝導」という科学用語をいきなり伝えるのではなく、「やかんでお湯を沸かすと、中の水がどうやって温まっていくか」という例をとったりするのも同じです。こうした現象を利用して、植物は水や養分を吸い上げる、という説明をするのです。
菊地:だから、村の人たちも最後は大きく頷いているのですね。
和田:そうです。最初の質問ではポカーンとしていた村の人たちも、質問に答えていく形で、自分たちの経験を知識と結びつける、ということができるのです。

菊地:全員が理解していたのでしょうか?
和田:優秀な人たちはいます。研修で10人に1人が喰いつけばいいし、20人に1人が実践し、その人から広まれば良いのです。事業開始当初、優秀だなと感じ入った人は3~4人。その中でも特に優秀なひとりは「わたしは何も知らなかったことを知りました」と嬉しそうに言っていました。最初から、全員が理解する必要はありません。
菊地:そうでしたね、何人かは研修後にすぐに実践しましたね。
和田:農業プロジェクトと言っても、ピーマンのつくり方を教えることはしませんよ。私自身も作ったことは無いですしね。ただ、ピーマンの栽培過程のどの時点で、水を集中的にやるか、というようなことは教えることができます。

つまり、和田さんが一貫して村人たちに教えてきたのは、彼ら自身が考えて実践するための知識や方法です。それを受けて、菊地さんがあるエピソードを思い出しました。

菊地:畑の面積を測って、必要な種の数や作業人数、日数などを算出するというような研修をした時、それまで面積を出したことはない人たちがほとんどでした。その計算中、トマトが一番効率よいということがわかって実践した農家もいました。こちら側が言わなくても、自分で発見して実践する、ということですね。

このように、写真や動画も見ながら、二人による和やかな対話の時間が終わりました。
後編は、参加者からの質問と和田からの回答を一部ご紹介します。

 

★2025年11月1日(土) には、イベント「セネガルのお話&ランチ交流会in 京都(西アフリカ料理)」を開催します。ぜひご参加ください! 


 

セネガルの小規模農家が抱えていた問題とは?

2025年9月8日月曜日

セネガル事業報告会レポート1:ムラのミライとセネガルとの出会い

こんにちは、ムラのミライの前川香子です。
8月23日(土)にセネガル事業報告会をオンラインで開催しました。その一部を、3回に分けてお伝えしたいと思います。

私の報告会の当日の担当は、司会進行でした。
スピーカーは2人のセネガル事業担当者。
1人は、和田信明さん(ムラのミライ シニアコンサルタント)、そしてもう1人は、菊地綾乃さん(元セネガル駐在員、ムラのミライ認定メタファシリテーション®トレーナー)でした。菊地さんは、ムラのミライ入職前にJICAの海外協力隊としてベナンでの活動経験がありました。(なので、菊地さんは駐在前からフランス語が堪能で、駐在中に現地語のウォロフ語も話せるようになりました)

2時間と長丁場の報告会でしたが、菊地さんが和田さんに質問する形式で和やかに進み、参加者の方(国内外のNPOの方々が多かったです)からの活発な質問も飛び交うとても楽しい時間でした。
では、報告会レポート前編です。

 

そもそも、なぜセネガルに??

「なんでムラのミライがセネガルで事業をするの?」
セネガル事業をするにあたって現地調査を始めた2012年、私は海外事業チーフとして主にインドやネパールの事業担当だったのですが、あちらこちらで聞かれました。
報告会でも、この部分に触れています。

菊地:ムラのミライって、セネガル事業の前まで20年近く、インドネパールといった南アジアが活動拠点でしたよね?私もムラのミライ=南アジア、というイメージでした。「セネガルで」というのは、誰が最初に言い出したのですか?
和田:僕と中田(前代表の中田豊一)の2人です。2人とも時期は違うのですが、フランスに留学経験があって、西アフリカならフランス語が使えるかなと思ったのです。そこは、一種のノスタルジーですね。
あと、僕と中田で開発した方法論(メタファシリテーション®)が南アジア以外でも汎用性を持つのか、というのも試してみたかったんです。インドでは、水資源を管理できる範囲で(1つの村)、水と土と森を村人が管理できるようにしていこうという事業をやっていました。村人はいわゆる家族で農業を営む小規模農家(以下、小農)の人たちです。この小農って、全世界の農家人口の85%を占めているんです。アフリカは全人口の51%が農民で、その大多数が小農。だから彼らが水や森を管理できないとなると、地球環境的にも大変なことになります。もうあちこちで猛スピードで大洪水や干ばつで大変なことになっていますよね。だからこそ、小農の彼らが使える資源を適切に活用して、水や土を再生していくよう方法論を確立したいという思いで、セネガルでの事業をスタートしたんですよ。
菊地:そうだったのですね。
和田:西アフリカといっても広いからね。最初からセネガルだった訳ではなく、ブルキナファソやマリも検討しました。でも、治安上の問題や、何よりこの方法論を理解してくれるセネガルの現地NGOに出会えたことで、最終的にセネガルとなったのです。

カウンターパート団体との共通認識のつくり方

和田さんから、セネガル現地NGOの話が出ましたが、それが、セネガル現地NGOアンテルモンドの代表ママドゥさんです。

和田さんや中田さんがママドゥさんに出会ってすぐに、セネガルでの事業がスタートしたわけではありません。まずは2014年、2015年とアンテルモンドのママドゥさんとメラニーさん、それと中田さん、和田さんの4人でセネガルの5州を巡り、ローカルNGOや農民の話を聞き、現地の様子を見ました。2016年には、ママドゥさんとメラニーさんにインドの事業地に来てもらい、村人による小規模流域管理事業を見てもらうことになりました。

ママドゥさんたちはいくつかの村を訪れ、「流域管理委員会」のメンバーである村人たちから、ため池や土壌流出防止のための石垣や植林地について、そして今後の計画についての説明を受けました。(ムラのミライのスタッフは、村では事業の説明をせず、ママドゥさんたちの通訳をしたり、村人の説明に少し補足説明をしたりするくらいです。)

『村にある知識やノウハウと、土壌・水保全の科学的な知識を結び付ける』そして『外から来たNGOが一方的に押し付けるのではなく、農民自身が考えて決める(自己決定)』というムラのミライのアプローチに、ママドゥさんたちは、大変驚きました。

そうして、「同じように土や水の問題を抱えるセネガルで、ムラのミライとぜひ一緒に事業がしたい!」とセネガルでの活動が始まりました。

セネガル事業開始エピソード続き、報告会では、「セネガルでムラのミライは何をしたの、何をしなかったの?」という話に続きます。続きは後編で。


★2025年11月1日(土) には、イベント「セネガルのお話&ランチ交流会in 京都(西アフリカ料理)」を開催します。ぜひご参加ください!




村人による小規模流域管理事業(インド)とは

2025年7月18日金曜日

18年ぶりの世代交代(3)名前のついていない時代に、橋をかける

 “空白の時代”を生きる私たちができること
経済、コミュニティ、環境のあいだに橋をかける――メタファシリテーションを片手に、“名前のついていないミライ”をつくる仲間を募ります!

分断を越えて橋をかける
こうした「ケアの危機」、「環境の危機」は、もはや未来の話ではなく、「今ここにある危機」です。私たちムラのミライは、そうした危機の最前線で、地域の実践者とともに取り組みを続けてきました。一人一人の力では決して背負いきれないその重みに向き合う仲間として、理事や監事認定トレーナー会員やサポーターのみなさんの存在があります。


 写真:セネガル・ンディアンダ村のため池。乾季に入っても水をたたえ、周囲の井戸水も干上がっていない。

“空白の時代”をつなぐ
イタリアの思想家アントニオ・グラムシが、20世紀前半に語った言葉です。
「古いものは死にかけていて、新しいものはまだ生まれていない。」まさにいま、私たちはその「空白の時代」を生きています。ムラのミライが目指すのは、この空白を“つなぐ”こと。あちらこちらで分断されてしまった領域のあいだに橋をかけることです。そして、その橋をかける技術が、メタファシリテーションです。

(出典:アントニオ・グラムシ『グラムシ獄中ノート』(三一書房、1978年/大月書店、1981年)原文:The old world is dying, and the new world struggles to be born.)


無視されてきた声に耳をすます
設立から32年間、ムラのミライが取り組んできたのは、インドやネパールでの水や森の保全、スラムの女性による信用金庫の立ち上げ、西宮での産前産後の家族支援の仕組みづくり、セネガルでの大地の再生、日本各地での子ども支援団体やひとり親家庭の支援団体との協働、そして公共の制度への働きかけなど、いずれも「無視されてきた声」に耳を傾け、そこから人びとが立ち上がっていく支援でした。

そして、これからも、就労困難を抱えた若者支援、子どもの権利を軸とした子ども支援団体・海外ルーツの子ども支援団体への伴走、ひとり親家庭の実態と可能性に関する調査、国内外でのメタファシリテーション研修や認定トレーナー等育成、自然資源の再生への取り組みなど、複数の現場で展開していきます。

橋をかけるという挑戦
昨年、前代表の中田は年次報告の中でこう語りました。「いま求められているのは、“自助”と“公助”のあいだに橋をかける試み」

その橋をどうかけるか——これは、いま私たちが直面する問いです。

ムラのミライは、まだ名前のついていない時代へ、迷いながらも一歩ずつ、仲間とともに歩んでいきます。これからも、名前のついていないミライづくりへのご参加、ご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

 写真:京都の会場で参加してくださった新旧役員・会員・サポーターの皆さん

原康子 ムラのミライ代表理事)

【お知らせ】7/27に記念イベント「18年ぶりの世代交代とこれから」を開催します。
初めての方も、お久しぶりの方もぜひご参加ください!
https://muranomirai.org/event/20250707/


2025年7月11日金曜日

18年ぶりの世代交代(2)グラスを洗いながら思った誕生日

新しい理事・監事との出会い
総会では、新しく選ばれた理事、監事の挨拶がありました。ベテランのライター、フェアトレードの先駆者、伝統野菜を使った企業の経営者、企業CSR部門で長年NPO支援をしてきた方など。この日は欠席でしたが、メディアで活躍する記者も新しく理事に加わってくれました。彼女たちと一緒に、新しいスタートが切れることが嬉しくてワクワクが止まりませんでした。また再任された河合監事は、「ここは気をつけないと!」と毎年ビシッと背筋を伸ばすのを手伝ってくださる組織基盤強化のプロフェッショナルです。新しい理事・監事たちに向けて「NPO法人の理事って?監事ってどんな役割、ムラのミライでは何をする?」という勉強会も予定しています。とっても心強い皆さんなのです。

話を元に戻すと、会場に集まった新旧の会員やサポーターの新理事、監事の皆さんは、初対面の方が多いとは思えない空気感。なんというか「お久しぶり!」という雰囲気で、オンライン参加の皆さんも含め、なんともいえないほんわかした空気が会場に満ちていました。

 


グラスを洗いながら思ったこと
総会後の理事会も無事終わり、ほっとして会場の後片付けをしている時ことです。流し台で、使ったグラスを洗っているとき「あっ、今日は新しいムラのミライの誕生日だ!」という気持ちになりました。グラスを洗う手を止めた途端、その場にはおられないけれど、何十年も支えてくださった正会員や、サポーターの皆さんの顔が、浮かんできました。そのおかげなのかどうか、グラスをよく割る私も、その日は1つもグラスを割らずに片付けることができました(「誕生日!」と私がぼーっとしている間に、新理事の一人が素早く洗ってくれましたし)。

“見えないもの”と向き合う
少しだけ、認定トレーナーの現場で起きていることの続きを、そして新理事・監事のみなさんの専門分野にも共通するテーマについて触れたいと思います。
私たちは「資本主義」という巨大な構造の中にいます。この仕組みを成り立たせてきたのは、本来は不可欠であるにもかかわらず、ずっと“見えないもの”とされ、正当に評価されてこなかった存在たちです。たとえば、植民地主義の名残として奪われた土地や資源、女性が担うものとされてきた再生産(ケア労働)、一方的に搾取・収奪されてきた生態系、そして国家が支える制度やインフラ。これらは「便利な土台」として当然のように資本主義社会で消費され続け、疲弊しきってしまっています。


写真:セネガルの土壌の塩化が進む大地(白い水玉模様の箇所が塩化している部分)

「今ここにある」危機の現実
その影響は、私たちの活動地でも危機的でした。たとえばセネガルでは、過酷な植民地時代を経てなお、今も土地と水資源の枯渇が猛スピードで進んでいます。そんな中、2024年度にはンディアンダ村から「よみがえる大地」の報告が届きました。動画もありますのでぜひご覧ください。

一方、日本では148カ国中118位というジェンダーギャップのなか、母親ひとりによる子育てが極めて困難な現実があります。そして、10〜19歳の死因の1位が「自殺」であること。2024年度には小中高生の自殺者が529人と過去最多となり、女子が初めて男子を上回ったことなどです。女性や子ども、若者にとって、どれほどこの国が生きづらいか、数字でも突きつけられています。さらに、高齢化の進行により、国民の5人に1人が75歳以上という時代に入り、医療・介護体制の整備は待ったなしの課題となっています。続きは3回目で!


写真:困難を抱える若者の就労応援プログラム(休眠預金等活用事業カウンターパート団体 一般社団法人nimo alcamo開催@京都)

原康子 ムラのミライ代表理事)

【お知らせ】7/27に記念イベント「18年ぶりの世代交代とこれから」を開催します。
初めての方も、お久しぶりの方もぜひご参加ください!
https://muranomirai.org/event/20250707/

2025年7月4日金曜日

18年ぶりの世代交代(1)出演者ほぼ総入れ替えから始まる新シリーズ

「代表就任の日、もうマンゴーラッシーしか喉を通らない!?」

2025年6月、ムラのミライに訪れた18年ぶりの世代交代。プレッシャーに押しつぶされそうになりつつのぞんだ代表就任日の出来事を3回にわけてお伝えします。

代表就任のご挨拶

みなさん、こんにちは。このたび、認定NPO法人ムラのミライの代表理事に就任しました原康子です。2025年6月、18年間にわたって代表を務めてくださった中田豊一に続いて、代表理事のバトンを受け取りました。また10年〜30年の長きにわたって支えてくださった理事・監事の皆さんの多くが任期満了で退任されていきました。これはもう、ドラマなら最終回どころか「出演者ほぼ総入れ替え」の衝撃展開なのですが、ムラのミライはここで終わりません。むしろ、ここからが新シリーズのはじまりなのです。


プレッシャーとラッシーと代表初日

そんなわけで、人生初の代表挨拶を書いているのですが、あまりの緊張で喉を通るのはマンゴーラッシーくらい。大手出版社からを出されたばかりの中田の後の代表挨拶ですよ。中田さんの前なんて、ムラのミライ創設者の和田信明の挨拶だったのですよ。お二人の代表挨拶や年次報告書の巻頭言は、いつも読みやすくて、簡潔で、知性と教養にあふれていて…。(たまに小難しすぎて読み飛ばしていたのは、私です。すみません。)

そんな二人に続く代表理事が、どれだけ大きなプレッシャーか!?胃をキリキリさせながら、代表理事就任の日となる2025年6月14日の活動報告会・総会・理事会にのぞみました。


 写真:一番暑いときが一番おいしいマンゴー


全国各地のトレーナーたちの実践

当日は22名もの方が(オンライン5名含む)参加してくださいました。朝からの雨にも関わらず、遠方から参加くださった方も多数おられました。彼女/彼らたちは、私の心細さやプレッシャーなどを吹っ飛ばしてくれた面々でした。その日は、活動報告会と総会、理事会と朝から丸一日がかり。まずは午前中の認定メタファシリテーション®トレーナーによる活動報告会でした。その報告会を皮切りに、私の胃の痛みは次第に消えていきました。

青森県、秋田県、福島県、東京都、神奈川県、兵庫県と各地で活躍する8人の認定トレーナーたち。子ども支援、高齢者向けのアートサロン、上司と部下のコミュニケーション、福祉系の大学の授業、農村の獣害対策、日本語教室、まちづくり、中間支援NPO、と多様な現場でメタファシリテーションを駆使している報告がされました。認定トレーナーたちの活躍ぶりに圧倒されたのと同時に、メタファシリテーションが使われている現場の意味を考え、その感動でウルウルしてしまいました。「現場の意味」については、後述します。

次回、新しい理事、監事との出会いに続きます。

写真:6月14日認定トレーナー活動報告会開始前の様子

原康子 ムラのミライ代表理事)

【お知らせ】7/27に記念イベント「18年ぶりの世代交代とこれから」を開催します。
初めての方も、お久しぶりの方もぜひご参加ください!
https://muranomirai.org/event/20250707/

2024年10月30日水曜日

セネガルで学んだ「自分の認知を知る」ということ 〜ムラのミライのプロジェクト視察〜

 「ムラのミライの海外事業地へ行く和田さんに同行し、ファシリテーションスキルを見てみたい!」
ということを和田さんに伝えると、OKの返事をいただいたので和田さんと原さんの渡航に合わせてセネガル農村部で行っている持続可能な農業プロジェクト地を訪問させてもらいました。


セネガルの農村部では、近代農業の普及と人口増加が自然環境に負担をかけ、農業が続けられない状況が広がっています。若者たちは希望を求めて都市部に移り住み、農村は活力を失いつつあります。
そんな中で、ムラのミライは地域資源を活用し、雨水を効率的に土壌に浸透させる技術を導入することで、作物の生産性を向上させるプロジェクトを推進しています。
このプロジェクトが始まって3年、住民たちはその成果を実感し始めていました。

 

訪問の目的は、プロジェクトを遂行する中でどのようにメタファシリテーションを使っているのかを学ぶことでした。
 

実際に和田さんの質問を聞けたのは、村の関係者による会議に参加したときのことです。
 

プロジェクトが来年初めに終了するため、ため池を管理するための土壌保全委員会の結成について話し合っていました。
村人たちは新しい委員会を作るべきか、他に方法はないかと議論していましたが、和田さんはその間、ずっと耳を傾けているだけでした。

そのうちに、既存の村落自治委員会で管理はできないかという提案がありました。
和田さんはそこでもただ聞いていましたが、最後にこう質問しました。
「その定款を最後に読んだのは誰ですか?」

村人たちは「読んでない」「どこにある?」と話し始め、最終的には「次回のミーティングまでに定款を読んでおきます」という結論に。

和田さんは「ではそうしましょう。次回のミーティングはいつにしましょうか?」と確認して会議は終了しました。
 

「その定款を最後に読んだのは誰ですか?」と和田さんが聞いた時、ただ「事実を確認する質問」に見えますが、実は自分も知らないことを知りたいという姿勢がそこにあると思います。
この質問により、村人たちは「自分たちがやるべきこと」を自然に意識し始め、和田さんが答えを押し付けるのではなく、彼ら自身で気づきを得る場となりました。


会議後、和田さんにこの対話について聞いたところ「質問というのは、自分がわからないことを聞くことだ」とおっしゃっていました。
この言葉はシンプルですが非常に重要です。
 

メタファシリテーションでは、相手に気づきを与えることだけでなく、相手を知ろうとする姿勢が欠かせません。
事実に基づいた質問をすることで信頼関係が築かれ、対話は自然と深まり、相手との関係も強くなっていくのです。
 

もしあなたが誰かに自分のことを聞いてもらう場を想像してみてください。質問してくる相手が本当に自分のことを知ろうとしてくれる、その気持ちが伝わると嬉しいですよね!
相手を知ろうとする気持ちから生まれる質問は、決して上から目線ではなく、対等な対話の中で生まれるものなのです。
 

次回のブログでは、セネガルで学んだもう一つの重要なポイント、「要素を分解すること」について具体的な対話事例を用いてお話しします。
特に、相手の話を聞きながら、どのように重要なポイントを見極めて深掘りするか、そのプロセスについてご紹介します。
お楽しみに!


松浦史典 ムラのミライ認定トレーナー)