2014年12月16日火曜日

「事実質問」に隠された思い込み

私たちが使っているメタファシリテーション(対話型ファシリテーション)手法は、「事実質問に始まり事実質問に終わる」ことは皆さんご存知の通りです。では、事実質問の対極に位置する質問をどう呼ぶか、覚えておいでですか?

そう、「思い込み質問」でしたよね。その典型が、「朝ごはんは『いつも』何を食べますか?」というような一般化された質問で、本人は事実を聞いているつもりでも、実際には、相手の思い込みを誘発する可能性が高い。だから私たちは、「いつもは」ではなくて、「いつ」「どこで」「何を」と聞いて行く必要があるわけです。

では、ここでひとつ質問です。

対話型ファシリテーション講座で、参加者のひとりが、他の参加者が首にかけてあるネックレスを指して、「これはどこで買ったのですか?」と尋ねたのですが、これは事実質問と言えるでしょうか?

これは形の上では確かに「事実質問」なのですが、実際は「思い込み質問」になるのです。というのも、その質問は、「このネックレスはどこかで買ったものに違いない」という前提で、言い換えれば、聞き手の側のそのような思い込みに基づいてなされているからです。もしかしたらそれは誰かにもらったものかもしれないのです。

これは援助関係者が村に行って「問題は何ですか?」と聞くのと同じ構造です。つまり「あなたたちは何か問題を持っているに違いない」という思い込みに基づいているわけです。この質問をされた村人は、その次には「何か問題があるようだったら、私たちが援助してあげますから欲しいものを言って下さい」という言葉が来るのを察します。すると「問題は何ですか」という質問は「何が欲しいですか」という意味に受け取られてしまいます。こちらは相手の問題を聞いているのに、相手からは「欲しいもの=おねだり」リストしか出て来ないのはそのためなのです。

ネックレスの場合であっても、思い込み質問に対して相手は必ず違和感を持つはずで、それは対話の深まりを妨げる要因として機能します。思い込み質問にならないためには、「これは何ですか」⇒「ネックレスです」⇒「それは、ご自分で買われたのですか?」という質問をして、相手が「はい」と答えたところで、「どこで」「いつ」「いくらで」というように聞き込んで行くわけです。

メタファシリテーションの極意は、単なる事実質問ではなく、思い込みを排した簡単な事実質問にあるというのはこういうことです。そう考えるならば、事実質問の練習の場は、日常のどこにでも見出せるに違いありません。「仮説を立てる」ことや「気付きを促す」ことなど小賢しいことは考えないで、まずは正しい事実質問ができるように心がけることです。千里の道も一歩から、というわけですね。



(ムラのミライ共同代表 中田豊一)