2014年12月9日火曜日

事実で紐解く「近代化」

会議やミーティングの場において、誰しもが経験したことのないことに対して議論しようとすると簡単に空中戦に突入してしまいます。経験が全てというわけではありませんが、自分は知っていると勘違いしてしまうことは非常に恐ろしいことです。今回は、中田がインドネシアでコミュニティ開発に携わる人々を相手に、実際に行った研修の記録からご紹介します。

「近代化は産業化、産業化の主役は企業」
中田 「私たちの社会で今、起こっていることを一言で言えば、何と言い表せるだろうか。つまり私たちが今現在舞台としている「最大のコンテクスト」は、いったい何だろうか。」
研修生 ??(研修員一同、首を傾げる)
中田 「皆さんの中で、いわゆる先進国に行ったことのある者は、手を挙げてみて。」

研修員の半分ほどが手を挙げる。どこに行ったかを尋ねてみると、そのうちの半分ほどが日本。さらには、イギリス、アメリカ、オランダなどに行った経験を持っている。

中田 「では、それらの国とインドネシアの村落社会との違いは何だろう。海外に行ったことのない者は、ジャカルタと君たちの町や村を比べてみてもいい。」

研修員からは「ビルが多い。インフラが立派。人々が忙しそう…」などなど色々出てくる。そうしているうちに、ひとりから「とても近代化されている」という発言が出てくる。

中田 「そう。ひとことで言えば、近代化の度合いが違うと表すことができる。では、「近代化」とは一体何だろうか。定義はいろいろだが、これもまた日本とインドネシアの違いを考えてみれば明らかになる。ちなみに、この会場の外を見てみよう。通りは、日本であふれているのだが、それは何だろう(註-「近代化」という概念が出てきたわけだが、その定義を考えさせてはいけない。空中戦に入る。ここではもう一度、参加者の注意を目に見えるものに引き戻すよう努めた)。

研修生 「トヨタ!」

中田 「そう、インドネシアでは行く先々、道あるところすべて日本の車が走っている。スーパーに行けば、日用品から電化製品まで日本のものが限りなく置いてある。パナソニックやソニーだけではない。花王のシャンプーや大塚製薬のスポーツ飲料などが町の雑貨屋の棚に並んでいる。ところで、トヨタやソニーとは何だろうか。それらは、どんな組織か。」

研修生 「会社。」

中田 「そのとおり。会社、企業である。では、インドネシアにも、トヨタやソニーのような企業が存在するだろうか。」

研修生 「国内の企業としては大きな規模のものが、ジャカルタあたりにはたくさんあるが、日本や欧米やあるいは韓国の大企業とは比べものにならない。全然強くない。競争できない。」

中田 「先進国は、先進工業国とも言われるように、工業を中心とした産業が著しく発達していて、その主役は企業である。したがって、途上国と先進国の違いは、つまるところ、強い企業があるかどうかに集約されている。つまり、先進国と途上国の近代化の度合いの違いを最も雄弁に物語るのが、企業の発達の度合いである。」

その場にいる大半の人があまり理解できていない問題を扱う場合、イメージのみで話を進めないよう気をつけなければなりません。自ら直接経験していないことをいかに理解するか、というのがメタファシリテーションの真髄なのです。

このやりとりのあと、中田は「村社会における近代化」へと話を進めます。続きは書籍『途上国の人々との話し方』をご覧ください。



2014年度インターン 山下)