今回は、私が初めてムラのミライのプロジェクト地を訪れた時のことをご紹介します。
2010年5月、ムラのミライ(当時はまだソムニードという団体名でした)の職員になってすぐ、南インドに赴任した時のことです。その頃ちょうど、農村部での3年間のプロジェクトが終了時期にさしかかっていました。終了時評価のため、事業パートナーであるJICAのインド事務所から2名のスタッフ(YさんとEさん)が来られ、プロジェクト地である村に視察・聞き取りに行くことになっており、赴任したばかりの私も他のスタッフに連れられ、ついていったというわけです。
モンスーン前の一番暑い時期、汗を流しながら村に着くと、ゴザが敷いてくれてあり、村の人たちが輪になって座って待ってくれていました。その輪の中に加わると、JICAのYさんが口火を切ります。
Yさん「おはようございます。私はデリーのJICA事務所から来たYといいます。今日は皆さんの活動について知りたくて来ました。あの、皆さんがムラのミライと一緒にしているプロジェクトは、何というんですか?」
村の人たち数名が、「お前言えよ」「アンタが言ったら」という風にほのぼのと押し付け合うやり取りがあった後(大阪のおばちゃんがレジ前でレシートを取り合いするよりも100倍くらい微笑ましい雰囲気でした)、ひとりの青年が答えました。
青年「マイクロウォーターシェッド・プロジェクトです」
Yさん「ほぉーマイクロウォーターシェッド・プロジェクトというんですね。そのマイクロウォーターシェッド、というのは何ですか?」
青年「マイクロウォーターシェッドっていうのは、ほら、あの後ろにある山、その山のてっぺんから、僕らの田んぼのあるところまでを指していて・・・雨が降ると、体でいうと頭の部分にあたる山のてっぺんにあたりますよね、そして・・・」
以下、マイクロウォーターシェッド(小規模流域)とは何か、その村でいうとどこにあたるのか、具体的かつわかりやすい解説をしてくれたのでした。
私は正直、ビックリしました。
ビックリしたことはふたつ。
まず、Yさんが、とても簡単かつさりげない方法で、でもハッキリと、村の人たちがどれだけプロジェクトを自分たちのものとして捉え、理解して取り組んでいるかを確認したこと。
そして、その質問に対して、村の若い男性が見事に応えてみせたこと。
あまりにも印象的でした。
(JICA職員のYさんが見事に「ムラのミライ式・始め方」を披露されたのには後日談があります。実はYさん、この終了時評価に来られる直前、日本への一時帰国時にわざわざ対話型ファシリテーション講座に参加されていたそうです。そこで聞いた方法を忠実にやってみられた、というわけです。)
その後、村の中や周辺を見て回った後、私たちは村を離れて、フィールドオフィス兼宿舎に戻りました。
インドのパートナー団体のスタッフで、プロジェクトオフィサーのラマラジュさんが「今日はどうだった?」と聞いてきました。
私は「いやー始めの場面からびっくりしました。あのYさんの最初の質問も見事だったし、それに対して、村の人が完璧に答えていたし・・・すごい」と答えました。
ラマラジュさん(ジェントルマンな微笑みを浮かべつつ)「ふっふっふ、そうだねーYさん、上手にスタートしたよねー」
私は内心叫びました。「おおおーこのラマラジュさんというスタッフ、さっきのやり取りの意味わかってる!」
そう、対話型ファシリテーションのやり方を、ラマラジュさんというインド側のスタッフもバッチリ理解しているというのがわかったのでした。
私はそれまで、ムラのミライの活動を目にしたことがありませんでした。2007年から参加していた対話型ファシリテーション講座で、それが非常に優れた、今までになく実践的な方法論だと直感し、講座に継続して参加。講座で語られるエピソードの中で幾度となく、和田さんやムラのミライのファシリテーション事例を聞いていましたが、疑り深い性格の(?)私は「ホントにこんなにうまくいく?」と半信半疑のところもありました。
しかし百聞は一見に如かず。
ムラのミライスタッフではないYさんが示した、対話型ファシリテーションの実践。
村人の受け答えが示した、対話型ファシリテーションによるプロジェクトの効果。
そうした方法論がスタッフ内でも共有されていること。
たった半日で目の当たりにして、クラクラしたのを覚えています。(半分は暑気あたりだったかもしれません。)
今はもう、こういうやり取りを見てもクラクラしませんが、これぐらい見事にスパッとできるよう、精進する日々です。
時代小説に出てくる剣豪同士の立ち合いみたいに、切れ味鋭い、でも素人が見ても斬られてるか斬られてないかわからない・・・そんなやり取りができるようになるといいですね~。
このブログ読者の皆さんともどこかでお会いして「むむっで、できる!何やつじゃ!!」なーんてことが、いつかあるかもしれませんね。
(専務理事 宮下和佳)