海外で一連の研修をする場合、初回の終わりに必ず「習ったことを現場で実践練習するように」という宿題を出します。和田さんの場合、「やらない者は次の回には来なくていい」と言うようですが、私は気が弱いので、そこまで厳格にはやれません。
今年の3月、アフガニスタンの農業普及員20人余りを相手に、3日間の研修をやりました。それから1カ月半ほど空けて同じ人たちを対象に2度目の研修をしたのですが、その際、例のよって、まず宿題の発表をやってもらいました。結局10人ほどが手を挙げて自ら進んで発表してくれたのですが、その中には驚くほどうまく使っているケースがいくつかありました。
以下はその一例です。
Hさんは、アフガニスタン西部の県の農業普及員で、最近では稲作技術の改善に力を入れています。ある村で、20人ほどの農民に集まってもらい、稲作をめぐっていろいろやり取りしていたところ、複数の農民から、年によって苗の出来のバラつきが多く困っているという話が出ました。そこで、品種を聞いてみるとほとんどが在来種とのこと。
Hさんは、ここは先月習った事実質問を使ったメタファシリテーションの出番だと考え、「それは何という品種ですか」から始めて、その品種の特徴や栽培方法などをひとつひとつ具体的に聞いていきました。さらに、それは主に自家消費用か、販売用かを尋ねたところ、自家消費用が多いがそこそこ販売もしているとのことです。地域の市場での価格を聞くと、改良品種に比べてかなり安い値段でしか売れないこともわかりました。
Hさんは気合を入れなおして質問を続けました。
H 「皆さんは、市場で値段の高い改良品種のお米を買うことはありますか」
農民数人 「時々買います」
H 「では最近では、どのような機会に買いましたか」
ひとりが「先日、お客さんが来た時に買いました」と答えると、他の人も「うちも」「私も」というふうに次々と同調しました。それを見てHさんは「この地域の稲作に関する課題がこの場で浮かび上がった」ことを確信したそうです。つまり、彼らは稲作農民でありながら、自分たちが作ったコメをお客さんに出せないと考えている。価格的にも品質的にも改良品種に及ばないことにそれぞれが何となく気が付いてはいたが、自分とのやり取りを通して、彼らはそのことを共通の課題としてここではっきり認識した。Hさんはそう確信したわけです。
Hさんによると、そのあとのプロセスは比較的簡単でした。改良品種のメリットとデメリット、必要な技術や資源などなどについて説明していったところ、こちらから薦めたわけではないのに、何人かが自発的に試験的な導入を申し出ました。併せて、本題であった新しい技術の導入にもほとんどの農民が自主的に取り組む姿勢を見せたりと、農村訪問は期待以上の成果を上げたそうです。そういう話を自慢げにではなく、淡々と要領よく報告してくれるところに、Hさんのもともとの実力を垣間見た思いでした。
「ここでは、『事実質問によって自らの問題に気付かせる』という比較的高度のテクニックが使われたわけです。常に意図的にできるかどうかはともかく、適切な事実質問ができるようになると、このような現象が頻繁に起こってくるようになります。他の皆さんもぜひ挑戦してほしいと思います」
私はそうコメントして次の発表に移りました。
中には、「これは何ですか」と聞き始めたもののすぐに「問題は何ですか」と尋ねてしまい、結局、Wish List(おねだりリスト)が出てきてしまったなど皆の爆笑を誘う報告もあって、満足度150%の有意義かつ愉快な報告会になりました。
次回が楽しみです。
(中田豊一 ムラのミライ 代表理事)
今年の3月、アフガニスタンの農業普及員20人余りを相手に、3日間の研修をやりました。それから1カ月半ほど空けて同じ人たちを対象に2度目の研修をしたのですが、その際、例のよって、まず宿題の発表をやってもらいました。結局10人ほどが手を挙げて自ら進んで発表してくれたのですが、その中には驚くほどうまく使っているケースがいくつかありました。
以下はその一例です。
Hさんは、アフガニスタン西部の県の農業普及員で、最近では稲作技術の改善に力を入れています。ある村で、20人ほどの農民に集まってもらい、稲作をめぐっていろいろやり取りしていたところ、複数の農民から、年によって苗の出来のバラつきが多く困っているという話が出ました。そこで、品種を聞いてみるとほとんどが在来種とのこと。
Hさんは、ここは先月習った事実質問を使ったメタファシリテーションの出番だと考え、「それは何という品種ですか」から始めて、その品種の特徴や栽培方法などをひとつひとつ具体的に聞いていきました。さらに、それは主に自家消費用か、販売用かを尋ねたところ、自家消費用が多いがそこそこ販売もしているとのことです。地域の市場での価格を聞くと、改良品種に比べてかなり安い値段でしか売れないこともわかりました。
Hさんは気合を入れなおして質問を続けました。
H 「皆さんは、市場で値段の高い改良品種のお米を買うことはありますか」
農民数人 「時々買います」
H 「では最近では、どのような機会に買いましたか」
ひとりが「先日、お客さんが来た時に買いました」と答えると、他の人も「うちも」「私も」というふうに次々と同調しました。それを見てHさんは「この地域の稲作に関する課題がこの場で浮かび上がった」ことを確信したそうです。つまり、彼らは稲作農民でありながら、自分たちが作ったコメをお客さんに出せないと考えている。価格的にも品質的にも改良品種に及ばないことにそれぞれが何となく気が付いてはいたが、自分とのやり取りを通して、彼らはそのことを共通の課題としてここではっきり認識した。Hさんはそう確信したわけです。
Hさんによると、そのあとのプロセスは比較的簡単でした。改良品種のメリットとデメリット、必要な技術や資源などなどについて説明していったところ、こちらから薦めたわけではないのに、何人かが自発的に試験的な導入を申し出ました。併せて、本題であった新しい技術の導入にもほとんどの農民が自主的に取り組む姿勢を見せたりと、農村訪問は期待以上の成果を上げたそうです。そういう話を自慢げにではなく、淡々と要領よく報告してくれるところに、Hさんのもともとの実力を垣間見た思いでした。
「ここでは、『事実質問によって自らの問題に気付かせる』という比較的高度のテクニックが使われたわけです。常に意図的にできるかどうかはともかく、適切な事実質問ができるようになると、このような現象が頻繁に起こってくるようになります。他の皆さんもぜひ挑戦してほしいと思います」
私はそうコメントして次の発表に移りました。
中には、「これは何ですか」と聞き始めたもののすぐに「問題は何ですか」と尋ねてしまい、結局、Wish List(おねだりリスト)が出てきてしまったなど皆の爆笑を誘う報告もあって、満足度150%の有意義かつ愉快な報告会になりました。
次回が楽しみです。
(中田豊一 ムラのミライ 代表理事)
「課題を浮かび上がらせる対話」を実地に学ぶ研修 |