でこぼこ通信第23号「ゴミを分別するためには、まず何をする?」2016年4月15日発行
目次
1.復習では順調かに見えたが・・・
2.言ったそばから・・・!行動に結びつかない参加者たち
3.全然具体的じゃない!はい、やり直し~!
4.行動を起こすために必要なこと
春の訪れを祝うホーリーのお祭りも終わり、日中の気温が30度を超えるようになった4月。
DEWATS(分散型排水処理施設)の建設地であり、同時に川の汚染の仕組みやその解決のための取り組みに関しての研修を受けてきたデシェ村とバスネット村の住民たちを対象に研修を始めた。
これはもともと、DEWATSプロジェクト1年目の活動地であるデシェ村から、3年目には「指導員」として自分たちで研修を実施できるような人材を輩出するために予定していたTOT(Training Of Trainer:指導員養成研修)である。そこに、2年目のプロジェクトに関わっているバスネット村の住民、および隣接する国立公園(National Martyrs and Peace Park)のスタッフたちからも「参加したい!」という声が上がり、一緒に研修を受けてもらうこととなった。
1.復習では順調かに見えたが・・・
午前中はまず、「川の汚染の原因は何?」や「その汚染はいつから起こるようになったのか?」ということについて、講師の和田さんから参加者に問いかけをしながら解説があった。実は、このことは以前の研修でも網羅している。でも、時間が経っていたり、参加者間での理解に差があったりするため、身近な例に引き付けて振り返りをした。
◆ゴミは、その使い道を知ってさえいれば、ゴミになることがない。(例えば、落ち葉は堆肥になるし、切り倒した木は家具にできる。さらに燃やした木屑もその灰を畑に撒くことができる。たとえプラスチックであっても、私たちが分別さえすればリサイクルすることができる。ただし、混ざったゴミはただのゴミになる。)
◆参加者の祖父母の時代は、村の人口が少なかったため、屋外で用を足しても土壌や水の中に存在するバクテリアによって分解できる量だったが、今は人口(=排泄物やゴミ)が増え、農地などが減っているため、バクテリアの処理能力を超えたゴミが汚染物質として川を汚している。
◆30年ほど前のネパールでは、機織りから服をつくるところまで自分でしている人たちを多くみたが、今では大きなショッピングモールなどで(プラスチック包装=ゴミとともに)服を購入している。
◆和田さんが小さい頃、駄菓子屋さんで売っている飴は個包装されずにガラス瓶に入っていたが、現在では、服や飴をはじめとした商品はすべてが個包装されたうえ、レジでさらにプラスチックの袋に入れて手渡される。
◆家でたまったプラスチックゴミは燃やしている家庭が多いが、プラスチックを低温で燃やすとダイオキシンが排出され、自分や自分の子どもたちの健康を害する。
これらの復習を終えたあとは、グループに分かれ、今日学んだことを20個自分たちの言葉で発表してもらった。若干訂正が必要な箇所があったものの、概ねの発表では、今日のポイントを網羅できていたと思う。
2.言ったそばから・・・!行動に結びつかない参加者たち
さて、ランチ休憩に入ったところで、今回の研修にふさわしい“教材”がやってきた。
今日のメニューはロティ(発酵させずに平たく伸ばしたパン)、豆とジャガイモのカレー、ヨーグルト、そしてチヤ(甘~いミルクティー)だった。おいしいランチをいただきながらも、ヨーグルトやチヤを入れる小さなプラスチックカップ(ネパールでは、チヤといえばこのカップで出されることが多い)や、飲み水を入れるカップを参加者がどう処理するかが気になって、少しソワソワする私。
ランチで出たゴミは、これらのカップ以外に、ロティとカレーを入れる葉っぱのお皿やヨーグルトが入っていたプラスチックの袋があった。ウジャールが、「分別するために別々の袋に入れるよ!」といってゴミ袋を用意するも、食後に袋の中を見てみると混ざって入っているゴミたち・・・。
「あーぁ、さっき『ゴミは分別することで再利用できます』って発表してたばっかりやのになぁ・・・。」
人の行動変化はすぐには起こらない。まぁ予想通りか、と思いながらも、少しがっかりした気分で迎えた午後のセッション。そこで和田さんは、さっそくランチで出たゴミを“教材”に研修を再開した。
和田「さてみなさん、ランチを食べたときにこれら3つのプラスチックカップを使いましたね。ひとつはヨーグルト、もうひとつはチヤ、そしてこれは水を飲む用。誰か、このカップの底を見た人はいますか?午前中に話をした、リサイクルのマークがあるか確認した人は?」
(しーんと黙り込む参加者たち。どうやらみんな、確認するのを忘れていたらしい。)
和田「みなさん、これらのカップを使ったあと、どうしましたか?」
参加者「ゴミ袋のなかに入れました。」
和田「カップだけですか?葉っぱのお皿も一緒に入れませんでしたか?」
参加者「もちろん、分別しました!」
和田「ゴミ袋に入ったカップやお皿は、どこにいくのでしょう?」
参加者「葉っぱのお皿は燃やして堆肥になります。プラスチックのカップは業者に回収されます。」
和田「ほお、そうですか。では、これを見てください。(ゴミ袋を見せる)何もかもごった混ぜに入っていますよ!混ざった状態ではただのゴミです。分別して初めて資源になるのです。」
(気まずい顔をしながら黙り込む参加者たち・・・)
和田「この袋の中身をちゃんと分別すれば、実際の“ゴミ”は半分以下になります。残りは資源になるのです。疑うなら、やってみたらいいですよ。」
神妙な顔つきで静かになる参加者たち。さすがに、自分たちの行動を目の前で突きつけられて、返す言葉がなくなってしまったようだった。
3.全然具体的じゃない!はい、やり直し~!
では、いったいどうやって行動に結び付けるのか?それについては、次のグループワークで鋭い指導が入ることとなった。
次のお題は、「ゴミを減らすためにできることを、次の3つに分けてリストアップすること。」
(1) 自分の家族だけでできること
(2) 自分の近所の人たちと一緒にできること(コミュニティでできること)
(3) 行政との連携が必要なこと
さらに、和田さんからは、
「できるだけ具体的な行動を書いてくださいね」という指示があった。
与えられた時間は40分だったが、ほとんどのグループは40分を待たずに完成させて、暇そうにしていた。
「シッディヨ?(ネパール語で「終わった」という意味)ホントに~??」
と聞いて回りながらも、とりあえず発表を始めた・・・が、最初のグループが一番目の項目を読み上げたところで、すぐに和田さんのツッコミが入った。
参加者「容器についているリサイクル・マークを確認することで、自然に分解できるゴミとできないゴミを分別します。」
和田「そうではなくて、誰が・いつ・何をするかということを具体的に書いてくださいと言ったんです。これは家族でできることですよね。では、あなたの夫ですか?子どもですか?誰がするんですか?いつするんですか?ゴミはどこに置くんですか?そういうことを一つ一つ書いてくださいと言ったんですよ。」
そして、他人事かのようにニヤニヤした笑みを浮かべてみている他の参加者に対して、
和田「他のグループも同じような内容だということは分かっています。はい、全部やり直し~!!・・・ちなみに、このマークは、プラスチックゴミだけについているものですから、生分解できるかどうかの識別ではありません。」
「あれま~、やってもたで!」といった感じで一旦大笑いするものの、さっきとはうってかわって険しい顔になり、ネパール人スタッフたちに質問攻めをする参加者たち。
「ね、ウジャールさん、どういうことなん?」
「なんか意味分からへんのやけど」
「何があかんかったん?あたしら何を書けばええん?」
ネパール語のやり取りなので詳しくは分からないが、筆が進まないところを見ると、おそらくこんな感じの訴えかけだろうと思う。
4.行動を起こすために必要なこと
ここで、紙とにらめっこ状態の参加者たちに、和田さんが解説を追加した。
和田「あのね、みなさん。例えば、堆肥用のゴミとそうでないものを分別したいとするでしょう。そのために最初にすることは何ですか?・・・」
こう切り出したあと、「ゴミを分別する」という行動について、どんなステップがあるかを解説した。
(1) ゴミ箱を2つ設置する
(2) それぞれに、例えば「生ゴミ」「プラスチック」といったラベルを貼る
(3) ラベル通りにゴミを分けて入れるように、家族に周知する
(4) 生ゴミで堆肥をつくるために、庭に穴を掘る
(5) 家族に、ここは生ゴミを入れる穴だと周知する
(6) 生ゴミ用のゴミ箱がいっぱいになったら、穴に入れる
(7) プラスチックゴミの場合は、さらにリサイクルできるもの/できないものに分ける
・・・などなど、「ゴミを分別する」と一言で言っても、実はこれだけ多くのステップを踏む必要があるのだ。
和田「これが、家族でできることです。でも、分別したゴミを回収してもらうときに、全部一緒くたにされたらどうですか?あなたたちの努力はゼロになりますよね。そこで、近所の人たちとの協力が必要になるんです。あるいは、電池のようにそのまま捨てると危険なゴミはどうしましょうか?行政がきちんと処理をしてくれないと困りますよね?そういった外部との協力についても、先ほど説明したような具体的なステップが分かっていないといけないんです。」
ネパールでは、ことあるごとに「政府がやらないからしょうがないよね。ケ・ガルネ?(What to do?/どうしようもないね)」というセリフを耳にする。
「停電が長くて困るね。でも、ケ・ガルネ?」
「ゴミ回収がなくて困るね。でも、ケ・ガルネ?」
という具合に・・・
「ケ・ガルネ?」で物事を済ませ、日々生活しているネパール人たちに対して、呆れを通り越して「なんて我慢強いんだ!」という尊敬の念すら抱くときもある。
しかし、プラスチックゴミを燃やし続け、自分の家族や近所の人、通行人みんながダイオキシンを毎日吸い込んでいることや、バグマティ川から飲み水を供給できないほどに汚染が進んでしまうことに対して、「しょうがない」では済ませられないはずだ。
では、いったい「どうしたら」いいのか?
「ゴミを分別してリサイクルします。」「排水をそのまま川に流しません。」といった答えを述べるのは簡単だが、それをいったいどのように実行するのか?
自分一人でできるのか?
誰かに手伝ってもらう必要があるか?
何か道具や設備は必要か?
お金がかかることか?
そのお金はいくら必要で、誰が出すのか?
・・・こういうことを、小さい子どもやお年寄りまで、誰でも分かるような言葉で説明できて、初めて実行できるし、他人に説明して協力を要請することができる。
「政府がやらないからしょうがない」とは、果たして何を政府にしてもらう必要があり(=自分たちではできない)、何なら自分たちだけでもできるのか?まずは、それが整理できるようになることが、バグマティ川をきれいにするアクションを起こすための第一歩だ。
時間がきたので、「次の研修までに、ゴミを減らすためにできることを実行してみる」という宿題が出され、解散した。
「1週間後に次の研修やるで~!」という威勢のよい声のもと、次の研修日程も決定したが、果たしてどんな結果になるか・・・??
注意書き
和田さん=ムラのミライスタッフ(そして設立者)和田信明
私=筆者、ムラのミライスタッフ近藤美沙子。
ウジャール=ソムニード・ネパールのスタッフ。代表のディベンドラ不在のため、今回の研修の運営と通訳の両方を担い、少してんてこ舞い状態。
マーク=プラスチック材質表示識別マーク