2017年4月11日火曜日

「自分の身は自分で守る」子になる対話って?

昨年末(2016年12月)のことになるが、入門セミナー講師として瀬戸に出掛けて行った。セミナーのタイトルは「自分のことは自分で出来る子になる対話って?」。そう、私の前回のブログのタイトルだ。友人で、愛知県瀬戸市の「せとおせっかいプロジェクト」のメンバーの方がこのブログを読んで、仲間にセミナーを呼びかけてくれた。

午前と午後の2回のセミナーの参加者30名全員女性。子育て真っ最中のママたちと、そんな彼女たちを応援するおばちゃんたち。お子さん連れで参加された方も多く、「せとおせっかいプロジェクト」の託児担当のおばちゃんが交代で、面倒をみたり、子どもたちの好きにさせたりと、なんとも居心地のよい場所であった。
 

「せとおせっかいプロジェクト」の皆さんたちの出会いから、「子育てに使ってみた対話型ファシリテーション」についてもっと書きたくなってきた。
 

そこで、今回のテーマは「自分の身は自分で守る子になる対話って?」。
 

毎度のことながら相手は、息子9歳。新学期が始まって1カ月間は、毎日お弁当 を残さず食べていたのだが、その後、何ヶ月もお弁当を残して帰って来るようになった。お弁当を残す理由を「どうしたの?」と聞いても、どこか不自然で、理由を言いたくなさそうな様子。気にはなっていたが「食べたくないこと(もの)もあるだろう」と放っておいた。ある日、いつもより暗い表情で「ただいま」と帰ってきたので、対話型ファシリテーションのスイッチを入れて聞いてみた。

「なぜ暗い顔をしているの?」「どうしたの?」という「WHY」と「HOW」を使わないで、事実質問だけで、彼の暗い顔の理由を探っていった。
 

彼が小さい頃から元気がなさそうな時は、膝の上にのせて話しを聞いていたので、そのときも膝の上にのせてみた。少々恥ずかしそうではあるが、嫌がらずに私のひざの上に座っている。こんなとき「9歳にもなって膝の上なんて」とか「男の子なのに甘えんぼう」とか私の方からは決して言わない。どのみち息子のほうから「膝の上なんてイヤだ」と言われるまで、もうカウントダウンだ。おとなしく座っているなら座らせたままで話をすることにした。私は息子には「○歳にもなって」「男の子だから」「女の子だから」という言葉を普段から使わないようにしている。それには理由があるのだが、それはまた別のときに。

では息子とのやりとりをご紹介しよう。


(今回は、解説なしで紹介します。次回のブログで改めて解説をご紹介しますが、まずどんな解説なのか、イメージしながらお読みください。イメージできなかった方は最新の基礎講座をチェック!もしくは「対話型ファシリテーションの手ほどき」にもヒントがいっぱいです。)



私「今日は全部お弁当、食べた? 」
息子「半分食べた。あんまりお腹がすいてなかったから 。」
私「今日のお弁当は誰と一緒に食べたの?」
息子「A君とB君。」
私「A君とB君もお弁当を残してた?」
息子「2人は全部食べたよ。」
私「C君(他のお友だち)も全部食べてた?」
息子「C君はボクよりずっと早く食べてしまっていたよ。」
私「C君は食べた後、何をしていたの?」
息子「ボクのところに来て、お弁当を食べるのを邪魔した 。」
私「何をされたの?」
息子「今日は、ボクの弁当箱の中に唾を飛ばしてきた。それでもう食べたくなくなって残した。」
私「昨日は? 」
息子「昨日は、お弁当を食べているボクの頭を後ろからいきなり殴ってきた。ゲホッと食べたものをはき出してしまって、まだ途中だったけど、もう食べたくなくなった。」
私「殴られたのは昨日が初めて? 」
息子「そんなことない、一昨日も殴られたし、お弁当の時間以外でもC君に殴られたことは何度もあるよ。」
私「C君はあなたのことだけ殴るの? 」
息子「A君とB君のこともときどき殴られているけど、ボクが殴られることのほうが多いよ。」
私「昨日、殴られたことを誰かに言った? 」
息子「昨日だけでなくて、殴られる度に先生に言うけど、先生もC君のことを無茶苦茶叱ったり、忙しくてボクを無視したり。C君は先生に怒られてもすぐ殴ってくるんだ。」
私「あなたはC君を殴り返したり、C君以外でも誰かを殴ったことはある ?」
息子「ない。」
私「先生に言う以外に、何かしたことはある? 」
息子「お弁当のときにC君のそばに座らないようにしている。でもC君はお弁当を早く食べてしまうと、ボクのところに来て必ず邪魔をするんだ。」
私「その他には?」
息子「邪魔するなってC君に言った。でも全然聞いてくれないで、邪魔ばかりする。実は、ボクも怒って少しだけC君を殴ったことがある 。でも強く殴るとC君が痛いだろうと思って、痛くないようにそおっと殴った。ボクは誰も殴りたくないんだ。」(このとき、涙声)
私「“殴りたくない”というのはとてもいいことだね。あなたはスゴイね。世の中の偉い人は、誰のことも殴らない人だよ 。」
息子「でも痛いのはイヤだし、お弁当を邪魔されるのもイヤだ。」
私「殴られそうになって避けたことはある ?」
息子「昨日も避けようとしたけど、C君はすごく素早く殴ってきてよけられなかった。」
私「殴られたくないし、殴り返したくない、避けることも難しい。じゃあ、どうしたらいいかな ?」
息子「素早く避けられればいい?」
私「どうやったら素早く避けられるようになるかな?」
息子「練習する? 」
私「そうだね、練習しないとダメだろうね。どうやって練習する?」
息子「空手とか柔道とか習う?」
私「家のすぐ近くに合気道の道場があるけど、見学に行ってみる?合気道は、相手の力を使う武道だから、避けることを教えてくれると思うよ 。」
息子「うん、行く、行く。」


見学の後「合気道を習いたい 」と言ったため、週二回、合気道の道場に通うようになった。通いはじめて1カ月ほど経った今も、C君には相変わらず殴られ、お弁当を残してくる日は多い。ただ時には、C君に邪魔されても「無視して全部食べた」という日もある。一方的に邪魔されたり、殴られているだけでなく、合気道で習った動きで避けられた日も度々あるそうだ。合気道で習った通りにC君のパンチを避けた日、それを見ていた友だちから「あれ、あいつこんなに強かったっけ?」と言われた、と照れながら話してくれたこともあった。

合気道がある日には、道場が始まる30分前から「まだ早いよ」と言っても、飛び出すように出掛けて行く。「自分の身は自分で守る」のはまだ先かもしれないが、対話型ファシリテーションを使って、息子がその一歩を踏み出すための背中を押すことは出来たと思う

その後も暗い顔で帰ってきたときには、必ず事実質問だけで息子の話を聞いている。明るい顔で帰ってきた日は「どうしたの?」と聞かなくても、自分から話してくれるものだ。対話型ファシリテーションを使うのは、息子が「ああ?しんどいなあ」という顔をしているときだけで十分だ。「どうだった?」「なんで?」と聞くほうが絶対楽だし、すべての会話を、事実質問のみでやっていたら、私のほうが疲れてしまう

疲れないペースで続く「子育てに使ってみた対話型ファシリテーション話」。次号をお楽しみに。



原 康子 ムラノミライ認定メタファシリテーション講師)



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