南アジアのとある国で活動する青年海外協力隊の友人Kさんから、宮下和佳さんにメタファシリテーション講座開催とKさんのフィールドを見て欲しい、という相談が来ました。そして和佳さんから「行ってみません~?」と誘われ、行ってみることに。
基礎講座には多くの隊員も参加して、Kさんのフィールドにも5名ほどが参加してきました。一緒に講師として来ていた松浦さんと、「予想以上に熱い意気込みですねぇ」と話しながら、2つのグループに分かれてフィールドを歩きました。
Kさんの活動は「コミュニティ開発」で、啓発活動を取り入れながら、特にゴミ問題に取り組んでいます。地区では、市役所が雇う清掃人の人たちが、決められた場所で決められた時間に掃除したりゴミ収集をしたり、そして市役所の職員がそれら作業を監督します。
市自体は、日本でいうと京都のような古都で、Kさんの担当地区は主要道路に沿って斜面になっている土地にコンクリの家が立ち並び、通路はくねくねと入り乱れ、その地区内に共用シャワーと共用トイレが設置されています。むき出しの排水溝にはビニール袋が無造作に投げ込まれ、道路の隅に捨てられた、やはりビニール袋に入れられた生ごみは、野良犬に漁られていました。
Kさんと彼女の相棒の市役所職員、そして他の隊員たちと計7人くらいで歩いていると、さすが約1年半の間、普段から歩き回っているKさん。次々と住民から声がかかります。「よう、今日は何しに来たんだい?」「ほら、今日も掃除しているよ」という挨拶をしていると、ゴミの分別や収集に非常に熱心だというガネーシュさんと鉢合わせました。
ガネーシュさん、色々とゴミについてまくしたてます。市役所職員も、色々何か言っています。とりあえずお家に行かせてもらうことになりました。
コンクリのお家は2階建てで、入ってすぐがリビングで8畳くらい。テレビやいろんな飾り物があります。壁は綺麗に緑色に塗られていました。部屋の中には、お連れ合いのラクシュミさんと子どもたちが数人いました。プラスチックの椅子が10個近く積み上げられているのを見ると、お家を訪ねてくる人も頻繁にいそうです。
座った後も、ガネーシュさんとラクシュミさんとKさんで、ごみについての話に盛り上がっています。どうやら、各家でビニール袋で集めたゴミも、回収時には中身だけなので、汚れたビニール袋だけが残ってイヤだの、そうしたビニール袋が捨てられているだの云々。
そしてKさんが「他のお家では、ビニール以外にゴミを入れているところはありますか?」という事を聞いている。ガネーシュさん曰く「プラスチックのバケツに入れているところもあるけど、買えるからいいよね」みたいなことを言っているらしい。
そんな問答が数分続き、市役所職員がなにやら説教を始めて一呼吸おいたところで、自己紹介をして話を聞かせてもらうことにしました。(以下の対話は、Kさんがとりまとめてくれたものを使わせてもらっています)
前川(M):お二人とも生まれ育ったのはどこですか?
ガネーシュ(G)・ラクシュミ(L):この地区です。(実際には地区名を言っている)
≪※時系列で聞く:過去から遡ってくるために、まず、彼らがいつからこの地区に住んでいるのかを知る≫
M:この家はいつからここにあるんですか?
G:70年前からです。おじいさんの時代から。
M:へー、ずいぶん前からここに暮らしているんですね!今のこのコンクリの家を建てたのは誰ですか?
G:私です。
M:いつ建てたのですか?
G:20年くらい前です。
≪※見た感じそれほど古くないと思われた上、祖父の代から住んでいるというので、いつ建てられたのかを確認=これ以降の会話に繋がる≫
M:前の家の材質は何でしたか?
G:土でできていました。
M:土だったんですね!屋根は何でできていたんですか?
G:トタン屋根です
M:そうですか!土壁にトタン屋根のお家だったんですね。じゃぁその頃、この家の周りの道路はどんな道でしたか?今はコンクリですよね。
G:未舗装の、土の道路でした。
≪※状況の細分化:自分が暮らしていた家を細かく思い出してもらう。同時に、私自身もその家が思い描けるように(=ガネーシュさんが思い出しているのと同じ家を描けるように)聞いていく。土壁だからと言って必ずしも藁やヤシの葉の屋根ではない。だから、屋根の材質も聞く。地区内の様子の内、一番変化の激しい道路についても聞くことによって、当時の地区の様子がより鮮明になる≫
M:そうでしたか。その頃、Gさんにご飯を作ってくれていたのは誰ですか?
G:私の母です。
≪※当時の台所やそれにまつわる記憶を呼び起こす。ご飯を作るのは母親と限らない。祖母や叔母、いとこ、兄弟姉妹かもしれない≫
M:食材はどこから入手していましたか?
G:この街の中のお店で買っていました。
M:誰が買いに行っていましたか?
G:父と私です。
M:Gさんが野菜や果物を買いに行った時、その時お店の人は品物を何に入れて渡してくれましたか?
G:新聞紙や葉っぱに包んでいました。それを家から持参した布のバッグやかごに入れて家まで持ち帰りました。お肉や魚も、そうでした。
M:そうだったんですね!それじゃあ、スパイスは何に入って売られていました?
G:それも新聞に包まれていたなぁ。
M:じゃあ、お米は何に?
G:それも紙の袋だったなぁ。ほらこんな感じの。(家にあった似た材質の紙を指さしながら)
≪※細分化:ごはんづくりに必要な食材カテゴリーを、一つ一つ聞いてみる。スーパーではなく、八百屋、肉屋、魚屋、スパイス屋等々と食材ごとに店がある。それらの買い物体験を思い出してもらう≫
M:なるほどなるほど。じゃあ、そのゴミを地域の中で集める場所はありましたか?
G:今の駅があるあたりに、集める場所としてコンクリの入れ物があって、そこに入れていたよ。私も捨てに行っていた。そこに市役所が回収しに来ていたんだ。
M:そこに持って行く前に、家の中ではどのようにゴミを置いていたのですか?
G:バケツに入れてました。
M:そのバケツの材質は何でしたか?
G:金属です。
≪※細分化:母親が料理をして、そこからゴミ(生ごみや紙類)が発生する→ごみ収集場所に持って行く、という行為で、家から収集場所に持って行くまでに私が相手ならどうするだろう、という視点から、家でのゴミ置き場について聞く。まだプラスチックの類は出てこない、そういう生活をしていたのが見えてくる。≫
M:ほー、そうだったんですね。その当時、大人がゴミ問題について騒いでいるのを聞いたことがありますか?
G:いや、そんなことはなかったなぁ。
M:そうですか。そういえば、今日は朝ごはんを食べましたか?
≪※時系列:プラスチックのゴミが(ほぼ)無かった時の事を思い出しきったところで、今の時点に戻る。ピンポイントで、今日の朝について。この時点で10時半前なので、忘れていることはない≫
L:それが、作ろうと思ったら皆さんが来たから、まだ食べていないの。
M:あれまぁ。それは申し訳ない!
G・L:良いんですよ。話を聞いてくれて、とても嬉しいし。
M:すみませんね。じゃぁ朝起きてから、何か口にしましたか?
G:紅茶を飲んだよ。パンも食べたかな。
M:誰が紅茶を淹れたんですか?
G:私の妻です。
M:奥さんが淹れられたんですね。紅茶をどのように淹れたか教えてもらえますか?
≪※聞く相手は、実際にその行為をした人。この時も、ガネーシュさんが答えようとしたので、敢えてラクシュミさんに聞いた。ガネーシュさんの答えも合っているかもしれないが、もしかしたら「そう思っている」だけかもしれない。≫
L:お湯に茶葉と砂糖とミルクパウダーを入れて、茶こしでこすだけよ。
M:へー、ミルクパウダーを使うんですね。使い終わった茶葉はどうしたのですか?
L:もちろん捨てたのよ。
M:どこに?
L:キッチンのゴミ箱によ。
M:良かったら、キッチンを見させてもらってもいいですか?
≪※観察:実際に、どのようにゴミを入れて置いているのかを見てみる。百聞は一見に如かず。また、聞いた事と実際の行為が合致するかどうか(自分の理解が正しいかどうか)確認する。あるいはクロスチェックする。≫
続きは次回に!(前川香子 ムラのミライ認定トレーナー)
→まずは知りたいという方へ:2時間で知るメタファシリテーション1,000円セミナー
→読み切り形式でどこからでも読める、メタファシリテーションの入門本。
基礎講座には多くの隊員も参加して、Kさんのフィールドにも5名ほどが参加してきました。一緒に講師として来ていた松浦さんと、「予想以上に熱い意気込みですねぇ」と話しながら、2つのグループに分かれてフィールドを歩きました。
Kさんの活動は「コミュニティ開発」で、啓発活動を取り入れながら、特にゴミ問題に取り組んでいます。地区では、市役所が雇う清掃人の人たちが、決められた場所で決められた時間に掃除したりゴミ収集をしたり、そして市役所の職員がそれら作業を監督します。
市自体は、日本でいうと京都のような古都で、Kさんの担当地区は主要道路に沿って斜面になっている土地にコンクリの家が立ち並び、通路はくねくねと入り乱れ、その地区内に共用シャワーと共用トイレが設置されています。むき出しの排水溝にはビニール袋が無造作に投げ込まれ、道路の隅に捨てられた、やはりビニール袋に入れられた生ごみは、野良犬に漁られていました。
Kさんと彼女の相棒の市役所職員、そして他の隊員たちと計7人くらいで歩いていると、さすが約1年半の間、普段から歩き回っているKさん。次々と住民から声がかかります。「よう、今日は何しに来たんだい?」「ほら、今日も掃除しているよ」という挨拶をしていると、ゴミの分別や収集に非常に熱心だというガネーシュさんと鉢合わせました。
ガネーシュさん、色々とゴミについてまくしたてます。市役所職員も、色々何か言っています。とりあえずお家に行かせてもらうことになりました。
コンクリのお家は2階建てで、入ってすぐがリビングで8畳くらい。テレビやいろんな飾り物があります。壁は綺麗に緑色に塗られていました。部屋の中には、お連れ合いのラクシュミさんと子どもたちが数人いました。プラスチックの椅子が10個近く積み上げられているのを見ると、お家を訪ねてくる人も頻繁にいそうです。
座った後も、ガネーシュさんとラクシュミさんとKさんで、ごみについての話に盛り上がっています。どうやら、各家でビニール袋で集めたゴミも、回収時には中身だけなので、汚れたビニール袋だけが残ってイヤだの、そうしたビニール袋が捨てられているだの云々。
そしてKさんが「他のお家では、ビニール以外にゴミを入れているところはありますか?」という事を聞いている。ガネーシュさん曰く「プラスチックのバケツに入れているところもあるけど、買えるからいいよね」みたいなことを言っているらしい。
そんな問答が数分続き、市役所職員がなにやら説教を始めて一呼吸おいたところで、自己紹介をして話を聞かせてもらうことにしました。(以下の対話は、Kさんがとりまとめてくれたものを使わせてもらっています)
前川(M):お二人とも生まれ育ったのはどこですか?
ガネーシュ(G)・ラクシュミ(L):この地区です。(実際には地区名を言っている)
≪※時系列で聞く:過去から遡ってくるために、まず、彼らがいつからこの地区に住んでいるのかを知る≫
M:この家はいつからここにあるんですか?
G:70年前からです。おじいさんの時代から。
M:へー、ずいぶん前からここに暮らしているんですね!今のこのコンクリの家を建てたのは誰ですか?
G:私です。
M:いつ建てたのですか?
G:20年くらい前です。
≪※見た感じそれほど古くないと思われた上、祖父の代から住んでいるというので、いつ建てられたのかを確認=これ以降の会話に繋がる≫
M:前の家の材質は何でしたか?
G:土でできていました。
M:土だったんですね!屋根は何でできていたんですか?
G:トタン屋根です
M:そうですか!土壁にトタン屋根のお家だったんですね。じゃぁその頃、この家の周りの道路はどんな道でしたか?今はコンクリですよね。
G:未舗装の、土の道路でした。
≪※状況の細分化:自分が暮らしていた家を細かく思い出してもらう。同時に、私自身もその家が思い描けるように(=ガネーシュさんが思い出しているのと同じ家を描けるように)聞いていく。土壁だからと言って必ずしも藁やヤシの葉の屋根ではない。だから、屋根の材質も聞く。地区内の様子の内、一番変化の激しい道路についても聞くことによって、当時の地区の様子がより鮮明になる≫
M:そうでしたか。その頃、Gさんにご飯を作ってくれていたのは誰ですか?
G:私の母です。
≪※当時の台所やそれにまつわる記憶を呼び起こす。ご飯を作るのは母親と限らない。祖母や叔母、いとこ、兄弟姉妹かもしれない≫
M:食材はどこから入手していましたか?
G:この街の中のお店で買っていました。
M:誰が買いに行っていましたか?
G:父と私です。
M:Gさんが野菜や果物を買いに行った時、その時お店の人は品物を何に入れて渡してくれましたか?
G:新聞紙や葉っぱに包んでいました。それを家から持参した布のバッグやかごに入れて家まで持ち帰りました。お肉や魚も、そうでした。
M:そうだったんですね!それじゃあ、スパイスは何に入って売られていました?
G:それも新聞に包まれていたなぁ。
M:じゃあ、お米は何に?
G:それも紙の袋だったなぁ。ほらこんな感じの。(家にあった似た材質の紙を指さしながら)
≪※細分化:ごはんづくりに必要な食材カテゴリーを、一つ一つ聞いてみる。スーパーではなく、八百屋、肉屋、魚屋、スパイス屋等々と食材ごとに店がある。それらの買い物体験を思い出してもらう≫
M:なるほどなるほど。じゃあ、そのゴミを地域の中で集める場所はありましたか?
G:今の駅があるあたりに、集める場所としてコンクリの入れ物があって、そこに入れていたよ。私も捨てに行っていた。そこに市役所が回収しに来ていたんだ。
M:そこに持って行く前に、家の中ではどのようにゴミを置いていたのですか?
G:バケツに入れてました。
M:そのバケツの材質は何でしたか?
G:金属です。
≪※細分化:母親が料理をして、そこからゴミ(生ごみや紙類)が発生する→ごみ収集場所に持って行く、という行為で、家から収集場所に持って行くまでに私が相手ならどうするだろう、という視点から、家でのゴミ置き場について聞く。まだプラスチックの類は出てこない、そういう生活をしていたのが見えてくる。≫
M:ほー、そうだったんですね。その当時、大人がゴミ問題について騒いでいるのを聞いたことがありますか?
G:いや、そんなことはなかったなぁ。
M:そうですか。そういえば、今日は朝ごはんを食べましたか?
≪※時系列:プラスチックのゴミが(ほぼ)無かった時の事を思い出しきったところで、今の時点に戻る。ピンポイントで、今日の朝について。この時点で10時半前なので、忘れていることはない≫
L:それが、作ろうと思ったら皆さんが来たから、まだ食べていないの。
M:あれまぁ。それは申し訳ない!
G・L:良いんですよ。話を聞いてくれて、とても嬉しいし。
M:すみませんね。じゃぁ朝起きてから、何か口にしましたか?
G:紅茶を飲んだよ。パンも食べたかな。
M:誰が紅茶を淹れたんですか?
G:私の妻です。
M:奥さんが淹れられたんですね。紅茶をどのように淹れたか教えてもらえますか?
≪※聞く相手は、実際にその行為をした人。この時も、ガネーシュさんが答えようとしたので、敢えてラクシュミさんに聞いた。ガネーシュさんの答えも合っているかもしれないが、もしかしたら「そう思っている」だけかもしれない。≫
L:お湯に茶葉と砂糖とミルクパウダーを入れて、茶こしでこすだけよ。
M:へー、ミルクパウダーを使うんですね。使い終わった茶葉はどうしたのですか?
L:もちろん捨てたのよ。
M:どこに?
L:キッチンのゴミ箱によ。
M:良かったら、キッチンを見させてもらってもいいですか?
≪※観察:実際に、どのようにゴミを入れて置いているのかを見てみる。百聞は一見に如かず。また、聞いた事と実際の行為が合致するかどうか(自分の理解が正しいかどうか)確認する。あるいはクロスチェックする。≫
続きは次回に!(前川香子 ムラのミライ認定トレーナー)
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