今回は、息子(9歳)お弁当シリーズの完結編です。
本当は前号「“自分が好き!”が問題を解決する力になる“対話”って?」の続編で「自己肯定感」をテーマにしたお話の予定だったのですが、突然、昨年来(2016年11月)続いていたお弁当問題が半年かけて、解決しましたので、そのご報告です。
今回のタイトル「○○」に何が入るのか、それは読んでのお楽しみ。
第1話「自分の身は自分で守る子になる対話って?」から半年。ようやく「お弁当を食べるのを邪魔される」問題が、めでたく解決した息子。つらいお弁当の時間が、一転して、楽しい幸せな時間に変わったそうです。さて何があったのか、解決の数日前に遡って、ご紹介しましょう。
息子はまた暗い顔で学校から帰ってきました。その日は、C君だけでなく、他にも何にもの同じクラスの男子から、お弁当を食べるのを邪魔されている、と言いました。
この日、彼が特に落ち込んでいたのは、「同じクラスのこの子だけは、ボクに優しい」と思っていた子からも「おまえと仲良くしている“フリ”をしてるのは、おまえをいじめたいからだ。」と言われたからだそうです。
小学校3年生男子の社会も、厳しい社会。
物心つく前から自己肯定感が高く、人と争うことが嫌いで、人見知りもほとんどなく、周りの大人からは「天真爛漫」と言われることの多い息子ですが、学校では「世間の荒波」に揉まれています。
私はこのお弁当問題を息子が話してくれる度に、刷り込みをするように何度も同じことを息子に伝えました。
●唾を飛ばしたり、背中を叩いたりして、お弁当の邪魔をする子や、仲の良いフリをする子と無理に一緒に座ってお弁当を食べ続ける必要はない。
●我慢して彼らに合わせる必要は全くない。
●1人で食べたり、同じクラスの女の子たちと一緒にお弁当を食べたりすることは全然格好悪いことではなく、むしろ格好いい。
その都度、彼は「邪魔されても同じクラスの男子と一緒に座って食べないと。」と言うばかり、せいぜい邪魔される度に先生に言いつける、くらいしか行動していませんでした。
そんな日が続き、彼がお弁当を残してきても、私からは何も聞かないようにしました。そのうち、お弁当の時間の話はほとんどしなくなりましたが、それでも残してきたおかずを家で食べている時に、ポツリポツリと涙声で「今日も邪魔された」と話すことは何度もありました。
このお弁当問題、私の提案「我慢して一緒に食べなくていい」「1人で食べればいい」以外にも、彼には彼だけの様々な解決方法があり、また自力でこの問題を解決する能力もあります。ただ何ヶ月も同じことが続き、邪魔されることに耐え、先生に言いつけて、先生にC君たちを叱ってもらう、くらいしか対処する方法がわからなくなってしまっていました。
対話型ファシリテーションでは「提案しない」「アドバイスしない」というルールがありますが、読者の皆さんはすでにお気づきのように、私はこのルールを徹底したときもあれば、そうせずに「ああすればいい、こうすればいい」と言ってしまっているときもあります。
ある日、提案したい気持ちをグッと押さえ、息子が「自分で解決方法を見つける」ために事実質問だけで対話してみました。
私「お弁当の時間は同じクラスの男子だけしかいなかったの?
息子「同じクラスの女子もいたし、4年生と5年生の子たちも同じ教室で食べたよ。お弁当の時間は僕たち3年生が4年生の教室に行って食べることになっているんだよ。」
私「同じ3年生の子だけで食べたのではないのね。お弁当の時間が終わった後の休み時間は誰と遊んだの?」
息子「4年生と5年生のお兄ちゃんたちとサッカーをして楽しかったよ。ボクはゴールキーパーで、何度もゴールされそうになるのを止めて、お兄ちゃんたちに褒められたんだ。」
私「同じクラスの男子たちは?」
息子「昨日も今日も同じクラスの男子とは遊ばなかったよ。だってみんな、すぐボクのことを汚いとか、ウザイとか言ってボクに鬼ばかりやらせる鬼ごっこするんだもん。そんなの嫌だから、上のクラスのお兄ちゃんたちと遊ぶことが多いよ。」
(お弁当の時は我慢して同じクラスの男子と一緒に座っているのに、休み時間までは我慢してまで遊んでいない息子。ココが解決の糸口になりそうだと思いました。)
私「今日もお弁当の時間は同じクラスの男子と一緒に座って食べたの?」
息子「そうだよ。だからおにぎりを1つ食べただけでおかずは食べられなかったんだ」(邪魔されたことを思い出して、ちょっと涙声)
私「一緒にサッカーをした4年生と5年生のお兄ちゃんたちもお弁当の時間は同じ教室なんでしょう?お兄ちゃんたちと一緒にお弁当を食べたことはないの?」
息子「一度、お兄ちゃんたちと一緒の席に座ろうとしたけど、“オマエは来るな”っていう5年生の子が1人いて、その時は食べなかった。」(涙声)
私「その後、お兄ちゃんたちに“一緒に食べてもいい?”って聞いたことはないの?」
息子「うん」
私「先生に“同じクラスの子としか食べてはダメ”と言われたことはある?」
息子「ない」
私「先生に“お兄ちゃんたちと一緒に食べていい?”と聞いたことはある?」
息子「ない」
息子「一緒にサッカーで遊んでいるお兄ちゃんたちに“一緒に食べていい?”と明日、言ってみようかな。」
私「同じクラスの男子と我慢して一緒食べてもいいし、お兄ちゃんたちに聞いてみてもいいし、自分のやりたいようにしてみなよ。」
翌日。
息子(笑顔で)「今日はお弁当残してないよ。」
私「今日は、C君や同じクラスの男子に邪魔されなかったんだ。」
息子「同じクラスの男子と食べるのは、止めた。今日は、お兄ちゃんたちに “隣に座ってもいい?”って聞いてみたんだ。そしたら4年生のお兄ちゃんが“早くそう言ってくれればよかったのに。一緒に食べよう!おかずもおやつも交換して食べようね。”と言ってくれたんだ。」
私「よかったね。」
息子「ボク、先生に言わずに、自分で“隣に座ってもいい?”言ったんだよ。お兄ちゃんたちと一緒に食べて楽しかったよ。お兄ちゃんたちと食べているとC君も3年生の同じクラスの子も、全然ボクのほうに来ないんだ。お兄ちゃんたちもボクと一緒にお弁当が食べられて楽しいって言ってくれたよ。」
私「それで今日はお弁当を全部食べられたんだね、よかったね。」
息子「C君は、5年生のD君が怖いのだけど、そのD君はボクにはとても優しいんだ。C君たちに邪魔されたり、嫌なことを言われたら“ギロッと睨んでやれ”とか“腕をつねるんだ”とか、色々教えてくれたんだよ。」
私「それはすごいね。」
息子「お弁当のときも、その後の休み時間もお兄ちゃんたちとずっと一緒にいると、全然C君も他の同じクラスの子もボクのそばに来ないんだ。だから全然、嫌なことされなかったよ。」
私「お兄ちゃんたちに“隣に座ってもいい?”って言えてよかったね。」
息子「そうだよ、自分でお兄ちゃんに言ったんだよ。これからC君が何か意地悪してきたら、ギロッと睨んでやるんだ〜。」
こう話してくれて以来、一転して楽しいお弁当の時間の話を毎日するようになった息子。C君をはじめ、同じクラスの男子たちに嫌なことをされそうになっても、4年生、5年生のお兄ちゃんたちに追い払ってもらっているそうです。おまけに1人でいるときも、D君のアドバイスに従って(私のアドバイスは聞かなかったけど)、にらんだり、つねったり、時には合気道の技で殴られるのを避けている、というのです。だんだんC君たちも息子の嫌がることをする回数が減ってきたと言います。
こうして半年近く続いたお弁当を邪魔される問題は、息子の力で解決しました。
私があれこれと事実質問を試みたことなど、息子は知りません。大切なのは、お弁当問題を自力で解決したのは「息子」自身だということです。
問題が解決されれば、「対話型ファシリテーション」というのは途端に見えなくなるようです。残るのは「自力で問題を解決できた」という息子の高い自己肯定感。
対話型ファシリテーションは、そんな脇役がいたのかもわからなくなるような脇役中の脇役です。
タイトルにある○○に入る言葉、もう皆さん、おわかりでしょう。
主役は「本人(=問題を抱える当事者)」なのです。
(原 康子 ムラのミライ認定トレーナー)
→読み切り形式でどこからでも読める、メタファシリテーションの入門本。
→2時間で理論と実践方法が学べる1,000円セミナー
→本気で実践スキルを身につけたい方へ:フォローアップつき・丸1日の本格講座
本当は前号「“自分が好き!”が問題を解決する力になる“対話”って?」の続編で「自己肯定感」をテーマにしたお話の予定だったのですが、突然、昨年来(2016年11月)続いていたお弁当問題が半年かけて、解決しましたので、そのご報告です。
今回のタイトル「○○」に何が入るのか、それは読んでのお楽しみ。
第1話「自分の身は自分で守る子になる対話って?」から半年。ようやく「お弁当を食べるのを邪魔される」問題が、めでたく解決した息子。つらいお弁当の時間が、一転して、楽しい幸せな時間に変わったそうです。さて何があったのか、解決の数日前に遡って、ご紹介しましょう。
息子はまた暗い顔で学校から帰ってきました。その日は、C君だけでなく、他にも何にもの同じクラスの男子から、お弁当を食べるのを邪魔されている、と言いました。
この日、彼が特に落ち込んでいたのは、「同じクラスのこの子だけは、ボクに優しい」と思っていた子からも「おまえと仲良くしている“フリ”をしてるのは、おまえをいじめたいからだ。」と言われたからだそうです。
小学校3年生男子の社会も、厳しい社会。
物心つく前から自己肯定感が高く、人と争うことが嫌いで、人見知りもほとんどなく、周りの大人からは「天真爛漫」と言われることの多い息子ですが、学校では「世間の荒波」に揉まれています。
私はこのお弁当問題を息子が話してくれる度に、刷り込みをするように何度も同じことを息子に伝えました。
●唾を飛ばしたり、背中を叩いたりして、お弁当の邪魔をする子や、仲の良いフリをする子と無理に一緒に座ってお弁当を食べ続ける必要はない。
●我慢して彼らに合わせる必要は全くない。
●1人で食べたり、同じクラスの女の子たちと一緒にお弁当を食べたりすることは全然格好悪いことではなく、むしろ格好いい。
その都度、彼は「邪魔されても同じクラスの男子と一緒に座って食べないと。」と言うばかり、せいぜい邪魔される度に先生に言いつける、くらいしか行動していませんでした。
そんな日が続き、彼がお弁当を残してきても、私からは何も聞かないようにしました。そのうち、お弁当の時間の話はほとんどしなくなりましたが、それでも残してきたおかずを家で食べている時に、ポツリポツリと涙声で「今日も邪魔された」と話すことは何度もありました。
このお弁当問題、私の提案「我慢して一緒に食べなくていい」「1人で食べればいい」以外にも、彼には彼だけの様々な解決方法があり、また自力でこの問題を解決する能力もあります。ただ何ヶ月も同じことが続き、邪魔されることに耐え、先生に言いつけて、先生にC君たちを叱ってもらう、くらいしか対処する方法がわからなくなってしまっていました。
対話型ファシリテーションでは「提案しない」「アドバイスしない」というルールがありますが、読者の皆さんはすでにお気づきのように、私はこのルールを徹底したときもあれば、そうせずに「ああすればいい、こうすればいい」と言ってしまっているときもあります。
ある日、提案したい気持ちをグッと押さえ、息子が「自分で解決方法を見つける」ために事実質問だけで対話してみました。
私「お弁当の時間は同じクラスの男子だけしかいなかったの?
息子「同じクラスの女子もいたし、4年生と5年生の子たちも同じ教室で食べたよ。お弁当の時間は僕たち3年生が4年生の教室に行って食べることになっているんだよ。」
私「同じ3年生の子だけで食べたのではないのね。お弁当の時間が終わった後の休み時間は誰と遊んだの?」
息子「4年生と5年生のお兄ちゃんたちとサッカーをして楽しかったよ。ボクはゴールキーパーで、何度もゴールされそうになるのを止めて、お兄ちゃんたちに褒められたんだ。」
私「同じクラスの男子たちは?」
息子「昨日も今日も同じクラスの男子とは遊ばなかったよ。だってみんな、すぐボクのことを汚いとか、ウザイとか言ってボクに鬼ばかりやらせる鬼ごっこするんだもん。そんなの嫌だから、上のクラスのお兄ちゃんたちと遊ぶことが多いよ。」
(お弁当の時は我慢して同じクラスの男子と一緒に座っているのに、休み時間までは我慢してまで遊んでいない息子。ココが解決の糸口になりそうだと思いました。)
私「今日もお弁当の時間は同じクラスの男子と一緒に座って食べたの?」
息子「そうだよ。だからおにぎりを1つ食べただけでおかずは食べられなかったんだ」(邪魔されたことを思い出して、ちょっと涙声)
私「一緒にサッカーをした4年生と5年生のお兄ちゃんたちもお弁当の時間は同じ教室なんでしょう?お兄ちゃんたちと一緒にお弁当を食べたことはないの?」
息子「一度、お兄ちゃんたちと一緒の席に座ろうとしたけど、“オマエは来るな”っていう5年生の子が1人いて、その時は食べなかった。」(涙声)
私「その後、お兄ちゃんたちに“一緒に食べてもいい?”って聞いたことはないの?」
息子「うん」
私「先生に“同じクラスの子としか食べてはダメ”と言われたことはある?」
息子「ない」
私「先生に“お兄ちゃんたちと一緒に食べていい?”と聞いたことはある?」
息子「ない」
息子「一緒にサッカーで遊んでいるお兄ちゃんたちに“一緒に食べていい?”と明日、言ってみようかな。」
私「同じクラスの男子と我慢して一緒食べてもいいし、お兄ちゃんたちに聞いてみてもいいし、自分のやりたいようにしてみなよ。」
翌日。
息子(笑顔で)「今日はお弁当残してないよ。」
私「今日は、C君や同じクラスの男子に邪魔されなかったんだ。」
息子「同じクラスの男子と食べるのは、止めた。今日は、お兄ちゃんたちに “隣に座ってもいい?”って聞いてみたんだ。そしたら4年生のお兄ちゃんが“早くそう言ってくれればよかったのに。一緒に食べよう!おかずもおやつも交換して食べようね。”と言ってくれたんだ。」
私「よかったね。」
息子「ボク、先生に言わずに、自分で“隣に座ってもいい?”言ったんだよ。お兄ちゃんたちと一緒に食べて楽しかったよ。お兄ちゃんたちと食べているとC君も3年生の同じクラスの子も、全然ボクのほうに来ないんだ。お兄ちゃんたちもボクと一緒にお弁当が食べられて楽しいって言ってくれたよ。」
私「それで今日はお弁当を全部食べられたんだね、よかったね。」
息子「C君は、5年生のD君が怖いのだけど、そのD君はボクにはとても優しいんだ。C君たちに邪魔されたり、嫌なことを言われたら“ギロッと睨んでやれ”とか“腕をつねるんだ”とか、色々教えてくれたんだよ。」
私「それはすごいね。」
息子「お弁当のときも、その後の休み時間もお兄ちゃんたちとずっと一緒にいると、全然C君も他の同じクラスの子もボクのそばに来ないんだ。だから全然、嫌なことされなかったよ。」
私「お兄ちゃんたちに“隣に座ってもいい?”って言えてよかったね。」
息子「そうだよ、自分でお兄ちゃんに言ったんだよ。これからC君が何か意地悪してきたら、ギロッと睨んでやるんだ〜。」
こう話してくれて以来、一転して楽しいお弁当の時間の話を毎日するようになった息子。C君をはじめ、同じクラスの男子たちに嫌なことをされそうになっても、4年生、5年生のお兄ちゃんたちに追い払ってもらっているそうです。おまけに1人でいるときも、D君のアドバイスに従って(私のアドバイスは聞かなかったけど)、にらんだり、つねったり、時には合気道の技で殴られるのを避けている、というのです。だんだんC君たちも息子の嫌がることをする回数が減ってきたと言います。
こうして半年近く続いたお弁当を邪魔される問題は、息子の力で解決しました。
私があれこれと事実質問を試みたことなど、息子は知りません。大切なのは、お弁当問題を自力で解決したのは「息子」自身だということです。
問題が解決されれば、「対話型ファシリテーション」というのは途端に見えなくなるようです。残るのは「自力で問題を解決できた」という息子の高い自己肯定感。
対話型ファシリテーションは、そんな脇役がいたのかもわからなくなるような脇役中の脇役です。
タイトルにある○○に入る言葉、もう皆さん、おわかりでしょう。
主役は「本人(=問題を抱える当事者)」なのです。
(原 康子 ムラのミライ認定トレーナー)
→読み切り形式でどこからでも読める、メタファシリテーションの入門本。
→2時間で理論と実践方法が学べる1,000円セミナー
→本気で実践スキルを身につけたい方へ:フォローアップつき・丸1日の本格講座