2014年8月5日火曜日

あえて使った、禁句の「なぜ?」

これまで、事実質問をする際には「なぜ?」を使ってはならないと、口を酸っぱくして言ってきましたが、今回はその「なぜ?」をあえて使った事例をご紹介します。
雑誌『小児看護』(へるす出版)の記事に掲載されたもので、今から20年前、中田がベトナムの農村で経験したやりとりです。

NGOの担当者は、まず村の女性の中から保健ボランティアを募り、研修を開始しました。そこでは「子どもたちが栄養不良になるのは『なぜですか?』」と彼女らにたずねます。すると、その原因は「家が貧しいこと」だと口をそろえて答えます。担当者はたずね返します。「では、あなた方の近所には、経済的には貧しいのに、子どもたちは健康で発育がよい家庭はないのでしょうか」と。女性たちは互いに確認し合った末、「村の中にそのような家が少なからずある」という結論に達しました。

担当者はさらにたずねます。「では、貧しいのに子どもの発育がいいのは、どうしてでしょうか」。女性たちはいろいろ話し合ってみましたが、はっきりした答えが出せません。「それでは、実際に一軒一軒たずねて、秘訣を教えてもらいに行きませんか」と呼びかけました。それに応じた女性たちに対してNGOは、どのような聞き取りをすれば効果的に聞き出せるかの訓練を行いました。つまり事実質問の練習です。

彼女らは、貧しいのに子どもの栄養状態がよい家庭では何をどんな風にして食べさせているかを徹底的に探りました。すると、それはサツマイモのツルであったり、小さな沢蟹やあさりであったりと、村では簡単に手に入るのに、食べるのに適さないとか小さな子どもに与えるべきでないと信じられているもので、それらをすり潰してスープにして食べさせていた家庭がほとんどでした。村の女性たちは自分たちの手で、村で手に入る「安くて栄養価の高い食品」を発見したのです。

村の女性たちによる聞き取りはまだまだ続きます。このプロジェクトを通じて、栄養不良の原因は、貧しくて食べ物がないことよりも、知識の不足から来る不適切な子どもの世話にあったことを、自分たちで発見しました。

対話型ファシリテーションの技法の中心は事実質問にあり、「なぜ」という質問は禁句と繰り返し述べてきました。しかし、この場合は、それを逆手に取りました。つまり、あえて「なぜ?」とたずねることで、相手の誤った固定観念を引き出し、それを事実質問を使って検証することで、新たな学びと気付きを引き起こすという方法を取ったわけです。

これも立派なファシリテーション技術ですね。こういった経験から学んだファシリテーションの手法を『途上国の人々との話し方』にまとめています。まだお読みでない方は、是非お読みください。

このエピソードが掲載された雑誌『小児看護』を出版している、へるす出版ウェブサイトはこちら
http://www.herusu-shuppan.co.jp/



2014年度インターン 山下)