2015年3月24日火曜日

ネパールの村で見た、和田さんの神業ファシリテーション

私は、201411月から外務省のNGO海外スタディ・プログラム」に参加し、ソムニード・ネパールでの4ヵ月間の実務研修を経験してきました。
ソムニード・ネパールはネパールでムラのミライと一緒に活動する仲間。ムラのミライと、ソムニード・ネパールが共有しているファシリテーション手法・考え方がどのようにプロジェクトに活かされているか学んできました。
そんな4ヵ月間のネパールでの研修の合間に、運よく和田さん(ムラのミライ共同代表)のファシリテーションを見る機会に恵まれました。今回は、ネパールのとある村での和田さんと村のオッチャンの会話をご紹介します。(親しみを込めて、この記事ではこの二人を「和田さん」、「オッチャン」と呼びます。)

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和田さん:この村では、水源からパイプラインを引いて生活のための水をとっているという話を聞いたが、パイプラインの長さは?コストはどれくらいかかったのか知っているか?パイプラインを設置したあと、パイプラインは誰のものになるんだ?支援した団体?村?
オッチャン:パイプラインの長さは10km。コストは200万ルピー。そのうち、70万ルピーは自分たちが労働することで負担したよ。
和田さん:パイプラインの耐用年数は知っているか?
オッチャン:80cmの深さで埋めて、80年耐用すると聞いたよ。
和田さん:それは誰が言ったの?
オッチャン:(とある援助団体の名前を挙げて)●●が言った。
和田さん:それはあなたたちが十分に管理したとしての理想的な状況だろう。コスト知らずにメンテナンスはできない。パイプラインの長さが10kmと言ったけど、数km先のトラブルをどうやって知るのか?維持のためのプランについてはすでに議論したのか?
オッチャン:パイプラインが完成したあとに●●と村で合意書を作ったんだ。
別のNGOスタッフ:ネパール語で?
オッチャン:いや、英語で。
和田さん:なるほど。ところで、私の見立てだと、この村は、水をちゃんと貯めるということをしていないのでは?以前の水源はもう足りなくなったから、またパイプを引いて遠くの水源から水を供給しようとしている。でも、ほら、この子を見てごらん(と、そばにいる子どもを指さす)。今着ている服はちょうどいい。でも、2年後、3年後、ましてや10年後に同じ服が着られるかな?(着られない、と村人の合いの手)。子どもは成長するから、それまで着ていた服が着られなくなるだろう。村も同じことが起きているんじゃないか?村のサイズそのものが大きくなったらどうする?以前の水源も、村の人口が増えたから足りなくなったんだろう?じゃ、今度の水源も、これ以上人口が増え続けたら、使い続けるだけなら、足りなくなるよね。水源というのは銀行みたいなものだね。もし、貯金していれば、長いことお金を引き出しながら使うことができる。でも何も貯金していなかったら、お金はすぐになくなってしまう。(ここで別のオッチャンが、何やら納得したような声を出す)





和田さん:この村の人は、みんなヤギを飼ってるね。あなたのところのヤギの飼い葉はどこから取ってくるの?
オッチャン:ほら、この木の葉っぱ(と、そばに立っている木を指す)から、十分採れるから、大丈夫だ。
和田さん:ほう、で、あなたのところ、みるところ2匹ヤギがいるけど、この木の葉っぱは何日もつんだ?
オッチャン:2日・・・
和田さん:そうすると、2日経った後は?
オッチャン:山に取りに行く。
和田さん:飼い葉になる草や木は、植えてるの?
オッチャン:植樹はしているぞ。森林局が苗をくれた。でも、もっと苗を援助してくれるといいんだけどな。
和田さん:植樹は、苗を植えるだけじゃないよ。いまある木から種を収穫して、いい種を選んで植えることもできる。枝を挿すだけで生える木もある。接ぎ木をすることもできる。いろいろなやり方がある。それを学べば、他に頼らなくても、自分たちでいくらでも森を豊かにできる。



NGOスタッフ:お話をさせてもらってありがとうございました。今日は私たちがたくさん質問しましたけど、あなたたちから私たちに聞きたいことはありますか?
オッチャン:ワシらは知識が少ない。今日のような、知識をインプットする機会があると嬉しい。外国からの新しい知識は役に立つ。ワシら、これまで20年くらい、いろんな外部の団体からの「援助」を受けてきた。でも、そういうことが自分たちでできたら、援助に頼らなくてすむんだ!
和田さん:今日の話は何も外国からの新しい知識ではなく、土や木が教えてくれるもの。どうやって森を守っていけばいいかは、土や木の声に耳を傾けること。そうすると守っていくことができますよ。

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ここまで、いくつかのやり取りは省略しましたが、通訳を介してものの20分。
国際機関やNGO、さまざまな団体からの援助を受けている村。そんなところに来た私たち外国人。「新しい支援のために来たのかも!」と思ったかどうかは定かではありませんが、「支援がほしい」モードで村のことを話し始めた村のオッチャン。ですが、最後には「援助に頼らなくていいのに」という言葉を引き出しました。しかも、最後まで村人たちが誰ひとりとして出ていかず、いつの間にか他の村人も集まって、話が終わったら拍手。村のオッチャンたちがどんどん話に引き込まれていく様子が感じられました。

このとき、この村の様子をざっと見た和田さんは、「土や水、森を保全する村づくりが行われていないので、いつ災害が起こってもおかしくない」と見立てていました。和田さんによると、とある一つの質問がオッチャンにとって、事実に基づいたやり取りを始めるための「キラー質問」だったそうです。そこで“つかみ”に成功すると あとはどんな変化球を投げても相手が受け止めてくれるとのこと。みなさん、どの質問だと思いますか?

答えは・・・「和田さん:ほう、で、あなたのところ、みるところ2匹ヤギがいるけど、この木の葉っぱは何日もつんだ?」の質問だそうです。

ここでオッチャンは「2日」と事実を答えざるを得ない。そこから事実に基づくやり取りのサイクルに入ります。その後の苗のやり取りを通じて、「自分たちができるんだ」と気づく…というわけです。


(研修事業コーディネーター 田中十紀恵)