2015年5月5日火曜日

事実質問は過去形で

対話型ファシリテーションは、手法が単純なところに最大のメリットがあるのですが、その柱である簡単な事実質問を繋げるのはそう簡単でないのを、皆さん日々実感されていることでしょう。そこで、今回は、事実質問を繋げるための、ちょっとしたコツを改めてご紹介します。

ご存知のように、基礎講座では、参加者の「改めたい習慣」をめぐって練習します。横で聞いていると、事実質問ができなくて一般的な質問をしてしまう場面にたびたび出くわします。たとえば、ある方から「朝ごはんを食べないまま出かけてしまうことが多いので、その習慣を変えたい」という課題が提起されました。ほとんどの方は、講座で習ったように「今朝は朝食を食べましたか?」と聞き始めることができます。出て来た答えに基づいて、さらに次々と事実質問をしていくうちに、聞き手は「これは寝る時間が遅いため、朝起きられないことが原因ではないか」という仮説にたどり着いたようです。

ところが、次に出て来た質問は、「夜は何時に寝ますか?」という一般化された質問でした。相手は視線を宙にさまよわせながら、「遅いことが多いですね」としぶしぶ答えました。そこからは、「もっと早く寝れば、朝余裕が持てるかもしれない」という聞き手の仮説に迎合するような方向にやり取りが進んでいきました。結局、自分で気付いてもらう前に、こちらの思い込みを相手に押し付けるパターンに入ってしまったわけです。典型的な思い込み質問の罠にはまったケースです。本来は、「前の日の夜は、何時に寝ましたか?」と事実質問をしなければならないのですが、自分の仮説に囚われてしまうと、それがなかなか出て来なかったのです。

では、これを避けるためには、どうすればいいのでしょう。一番覚えやすいコツは、「相手の行動に関する質問をする場合は、常に、『過去形で聞く』ように心がける」ということです。よく考えてみれば、事実は、今現在、あるいは過去のことですよね。とはいえ、現在形の質問は、過去形に比べると本当に事実質問かどうかの判断が難しいのです。

「When=いつ」質問の有効性は、講座などでも口酸っぱく言ってきました。それに加えて、この「過去形の質問へのこだわり」を念頭に置いて質問するよう心がけることで、事実質問に徹することがより容易になるはずです。例えば海外協力の現場で、「農薬はどんなものを使いますか?」ではなく、「どんな農薬を使いましたか?」と聞けるようになれば、地に足の着いたやり取りが続けられます。

実を言えば、このコツが言語化できたのは、つい数か月前で、ここ数回の基礎講座に出られた方にはお伝えすることができたのですが、それ以前の方には、こういう形でお示しすることができていません。「事実質問は過去形で」と心の中で唱えながら、ことに臨むことを強くお勧めする次第です。

(ムラのミライ共同代表 中田豊一