2016年2月2日火曜日

インドの村人が、対話型ファシリテーションを駆使


ムラのミライは南インドのアンドラプラデッシュ州の4つの村で、水や森を守りながら生活を向上させていく村人の活動を支援しています。
ある時、その村の代表者15名を連れて西ベンガル州の農村へ視察研修に行きました。

そこでは、複数の作物を畝(うね)で整備して栽培する「混合栽培」や、村で保管している穀物を個人に貸し出す「穀物銀行」、堆肥づくりといった農業に関することから、ため池の管理や魚の養殖、植林など水土保全に関することまで、彼らが知らない様々な先進的な活動が導入されています。
彼らは、1日2~3か村を訪れてそれらを学んでいくのですが、質問するのは彼らであって、ムラのミライのスタッフはそれを通訳するのみです。

「いつ、この作物を植えるのですか?」
「この種はどこから入手するのですか?」
「この作物はいつ収穫できますか?」
「収穫した後、この空いたスペースはどうするのですか?」

研修参加者たちは、矢継ぎ早に質問を投げかけていきます。それに答えるのは相手側NGO団体の職員たちです。
苗床でも、ため池の整備でも、魚の養殖でも、参加者たちは「いつ?どこで?誰が?どれだけ?いくらで?」と具体的に質問していきます。
普段、ムラのミライ・スタッフが研修で彼らに尋ねていることそのままに、参加者たちが相手の村の人たちやNGO職員に対して聞き始めたわけです。
『自分たちが見せたいモノを見せる』ツアー感覚でいた相手側NGO職員は、参加者たちからの逃れられない質問に冷や汗をかきつつも、『これが視察研修というものか』と驚いているようでした。

参加者たちの山の村と違って、ここでは植林は平地で行われており、等間隔で苗木が育っています。3年前に植えたという木はすでに人の背丈ほどにもなっていました。

「この木は何の木ですか?」 
「野生の蚕が住みつくための木です」
「どこから苗木を手に入れましたか?」
「私たち(NGO)からの支援です」
「1年目に植えたということですが、2年目は何をしたのですか?」
「枯れてしまったり、根付かなかった苗木を植えかえる作業をしたりしました」
「その苗木はどこから?」
「私たち(NGO)からの支援です」
「今年は何をしましたか?」
「新たに苗木を植えたり、苗木と苗木の間に豆類を植えたりしました」
「それは、どこから手に入れましたか?」
「私たち(NGO)からの支援です」
「村の人たちは、いつまで、NGOに頼っていかねばならないのですか?」
「・・・」
声を失くすNGOスタッフ。とまどった顔の相手の村の人たち。

参加者たちは、ため池整備やその他の果樹園植林でも同様に、村がどうあるべきなのかを、相手の村の人たちやNGOに考えさせる質問をしていきます。

「この果樹園の土地は誰のもので、だれが整備をしたのですか?」
「3人が所有者で、残りの村人たちが整備したり苗木を植えたりしました」
「収穫物はどうなりますか?」
「30%が所有者に渡され、70%を残りの村人たちで分け合います」
「ずっとそうしていくのですか?」
「25年間、土地を借りるという約束事になっていますので、25年間はそうなります」
「その後は?」
「土地は今のように村人たちが使えず、すべての収穫物は土地の所有者のものだけになります」
「つまり、労働力のみを提供し続ける、ということですね?」
「・・・」

ムラのミライが彼らの村で活動を始めて、かれこれ5年。
「自分だけ」、「今だけ」、「水があったら良い」、「果実が採れたら嬉しい」、「収入を増やしたい」というような即物的な願望から出発しながらも、やがては村全体の現状と将来のことを考えるようになり、それを行動に移して来たのが今回の参加者たちでした。

この15人の内の13人は、これからは指導者として、別の村に「村全体で水や土や森を管理していくにはどうすればいいか」を教えに行くことになっています。
その際、最も重要な働きかけのための道具が事実質問を軸とした対話型ファシリテーションであり、それをいかに使うかを彼らはいつの間にか習得していたわけです。
期せずして、視察研修という場で将来の指導者たちが、ムラのミライが教えてきたことを、内容と方法の両面において、これほどまでに理解しているのを知ることができたムラのミライのスタッフたちの喜びと驚きはいかほどだったでしょう。
活動を始めたころの村人たちは、海外援助のストーリーに登場してくる典型的な「インドの山岳少数民族の貧しい村人たち」に他ならなかったのですから。

この報告を読んだ日本の私たちもまた大いに勇気付けられたことは、いうまでもありません。

(中田豊一 ムラのミライ代表理事)

*この記事は書籍対話型ファシリテーションの手ほどき」 (700円+税 2015年12月発行)の一部を引用したものです。

→この記事に描かれた村人たちに会える研修ツアー 参加者募集中!
コミュニティファシリテーター研修~住民主体の自然資源管理とコミュニティ開発」 

http://muranomirai.org/trg20151226