2016年5月3日火曜日

頭の中に時間軸を引く

今回は、どういうふうに事実質問を組み立てるのか、そういうことを書いてみます。

4月26日のこの対話型ファシリテーション自主学習ブログに、近藤美沙子さんが、この3月のロンボクでの研修のことを書いています。事実質問を投げかける対話の中で、①どうしたらゴールを設定できるのか、そのためには質問を投げかけながら、②同時にどう相手とのやり取りをシミュレーションしていくのか、そのことへの気づきを書いてありましたね。その辺りを、解きほぐしてみたいと思います。ただし、余計分からなくなった、なんてことになったら、中田さんにSOSを出してください。この方法論を練り上げたのは、中田さんなので、難しい質問はいつも中田さんへ、という気持ちを持つことを忘れないでください。

 (写真 イランにて 真ん中左=和田信明 真ん中右=中田豊一)

では、まずおさらいです。事実質問って何だ?ということを一言で言えば、現象をかみ砕く(現象っていうと、なんか哲学的ですが、例えば、あ、今朝学校に遅刻しちゃったとか、宿題を忘れちゃったとか、何か今日は気分が落ち込んでいるとか、逆に今気分がやたら昂揚しているとか、そういうことですね)ということです。中田さんが教えてくれたのは、特に現象がネガティブな場合、「なぜ」と聞くと、言い訳を誘発しやすいということでしたね。もっともらしい言い訳で「なぜ」と聞いた方が納得しても、実は聞いた方も言い訳した方も、まさに「なぜそうなった?」ということが分からないまま終わってしまうことが多いのですね。でも、その現象にいたる過程を、一つ一つ事実に分解して聞いていけば、二つ得します。つまり、一挙両得ですね。一つは、相手が、具体的に何が起こったか思い出すことで、原因が明らかになる可能性が大きい。二つ目は、聞き手と話し手の共通理解が生まれる、ということです。あ、あなたと私は、あることに対して同じ認識を持っている、という状態を作り出すのがコミュニケーションの意味でしたね。つまり、この「一挙両得」の状態が、コミュニケーションということです。

ただ、この一挙両得事実質問がし易いのは、あ、宿題忘れた、とか、遅刻した、とか(こいつ、持ち出す例えが乏しいから、自分の学校時代のことばかり言ってるな、と思った方、大当たりです)、何が問題になっているのか分かっている場合ですね。村にぶらっと行って、誰かをつかまえてインタビューするときは、そうはいきません。この場合は、相手に話を聞きながら自分が何を聞きたいのか(なんだかややこしいですね)、探らなければいけないので、うまく質問を組み立てていかなければ、「えーと、私は何を聞きたかったんでしょう」、で終わってしまう可能性があります。つまり、ゲームが成立する前に、あらぬ方向にボールを打ったり蹴ったりすることで終わっちゃった、なんてことになります。ところが、「ゲームを作る」というのが難しい。そのとき、何をするのか。

まずするのは、自分の頭の中に時間軸を引いてみることです。はい。過去、現在、未来の横軸です。さて、横軸が引けたら、今度は現在の所に縦軸を引いてください。この縦軸の、向かって右側が未来、左側が過去になります。この右側の部分は、常に空白です。神のみぞ知る、という領域です。神ならぬ私たちは、縦軸上と縦軸より左側で作業をしていきます。さて、これで準備ができました。


最初の質問は、なんでもいいのです。定番通り「これはなんですか?」で、結構です。「これは何ですか?」と聞くネタがなければ、相手の家族のことから聞き始めても結構です。ただ、ネタが全くないというのも寂しいので、私や中田さんがいつも言うように、それまでに目を皿のようにして辺りの風景を見ておいてください。そして、そのとき、頭の中で素早くしなければいけないのは、そのネタ、最初の質問事項を縦軸に貼り付けることです。ペタッと、頭の中で音がしましたか。しっかりと、落ちないように貼り付けてくださいね。そして、丁寧にそのネタを分解してください。まず、ネタをかみ砕くんですよ。

例えば、「家族」。「あなたの家族のことを教えてください」。このとき、まず、「今妻(夫)と娘(息子)、そして両親と一緒に住んでいますが・・・」とか、言ってから始めるといいですね。

さて、相手から答が返ってきます。例えば、「妻と子どもが5人」。もう、この時点で、次の質問のヒントが答の中にありますね。「あなたの奥さんは、男ですか、女ですか」なんてのも、可能性としてはありですが、あまりしない方が賢明です。でも、「男のお子さんは何人、女のお子さんは何人ですか」というのは、苦労しなくても出てくる質問で、ここで「男の子3人、女の子2人」なんて答が返ってきたら、ここで、縦軸に、「夫、妻、男の子1、2、3、女の子1、2」と、またペタッと貼り付けておきます。

ここまでで、一体何が起こったのでしょうね。実は、などともったいぶって書くことでもないですが、何が起こったか、あるいは、何を無意識にしていたかというと、「家族」を要素に分解する、この場合は家族の構成メンバーという要素に分解するということをやったわけです。冒頭に書いた「かみ砕く」とは、まさにこのことですね。要素に分解する。事実質問の鉄則です。

さて、この時点で、すでに質問の大項目だけでも7つ揃ったことになりますね。分かりますか。さらに、補足的に、「あなたのご両親は」とか、「奥さんのご両親は」とか、聞くことができますね。すると、まだ両方の両親とも達者だ、なんてこともあるわけで、ここで、7つの大項目に、さらに4つ項目が足されたということができます。これだけでも、最低11個は質問が作れるわけで、あなたの前途は洋々たるものです。縦軸での話を、もうちょっと書きますよ。

次ぎに、この縦軸での展開をするときに、子どもたちが今何をしているか、それぞれの子どもについて聞くことができますね。一番上の子は男の子で、すでに父ちゃんと一緒に仕事をしているとか、まだ高校に行ってるとか、あるいは、一番上の子は女の子でもう結婚してるとか、いろいろな可能性がありますね。この辺りから空間的要素を入れ込みます。なんて言うと、難しそうですが、子どもたちが、年齢にもよりますが、今どこに住んでいるかという質問ができるということです。ついでに、奥さんはどこから嫁に来たかとか、両親は今どこに住んでいるか、とか、後々役に立つような、布石とも言えるような質問がいっぱいできますよ。すでに、ここまでで、ここは突っ込んでみたい、ということが少なくとも二つや三つは出てきているはずです。え、何もなかったって? それは困りましたね。ま、あきらめずにセンスを磨いてください。

さて、この辺りから、過去の方に少し当たりをつけ出します。いいですか。誰だろうと、いきなりぽこっと、現在存在しているわけではありません。必ず過去があります。家族全員の、個人史を聞くことも可能です。また、過去のエピソードのある部分を、集中的に聞いていくこともできます。また、当然ながら、過去にも、それぞれの出来事の空間的な展開があります。しつこいようですが、次の質問のヒントは、必ず相手の答の中にあります。だけど、気になる情報は、必ず、この縦軸と横軸にちゃんと貼り付けておいてくださいね。はい、ペタッ。これが、基本です。これを、その場で、一瞬でできるように訓練する、それがメタファシリテーションの手法の初歩です。

和田信明 ムラのミライ 海外事業統括/ネパール事務所)


 (写真 イランにて移動中 右=和田信明 左=中田豊一)

http://muranomirai.org/basic2trg201605