私が、和田さんの魔法のような質問術に打ちのめされ、やがて自分もそれを習得しようと練習を始めたのは15年ほど前でした。以来、最も手軽な練習相手は、子どもたち、特に息子でした。現在大学3年生の彼は、事実質問を浴びせられているうちに、いつしか彼自身もそのやり方を身に付けてきました。特に「途上国の人々との話し方」が出てからは、その仕組みや技法についての理解を深めたらしく…私の対話術がネタバレになったわけです…それを参考に、彼も友人相手に事実質問を意識的に使うようになりました。彼によれば、「一番最初にそれをしたのはいつですか?それを意識し始めたのはいつ頃ですか?」と「一番最近それが起こったのはいつですか?」の2つの「いつ」パターンの質問が自然に出るようになったとのこと。
最近の例です。大学の友人A君と、帰りの電車でたまたまいっしょになりました。A君は、ちょうど就活を始めたばかりなので、自然その話題になりました。
I(一平)「就活、始めたんやてな?」
A「うん、でも今一つ調子が出ないんや」
I「お前みたいに優秀な奴がか?」…お世辞ではなく、本当にすごい奴とのこと…
A「面接がなんかぎこちなくて」
(中略)
I「で、お前自分のアピールポイント、どこと言ってるんや?」
A「柔軟性が高いことと、人のために働くのが好きなとこ」
I(驚いて)「へー、お前そういう風に自分のこと捉えてたんや。そしたら、最近、自分は柔軟性が高いと思ったのは、どんな時や?」
A「部活で、無理難題をふっかけられても、何とか対処したことかな。お前も知ってるあれや」
I「もうひとつの点は?」
A「同じ時のこと。役に立ててうれしかったんや」
I「じゃ、他には?」
A「う~ん、そういえばあんまり思いつかんな…」
I「お前、昨日から今日にかけて何してた。順番に言ってみい」
A「昨日は、面接2件行って、そのあと面白そうな講演があったんで梅田に聞きに行って、家に帰ろうと電車乗ったら、先輩から誘いの電話が入ったんで、電車下りて途中から引き返して、梅田で結局朝までカラオケして、家帰って、ジム行って汗流して、それから授業に出て、図書館で調べものして、夕方、見たい映画があったんでそれ見て、で、帰りの電車乗ったらたまたまお前に会ったんや。家帰って着替えたら、また出かけるけど」
I「お前のその行動力と体力、人間ワザやないで、俺に言わしたら」
A「(しばらく考えてから)そうか、そっちが俺のアピールポイントかもな。なんかすっきりしたわ」
実際、彼の行動力、フットワークの軽さ、決断の早さは、友人の間でも驚嘆と羨望の的でした。ところが、彼はそれに気づかずに、見当違いな長所をアピールしていたわけですから、面接がしっくりこないのは当たり前です。それが功を奏したのかどうかは別として、A君、その後の就活は快調とのことです。
ことほど左様に、自分のことを正しく認識するのは容易でありません。この自分自身を捉える能力を指して、心理学用語で、「メタ認知能力」と呼びます。メタ・ファシリテーションのメタは、そこから私が付けた呼び名です。そして、この正しい自己認知を手助けするのが、メタ・ファシリテーションの本領なのです。
メタ認知の出発点は、自分で自分のことを正しく知るのは実に難しいことだ、という認識にあり、この自覚に立って謙虚に着実に他者と対話するからこそ、他者の認知のゆがみを正すこともできるのです。
(中田豊一 ムラのミライ 代表理事)