2017年5月9日火曜日

地域づくりの失敗を避けるために ある集落でのインタビューから


地域づくりがうまくいかない原因のひとつは、地域づくり組織が地域の課題を正確に把握していないことに原因があると私は考えます。それは、行政のまちづくり担当職員が、まちづくり組織の人に「この地域の問題はなんですか」と聞いてしまうことから始まります。そこで得られた回答に基づき、地域づくりをすると地域のニーズに合わない処方箋が出されてしまいます。それによって、地域運営組織にとって大変無駄な時間を使ってしまいます。

一例をあげましょう。それは、私が以前、ムラのミライの日本国内での研修に参加し、山間地域にある30世帯ほどの集落に伺った時の話です。

今から数年間、商工会の方が、この村の問題は何ですかと集落の住民に尋ねたそうです。村人はそこで「仕事がなく、若者が街へでていってしまうことです」と答えました。そこで、商工会は地域振興事業として、高麗キジのひなを60羽渡し、それを育てて、食肉を売り、現金収入を稼いだらどうだろうかという提案を住民にしました。1羽は4,000円で売れるというのです。60羽で4,000円なら24万円になります。集落にとっては貴重な現金収入になります。村人は、この話に飛びつきました。

そこで、集落のAさんは、自分で小屋をつくり育て始めましたが、1か月もすると、ひなの2割は窒息して死んでしまいました。温度管理などひなを育てるノウハウがなかったためです。

それでもAさんと集落の方は、頑張ってひなを成鳥まで育て、いよいよ売り時が来ました。そこで、商工会の方にキジの肉を買ってくださいというと、「道の駅」で自分で売ってくださいというのです。Aさんたちは、内心では商工会のほうが買い取ってくれるのではないかと思いましたがそれも言い出せず、仕方なく自分たちで売りました。しかし、そもそもキジの肉について、一般に調理法や料理法が普及していなかったせいもあり、半分も売れませんでした。

そこでAさんたちは売れ残ったキジを自分たちで、食べてしまいました。それから、2度とこの事業を始めようとはしなかったそうです。


さて、この事例で、何が問題だったのでしょうか。それは、商工会はキジ育てれば簡単に現金収入が入ると思い込んでいたということです。しかし現実は、キジのひなを育てるノウハウがなかった、また、キジ肉のマーケティングをしておらず、あまり売れなかったということです。

まちづくりでもこうした事例は、あるのではないでしょうか。対象地域のおかれた現状をよく観察しないで、ほかもそうだからここもそうだろうという思い込みが、真の課題把握の障害となるのです。まちづくりにおいて、一番大切なことは、地域運営組織が自分の問題として地域課題を捉えられるかです。

メタファシリテーションは、資源がない、予算がない、人がいないから○○ができないという住民の想い込みをひっくり返し、コミュニティ単位で生活向上を目指して能動的に起こす独特の方法論で、現場で使われる方法が、事実質問です。ファシリテーションは、住民へのインタビューから始まります。 この時大切なのは、最初に言いましたように、「あなたにとって何が問題ですか」と聞かないことです。仕事がないときに、
それなぜですかと聞かないことです。まず、地域の状況、住民の暮らしについて短い質問で、聞いていくことで、その地域の課題が浮かんできます。住民の本音を引き出さない限り、地域運営組織の課題対応もうまくいかないのです。

コミュニティがもつ経験、知識ならびに地域資源を正しく引き出し、住民自身に課題分析や解決を促す場面において、「メタファシリテーション(対話型ファシリテーション)」が普通になる時代がくるのを願ってやみません。

小森忠良 ムラのミライ 理事/(株)十六総合研究所 主席研究員)





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対話型ファシリテーション)の入門本。(700円+税 2015年12月発行)



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