2017年10月31日火曜日

絵を描くように質問していく


「相手に過去の出来事を思い出してもらうときには、時系列で、詳しく聞いていく」
というメタファシリテーションのセオリー、どのくらい詳しく聞くべきなんだろうと迷ったことがありました。

中田さん(注)によると、「その当時、その場面の絵を描けるように聞いていくとよい」のだそうです。
例えば、数年前にネパールでフィールドワークを行ったAさんに、当時のことを聞くのであれば、

・フィールドワークに行ったのはいつか覚えていますか?

・その日は、何時ごろに村に到着しましたか?

・その時のフィールドワークのメンバーは覚えていますか?誰でしたか?

・その時の天気は覚えていますか?季節は?

・どの場所から歩き始めましたか?どちらの方向に向かって…?

・歩き始めた時、誰か村の人が案内してくれましたか?

・・・などなど、フィールドワークを始めるまでの場面でもたくさんの質問が出てきます。そうすると、質問者(私)が当時のことを詳しく知ることができるだけではなく、Aさんが当時のことを詳しく思い出し、どんどん自分から語ってくれるようになるんだそうです。
 
さて、ネパールで仕事をしていたとき、ネパール人スタッフから、こんな話をよく聞きました。

 

スタッフ:ミーティングに参加して、自分の活動やアイデアを話したら、みんな賛成してくれたよ。

(私の心の声:何のミーティング?みんなって誰?)

 

【今までのパターン】

私:そう、よかったじゃない!

→これで会話は終了。どんなミーティングだったのか、誰がどんなふうに賛成してくれたのかはわからずじまい。

 

【細かく聞いていくよう事実質問にトライ】

私:どこでミーティングがあったの?

スタッフ:公民館の会議スペース

私:そのミーティングは、何時からはじまったの?

スタッフ 7時に集合の予定で、私は7時に着くように行ったんだけど、始まったのは8時になってから。平日で参加者が忙しかったので、9時には終わったよ。

(私:朝7時の予定だったということは、参加者が仕事に行く前のミーティングなので、忙しかっただろうなぁ。落ち着いて話ができたんだろうか?)

私:あら~朝早かったんですね。始まった時には何人来ていたの?どんな人が参加していたか覚えてる?

スタッフ:10人くらい。公民館の館長さん、スタッフ…(指折り数える。名前を挙げるが、すべて男性の名前。)。

(私:なるほど、ミーティングの参加者は男性ばかりだったのか。)

私:どういう話題から始まったの?

スタッフ:お互いの近況報告から始まって、この公民館の利用状況とか…(と話が続く)

私:誰かがあなたのアイデアに対してコメントしてくれたの?

スタッフ:タパ(仮名)さん。この人は、私の地域のリーダーなんだ。

私:その人のコメントの内容を覚えている?もし覚えてたら教えてくれる?

スタッフ:確か、「あなたのアイデアは素晴らしい。こういう活動をどんどん続けていってほしい」って言ってくれたよ。

(確かにポジティブなコメントだけれど、別に自分がアクションを起こしたいような発言ではないなぁ)

私:他の人からはコメントあった?

スタッフ:コメントはタパ(仮名)さんだけだけど、他の人もうなずいてたよ。

(じゃあ、実際のコメントは一人だったんだ。うなずいていたからみんなってわけね。)

 

→自分がその場面を想像できるように、事実質問で会話を続けてみると、質問相手が自らどんどん語る…というところまでには至りませんでしたが、「ミーティングに出て、自分のアイデアを話したら、みんな賛成してくれたよ。」という言葉から、私が想像した(参加者がとっても乗り気で、活動にも参加してくれそう)のとはちょっと違う風景が見えました。

こういう会話をしたことで、ネパール人スタッフが、もし、その活動を本気でしたいなら、「みんな賛成してくれた」で終わらせず、次に誰にどう話していけばいいのかを考えるきっかけになっていたのなら、嬉しいのですが。
事実質問を使った会話の強みの一つは、こうして過去の出来事を浮かび上がらせることだと思います。とはいえ、細かく聞いて行くと、時間もそれなりに必要なので、ちょっと落ち着いて会話をしてみようか~という時があれば、「絵を描く」を試してみてください。




注:中田さん:ムラのミライ代表理事で、メタファシリテーション手法を築き上げた二人のうちの一人である、中田豊一。

 
(ムラのミライ 事務局長 田中十紀恵



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2017年10月17日火曜日

メタファシ習得への道

入門編や基礎編の講師をさせていただくようになってから、参加者同士の事実質問の練習のやりとり、そのフィードバックを聞いていると、私が勉強し始めた時を思いだす事が何度かあった。
自分自身まだ勉強中の身ではあるが、今までどのように練習し、勉強していったのか。 ふと疑問に思って、一度まとめてみようという思いにかられたので、自問自答をしながら思い出していった。数点ポイントとなる事を思い出したので、書いてみた。

6年前、ムラのミライのインド事業地で中田さんに対話型ファシリテーション研修を受けてから、これだ!と思い、名古屋で勉強会があることを知り、その翌月20121月にJICA中部で開催した時に参加した。ちょうど中田さんも勉強会に来ていただいた時であった。 その時、インド研修以降に意識していたこと、「なぜ?」を使わない事を話した覚えがある。 自分自身がなぜを使わないこともそうだし、第三者の会話をきいていて「なぜ?」を使ったときにどのような会話になるのか、その返答が事実なのか、それとも感情か観念なのかを意識した。 メタファシリテーションを勉強している人にはあるあるネタなのかもしえないが、「なぜ?」と聞かれると、どうしてどんな聞き方をするんだ! とイラっとすることさえもあった。それだけ徹底的に意識をしたのを覚えている。 もちろんそれと同時に、なぜの代わりに、「いつ」や「どこ」を使うようにした。 また、この当時は、事実質問を使った自問自答でモノについて聞きこんでいく、という事も練習方法の1つとしていた。  

201210月より、私が勤める団体からエチオピアへ1年赴任することになり、現場で使えるチャンス!村人に気づきをあたえたる! と本来の業務以上に意気込んでいた。 そして事業地の村で初めて訪れた家での対話は今でも鮮明に覚えている失敗例だ。 ある家を訪れた時に、農機具(確か鍬だったと思う)があったので、教科書通りの「これは何ですか?」と質問してみた。 その家のお母さんは、「見ての通り鍬だがね」という答えから、話も続かず弾みもせず、意気消沈としてその場を去ったのは覚えている。 直後、師匠の中田さんにスカイプで相談すると、エントリーポイントについて思い出させていただいた。 何でもかんでも事実質問を使って聞けばいいのではなく、「エントリーポイント」を意識し、それと同時にエントリーポイントを見つけるために観察することに重点を置いた。

20137月に帰国後は、勉強会に参加し、そこで中田さんを招いてフィールドワークをして現場経験も積んでいった。 ただ、現場というのは特に設ける必要もなく、常にチャンスはあり、家族や友人、パートナーとの普段の会話でも、事実質問のスイッチが入るときがあった。 以前のブログ記事「恋は盲目」の時のように、ふとした瞬間に事実質問モードになっていたよう、振り返ると普段の生活でも事実質問を練習することに意味があったと感じる。これは気づきを与えるということのみに重点をおいておらず、どちらかというと頭の中を事実質問モードにすることにより、自然とそういった質問がでてくる癖をつける、そして質問の幅を広げる目的であった。 そういった意味では、月に1度の自主勉強会に参加し、同じ志をもった仲間と練習し合い、対話型ファシリテーションモードになる事の重要性、そして継続する意味を改めて感じた。特に2016年にエチオピア事業で数か月、現地に滞在した時に、質問の仕方の幅が増えたことを実感した。それを実感した出来事は長くなるので、また後日お伝えしたい。  ただ、感覚的に言うと、横の幅だけではなく、横も広がり縦でも考えられるようになった感覚があった。
シンプルな事実質問で気づきを与えられるのが対話型ファシリテーションでもあるが、まずは気づきを与えるための的確な事実質問を常に意識し、練習することが上達していく術なのかなと過去を振り返ると感じた。





(ムラのミライ認定トレーナー 松浦史典


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2017年10月10日火曜日

多数を相手でも手順は同じ


前回前々回より連載3回目の今回は、多数を相手にどのように対話を行っていくのかをお伝えいたします。


今から10年ほど前のことでしょうか。インドはアッサム州のある村でのことです。私と中田さんは、国際協力銀行の森林関係のプロジェクトのある調査のために、インド人の専門家たちとチームを組んでその村を訪れていました。このとき、アッサム州政府で私たちのカウンターパート、つまり行動を共にするのは森林局でした。他にも沢山の村を訪れましたが、この村は、特に印象に残っています。村に着くと、出迎えた村人たちが、いきなり鉦や太鼓で踊り出したからです。その賑やかさは、徳島の阿波踊りを思い浮かべて頂くとかなり近いものがあります。

この調査いかんでは、森林局に大型のプロジェクトがやってきます。私たちを最大限もてなす、森林局の演出だったのでしょう。村人がかり出されているのは明らかですが、しかしながら、踊りそのものは、気合いが入っているというか、それはそれとして心から楽しんでいるというか、私たちや森林局へのお付き合い、というレベルを超えた熱気でした。

その、老若男女が、いわば踊り狂っている中で、私の目を一際引いたのは、あるおばあさん。失礼ながら、相当のお歳とお見受けしたのですが、その踊り狂う様が半端ではない。心から踊りを楽しんでいる様子がよく分かる。その体のこなしが、若い者たちに負けていないのです。

この踊りによる「歓迎」、正直言って、調査に入った私たちとしては、のっけからこの調子では、とてもまともな聞き取りなどできないのではないか、このまま集会に移行すれば、しゃんしゃん、で終わってしまうのではないかという、そんな気配が濃厚でした。しかしながら、踊るおばあさんは、強く印象として私の中に残っていました。果たして、彼女はどんな人生を歩んできたのだろうか、そんなことをぼんやり考えながら、私は集会所へ歩いていました。

やがて、私たち調査団のメンバーと森林局のお役人たち、そして村人が集会所に落ち着くと、歓迎式というのでしょうか、が始まりました。私たちは、もちろんひな壇に並んで座っています。そして、政治家やお役人、村の有力者たちのスピーチが次々に始まります。スピーチは、土地の言葉で語られているので、私には分かりませんが、敢えて通訳を付けてもらう必要もありません。内容が分かったところで、大したことはないし、また、何となく何を話しているかも分かります。そんなとき、私は目の前にいる集会所を埋め尽くす村人たちの表情をじっくりと観察します。すると、後ろの方に例のダンシングおばあさんがいました。こうなるとしめたものです。このおばあさんに、今日の私の話の「マクラ」になってもらおうと決めました。

さて、私がスピーチをする番になって、まず話したのは、村に着いてすぐに始まった群舞のことです。それがいかに印象深いものであったか。ここで、後ろに座っていた例のおばあさんを手招きして、前の方に座ってもらいます。そして、特にこのおばあさんの踊りに感心したことを語ります。このとき、おばあさんに、この踊りは誰から習ったのか、どんなときに踊るのかなど、村の慣習に係わる話しを聞いていきます。これは、メタファシリテーションの基本、相手のセルフエスティームを上げる、ということの応用ですね。

ここまで来ると、集会所全体の注意はわたしに集まっています。ここで私は、村人全体に問いかけます。

「踊り以外に、あなたたちが昔から知っている、できることはありますか?」

すると、稲作から畑作、その他いろいろ出てきます。さらに問いを重ねます。

「森はどのような利用の仕方をしていますか?」

これに対しても、いろいろな答が出てきます。ここで、これまで出てきた話を確認しながら、今ここに集う人たちが覚えている限りで、森や田圃、畑にどんな変化があったのかを確認していきます。そうすると、耕作地の拡大、森の減少、井戸を掘ってはつぎつぎに枯れていく、などの話が出てきます。

もう、10年前の話なのでよく覚えていませんが、ここまでで十分村人たちが話にのってきたので、あとは調査団のメンバーそれぞれに引き継ぎました。最初は、歓迎行事的なムードだったのが、この時点では完全にこちらが知りたいことと村人たちの知りたいことの接点ができ、村人が積極的に参加する調査が順調にできたということです。


さあ、これまでの経過で分かるように、多数を相手にしても手順は同じです。まず、観察、そして相手のセルフエスティームを上げる。後は事実を一つ一つ丁寧に聞いていく。そういうチャンスがあったら試してみてください。




和田信明



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2017年10月3日火曜日

メタファシリテーションから見えてきた違った景色


お久しぶりです。皆様いかがお過ごしでしょうか。インターンの吉崎です。
今回は昨年11月に出版された「ムラの未来・ヒトの未来」からメタファシリテーションの実例を紹介させていただきます。

 


事実質問を重ねていくうちに、今までとはまったく違ったコミュニケーションのパターンに入り、見えなかった現実が目の前に浮かび上がってくる現象を、手法の創始者である和田は「違った景色が見えてくる」と形容している。そのような例を、私の実践の中からひとつ紹介してみる。

二〇〇九年の夏頃だったと思う。私はその日、バングラディシュの首都ダッカ市内最大のスラムにいた。用事をすませたあと、スラム内の商店街の薬局の店先に並べてある椅子に腰をかけて一休みさせてもらいながら、店主と以下のように会話を交わした。

 

私「(棚の薬品類を見回しながら)立派な店だ。失礼ですが、あなたのお店ですか」

薬屋「そうです」(中略)

私「店は毎日開けるんですか?」

薬屋「ええ、基本的に休みなしです」

私「今朝は何時に開けましたか?」

薬屋「9時半頃かな」

私「今、11時過ぎだから、開店から1時間半ほどですね?」

薬屋、うなずく。

私「開店から今までに、お客さん何人来たかわかります?」

薬屋「もちろん。4人来ました」

私「誰がどの薬を買っていったか、覚えてます?」

薬屋「はい、覚えていますよ」

私「何と何の薬ですか?よかったら教えてください」

薬屋「1人は胃薬を買っていきました。あとの3人は皆同じで、○○薬を買いました」

私「ほー、そうだったんですか。それは意外だ。で、昨日はどうでした」

薬屋「昨日も、○○薬が一番多かったですね」

 

さてここでクイズ。この○○に入るのは何だっただろうか。四人中三人が買ったのは一体何の薬だったのか。

正解は「筋肉痛」の緩和薬である。正解を当てられた方はいないにちがいない。かくいう私も、下痢の薬か風邪薬だろうと考えていた。

ここに住む人々は、リキシャ漕ぎ、荷車引き、レンガ運びや道路堀りなどなど、肉体的に最も厳しい作業を日々担って働いている。体が痛みに耐え切れず、緩和薬を塗ったり飲んだりしながら、今日も仕事にでかけていく。そんな光景が、たったこれだけの会話から見えてくる。周りに座って私たちのやり取りを聞いていた住民とおぼしき男の一人が、「俺たちは、きつい仕事をしているからな」とつぶやく。他の数人も感慨深げにうなずいた。五分にも満たないやり取りだったが、スラムの人々の生活の現状を垣間見させてもらうことができた。人々の心の奥底も、少しだけのぞくことができた気がした。

        


 

 

なるほど。確かにスラムに住む人々の生活をよく知らなければ、よく購入される薬ときいて「衛生面を考えると下痢止め?整腸剤?」と考えてしまいます。しかしこのような何気ない事実質問から「違った景色がみえてくる」ことがあるのですね。
皆さんもぜひ日常の会話の中で事実質問を取り入れてみてください。今まで見えなかった現実が見えてくるかもしれませんよ。

(ムラのミライ 関西事務所インターン  吉崎日菜子



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