お久しぶりです。皆様いかがお過ごしでしょうか。インターンの吉崎です。
今回は昨年11月に出版された「ムラの未来・ヒトの未来」からメタファシリテーションの実例を紹介させていただきます。
事実質問を重ねていくうちに、今までとはまったく違ったコミュニケーションのパターンに入り、見えなかった現実が目の前に浮かび上がってくる現象を、手法の創始者である和田は「違った景色が見えてくる」と形容している。そのような例を、私の実践の中からひとつ紹介してみる。
二〇〇九年の夏頃だったと思う。私はその日、バングラディシュの首都ダッカ市内最大のスラムにいた。用事をすませたあと、スラム内の商店街の薬局の店先に並べてある椅子に腰をかけて一休みさせてもらいながら、店主と以下のように会話を交わした。
私「(棚の薬品類を見回しながら)立派な店だ。失礼ですが、あなたのお店ですか」
薬屋「そうです」(中略)
私「店は毎日開けるんですか?」
薬屋「ええ、基本的に休みなしです」
私「今朝は何時に開けましたか?」
薬屋「9時半頃かな」
私「今、11時過ぎだから、開店から1時間半ほどですね?」
薬屋、うなずく。
私「開店から今までに、お客さん何人来たかわかります?」
薬屋「もちろん。4人来ました」
私「誰がどの薬を買っていったか、覚えてます?」
薬屋「はい、覚えていますよ」
私「何と何の薬ですか?よかったら教えてください」
薬屋「1人は胃薬を買っていきました。あとの3人は皆同じで、○○薬を買いました」
私「ほー、そうだったんですか。それは意外だ。で、昨日はどうでした」
薬屋「昨日も、○○薬が一番多かったですね」
さてここでクイズ。この○○に入るのは何だっただろうか。四人中三人が買ったのは一体何の薬だったのか。
正解は「筋肉痛」の緩和薬である。正解を当てられた方はいないにちがいない。かくいう私も、下痢の薬か風邪薬だろうと考えていた。
ここに住む人々は、リキシャ漕ぎ、荷車引き、レンガ運びや道路堀りなどなど、肉体的に最も厳しい作業を日々担って働いている。体が痛みに耐え切れず、緩和薬を塗ったり飲んだりしながら、今日も仕事にでかけていく。そんな光景が、たったこれだけの会話から見えてくる。周りに座って私たちのやり取りを聞いていた住民とおぼしき男の一人が、「俺たちは、きつい仕事をしているからな」とつぶやく。他の数人も感慨深げにうなずいた。五分にも満たないやり取りだったが、スラムの人々の生活の現状を垣間見させてもらうことができた。人々の心の奥底も、少しだけのぞくことができた気がした。
なるほど。確かにスラムに住む人々の生活をよく知らなければ、よく購入される薬ときいて「衛生面を考えると下痢止め?整腸剤?」と考えてしまいます。しかしこのような何気ない事実質問から「違った景色がみえてくる」ことがあるのですね。
皆さんもぜひ日常の会話の中で事実質問を取り入れてみてください。今まで見えなかった現実が見えてくるかもしれませんよ。(ムラのミライ 関西事務所インターン 吉崎日菜子)
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