でこぼこ通信第21号 「壊れた腕時計は誰がなおすの?」(2015年10月28日発行)

In 601プロジェクト通信 ネパール「バグマティ川再生 でこぼこ通信」 by master

 

目次

1. ガソリンがなければ、自転車を使えばいい!
2. デシェ村での2年目の活動
3. 壊れた時計は誰がなおすの?
4. 誰かが何とかしてくれるなんてことはない

 

1. ガソリンがなければ、自転車を使えばいい!

2015年9月20日、ネパールで新憲法の公布がアナウンスされた。
ネパールでは2006年に約10年にわたる内戦が終結。2008年には王政が廃止され、共和制へと移行した。そして、新しい国のかたちに沿った憲法を作るため、制憲議会での議論が始まったが、政党間の対立から何度も期限が延長されてきた。
実に7年越しの新憲法に、カトマンズはお祝いムードに包まれる…はずだったが、現在(2015年10月下旬時点)のネパールは、深刻な燃油危機に見舞われている。
資源を持たない内陸国であるネパールは、そのほとんどをインドからの輸入に頼っている。
しかし、今回の新憲法をめぐる国内外の政治的対立から、そうしたインドからの輸入がストップしてしまった。
特にガソリンやガスの輸入がストップしてしまったのは生活に大きな影響を与えている。たちまちカトマンズはガソリン不足となり、自家用車への給油は間もなくストップされた。
レストランやホテルではガスが入ってこないため、営業を縮小するところも。各家庭のガスも底をつき始めている。…と書けばキリがないが、状況がよくなる兆しは見えない。

 

しかし、この状況に不満を漏らしつつも、
「ガソリンがなくなれば、自転車で移動すればいい。」
「ガスがなくなれば、薪で料理ができる。」
そんな風に話すネパールの人々。「ない」なら「ない」なりに何とかしてしまうのだ。本当にたくましい。

地震のときにも感じた、ネパールの人々のたくましさ、穏やかさ。
それは、電気、水、燃料…そもそも「ない」ことに慣れているからかもしれない。
一方で、「ない」なら「ない」なりにどうにか(=代替手段を使うか、放置)してしまう彼らは、例えば、「ゴミ回収システムがない」と政府に対しての不満は漏らすものの、「じゃあ、自分たちで何かアクションを起こそう!」とはならない。人のせいにするのは簡単。誰かから言われたことはやる。でも自分たちで何かアクションを起こすのは苦手。
そんな彼らが最も苦手とすることの一つだと私が思っているのが、メンテナンス。

ここからは、ムラのミライのプロジェクトに話を戻し、デシェ村の分散型排水処理施設(DEWATS)のメンテナンスについてのエピソードをご紹介したい。

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2. デシェ村での2年目の活動

DEWATSが完成したからといって、デシェ村の人たちとの活動が終わったわけではない。デシェ村のなかから指導員となる人を募り、ムラのミライの研修を受けてもらうというのが次の活動である。

この活動のヒントはインドでの流域管理プロジェクト。 ムラのミライが去ったとしても、そこに住む人々の手で、村から村へとバグマティ川を再生させるための活動を広げていけるように…というのが指導員に期待していることである。

さて、以前のでこぼこ通信でお伝えしたように、地震や豪雨の影響でデシェ村のDEWATSには修理が必要になっている。DEWATSは彼らのものなのだから、他の誰かが修理をしてくれるわけではない。もちろん、ムラのミライがやるわけでもない。そこに村の人が気づき、アクションを起こすためには、今のDEWATSは恰好の教材。

自分たちでDEWATSを維持・管理していくためには、コストを計算し、誰が、いつ、何をしなければならないかを、実際のメンテナンスを通じて実践的に学んでもらい、その中から指導員になることに興味のある人を募ろうとしていた。

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3. 壊れた腕時計は誰が直すの?

とはいえ、心のどこかで「ムラのミライが何かと指示、支援してくれるだろう」と期待しているデシェ村の人たち。8月、和田さんが一時帰国中で不在のなか、デシェ村の人に、このとても重要なポイントに気づいてもらうためのトレーニングを行うことになった。

こちらから「DEWATSはあなたたちのものなんです。だからDEWATSの維持・管理をするのはあなたたちデシェ村の人。あくまでムラのミライは、コスト計算の仕方や計画の作り方といった技術的なサポートをするだけです」と言ったところで、村の人たちがアクションを起こすことはない。村の人たちが気づき、自分の言葉で語ることこそが重要なのだ。

では、気づいてもらうためには、こちらからどんな質問を投げかければいいか?
どうしたものかと悩む私たちに、日本から和田さんが一つの例え話を教えてくれた。

「誕生日にステキな腕時計を友人からもらった。でも、その腕時計が壊れてしまった。あなたならどうする?腕時計をくれた友人に修理代をせがむ?」

そう、竣工式をおこなって、デシェの人たちに引き渡したDEWATSは、まさにこの腕時計。
そのDEWATSが壊れてしまった。さあどうする?

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4. 誰かが何とかしてくれるなんてことはない

2015年8月14日。
この日は平日のため、早朝、仕事に行く前の村の人たちに集まってもらった。
ウジャール「みなさんおはようございます。今日は、DEWATS建設にかかったコストをみなさんと共有したいと思い、集まってもらいました。」
ディベンドラ「4月、5月に大きな地震がありましたが、私たちもようやく通常の体制に戻りつつありますので、このタイミングで今日みなさんに集まってもらいました。メンテナンスのことについても話しましょう。」

ディベンドラとウジャールから、挨拶と今日やることを確認したあと、
実際に建設にかかったコストが記入されたアクションプランが一人につき一部配布され、エンジニアのラングナートから工程ごとにいくらかかったか、総額いくらかかったかを説明した。その後、図を使ってDEWATSの構造をおさらい。

 


そしてメンテナンスについての話題に移ろうとしたところで、互助組合の理事メンバー(これもまたデシェ村の人)から、
「それで、壊れたDEWATSの修理のことなんだけど…」と話が切り出された。

そのようすを横から見ていた私は、
(…なんだか雲行きが怪しくなってきたなー) と、ハラハラし始めた。
案の定、「DEWATSのいくつかの箇所が壊れてしまった。どうしよう。ムラのミライがどうにかできないか」と村の人たちに詰め寄られている(ように見える)ディベンドラたち。
(ここで腕時計の例え話を出す絶好の機会じゃないか!)
と思うものの、ネパール語で繰り広げられる議論の勢いに私は口をはさめない。

ディベンドラ「まずは破損箇所を確認して、コストがいくらかかるか見ていきましょうよ。」
ウジャール「規約に従ってメンテナンス、修理をしていってはどうですか?」
などと言ってみるものの、「やりましょう」という言葉が村の人たちから出てこない。

あーだこーだとやり取りをしているなか、一人のオジサンがこんなことを口にした。
「DEWATSはオイラたちがもらったんだ。竣工式だってやっただろう?
…ってことはすでにDEWATSはオイラたちのものになったんだ。だけど、村の人たちはそれを理解してなくて、だからムラのミライに修理してほしいってなるんだよ。
とにかく、緊急性の高い雨水対策は、自分たちで明日とりかかる。そうだろう?」
(あのオジサン、私たちが言いたいことを言ってくれている!)
ムラのミライのスタッフからではなく、村の人からこの言葉が出てきたことのインパクトは大きい。
オジサンの次の一言に期待するも、「仕事が忙しい」とそれだけ言ってサッサと帰ってしまった。
とはいえ、オジサンの一言が効いたのか、次の日には村の人たちを中心に雨除けのための工事が行われた。

昨年1年かけて、「村がゴミだらけになっている、排水がバグマティ川に垂れ流されていることで、バグマティ川が死にかけている」という現状に気づいて、どうにかしなきゃと思った村の人たち。とはいえ、自分がずっと習慣にしてきたことや考え方がたった一年でがらりと変わるわけがない。
心のどこかで「DEWATSは誰かが何とかしてくれる」と思っているデシェ村の人々。
なにより、一緒にオロオロして村の人たちに「考えさせる」ことができなかった私たち。情けないが、双方まだまだスタート地点に立ったばかりなのだ。

「人は経験から学ぶのではなくて、経験を振り返ることで学ぶ。」とは、対話型ファシリテーションを実践するうえで重要な考え方の一つ。
いつかデシェ村の人たちが自分たちの経験をふりかえり、他の村の人たちにその経験を広げる…そんな日が来ることを期待している。



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注意書き

バイクで通勤していたスタッフたちも燃料節約のために自転車通勤に切り替え。ネパール人の知り合いによる、自転車屋さんが大繁盛しているらしい。

ディベンドラ、ウジャール、ラングナート:SOMNEED Nepalのスタッフ。本通信だとオロオロしているだけに見えなくはないが、その実は頻繁にデシェ村に通い、村の人たちとのコミュニケーションをとってくれている。