でこぼこ通信 番外編「Cappaが灯すあかり」(2015年12月5日発行)
目次
1. はじめに
2. 水の流れをエネルギーに変えるCappa
3. Cappaデモンストレーション。張り切るソムニード・ネパールのスタッフたち
4. 発電できない!?どうなるデモンストレーション
5. Cappaのある暮らし
1. はじめに
11月、相変わらずガソリン・ガス不足のカトマンズである。これから一年で一番寒い時期を迎えるが、乾期のため水量も減り(ネパールは水力発電がメイン)、一日の半分以上は電気が来ないこともある。日本にいると電気は24時間使えることが当たり前だが、ここネパールではそうではない。ガスもない、電気もない、厳しい冬になりそうだ。
さて、これまでプロジェクト通信でご紹介してきたのは、環境教育と分散型排水処理施設(DEWATS)の2つのプロジェクトだが、今回は番外編として、これらの他に、ムラのミライも関わっている「電気」に関するプロジェクトについて取り上げたい。
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2. 水の流れをエネルギーに変えるCappa
それは、軽水力発電機Cappa。
大人2人で持ち運びが可能で、川や水路に入れるだけで発電できる発電機だ。水の流れる力を電気に変えるので、一定の水量と水流さえあれば発電でき、メンテナンスもゴミをとるといった簡単なもの。このCappaを開発したのは、これまで茨城県でモーターを中心に開発・製造してきた(株)茨城製作所(以下、愛称の「イバセイ」と表記させていただく)。東日本大震災で被災したことをきっかけに、これからのエネルギーのあり方を模索するなかで、一般の人に届く製品/自然エネルギー/小さな電気の視点から、このCappaを開発されたそうだ。
災害時の緊急電源として、村や家庭の独自電源として…さまざまな使い道が考えられるが、今後の海外展開の可能性を探るために、イバセイスタッフが世界各国を歩き回って調査地に選んだのがネパール。ムラのミライはネパールでの現地調査のお手伝いをしている。
今回、11月のイバセイ調査チームの来ネのメインイベントの一つが、これまでに調査で訪問した各機関の関係者を招いてのCappaのデモンストレーションだ。
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3. Cappaデモンストレーション。張り切るソムニード・ネパールのスタッフたち
11月18日。イバセイから6人の方がネパールにやって来て、ムラのミライオフィスで顔合わせをした。地震や燃料不足で思ったように物事が進まないなか、Cappaのデモンストレーションに参加できることに、ソムニード・ネパールスタッフたちの顔もいつもより明るい。なによりお祭りごとには全力投球なネパール、いつもの倍かというスピードでサクサクとプログラムを練り上げ、必要なものを手配していった。
11月20日、デモンストレーション当日。お揃いのTシャツを着てオフィスに現れたムラのミライ&ソムニード・ネパールのスタッフたち。このお揃いのTシャツはイバセイが準備してくださったものだが、もらった途端に「XLはちょっと大きすぎるんじゃ…」などとサイズ調整を念入りにするあたり、やっぱりお祭り好きなソムニード・ネパールのスタッフたちである。
イバセイのみなさんが乗るミニバスにピックアップしてもらい、いざ、デモンストレーション会場であるサクー(地名)へ出発。天気もよく、デモンストレーション日和だ。
会場に到着すると、さっそくCappaの準備にとりかかるイバセイのみなさん。Cappaは近くの川から灌漑用の水を引く、幅90センチほど、深さ1メートルほどの水路の中に設置する。
今回のデモンストレーションでは、Cappaの設置以外は地元のケータリング業者に椅子やテント、軽食の準備をお願いしていた。サクーは4月の地震で大きな被害が出た地域の一つ。「だからこそ、ぜひ地元の業者にお願いしたいんだ!」というディベンドラたっての希望で手配した。
「さて、会場はどうなっているかな~」と見に行くと、テントはすでに設置してあったものの、ホコリと土にまみれたイスが積み上げられたままだった。
…このイスにゲストに座ってもらうのは申し訳なさすぎる。
スマンは「イスを拭くの?それはケータリング業者の仕事だから、彼らにやってもらったらいいよ」と言うものの、いつまで待ってもケータリング業者が現れる気配はない。とにかく開始時間は決まっているので、仕方なく私たちで拭いてキレイにしていった。イスを拭きおわってしばらくしてから、ケータリング業者のオッチャンがカーペットや残りの備品を持ってきた。結局、またオッチャンはどこかに行ってしまって、カーペットも自分たちで敷いたのだが。
デモンストレーション開始30分前。
Cappaの動きも好調。式典会場の準備もなんとか完了。あとはゲストを迎えるのみ。これまで調査で訪問した各機関の関係者、日本の援助機関関係者、そしてデモンストレーション会場であるサクーの人々を招待し、多数の方に来場いただいた。
デモンストレーションのプログラムは
1.司会からの開会挨拶+着席の声掛け
2.菊池社長からのウェルカムスピーチと、Cappaの概要説明
3.Cappaデモンストレーション場所へ移動(徒歩2、3分)し、デモンストレーション
Cappaが発電した電力で、
・電球を灯す
・スマホの充電や、ネパール音楽の再生
・地元の小学生が作ったランプシェード、ジオラマを楽しむ
そして、Cappaの仕組みについて、実際のCappaを見ながら説明
4.ゲストからのスピーチ
5.閉会挨拶+軽食
というもので、ディベンドラとウジャールがネパール方式のセレモニーの枠を作り上げ、イバセイのみなさんがCappaで発電した電力で楽しんでもらえるようなプログラムにアレンジしていった。
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4. 発電できない!?どうなるデモンストレーション
しかし、開始直前になって「困ったことになった」と動き出すイバセイのみなさん。
川から水が流れ込んでこなくなったのだ。それまで十分だったCappa周辺の水位が急に下がり、Cappaが発電に必要とする十分な水が確保できない。後からわかったことだが、近隣の水力発電所での発電のために、同じ川から取水が始まったことが原因だったらしい。
土のうを作って積み上げ、少しでも川の水をCappaが設置してある水路に呼び込もうと、さっそく作業が始まった。
「いやーあの時は、ここでCappaが発電できないなんてことになっちゃいけないと思って、本当に必死だったんだよ~」と、ディベンドラたちはその時のことをふりかえる。
プログラム開始時間となり、司会を担当するウジャールがアドリブも交えつつ、開始の挨拶と、ゲストの読み上げをおこなった。原稿を準備して、当日ギリギリまで練習をしていたこともあって、とてもスムーズにプログラムは進んでいった。
一方、川に土のうを積み上げ、少しでも川の水をCappa設置場所へ流そうと努力する、イバセイのみなさんとソムニード・ネパールのスタッフたち。
実際にCappaを見に行く時間になっても、状況はなかなか改善しない。社長のユーモアを交えながらの説明を聞きながら、Cappaを興味深く覗くゲストのはるか遠方で、イバセイスタッフとソムニード・ネパールスタッフが必死で土のうを作っているのが目に入った。
最後の最後、ギリギリまでの調整が実を結び、「Cappaが動かせる!」という情報が入ったのは、菊池社長による閉会の挨拶が終わる頃。その時のイバセイスタッフからのOKサインは、とてつもない安堵感をスタッフ全員に与えた(と思う)。
もう一度Cappaデモンストレーション場所へゲストが移動し、今度こそフル発電するCappaを見てもらうことができた。
プログラムが終わった後は、軽食とロキシー(穀物類からつくる、焼酎のようなもの)をゲストにふるまう。軽食はネワール料理(ネワールの人たちの伝統的な料理)を出してもらった。チウラ(干し米)やチキンカレー、魚の揚げ物、ジャガイモのタルカリ(野菜のカレー炒めのようなもの)、豆。そして、本来は「ヨマリ・プルニマ」というお祭りの日に食べるものだけれど、今日のために特別に出してもらったヨマリという胡麻だんごのようなお菓子。これらの食べ物が葉っぱでできたお皿に入って出てきた。
軽食の準備を手伝っていた時に、ケータリングのオッチャンたちが手づかみでチウラをお皿に入れているのがチラリと見えて(サーブ前に手を洗った様子はない)、見なきゃよかったと後悔した。もちろん食事はおいしくいただいた。
ゲストたちにふるまったあとは、自分たちも軽食とお酒を楽しむ。緊張から解放され一番軽食とお酒を楽しんで大笑いしていたのは、ソムニード・ネパールのスタッフたちだった。その証拠にロキシーを何杯もお代わりしている。(出てきたロキシーは水で薄められたものでなく(いうなれば、泡盛のストレート)、おいしかったので、お代わりする気持ちはわかる。)
もちろん、なにより緊張され、そして無事に終了して安心されていたのは、イバセイのみなさんだろう。おそらく初めて食べるであろうネワール料理にも果敢に挑戦されていた。
そんな様子を見ていたスマンが「今日はお揃いのTシャツを着て、一つのチームで何か成し遂げたって感じでいいね!」と言っていた。
いくら「今を生きる」「なんとかなるさ」マインドのネパール人スタッフたちとはいえ、
「ガソリンが手に入りづらくて、モデルレッスンで使うバスが確保できない。」
「資材が手に入りにくくなり(しかも価格は1.5倍)、DEWATSの工事がなかなか始められない」
そんな話ばかりが繰り返されてきたここ数ヶ月。
さすがにもどかしい思いもあったんだな~と思うと、「でも予算はこれだけだから…」「あと●ヶ月でどこまでできる?」とばかり言ってきた自分をちょっとだけ反省した。
紙幅の都合で割愛した、大小さまざまなスッタモンダはあったものの、Cappaのデモンストレーションは無事に終了した。例のケータリングのオッチャンも、まだ片付けが終わってないうちに、なぜか一仕事終えた感じでモリモリ食事を食べていた。
5. Cappaのある暮らし
「Cappaそのものの持つ発電量というよりは、その場の持つ自然の力を電気に変えるんです」
「Cappaのビジネス展開を視野に入れて調査しているのはもちろんですが、人がどうCappa使って、Cappaのある生活がどういうものかを現地の人と探っていきたいんです」
そう語ってくださった、イバセイのみなさん。
Cappaは人と自然が共生できる仕組みのなかで、自然からエネルギーを「借りる」と言うコンセプトで設計・開発されている。カンタンに発電できるツールという以上に、「私たち、これからどういう暮らし方を選ぶの?」という問いを投げかけていると思う。ラングーも、エンジニアとしての視点から、こんなことを言っていた。
「Cappa一つで大きな電力を発電できるわけじゃない。ネパールで広げるなら、発電量を売りにするんじゃなくて、コンセプトこそを大事にしていくのがいいんじゃないかな」
地震、憲法をめぐる政治的な対立、燃料不足…今年は何かと苦しいことが続くネパール。内陸国であるが故に資源のほとんどを外国に頼らざるを得ず、翻弄される。国内の政治的な対立もあって政府がなかなか動けない。そんな「ガソリンがない、電気がない」のないないづくしから、「自分たちで電気を発電できる!」そんな暮らしが実現できるかもしれない。ゲストのスピーチからもそんな期待が伺えた。
ただし、Cappaを動かし続けていくためにはキレイな水が必要。川のゴミをとる/川にゴミを捨てない…など、日々の行動に落とし込むこと。十分な水量を確保するために自然資源をマネジメントしていくこと。それを村の人たちが実行していかなければ、Cappaといえども、すぐに遺跡と化してしまう。
「ない」を見つけて、モノを贈るのも一つの手だが、ムラのミライのスタッフとしては、村の人たちと一緒に、自分たちの生活がどう変化してきたのかをふりかえり、これからどうなっていくのかを考えて、暮らしをデザインしていくことに関わっていきたい。そんなことを、この番外編を書きながら思った。
次回以降は通常のプロジェクト通信に戻り、先生たちや村の人のようすをお伝えしたい。
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注意書き
軽水力発電機Cappa=2013年グッドデザイン賞 ベスト100・ものづくりデザイン賞を受賞されている。くわしくはこちら
ディベンドラ、ウジャール、スマン、マニーク、ラングー=ソムニード・ネパールのスタッフたちの名前